剣物語

渋谷かな

文字の大きさ
上 下
1 / 78

剣物語

しおりを挟む
「お願い! あなたの剣で、この世界を救って!」

誰かの助けを求める声が、僕には聞こえた。

「はあ!?」
眠っていた少年が目を覚ます。
「ゆ、夢か。」
 悪い夢でも見たように寝汗を大量にかきながら、一人の少年がベットの上で腰まで起き上がる。
「それにしても、リアルな夢だった。誰かが助けを求めている。」
 少年は自分の顔に手をあてるも、夢のことは思い出せない。ただ覚えていることは、誰かが助けを求めているということだけだった。
「助けてほしいのは。こっちだよ。」
 主人公の名前は、夢見叶。16才の高校1年生。僕の夢は「いつも平凡に平和に暮らしたい。」ただ、それだけだ。なぜ、僕がそう思っているのかは、すぐに分かるだろう。
「剣でか、少しゲームのやり過ぎかな?」
 彼の趣味は、ネットゲーム。ゲームのタイトルは「剣物語」。剣で戦う異世界ファンタジーRPGゲーム。彼は、そのゲームの上級者であった。
「ただ僕は、毎日、平和に暮らしたいだけなのに。」
 彼は日々の暮らしに疲れていた。まだ16才なのに家族、学校などの人間関係に疲れ切っていた。そして彼は何事も無くていいから、ただ平和に暮らしたいと願うようになった。
「やばい!? 遅刻だ!?」
 彼は慌ててベットから飛び起きると、パジャマから学校の制服に着替える。そして家族の待つ食卓へ朝食を食べるために、彼は緊張しながら行く。

「おはようございます。お父さま。」
「おはよう。」
 どこか父親の態度は冷たかった。食卓には、父、母、兄、妹の4人が朝食を食べていた。父、夢見勝(ショウ)。夢見病院の医院長。
「叶。どうして、あなたは時間通りに起きて、朝ごはんぐらい食べれないの? 兄や妹は優秀なのに、どうして、あなたは落ちこぼれなの?」
「すいません。お母さま。」
 母親は叶のことを夢見家の恥だと思っていた。母、夢見椙(スギ)。専業主婦。
「お母様、お父様の病院は兄の私が継ぎますから、ご安心ください。」
「そうよ。お母様が叶お兄様を攻めてると、朝食が不味くなってしまいますわ。」
「そうね。ご飯は美味しく食べないとね。」
「すいません。」
 ささやかに兄と妹は叶をフォローしているのだが、当の本人の叶は胸がグサグサ締め付けられる。夢見家は代々、病院を経営しているお金持ちだった。兄も妹も子供の頃から勉強だけの人生を送ってきた。兄、夢見心(シン)。医師1年目の25才。妹、夢見月(ツキ)。中学3年生。15才。
「あなた、あなたが叶にゲームなんかを買って与えたのが間違いだったんですよ。」
「今更、子供の頃の話を持ち出すな。」
「いいえ、言わせてもらいますが。叶の成績が下がり出したのは。」
 両親の口喧嘩は永遠に続く。それを聞くたびに叶は心が痛んだ。
「行ってきます。」
「私も。」
「ぼ、僕も行きます。」
 子供たちは親のケンカに巻き込まれたくないので、朝食を食べ終えたら、さっさと学校に行くために家を出る。
「叶、おまえは好きに生きろ。」
「ありがとう。心兄さん。」
「心兄と叶兄は歳が離れていて良かったね。」
「なんで?」
「もし歳が近かったら、病院の跡継ぎ争いで仲が悪いだろうからね。」
「やめてよ!? 怖いのはお母様だけで十分だよ!?」
「ハッハハハ!」
 兄と妹は叶に普通に接してくれた。それでも勉強ができる優等生の兄と妹に引け目を感じていることには変わりなかった。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

処理中です...