新説 六界探訪譚

楕草晴子

文字の大きさ
上 下
26 / 133
4.第二界

7

しおりを挟む
 こんなレッツダンシングっぽいBGMで祈れってか?
 そのBGMの出所は音の感じからして校庭のようだった。
「校庭に安藤さんいたらどうする?」
「本人が後ろを向いていたら、走らないでゆっくり歩いて校内に入ろう。
 侍がいなさそうなところに行きたい。
 もしこっちを向いてたら学校周りをまわるコースに変更だ。
 本人に気づかれないのが一番だし、商店街から離れれば多少人どおりが少なくなっているから、多勢に襲われるのはなくなるだろう」
 安心できそうなんだと肩の力がちょっと抜けた。
 だから『暗殺系の人はいるかもしれないけど』という不穏な一言を付け足さないでほしかった。
 だいぶ減ってきた着物姿の人たちをあんまり疑いの目で見たくない。
 例えばああいう。
 坊主頭で丸顔のがっしりした着物の男の人が、時々かがんだり明後日のほうを見回したりしている。
 目をつぶったまま杖を少し前のほうに突き出して雨どいらへんの壁をトントンしながら進んでいるところを見ると、目が見えないのかも。
 江戸時代だと点字ブロックも音声案内もないから、今以上に大変だったろうなぁ。
 そしてその雨どいがある建物の一軒先には着物のディスプレイ。呉服屋だ。
 つまりあのおばちゃんたちの言っていたあたりに来ているということ。
 店先の暗いところに巻物のように何本も巻物のように巻いた布地が置いてある。
「コウダ、戦利品にああいうののは?」
「ん?」
 残り15分強あるが、キープは早めのほうがいいのでは。
 和服の生地って高いはず。
 路地裏に入ったら店なんてないだろう。
 ずっと案内してもらってばっかりじゃコウダに悪い気がした。
「いや、いい」
「なんで」
「布は硬化したら使えない。
 それに事件の臭いがする」
 なんじゃそりゃ。
「悪人が事件起こしたくなるほどいいもんありそうなの?
 あの『越後屋』って店」
 …しまった。振り返っちゃった。
 軽く斜め後ろ。
 さっきの盲目の杖の男に正面から向かい合って越後屋入口に男が二人。
 うち一人の男は抜刀している。
「ああ゛っ」
 俺の声じゃない。
 声の主は越後屋から出てきた男。
 地面に崩れ落ちる。
 でも問題はそこじゃなくて。
 杖、刀だったの?
 いつ抜いたの!?
 ていうか、目、見えてないんじゃないの!!??
 あの恰幅のいい男性が振り上げた刀を返してもう一人を切りつける瞬間。
 すぐ横を通りかかった別の男がこちらを見た。
 見覚えがあるぞあの顔。誰だっけ。
 男は軽く首を傾げ、火盗みの集団のほうに歩いていく。
「お前声でかい。
 振り返るなって言っ」
「ごめんコウダ誰かと目が合った」
 コウダの言葉が途切れた。
 その横顔を見ながら脳内リピートされるのはさっき見た映像。
 杖を突いているところから刀抜いて一人目を切りつける瞬間が何度再生しても見当たらない。
 二人人出てきて向かいの男が杖をついている、の次は、もう一人に向かって振り上げた刀が返される、だった。
「おい! 分かれてずらかるぞ!!」
 俺とコウダを挟んで、見るからに悪人面の数人が言いながら走り去っていく。
 コウダが振り返り、すぐさま前を見た。
「校舎の向こう側の角を曲がって門があったら入るぞ!」
 言われるがままコウダとともに走り出すが、後ろの足音が多い。
 チラ見。
 多いはずだ。
 乱闘騒ぎにさっきの火盗改が加わっている。
 さらにさっき目が合った人を先頭に、乱闘に加わっていない火盗改の一部が追いかけてきていた。
「目が合うのってここまで悪いの!?」
 コウダは怒りのエネルギーで走っているように見えた。
「越後屋の品の良しあしをしゃべったろ!」
 喋っただけだ。
「そのあとあの悪人面のやつら、俺らを挟んで逃げる相談したろ!」
 まさかやめて。
 ほんとやめて。
 仲間じゃないから!
 走りながら後ろから追っ手が近づいている。
 特に先頭の、さっき目が合った着物姿の人が飛びぬけて速い。
 他の火盗よりだいぶ先に追いつかれそうだ。
 なんかないか。
 思い出せ。
 『内世界の生き物は無敵です』
 手引き読んだろ俺。
 『攻撃は一時しのぎにはなりますが、』
 一時しのぎにはなる!
 でも今やれるのって物投げるくらいじゃね?
 散歩気分だったから指定があった服装以外は手ぶら。
 それでもまぐれに期待して一応ズボンのポケットに手を当てた。
 なんとあった。投げれるもん。
 右手に握る。
 でも投げたくない。
 なんかの買い物のおつりだろうこの百円玉。
「火盗もやっかいだが先頭が…」
 コウダがチラ見しながらぼやくから、その先頭を確認すべくこっちも後ろをチラ見した。
 まだ距離があるにはあるが、さっきよりだいぶ近くなっている。
 どっかで見た顔だけど思い出せない。
 どこで見たんだ?
 こっちは曲がり角まで来た。
 曲がろうと左足に力を入れると、スニーカーが滑ってこけそうになる。
 ホームセンターの1000円スニーカーにグリップを期待しちゃだめだな。
 でも今はポジティブに、『履くだけで直立二足ドリフト走行できるようになってる』と言い換えておこう。アビリティ増えた気がする。
 方向転換して右。校門が見えた。
「くそ、予定どおり暗殺系引きやがって…」
 コウダはもう喋らんぞとばかりに前を向いて走っている。
 これ以上ピッチを上げるのは難しい。
 俺の足が持つのは短距離程度の距離だけだ。
 でも向こうはヒーロー。多分スタミナ切れはないだろう。
「おいおい! てめぇらぁ!」
 背後から知らないガラの悪い声。
 声の主のほうを足を止めずに振り向く。
 先頭の男が仁王立ちして止まっている。
 わかった!
 ハリウッド映画に出てる俳優。
 だいぶ若いけど、綿部兼だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

嫌われ者の【白豚令嬢】の巻き戻り。二度目の人生は失敗しませんわ!

大福金
ファンタジー
コミカライズスタートしました♡♡作画は甲羅まる先生です。 目が覚めると私は牢屋で寝ていた。意味が分からない……。 どうやら私は何故か、悪事を働き処刑される寸前の白豚令嬢【ソフィア・グレイドル】に生まれ変わっていた。 何で?そんな事が? 処刑台の上で首を切り落とされる寸前で神様がいきなり現れ、『魂を入れる体を間違えた』と言われた。 ちょっと待って?! 続いて神様は、追い打ちをかける様に絶望的な言葉を言った。 魂が体に定着し、私はソフィア・グレイドルとして生きるしかない と…… え? この先は首を切り落とされ死ぬだけですけど? 神様は五歳から人生をやり直して見ないかと提案してくれた。 お詫びとして色々なチート能力も付けてくれたし? このやり直し!絶対に成功させて幸せな老後を送るんだから! ソフィアに待ち受ける数々のフラグをへし折り時にはザマァしてみたり……幸せな未来の為に頑張ります。 そんな新たなソフィアが皆から知らない内に愛されて行くお話。 実はこの世界、主人公ソフィアは全く知らないが、乙女ゲームの世界なのである。 ヒロインも登場しイベントフラグが立ちますが、ソフィアは知らずにゲームのフラグをも力ずくでへし折ります。

グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、ティルナグ王国の自堕落王子として有名なエルクは国王である父から辺境へ追放を言い渡される。 その後、準備もせずに木の上で昼寝をしていると、あやまって木から落ちてしまう。 そして目を覚ますと……前世の記憶を蘇らせていた。 これは自堕落に過ごしていた第二王子が、記憶を甦らせたことによって、様々な勘違いをされていく物語である。 その勘違いは種族間の蟠りを消していき、人々を幸せにしていくのだった。

詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)
ファンタジー
【第二部完結】 ひっそり生きたいと望むエリザベス・テレゼア公爵令嬢は、地味に目立たず生きてきた。 毎度毎度、必ず頭に飛んでくるものを最後に何度も生を繰り返すヘンテコな人生。回避、回避で今生は絶対長生きしてやると日々努力中。 王立学園に入らないためにも魔力がそこそこあることを隠し、目立たず十五歳を過ぎることを目指していた矢先……。 ひっそりと言い聞かせてきた日々の中に、すでにキラキラ危険分子が混じっていたなんて悲しすぎて悲しすぎて認めたくない。 ――ああ、詰んだ。 何、イベント目白押しって。国って何? そんなの回避に決まってる。私はひっそり、こっそり生きたいの! ※過去作を大幅に改稿したものになります。 表紙はkouma.作で進化型。無事、王子たちオープンされました♪ なかば引きこもり令嬢のひっそり行動によって起こる騒動をお楽しみいただけたら幸いです。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...