新説 六界探訪譚

楕草晴子

文字の大きさ
上 下
42 / 133
6.第三界

5

しおりを挟む
 高架下の鉄筋の隙間。
 人が通れなさそうなそこから湧き出ている流動体に踏み込むまいと力を入れる。
 思いっきり滑って後ろに倒れこむ。コウダが受け止めてくれた。
「だいじょぶか」
「ダイジョブ」
 ずるずると足を持ち直して息を整える。
 ぎょぐぁがわぇあおああああああーーーーー
 前の気持ち悪い何かから気持ち悪い音がして、ぐにょぐにょする目の前の何かが左のほうに吸い寄せられるにつれ、音もしなくなった。
 消えたその先の車道。
 未だかつて見たことない露出度で体にぴったりした服――もしかして噂で聞いたことあるボディコンってやつか――着用のお姉さま。
 オレンジっぽい長い髪をなびかせてピンヒールで仁王立ちするナイスバディ。
 手にしていた紙。ゲームのアイテムでよくある悪魔の契約書みたいなそれをくるくる巻いて、壺かに突っ込んで蓋をしている。
 横にいるボロイGパン・Tシャツで赤いバンダナを頭に巻いた男のキャラは、お姉さんから渡された壺をジュラルミンケースにしまって鍵をかけた。
「あれは大丈夫な奴。もう行くぞ」
 コウダが元ネタ知ってるやつだったか。
 再び走り始める。
 結果的にちょうどいい途中休憩になった感じだ。
 ただ、真後ろで鉄骨に何か当たる音がしたのはよくないぞ。
 響き渡る銃声の出所は凄い切れ込みのホットパンツをはいた黒髪のお姉さん。
 元ネタどおりの肩の入れ墨。両手に持った拳銃で撃ちまくっている。
 高架に入る前にコウダが放った心配してもしょうがないという言葉は体中に染み渡る。
 当たったらゲームセット。それだけ。
 だから、気にしない。
 背中から赤い翼を生やし、頭らへんが蝙蝠っぽいデザインの青いからだの男キャラ――すごい悪役っぽい――に対峙しているのが、天使の翼を複数背中に付けた、頭らへんからも同じようなのを生やした白っぽい男のようなキャラ――正義の味方か?――だってことも気にしない。
 その向こう側に佐藤とよく似た人が見えるのは? 気に…気に、しない。しない。
 赤くて長い武器っぽいものを持った坊主頭でチビの男の子は、額に第三の目がある。神様の名作の一つだよね。でも、気にしない。
 ロン毛でラスボスっぽい吸血鬼もジャケットと赤いTシャツで10tって書いたハンマーで殴られてるおっさんもでかい十字架っぽい銃担いだお兄さんも百鬼夜行の主も悪魔の孫の人間も何もかも、気にしない!
 しかしまあ次から次へと忙しい。
 時代劇と違って見た目がわかりやすくて、画風で作品カウントできるせいもあるだろうけど凄い出現率だ。
 今回は俺も元ネタが結構わかるから余計に気になる。
 もしかするとコウダには安藤さんの『中』もこれに近い感じに見えていたのか。
 今になってあの時のコウダがいかに俺の馬鹿な振る舞いに肝を冷やしていたかと思うと申し訳なくなった。
 それに…しょうもないことだけど、こんな鮮明なコピー、頭の中だからアリなんだよね。
 小説とか漫画とかだったら著作権侵害で訴えられる可能性もあるんじゃあ…。
 すみません。好きなんです。
 シリーズ丸ごとはちょっと無理だったとか、全巻じゃないとか、いいとこしか見れてないのも多少はあるかもしれないけど、絶対全部見てます。
 あれ、なんで俺、謝ってんだろ。
 でもやっぱなぁ。頭ン中とはいえ、本当に大丈夫なんだろうかこれ。ぎりっぎりで…
「ぎりっぎりですわ!」
 俺の内心を読み取ったかのように、バイクの風圧・ドリフト音とともにそこにまたがるひらひらした服のお嬢様風女の子キャラからセリフが飛び出した。
 もう一台並走していたバイクはドリフトに失敗したのか吹っ飛ばされて明後日のほうの鉄骨に激突している。
 吹っ飛ばされたバイクと止まったバイク両方のヘッドライトに照らされた先では、金髪で長ーいスカート。
 スケバン風の女の子キャラが向かい来る野郎ども――そう、複数形だ――を素手でフルボッコしている。
 返り血を浴びた目つきが怖い。
 いいやもう。どっちにしろ逃げるという選択に変わりない。
 走るモチベーションを取り戻すんだ俺。
 スケバンとそっくりさんが見えなくなると、今度はまた銃声だ。
 『エイジ』『アッシュ』と呼び合うアジア系の同じくらいの少年キャラと金髪の白人系美少年キャラ――といっても俺よりは年上だろう――がマフィアっぽい人に追われている。
 次は、またも額に目がある、今度はかわいい女の子キャラとおでこに何か字が書いてある糸目の男キャラ。
 妖怪・銃声・悪魔などなど盛りだくさん。
 この巻き添え食いそうな暗い閉鎖空間はいつ出られるんだ。
 明らかに出口の光は近くなってるけど、まだか。まだそこじゃないのか。
 だいぶ見えるようになってきてるのに。
 カチューシャをつけたセミロングパーマの男キャラとすっっっごい衣装のロングヘアお姉さんキャラが光で見えなくなると、その二人の代わりに向かいから2台の車がほぼ並走して突っ込んできた。
 もちろん、漫画に描かれた車。
 ヘッドライト。光源これだったか。じゃ出口はまだ?
 ボディが歩道の手すりギリギリ。でも、こすっているような音はしない。
 こっちに突っ込んでくるかと思えたそれはガードレールに沿って通り過ぎた。
 見間違いじゃなければ、車体には何とか豆腐店と書いてあった。そんな馬鹿な。レース用の車じゃないのか? 暗いから気のせいか?
 いや、だいぶ明るくなってきてる。あのヘッドライトじゃなくて、外の光だ。
 足元がはっきり見える。
 出口の向こうの、ボクシングの時よりも大きな歓声が聞こえ始めた。
 光が広がっていく。
 後ろからローラースケートのような物を履いた学ランの男キャラや私服の若い女子キャラたちが走ってきた。
 モーターでも付いてんのか? 速度がおかしい。
 普通のと違ってでっかいホイールが片足につき二つ、縦に並んでついている。
 そしてうち何人かはガードレールの上に飛び乗り、さらに俺たちの目の前の、高架の柱に滑らかに飛んで横向きに走っていた。
 さらにそのうちもう何人かは流れるように天井へと遷移。
 重力に逆らって外に滑りだしていく様は鳥のように自由。
 誘われるように、光と歓声の中に飛び込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ
ファンタジー
旧題:神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜 突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎
ファンタジー
「人間って、何だろう?」 十六歳の少年ウツロは、山奥の隠れ里でそんなことばかり考えていた。 彼は親に捨てられ、同じ境遇・年齢の少年アクタとともに、殺し屋・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)の手で育てられ、厳しくも楽しい日々を送っていた。 しかしある夜、謎の凶賊たちが里を襲い、似嵐鏡月とアクタは身を呈してウツロを逃がす。 だが彼は、この世とあの世の境に咲くという異界の支配者・魔王桜(まおうざくら)に出会い、「アルトラ」と呼ばれる異能力を植えつけられてしまう。 目を覚ましたウツロは、とある洋館風アパートの一室で、四人の少年少女と出会う。 心やさしい真田龍子(さなだ りょうこ)、気の強い星川雅(ほしかわ みやび)、気性の荒い南柾樹(みなみ まさき)、そして龍子の実弟で考え癖のある真田虎太郎(さなだ こたろう)。 彼らはみな「アルトラ使い」であり、ウツロはアルトラ使いを管理・監督する組織によって保護されていたのだ。 ウツロは彼らとの交流を通して、ときに救われ、ときに傷つき、自分の進むべき道を見出そうとする―― <作者から> この小説には表現上、必要最低限の残酷描写・暴力描写・性描写・グロテスク描写などが含まれています。 細心の注意は払いますが、当該描写に拒否感を示される方は、閲覧に際し、じゅうぶんにご留意ください。 ほかのサイトにも投稿しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します

名無し
ファンタジー
 レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。  彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。

処理中です...