銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ

文字の大きさ
17 / 49
王家の絆編

PART17 誠矢に無き兄の面影を見た

しおりを挟む
木星が地球の領海として戻って
早くも1週間が経過する

その間にも色々と大きな事件
{揉め事}もあったが
そうしたゴタゴタも落ち着き
今は夏の終わりに近づいていた。

_______________________

日本エリア防衛隊基地司令室
本日そこに、小田司令が
勝流水を呼び出していた

「木星が我々の元に戻ってきて
一段落ついたので久しぶりに娘と一緒に
海でも行こうかと思うんだが君もどうだね?」

「護衛ですか?」

「ああ、それで護衛を頼みたい者が
もう一人居る」

「誰ですかそれは?」

「大城君だ」

「大城を?ですがそれなら下田や坂巻でも
宜しいではないですか」

「彼等も連れて行くが大城君だけは絶対に
外せない」

『何か理由があるようだな』
勝は敬礼し

「解りました{護衛の件}
お引き受けいたします」

「ああ宜しく頼む」

勝流水は困惑していた
後日・艦長室で勝艦長は大城誠矢を呼んで

「司令に大城を絶対連れて来いと言われてな
済まないが大丈夫か?」

大城誠矢は
「はい・・自分もその日は非番です」と答えた

当日、吉宗の娘、小田令子の乗った車と
同行する3台の車があった、
その前と後を走るオートバイと車両が
海へと向かっている

オートバイは誠矢のクロノス308と
続いて真耶のスーパーカー
レディ・スワニー312

しんがりには滝川鏡子が誠矢と同じ
クロノス308に乗っていた。

そして1台目の車には坂巻進吾と崎景子
2台目には下田明とジャックゴルドー
小原正二と西沢一郎

3台目に響竜一とジョンスミスに妹のイザベル
それに春吉進一郎が乗って目的地の海に
向かっている。

「今日は良い天気になって
良かったですわお父様」

「ああ気持ちの良い日だね」

その令嬢は父である小田吉宗に微笑んで
「それに私の我が侭を聞いて下さり感謝致します」
そう言って彼女が見たのはバイクに乗る
大城誠矢だった

「彼にどうしても会いたい気持ちは解るよ」

小田司令は娘を優しい眼差しで見つめる
やがて一行は海に到着した

車から降りる令子のドアを開け
エスコートするのは大城誠矢だった
「どうぞ御手を」

「ありがとう御座います」

その上品な物腰にさすが小田司令の御令嬢だと
感心した、それにしても大城誠矢の物腰も
気品に満ちている

「絵になるな~あの二人・・」
滝川鏡子はチョットだけ焼き餅を焼いてしまう
そして真耶も少し眉をしかめ下唇を噛んだ

誠矢は自分にのし掛かる妙な空気に
「何かおかしいな」と圧を感じた

だが野生の勘が働いたか
車の反対側にまわりドアを開け
「小田司令どうぞ」

「有り難う大城君」

坂巻は我が親友ながら感心した
この男の勘の良さは賞賛に値する
事実その場の空気が穏やかな物になる
大城誠矢が護衛として戻ると一行は
目的の場所に向け歩き出した。

小田司令はそこで大城誠矢の同行を
娘の令子が希望したその訳を勝流水に明かす

「彼は良く似ているんだ」

「誰がですか?」

この時娘の令子が口を挟んだ
「大城誠矢さんは亡くなった私の兄に
瓜二つなんです」

「そんな偶然があるのですか!?」
勝流水もそれには驚いた様子だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━★付箋文★

森戸海岸/神奈川

葉山で一番広い砂浜を持つ
一行が泊まるのは、小田司令の別荘だ

「天気次第で富士山が見えるらしいが」

「最高の行楽日よりになりましたな」

おっさん二人はもう釣りに行くことで
意見は纏まっている
同行するのは下田とゴルドーに西沢と
戦車部隊の猛者の中でも英雄クラスばかりである

「まあ護衛はこんなものでしょうな」

「中々に厳つい面々だな・・私でも近寄り難い」

勝流水の顔をみて

勝「ーーー」何ですと言う顔?

「何でもない・・」

令子をエスコートして大城誠矢は海に向かう
他の若い連中も連れだって楽しそうだ

「若い者は若い者同士でですな」

「ハハハ、私達老人は隅で小さくなって
いようじゃないか」

「そうしましょうか」
そう言って釣り道具を持ち港の方向に
此以上ない厳つい面々をゾロゾロ引き連れて
歩いていく小田司令と勝艦長は

恐いヤクザの組の会長と組長が
組員を引き連れて港町を練り歩く
まるで{昭和のVシネマ}である
港の漁師さんや釣り客はさぞかし
怖かったであろう。

一方で、ジョンにイザベル、響や真耶達は
自由時間を満喫し泳いでいた
鏡子や景子、坂巻は浜で日光浴をし

景子が「鏡子さん」と名を呼ぶ

「何ですか?」

二人とも女優かファッションモデルにでも
成るべきと言う超絶美女なので
砂浜でもとても目立つ存在だ
そんな黒髪美人の景子が切り出したのは

「貴女は大城誠矢さんをどう思っているの?」
向こうから誠矢が歩いてくるのを見て
鏡子は顔を赤くしながら顔を逸らすが

でもどうしても誠矢に目が行ってしまう
凛々しく眩しい青年の立ち姿が
その目に飛び込んできた
『まだ気にしている様だ・・』
その様子に少し離れた岩場に
誠矢は鏡子を誘った「少し良いか?」

何もかも完璧に美しいアポロン像か
大理石のような肉体美の誠矢の胸に
あっては成らないほど痛々しく
斜めについた十字傷がある

鏡子はそれが自分の為に負った傷だと解り
申し訳なさと後悔が沸き出し涙が滲む
その鏡子を見て誠矢は優しく
「君が気にする事じゃない」と慰める

「これは男の戦いでついた傷だ
俺にとっては勲章なんだよ」

スパイソルジャーJジョーカーの手から
鏡子を助けるために誠矢は勇敢に戦った
そんな誠矢の胸に顔を埋め鏡子は

「戦闘隊長は優しすぎます」

そう言って立ち上がると
海に飛び込み沖に向かって泳ぎだした。

其れを見送る誠矢
「あいつ・・泣いていたな・・」

鏡子は泳ぎながら願った
「海よ私の涙をどうか洗い流して」

______________________
★付箋文★

ジョンが水着の真耶に魅了され
懲りもせず追い駆けていた

その足を何者かに引っ張られ海中に没し
慌てて犯人を見ると、同じく
真耶を狙うライバルの響竜一だった

「やってくれたなチェリーボーイ」

「やったがどうしたワンパターン野郎」

海のリングで二人はプロレスを初めた
ドロップキックは海水から飛び上がれず不発
バックドロップは途中で投げっぱなしのジャーマン

いずれも海水がクッションになり
ダメージを負わない
そして海面からジョンが顔を出した時
こっちに向けてサーフィンがやってくる

「危ない!」と思う暇もなく、どうもそれが
人間が乗っているように見えない
ジョンは目を凝らして正体を見極めようとすると

「ウッワ!あいつだ・・何であいつが此処に
来てるんだよ!」

「響!ケンカはやめだ!
あいつだ、あいつが来た!」

響が{何言ってんだこいつ}と言う顔をする
その後頭部にサーフィンボードが激突し
響は海に没した「響ーッ!!」

サーフィンをしていたのはサイバドック7号
何事も無かったかのように波に乗って再開する
響がザバーと浮上しジョンに向かってこう言った

「手を組もうぜジョンスミス俺もあいつには
借りがある!」

「了解だよ響!僕なんか奴に恨みしかない」

この二人はこういう時だけは気が合うらしい
二人は海中に潜って7号のショートボードを
ひっくり返した、そして水中で7号を
小突き回す

特にジョンは真耶の件で
何度も邪魔されていた恨みも手伝いムキになる
「オラオラオラ」と小突いていて気がつくと
響とジョンは互いの顔を小突いていた

「いつのまに入れ替わった!?」

「忍者みたいな犬だ!」

7号は印を結び「ニンニン」
その隙に逃げてしまっていた。

海の波を見ながら崎景子は
坂巻に肩でもたれ掛かる
「進吾さん・・鏡子さんなんだけど」

「言わなくても解る、誠矢と彼女なら
きっと上手くいく、後は時間が
解決してくれるよ」

「私達は立ち入らない方がいいわね」

「それより問題は令子さんだ」

景子は此処で突然、小田司令の御令嬢の名前が出て
驚いたが、「まさか・・あのお嬢様まで」

坂巻はまだ確信はないと言い
「あいつには美女ばかりを吸い寄せる何かの
フェロモンが溢れ出してるんじゃないかと
時々心配になるよ」

景子は進吾の笑えない冗談に顔がひきつる

「あそこに見えるのは令子さんじゃないか」
進吾の指す人影は令子だった

「本当ね、どうして泳がないのかしら
ちょっと声を掛けてくるわ」

そう言って景子は令子嬢の元にいき
「どうして泳がないんですか?」

そう言われて令子は
一枚の写真をポーチから取り出し景子に見せた

「誠矢さんに良く似てるけど」『別人ね・・・』

「兄なんです・・生きていれば20歳でした」

「まだ若いのに」『誠矢さんにソックリ』

「1年前に冥王星で・・」

「それで誠矢さんを・・・」
『小田司令に無理してお願いし
彼を誘わせたのね』

「何だか湿っぽくなりましたね」

此処に真耶とイザベルが海から上がってくる
「今海から上がってきたのが大城真耶さんよ」

「あの人が・・」
眩しそうに真耶を見つめる令子嬢の瞳は
景子には寂しげな色に影って見えた。
_______________________
★付箋文★

真耶とイザベルが並んで浜辺を歩いていると
何かに突然撃たれたかのように真耶が
その場に倒れ込んだ。

「真耶どうしたの!?お願い答えて!」

「真耶!真耶!」
イザベルの叫び声が、誠矢達を呼んだ。

海岸沿いにある森戸神社、夕方には
鳥居の後ろに日が沈み幻想的な景色に
癒されると言う観光の目玉だ。

「予想されていた事とは言え本当に起こるとは」

真耶の異常に対応出来るのはこの場では
春吉進一郎だけだった
科学者の一面を持つ彼こそ
超能力者である真耶の状況を一番正確に
把握していたからである

イザベルは真耶の側を離れずズット見守っている
「予想されていたとは何のことです?」

春吉は携帯万能幾のバイオメーターを使い
真耶の様々なバイタルを測定し結論を出した

「超能力の第2成長だ」

そして真耶が目を覚ました時には
誠矢と響それに坂巻と景子、ジョンスミスに
イザベルも側にいて
小田司令の娘の令子も同席し
皆一様に心配した顔をしている

春吉進一郎に超能力の{第2成長期}
を迎えたと教えられた真耶は顔を覆い
「私また・・化け物らしくなったのね」

それを聞いた響が我慢出来ず
「どうしてそんなに自分を悪く言うんだ!?
昔の君はもっと明るい未来を見ていたぞ!」

響の言葉を聞いた真耶が「放っておいて!」と
声を荒げたのは仕方がなかった

誠矢と坂巻は響の肩を叩いて慰めた
おまえは別に悪くないぞと

「真耶、お前はお前だ
前と何も変わらない」

誠矢の言葉に真耶は泣きながら
「気休めはやめて」と言った

「私と誠矢兄さんとの距離は益々遠ざかったわ
其れが堪まらなく・・悲しいのよ」

その時、小田令子は二人の遣り取りを聞いて
たまらず叫んだ「もうやめて下さい!」
驚く誠矢達に令子は

「私の兄は1年前に死にました・・だから
兄に似ている誠矢さんに面影を重ねていたんです」

「この想いを誠矢さんに告白すれば
私の想いが兄に届く気がして・・」

そこまでを聞き真耶が
「令子さん・・あなた・
まさか、お兄さんの事を?」

真耶の一言に令子は真っ青になり
表に飛び出した。

______________________
★付箋文★

小田司令の別荘
勝流水が浴衣姿で現れた

「一応の事情は春吉君から聞いた
だが皆若いんだ今を楽しめ」

「何でもこの近くで花火があるそうだぞ」

誠矢は夜空を見上げて
「花火か何年ぶりかな」

真耶は響の一言が効いたのか、表面上は
明るさを取り戻していた
その時ゴルドーと下田、
そして7号が帰って来て

ゴルドーと7号の格好に
「何だお前達その格好は!?」
誠矢がそう問いただすと

「見テワカラヌカ?」
ゴルドーの肩に乗っかり7号も

「デぃスイズ・ア浴衣」

下田も浴衣姿になり誠矢に
「俺もコイツ等に無理矢理付き合わされてな
こいつは土産だ」

そう言って誠矢に見せたのは
3人が両腕に抱えていた丸くて
緑色をしたシマシマ模様の
スイカだった。

イザベルは真耶に
「見て見て真耶、ウオーターメロンよ!」

「日本ではスイカって言うのよイザベル」
二人仲良く手を繋いでいる
少しは和やかな雰囲気に戻ったな
誠矢は仲間達の有り難みを感じながら

「流水、君の部下達は実に面白い奴等だね」

「どうも何というか・・教育が行き届きませんで」

「ハハハ縁側で爽やかな風を受けて花火を
見ながらスイカを食べるなんてオツじゃないか」

「誠に風流ですな」

小田司令が上機嫌に振る舞うのは
令子の事で場の空気を壊さないようにか
響もゴルドー相手に

「ゴルドー将棋が出来るんだろ指そうぜ」

「オー響棋士ドノ指ソウ指ソウ」

イザベルに下田が
「イザベル君、良かったら花火も買ってきたんだ
真野君と遊ぶと良い」

イザベルは下田のウインクに気が付き
真耶を見て成るほどと悟った

「サンクス下田さん!」
そして真耶の手を引っ張り
「真耶!花火を一緒にやって教えて」
真耶もイザベルに絆され笑顔を見せる

「打ち上げ花火も良いがこういう
繊細な花火も日本人の
情緒を表すみたいで好きだな」

ジョンの思わぬ発言に誠矢は
「お前から日本の詫び寂びめいた事を
聞くとは思わなかった」

ジョンは心外そうな顔をし
「失礼だな誠矢、派手なだけが
美徳じゃないのは解るさ」

「お前にしては中々良いことを言うじゃないか
線香花火に情緒を感じるなんてさ」

誠矢が騒がしい声がする方向を見ると
春吉や小原、そして西沢と一緒に
先程からスイカを誰が一番早く食べられるか
競争していた、なんとこれが春吉の圧勝だった

「春吉さんの思わぬ隠し芸が見れたな・・」

真耶がそれを見て笑っているのを見ると
誠矢は心から安堵した
夏の夜空に打ち上げ花火の大輪が咲いて
何発もの大輪の花火が夜空を彩ると

「タマヤー」「カギヤー」の7号とゴルドーの
掛け声が始まった

「タマヤとかカギヤとか何か意味があるの?」
イザベルの疑問に小田令子が答えた

「昔、東京が江戸と呼ばれた頃に
日本橋と言うところに玉屋と鍵屋の
2軒の花火屋があって」

「花火の大きさを競っての応援合戦が
由来だそうです」

「東京が江戸って
呼ばれていたのって今から・・」

「1200年程前のことよ」

イザベルは令子の出した数字に歴史を感じる
「おおーっ日本昔話デスネ」

ハヤテの戦士達もこの日は心から童心に帰り
全員が日本の花火を心から堪能した。

花火も終わり

遅い時間からだが宴会を開いた
漁師町の鯛の刺身や大量の寿司と
日本盛の登場に親父達のテンションも上がる

小田吉宗と勝流水を上座に
ゴルドーと西沢と春吉が接待をする
そこでサイバドック7号が割り込んで
高い酒を手酌で飲んだ

「こいつ犬のくせに酒まで呑むんか?」

そして酒瓶を抱えて何やらヨタヨタと
踊り始めた

小田と勝が手拍子でのせるので
7号も調子に乗って宴会芸を披露する
でんぐり返しにムーンウオーク
皿回しに至っては同時に何枚も回し
さながら名人芸の域である
まあ此処までは良かった

滝川鏡子は{サイバドック隊チーフ}
「7号あなた飲み過ぎよ!いい加減になさい」

急に大人しくなった7号は胡座をかいて
ジッと一升瓶を見ながら何かを閃き
そして昔取った杵柄で、忍びの犬の真骨頂
気配を隠し忍び足で真耶の背後に周り

(一升瓶とコップ)を持って忍び寄り
真耶のコップと酒を注いだコップをすり替えた。

そして真耶にいきなり後ろから声を掛けた
声を掛けられた真耶が驚いて後ろを振り返り
「7号ったら脅かさないでよ
あービックリした」

そう言ってコップに入った酒を一口飲んで
真耶は咳込んでしまう

「何よこれ、お酒じゃない!喉が焼ける
お水を・・お水頂戴早く!」

そのタイミングで7号は「ハイ」と
日本酒を入れたコップを真耶に手渡した
そうとは知らず一息でそれを飲み干すと
真耶はコップを持ったまま呂律が回らなくなり

「何よこれも・・お酒じゃ・・ヒック・な・い
の・も・もう・・ヒック・・いやだぁあ・・
何か・・変よ・・っ回る回る目が回る」
そう言って真耶はひっくり返ってしまう

イザベルは真耶を介抱しようと手で仰ぎ
誠矢も真耶の頭を撫でながら「大丈夫か」と
声をかけて介抱するが、酒に酔った真耶が
誠矢に甘えて抱きついてくる

そして「誠矢兄さん好きー」と言いながら
頬を誠矢の胸にグリグリして押しつける
思いっ切り甘えてくる真耶に
「ダメだなコリャ完全に酔ってる」

その言葉に真耶は抱きつきながら
「わらしは酔ってませーん」

そう言っていきなり誠矢の首を締めながら
「兄さん格好良過ぎるのよーどうして
知り合う女の子を全部好きにさせちゃうのー」

そう言って胸をポカポカ叩く
「少しは自重しなさーい!」

流石の誠矢もタジタジだ
「トラだ・・真耶がトラになった」

「7号!なんて事するの!」
だがサイバドック7号の逃げ足は
鏡子チーフでも捕らえられない

小田令子がクスクス笑いながら
「サイバドックも酔っぱらったり
悪戯したりすんですね」

鏡子は溜息を付き
「サイバドッグの中でもあの子は特別ですよ
私もあんなに変なのは見た事ないですから!」

響が鏡子に7号が庭にいると知らせた
見ると7号は月に向かって腹鼓をポンポン
音を鳴らして叩いている。

「あれは本当に犬のサイボーグですか?」
令子の疑問に鏡子は首を傾げ
「さあ、本当は犬じゃないのかな?」

誠矢も頭を傾げながら話に加わる
「あいつは一度ちゃんと調べた方がいい
本当はタヌキだったりするかもだぞ」

坂巻がスイカを食べながらこう言った
「それは十分あり得るな、俺達は皆
あいつに化かされているのかも知れない」

7号が一升瓶を枕にして腹を上にして
大の字になってぐーぐー鼾をかくのを見ると
やっと騒ぎが収まったと言う
安堵の声が誰ともなしに漏れた

そして大城真耶は濡れタオルを頭に置かれ
横になってスヤスヤと寝ている。

_____________________
★付箋文★

その晩AM:3時頃に
一つの人影が浜辺にあった
其れは滝川鏡子である。

鏡子は水平線の彼方を眺めていたが
誰かが近づいて来るのを感じその方向に
目を向けると、それは大城誠矢だった
誠矢は鏡子の隣に座り

「鏡子眠れないのか?」

鏡子は頭の中がパニックになっていた
<エッ!なになになに??どうして総隊長が
チョチョット待って!今砂浜に二人きりなの?
こんなチャンスって、どうしたらいいの?>

そんな心の内は微塵にも見せず
鏡子は艶のある表情で静かに頷いた

「そうか・・実は俺もなんだ」

実は誠矢も鏡子が気になっていた
鏡子が外に出て行くのに気がつき
追って来たのだ
「昼間お前が何処までも泳いで行くから
遠くに行ってしまう気がして不安でな」

鏡子は昼間自分の泣き顔を誠矢に見られるのが
嫌で海に飛び込んだのを思い出し

『そんなこと・・言わないで下さい』

鏡子の心の中では期待と不安が交差した
暫く沈黙が続いて鏡子は意を決し
「総隊長・・私!」

そのタイミングで誰かが二人に声をかけた

「夜の海ってなかなかロマンチックでしょ?」

そこに小田令子と護衛の坂巻が歩いてくる
「この海は亡くなった兄が好きでした」

「亡くなられた・・お兄さんが?」
誠矢の問いに坂巻が

「令子さんのお兄さんはお前に
そっくりだそうだ」

「俺に?」

「私の兄の名は武・・小田武です」
令子は物憂げにそう話し出す

「私の兄、小田武はあの日」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━★付箋文★

「父さん、それに令子
もしかしたら此が最後かも知れません
自分に何かあって帰れない時は
自分の事は忘れて下さい」

小田吉宗は息子の言葉に
「どういう意味だ?」と問いただす

「自分の事をいつまでも忘れないでいると
明日の幸せを見つけられないからです」

確かに今の戦況では息子の不安も
現実にあり得る事だ「明日の幸せか・・」

「そうです、父さんは太陽圏防衛軍の
 総司令なんですから」

「それに令子にも幸せを見つけて欲しい
これは兄としての願いだ」

「武兄さん!」
令子は兄武の胸に飛び込んだ
だがそれは兄と妹の関係を変える
抱擁ではなく包容であった。

_____________________

「そして武兄さんは私の前から去っていき
二度と戻りませんでした・・そして
生きて帰った人の話だと、巡洋艦(小笠原)は」

「冥王星上空で戦艦3隻の集中砲火を浴びて
最後はその内の1隻に体当たりして壮絶な
最後を遂げたのだと聞きます」

令子の見る悪夢では巡洋艦が
敵艦に体当たりして炎に包まれながら
爆発炎上し消えていくと言う悲壮な
イメージがあった。

「父は兄さんが亡くなった現実を
割り切って見ているように見えるけど」

「心の底では違います・・その証拠に
父が誠矢さんを見る目は兄に向ける
眼差しと同じものなんです」

「小田司令が?」

誠矢にとってそれは迷惑な物ではなかった
「それなら俺も、司令をたまに
父さんだと思う事があるよ」

「えっ!?」その瞬間令子の頬が朱く染まる
だが令子の驚く声にも構わず誠矢は続ける

「今の地球は大勢の家族や愛する人を
無くし過ぎた、誰もが皆新しい繋がりを
求めているんだ、可笑しい事なんて何もないさ」

「違うの・・だからそうじゃないのよ!」
令子はその場を駆け去ったのだが
誠矢には彼女を追う理由がなかった。

_____________________
★付箋文★

翌日誠矢は、愛車クロノス308の
手入れをしていた

「どこかに出かけるのか?」

誠矢は坂巻に
「令子さんの閉じた心を開くのさ」
と言う、それに坂巻は

「そうか・・それじゃあお前がデートに
誘ってると令子さんに伝えてくる」

「ああ、そうしてくれ」

坂巻が令子にそのように伝える横に
鏡子がコーヒーの入ったコップを落とし
それが下にいた7号の頭に引っ掛かる

「ぎゃぁワあああんん!」

そこに丁度歩いてきた真耶が
7号の尻尾を同じように
呆然としながら踏み潰した

「キャウウウン!!!」

令子は頬をピンクに染めながら
坂巻の言うとおりジーンズに着替え
パンツルックのスポーティな姿で
誠矢の所に髪を整えながら近寄ると

「わ・・私に・な・・何か御用かしら?」

その時誠矢は、既にバイクに跨がっていた
そして令子にヘルメットを渡し

「一緒に風にあたって
気分を変えようぜ令子さん」

其れを聞いた令子の瞳は煌めきを増して
ヘルメットを受け取り胸に当て
早鐘のようになる自分の心臓を宥める
『なんなのこの気持ち・・
私どうなっちゃったの?』

少し離れた場所で鏡子と真耶が
頭痛を感じ頭を抱えていた{またか~}

令子が近寄るとその手を取り、誠矢はいきなり
バイクの後部座席に乗せ、そしてエンジンを
かけると

「しっかり掴まってて下さい」

「ひゃ・・ひゃい!!」
令子は思い切って誠矢の腰にしがみつく
クロノス308はダッシュに置ける加速が
良い事で有名だ、2秒で時速150キロに達し

しかもメカの天才春吉によって改造され
最高速度は550キロも出るのである
{最も令子に合あわせ速度は抑えているが}

「なぜ私を誘ってくれたんですか
昨日は酷い態度をとってしまったのに」

「亡くなった人の事を忘れられないのは
君だけじゃない、忘れる必要もない
ただ明日に向かって進む手助けを
俺なりに考えたんだ」

「さあ飛ばしますよ令子さん、しっかり
俺に掴まって下さい」

「ハイ誠矢さん」
令子は早鐘の様になる心臓の鼓動を感じながら
青年の鍛え抜かれた背中にしがみつく
そして誠矢はスピードを上げた

『空は水色、雲は白い
どこまでもこの道が続いて行けばいいわ
さようなら武兄さん・・私の初恋・・
そして誠矢さんは兄さんの代わりじゃ
なかった!』

『この人はとっても素敵で優しい人
私の手を力強く引いてくれる最高の男性だわ』

その日の午後
令子はハヤテのメンバーに混じって
海で遊んでいた

坂巻は誠矢と言う薬の効果が効いたのを見て
ホッと胸をなで下ろした

「お前という薬が良薬口に苦しでも
効いてくれて良かったよ」

誠矢が坂巻に明るく笑いながら
「令子さんは帰ってからこう言ったよ」

「今生きている事が
どれだけ大切か解かりましたって
メソメソしていても兄さんは帰らない
私達が亡くなった人達のぶんまで
幸せになる事が大切だとも・・」

「私も新しく見つけた{幸せを掴む}為に
今日から精一杯人生を楽しむんだとさ」

其れを聞いた坂巻は
「薬は強すぎると毒になる
依存性が強すぎる薬は劇薬だ・・
やっぱ誠矢は強過ぎる薬だな」

「?」
『坂巻の奴・・薬に例えて
俺をディスってないか?』

海岸ではジョンが「君はトップレスの方が
良い」と言って真耶にポカポカ叩かれながら
逃げまどい、其れを見て令子が笑い転げている
そんな和やかな場面である

『武兄さん・・令子は前を向いてしっかり
歩いていこうと思います、それから誠矢さん
勇気と新しい恋を有り難う』


その夜━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   誠矢はまか不思議な体験をした

寝苦しさを感じて目を覚まし
4時18分の針を指す時計を見て
喉の渇きを覚え水を飲もうと
台所に向かったその時だ

廊下の前方より誰か来て通り過ぎたとき
<有り難う誠矢君・・>
確かにそう聞こえたのだ
だが振り返っても誰も居なかったのである。

翌日・犬吠岬のハヤテ基地に戻ると
誠矢はハヤテの主要メンバーに
この事を話して全員に笑われた

「夢でも見たんじゃないのか?」

「総隊長も案外お化けとか
信じちゃう口なんですね~」

イザベルまでからかう
「可愛いです総隊長!守って上げたい」

「わ、私も総隊長となら
心霊体験しても全然平気です!」
鏡子は多少怯えながらそう言った

誠矢はどうせ誰も信じないだろうけど
黙っているのも夢見が悪いからなと
言いながら・・・さり気に
「でもさ4時18分なんて・・どうして
時計が気になったのか・・?サッパリだよ」

それを黙って聞いていた勝艦長が
「明け方の4時18分って言ったか?」

「確かに言いましたけど何か?」

勝艦長は真面目な顔で
「4時18分・それは・・巡洋艦小笠原が
撃沈された時間だ」

誠矢の顔色が変わった
「そ、そう言えばあれって
小田司令の息子さんだった気がする」

この時全員から笑みが消え顔面蒼白になり
喚き出すもの、念仏を唱えるもの
誠矢にしがみつくもの、阿鼻叫喚の地獄に
なったとさ{目出度し目出度し}。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...