新説 六界探訪譚

楕草晴子

文字の大きさ
上 下
128 / 133
14.第六界

12

しおりを挟む
 どうしたらいい?
 まとまらないまま意識が遠退くような。
 右腕はもうずっとグーしか出せてない。
 じゃんけんグミ側も、なぜかもうずっとグーのまま。
 パー出したら確実に向こうは勝てるんだけどな。
 多分向こうも勝負する気なくて、だからずっとグーなんだろう。
『じゃん、けん、ぽん!
 うふふふふ~』
 お決まりの台詞はトーンダウンもトーンアップもせず。
 虚ろな気分はますます煽られていった。
 出れねぇじゃん。
 あーあ。
 最悪。
 てか、そもそもいっっっっちばん最初まで辿るとさ。
 コウダがあのときあんなとこでよりによって川藤さん狙ってなきゃよかったんだし。
 今だって薔薇触んなきゃよかったんじゃん。
 その前だって。
 思い起こすとどんどん愚痴っぽくなってくる。
 やめやめ。過去のこと考えてもしょうがない。
 今のこと考えよう。
『じゃん、けん、ぽん!
 うふふふふ~』
 グーであいこ。
 だよなー…。
 このままあいこが永遠に続くのかな。
 永遠に続いたらどうなるんだ?
 コウダが消える。
 今どうなってんだ?
 腕をグーでおざなりに振り出しながらコウダを確認。
 うわぁ…見たことないくらい絶望感溢れてる。
 もやしとかえのきとか、細くて白い系の野菜がダメになる寸前、みたいな。
 目があった瞬間、多少生気がこもったように見えたけど、俺の気のない顔にショックを受けたのかまた元に戻った。
 ああ、そっか。
 俺は出られなくなっても、この中で永遠に、死にはしないんだっけ。
 悪魔の囁きが聞こえた気がした。
 だったらそれでいいんじゃね?
 なんで俺こんな頑張ってじゃんけんしてんだろ。
 消えるって思ったら超怖いけど、俺は別に消えたりしないんだろ?
 親父や母さんには会うことももうなくなるけど、それはそれでだし。
 現実にいたところで、遅かれ早かれ親父や母さんだって死んでいなくなるんだし。
 四月一日やら矢島やらは、なんだかんだで友達枠。切れることもある関係だし。
 安藤さんとか、他の人はやっぱ他の人だし。
 ここなら。
 全部分かる。
 全部出来る。
 俺の事。
 俺だけの。
 俺が思ったことが、多分だけど、殆ど思ってた通りに。
「…い! おい!!!」
 コウダだった。
「お前やる気だせ!!」
 叫んでる。
 さっきもだったな。
 なんでそんな頑張るんだろ。
「消えてきてるから!!!!!」
 コウダが見える。
 目がいいから見えてしまう。
 スニーカーの先がない。
 確かに、消えてきていた。
 消え方が現実の俺の時と同じだとすると、この後、暫くそのままで、そして一気に。
 そうだ。コウダには世話になった。
 何度も何度も。
 コウダが居なくなったら俺はここから出られない。
 それ以上に、コウダが消えちゃう。
 なんとかしないと。
 なんとか…。
「俺はここで消えるわけには行かないんだ!
  借金返してあっちで…」
 ああ。そっか。
 そーゆーことか。
 それは本当にすとんと。
 今更ながら腑に落ちた。
 なんでコウダが今迄あんな付き合ってくれてたのか。
 コウダはきっと賭けたんだ。
 俺とこの『六界探訪』をすることで、借金返済の目処が立つ可能性に。
 パネェわー…。
 マジ尊敬ー…。
 嘘じゃなく、確かに敬意は湧いていた。
 でもそれと反比例するように、頑張る動力になってたものがすーっと引いていった。
「俺は金持って戻るんだからな!!!」
 コウダの熱~い決意表明で、さらに急速に冷めていく。
 だって、もっかいほじくり返すけどさ。
 今コウダがあの薔薇触ったからこうなってんだよね。
 借金返済の目処は立つかもって、武藤さんの後で言ってた癖に。
 その上さらに金が欲しかったのかよ。欲だろ。
 それで危ないから助けてーって、なくね?
 俺のっていうよりコウダの自業自得じゃね?
 俺は戦利品なんて最初からどうでもよかった。
 コウダもコウダで、俺のためじゃ全然無くて、寧ろ自分のために俺のこと利用してたわけだ。
 それも俺に黙って。
 あーあーあーそーですかぁー…。
 俺、狡ぃなーな~んて思ってたけど、あっちもあっちなわけか。
 じゃ、もう気兼ねとかいらねぇな。
 頑張る必要ないわ。
 パカパカッ
 ん?
 目に移る景色が一瞬明るいものに総入れ替えされ、すぐに元通りになった。
 あれ? サブリミナル?
 いや電波障害??
 あ、まただ。
 入れ替わった方の景色は青くなる前に近かった。
 赤・黄色・緑のLEDに、踊るみんな。
 楽しげで、笑顔に満ちて。
 じいちゃんの声がして。
 浴衣姿の俺二号もいて。
 そうだ!
 声がしたってことは、この『中』のどっかにじいちゃんも実はいるのかも!
 親父も、母さんも。もちろん機嫌がいいときの感じで。
 俺が思う姿で。
 俺がいいなと思うような!
 そこに、グミに握られたコウダだけが、悲壮な顔で浮かんでいた。
 また視界がちらつく。
 何度も、何度も。
 だんだんと明るい景色が出てる時間が長くなってきた。
 やっぱ、邪魔だなぁ。
 俺の心地いい世界の中で、コウダの姿だけが明らかに邪魔だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ
ファンタジー
「勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした」から改題しました。 ※小説家になろうで先行連載してます。 何の取り柄もない凡人の三波新は、異世界に勇者として召喚された。 他の勇者たちと力を合わせないと魔王を討伐できず、それぞれの世界に帰ることもできない。 しかし召喚術を用いた大司祭とそれを命じた国王から、その能力故に新のみが疎まれ、追放された。 勇者であることも能力のことも、そして異世界のことも一切知らされていない新は、現実世界に戻る方法が見つかるまで、右も左も分からない異世界で生活していかなければならない。 そんな新が持っている能力とは? そんな新が見つけた仕事とは? 戻り方があるかどうか分からないこの異世界でのスローライフ、スタートです。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

異界転生譚シールド・アンド・マジック

長串望
ファンタジー
 古槍 紙月(ふるやり しづき)二十二歳。男性。大学生。趣味は資格取得とMMORPG。そんなどこにでもいそうな経歴の持ち主である紙月は、ある日突然、見知らぬ世界で目覚めるや化け物に襲われることに。  MMO内の相棒であったMETOの助けもあり、ゲームの魔法を使って化け物を退ける紙月たち。どうやら彼らはゲームの体で異世界に飛ばされてしまったらしい。  一息ついてお互いを確認してみれば、紙月は女性キャラクターを使っていたからか女性……ではなくなんと女装していた。  そして相棒のMETOこと衛藤未来はなんと小学生。  女装ハイエルフとケモ耳小学生の凸凹コンビは、ファンタジーな異世界で冒険屋として生計を立てていくことになるが、そのデビューからチートなスキルで大物退治を繰り広げてしまい、一躍時の人に。  森の魔女と盾の騎士として有名になった二人は、ファンタジー世界を楽しみながら冒険を繰り広げていくことになる。  紙月は保護者精神を発揮し、未来は未来でひ弱な紙月を守ろうとする。  二人の間で揺れ動くキモチの行方とは。  女装ハイエルフママ男子とケモ耳小学生の異色の異世界ファンタジー冒険譚はどこへ向かうのか。 ハーメルンでも連載中!

旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。

俣彦
ファンタジー
目が覚めたら村上義清になっていた私(架空の人物です)。アンチ代表の真田幸隆を相棒に武田信玄と上杉謙信に囲まれた信濃北部で生き残りを図る物語。(小説家になろうに重複投稿しています。)

『モンスターカード!』で、ゲットしてみたらエロいお姉さんになりました。

ぬこぬっくぬこ
ファンタジー
 えっ、なんで?なんで絵柄が――――バニーガールなの?  おかしい、ゲットしたのはうさぎのモンスターだったはず…  『モンスターカード』というスキルがある。  それは、弱ったモンスターをカードに取り込む事により、いつでも、どこにでも呼び出す事が出来るようになる神スキルだ。  だがしかし、実際に取り込んでみるとなぜか現物と掛け離れたものがカードに描かれている。 「もしかしてこれは、ゲットしたらエロいお姉さんになる18禁モンスターカード!?」 注)当作品は決してエロいお話ではありません☆  小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...