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俺は困ってる。
しおりを挟む俺は困ってる。
「あのっちゃんあのっちゃん」
「んぁに?」
「好きー!めっちゃ好きー!」
「おっも……誰か助けてくれぇー」
「ダメだよ逃げたら!あのっちゃんは俺の彼女でしょ?!」
「ふはっ、ごめんちゃーい」
「いじわるなあのっちゃんめ~!」
「いやホント、いじわるいじわる言われんのマジだるい。こっちだって人間なんだから軽口でもそんなイメージ持たれてると思うと辛いわ。失せろ」
なーんて、構われ体質だった前世。
彼氏はみーんなかまちょだった。
若干失言系の。
でもそんな自分が今、とても困っている。
「アンノウィア嬢」
「なんでしょう」
「好きです、貴女のその冷たい瞳さえも愛おしい…」
「重い。どなたかこの方を神官様に御診せしてくださらないものかしら」
「お茶もしてくださらないなんて酷い方だ。貴方は俺の婚約者でしょう」
「ご期待に添えず申し訳ないですわ」
「アンノウィア嬢は俺を遇らうのがお上手ですね、その冷たさも貴女の魅力ですが…」
「……冷たい、と仰るのでしたら構わないでくださる?わたくしも人間ですの、そのような評価を受けていれば傷つくというもの。顔を見せないでくださいまし」
俺の婚約者冷たいぃぃぃぃぃぃ!!!
せめてお茶くらいしろよ!!
俺ばっかアプローチしてそれらしくしないから、トローテ伯爵と俺の父親はもう貴女にブチ切れかけてるよ?!
俺ももう疲れてきたよ!
毎回毎回、冷たいって言うなって!
せめて抗議の意を伝えさせろ!
努力しろ!
王族への態度じゃないのは別に良いとして、これではまるで第二王子の婚約者への見せつけにならないだろ?!
……俺がこうしてしたくないアプローチをしているのにもワケがある。
騎士団団長の息子が遠征にて命を落とし、その婚約者であり国随一の豊穣を誇る伯爵家の1人娘である彼女を娶れるのが俺だけとなった。
婚約者候補の公爵令嬢の生家は我が母である王妃の生家でもあるため、優先度が低い。
そこで令嬢を第二王子の婚約者にし、彼女を俺の婚約者としたわけだが……
二世代続いて同じ生家の者が王妃になる危険性を何も理解していない若い勢力が第二王子の婚約者を未来の王妃にしろとうるさく言ってくる。
だからこそ仲睦まじい姿を見せろと言われたにもかかわらず、愛する人を失ってすぐ政治の話をするのかと父親に激怒した彼女はただ命令どおりにしている俺にすら冷たく当たる。
友人に見せる笑顔でなくとも、愛想笑いくらい見たいものだ。
そう前向きに努力してきた俺だが、最近になってイライラが止まらなくなってきた。
次だ。
次、彼女の要望を聞いてそれをこなした際に、なんの変化も無かったらブチ切れよう。
俺の前世は女だ。
別に女だからと優遇していたわけではなく、ただ同じ婚約者を亡くした者どうし、分かり合えるかもしれないと王の命を聞いてきたのだ。
そもそも王命を無視するような令嬢だ。
仏の顔も三度まで、とは前世で使われたことわざだが、それを身をもって知らしめることのないよう願うばかりだ。
「アンノウィア嬢」
「なんでしょう」
「貴女の胸に刺さった氷を溶かすには、言葉では些か心許ないと思っていたのです」
「言葉遊びをここにまで持ち込まないでくださる?」
「失礼。では、簡潔に申しましょう。俺に試練を与えてください。そしてそれを見事こなした暁には、俺に歩み寄って頂きたい」
「試練ですか」
「ええ」
「そう……ですわね。そう言えば、ちょうどいい案件がありますわ」
「それは良い、どうぞお申し付けください」
「平民上がりの男爵令嬢がいらっしゃいますでしょう」
「ええ、ラリってる御令嬢ですね。その方がなにか?」
「最近、小蝿のようにわたくしに苦言を申しては、婚約者持ちの御子息にしな垂れかかって問題になっていますの。駆除してくださらない?」
「駆除、と言うと?」
「人間に戻すか、この甘美な花園から追い出してくださいませ」
「物にしてしまう、というのも許容範囲内かな?」
「物ですか……ええ、構いませんわ」
「ありがとう。3日ほど要しますが、必ずや貴女を喜ばせる結果となるでしょう」
「過分な期待はせずにおりますわ」
待ちはしない、と。
まあ、苦情が出てるなら簡単だよね。
王太子が迷惑だと言えば、あの苦労性の男爵ならすぐにでも我が子を屋敷に閉じ込めるだろうし。
婚約者持ちは陥落してるのかな?
なら親を他国の領事館に勤務させてしまおうかな。
三ヶ国くらい検討してるって言ってたし。
「アンノウィア嬢」
「なんでしょう」
「男爵令嬢は去り、仕送りが細くなったご子息たちは貴族にあるまじき行いを控えるようになった。見事、花畑から小蝿は駆除されたのです」
「御用件はなんでしょう、とお尋ねしているのですが?」
「俺とお茶しましょう」
「すみませんが、突然のお申し出ですので、友人達との約束が重なっておりますの」
「なにも今日とは申し上げておりませんが」
「困りましたわ、しばらく空いてる日はありません」
「うるせえ高飛車」
「?!」
「王命無視して好き勝手誘いを断りやがって。誰が好き好んで婚約者亡くしただけで王命すら聞かない女をカフェに誘うか。俺はもともとこんなマメでもねえってのにうざい婚約者に困ってるんです~って顔しやがって死ね。被害者はてめえじゃねえ、婚約者も母親も乳母も側近も従兄弟も再従兄弟も亡くしたってこちとら泣けもしねえんだよ。冷たいって表現するなって?嫌味だよ気付け無能。もういい。わかった。そんなに修道院に入りたいなら是非にと王太子の太鼓判を押して送り出してやろうじゃねえか。一生アルクの死を嘆いてろ」
「なっ、何を仰ってますの?!」
「大方アレだろ?男爵令嬢に接触させたのはあの子に惚れて婚約破棄してくれればいいのにとか考えてたんだろ?そんなに破棄したいなら俺からしてやるよ。でもな、修道院に送り出す前にひとつだけ言っといてやる」
「……なんですの」
「『おれのラプンツェル』そう言ったのはアルクじゃない……俺だよ。残念だったな、運命とか言ってた奴と亡くした婚約者が別人で」
「ッ、うそ……アルは、アルクじゃ…」
「アルフレッドって奴の話を聞いたアルクって奴が惚れた女に嘘を吐いた。まあ悪いのは奴じゃない、惚れた相手に気付かない受け身の人間だ」
そう言って俺はその場を去った。
その後彼女は修道院入りした。
一方で俺は、史上唯一妃のいない国王となった。
数百年後、同国にて。
「アーノルド」
「なんだい、ディア」
「好きよ、愛してる」
「俺の方が愛してるよ。なんせ、前世も君を愛していたからね」
「ふふ、愛する殿方が英雄であることよりも、ただ愛されているだけで嬉しいわたしの心は誰にもわからないでしょうね」
「英雄と結ばれたのは君だけだからね」
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「前世のわたしをはっ倒したいわ…」
「だめ。前世の君も、来世の君も、もちろん今の君だって俺の愛しい人なんだから。1番はいつだってその時の君だけれど」
「じゃあ、来世も貴方しか見れないくらい愛してね」
「もちろん」
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