剣物語

渋谷かな

文字の大きさ
上 下
35 / 78

炎の蜥蜴

しおりを挟む
「勝負だ! サラマンダー!」
「おまえごとき人間が、この俺に戦いを挑むというのか? 身の程知らずが! 死ぬがいい!」
 炎の剣騎士のカエンは、炎の蜥蜴サラマンダーと対峙している。サラマンダーは、たかが人間が自分に戦いを挑んでくることを不愉快そうだった。
「くらえ! サラマンダー! 私の炎を、おまえに認めさせてやる! ファイア・フレイム!」
 カエンの炎がサラマンダーに放たれる。
「ふん。」
 全身炎のサラマンダーは、かわすことなく炎を自分の炎で吸収してしまう。
「なに!? 炎を食った!?」
「何かしたか? こんな小さな炎では腹の足しにもならないな。本当の炎というものを教えてやる! サラマンダー・ファイア!」
「うわあああー!?」
 サラマンダーが炎を放つ。その炎は火でできた蜥蜴の形をし、カエンの体を貫通する。
「面白い余興だったぞ。人間にしては、よくやった方だ。」
 サラマンダーは、燃えているカエンの亡骸を見ながら呟いた。

「カエン。」
「カエン。」
「カエン。目を覚ましなさい。」
 誰かがカエンに声をかける。
「う、うう、こ、ここは?」
「炎の死後の世界です。」
 カエンは目を覚ました。目の前には微笑んでいる女性が一人いた。
「フェニックス!? ということは、私は、また死んだのか?」
「はい。サラマンダーに燃やされて死にました。」
「また会えましたね。フェニックス。」
「カエン。あなたは私との約束を守ってくれました。ニコッ。」
 微笑みながら見つめ合うカエンとフェニックス。まるでカエンは自分が死んだことを嬉しがっているみたいだった。
「あなたに不死鳥フェニックスの剣騎士の鎧を託してあげたいのですが、今のあなたの実力では、私を従えることはできません。」
「そうですね。サラマンダーにすら勝てないのですから。」
「ですが、あなたと私が二人で共同すれば、きっとサラマンダーも、あなたの実力を認めてくれるでしょう。私の炎も持って行って下さい。」
 カエンはフェニックスの炎を分けてもらう。
「ありがとう。二人で手と手を取って助け合う。私は、フェニックス、あなたとならできそうな気がします。」
「私もです。では、いきますよ! サラマンダーに勝ってください! 炎の剣騎士カエンの魂よ! 甦りたまえ! リジェネレイショーン!」
「フェニックス、また会いましょう。」
「はい。私は、あなたを待っています。」
 カエンの精神体が現実世界に戻っていく。

「サラマンダー! 勝負は終わっていないぞ!」
「な、な、な!? おまえは俺の炎で死んだはず!?」
 サラマンダーは殺した炎の剣騎士が姿を現わして驚く。
「私は何度でも甦る! これもフェニックスのご加護だ!」
「フェニックスだと!? バカな!? 炎の最上位に位置するフェニックスが、おまえごときに力を貸したというのか!?」
「そうだ! 私とフェニックスの炎を味あうがいい!」
「あの小娘め!?」
「燃えろ! 私の炎! くらえ! フェニックス・フレイム!」
 カエンの炎が火の鳥の姿をして飛んで行く。
「ふざけるな! 俺はサラマンダーだぞ! たかが人間ごときに負けてたまるか! 今度こそ塵一つ残さずに燃やしてくれるわ! サラマンダー・ファイア!」
 サラマンダーが火の蜥蜴の炎を放つ。
「いけ! 私の炎! いけ! フェニックスよ!」
 フェニックスの炎が、炎の蜥蜴を切り裂いていく。
「俺の炎が!? うわあああー!?」
 火の鳥がサラマンダーに命中する。自分の炎よりも強力なフェニックスの炎に、サラマンダーは吸収できずにダメージを受けている。
「どうだ! サラマンダー! これが私たちの炎だ!」
「いいだろう。フェニックスも認めし人間なら、我が剣騎士の鎧も使いこなすことができるだろう。」
「それでは!?」
「おまえに託そう。我がサラマンダーの剣騎士の鎧を。」
 サラマンダーの炎がカエンの実を包み込む。そしてカエンにサラマンダーの剣騎士の鎧が装着されていく。
「これがサラマンダーの剣騎士の鎧!? なんという熱さだ!? 少しでも気を抜けば、私自身が燃え尽きそうだ!?」
「俺を使いこなすぐらいでないと、フェニックスの剣騎士の鎧など夢のまた夢だ。手が届かないぞ。」
「ありがとう。サラマンダー。私は、これから修行を重ねて、もっと強くなってやる。そして、おまえに認められてみせる。」
 カエンは、サラマンダーの剣騎士の鎧を手に入れた。
「姫、救世主様、みんな。私はサラマンダーの剣騎士の鎧と共に、みんなの元に帰るぞ。フェニックス、また会おう。」
 カエンは帰路を進んでいく。
 つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

処理中です...