蛍光刀 いつ蛍は光る?

渋谷かな

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時は、鎌倉時代末期。
栄華を誇っていた鎌倉幕府は、全国の守護・地頭の台頭により弱体化していた。
世の中の治安は悪化し、野盗が殺戮や強盗を行い、庶民は悲し過ぎる日々の中で生きていくしかなかった。

「キャアアア!?」

今日も無抵抗な庶民が野党に襲われる。目的は金品財宝、高く売れる女に子供。剣を持ったことがない人が、人を殺すことを何とも思わない人に勝てるだろうか? それは無理というものだ。

「キャアアア!?」

次々と殺されていく無抵抗な者たち。逃げることしかできず、そして逃げることすら諦めてやめてしまう絶望しかない。

「楓! あなたは逃げなさい!」
「嫌だ! 桜お姉ちゃんも一緒に逃げようよ!」
「私は、私は、私は大丈夫だから。行きなさい。私のカワイイ妹よ。・・・ゲホッ!?」
「!?」

野盗の刀が女性の体を貫いた。女性は口から血を流し、目から涙を流し、愛おしそうに妹の姿を命尽きる最後まで眺めていた。

(生きて・・・楓・・・生きて・・・私の分まで・・・。)
(お姉ちゃん!?)

そして姉は息を引き取った。この乱れた時代では姉妹の悲しい別れなど珍しい方だ。

「おい! 女は殺すなって言っただろうが!」
「この女が抵抗するから! 仕方が無かったんですよ!」
「もったいねえ! 高く売れたのに! ・・・まあ、いい。まだ、小さいのがいる。」

なぜなら、すぐにあの世で姉妹は再開できるからだ。

「このガキ、震えてるぜ。」
「ケッケケケ。怖くないよ。おじさんたちが可愛がってあげるからね。」

死んでも地獄に行くが、生きていても、この世は地獄である。

(い・・・嫌・・・嫌だ・・・死にたくない・・・生きなきゃ・・・お姉ちゃんの分まで・・・。)

力無き者は、怯えて、泣いて、震えるしかできない。まして非力な子供では尚更だ。

「おお、カワイイ顔してるな。こいつは高く売れるな。」
「その前にいっぱい楽しませてもらおうぜ。ケッケケケ!」

これが当たり前の時代だ。だが今回は違っていた。

(た、助けて・・・誰か・・・助けて!)

少女が目の前の変態を拒むかのように瞳を閉じた時だった。川辺でも無いのに何かが光った。

「な、なんだ!?」
「蛍? なんでこんな草むらに!?」

その光は野盗の目にも止まり、その光の輝きに思わず手を止めて、増えていく小さな光を目で追いかけている。

(・・・きれい!?)

少女は自分の身が危険でありながらも、宙を舞い光を放つ蛍を見て、綺麗だと素直に感じた。

「いつ蛍が光るか知ってますか?」

そこに武士風の若い男が現れた。

「これからいい所なのに邪魔しやがって! 殺すぞ!」
「はあ!? なんだてめえわ!?」

野盗は美味しい所に現れた男に怒りをぶちまける。

「ただの通りすがりの名も無き者です。」

若い男は飄々としていて、野盗など怖くないと言った感じだった。

「蛍はね。悲しい時に光るんですよ。」

若い男は静かに刀を抜く。

「あ、青い光!? 刀が光っている!?」
「妖刀だ!? こいつの剣は妖刀だ!?」

竿から抜かれた刀は蛍のように青く光っていた。

「俺の刀の名前は、蛍光刀。刀が悲しいことがあったと感じた時に、蛍が光るように光るんです。」

若い男は一歩ずつ野盗に近づいていく。

「おい、このガキも殺そうぜ。あの妖刀は高く売れるに違いないぞ。」
「そうだな。いかに妖刀使いでも子供は子供だ。ケッケケ・・・ケ?」

一瞬だった。青く怪しい刀は、まるで蛍が宙を舞ったように青い軌道を描き二人の野盗を切り裂いた。

「この刀をあげる訳には行かないので。悲しい世の中だ。」

若い男は刀を鞘にしまう。

「・・・。」
「・・・。」

若い男と野党から一人生き残った少女は目と目が合った。

「さようなら。」

若い男は逃げるように少女に背を向けて去って行こうとする。

「蛍ちゃん!」

少女は逃げる泥棒を捕まえるかのように、若い男の後ろから首筋に手を絡めて飛びついてしがみついた。

「ほ、蛍ちゃん!?」

名も無き若い男の名前が、蛍に決まった。

「俺は男だ!? 女みたいな名前は嫌だ!?」
「蛍ちゃんは、蛍ちゃんだもん!」

少女もなかなか譲らなかった。蛍がもがけばもがくほど、少女の手が蛍の首を絞めつける。

「く、苦しい!? 分かった!? 分かった!? 蛍ちゃんでいいから、一度降りようか!?」

少女は蛍の首を絞めるのをやめて、地面に降りた。

「お嬢ちゃん、お名前は?」
「楓。」

少女の名前は、楓。推定年齢は4,5才。

「楓ちゃん。お父さんは?」
「死んだ。」
「え!?」

楓の父は野盗に殺された。

「お母さんは?」
「あそこ。」
「ゲ!?」

楓は地面に寝転がっている息のしていない母親を指さす。

「兄弟は?」
「・・・お姉ちゃんは、私をかばって殺された・・・う、う、うええええ~ん!?」
「・・・。」

楓は自分をかばって死んだ姉を思い出し泣き出した。

「それじゃあ、がんばって生きてね。」

困った蛍は聞くんじゃなかったと重い空気を感じ逃げ出そうとする。

「酷い!? こんな荒野にカワイイ女の子を一人残していくの!?」

楓も生き残るために必死で蛍にしがみつく。

「俺は死んだ姫を探して生き返らせるのに忙しいんだ!?」
「なら私もお姉ちゃんを生き返らせる!?」

蛍と楓の目的が、大切な人を生き返らせるという共通の目的になった。

「知るか!? 一人で生き返らせろ!?」
「嫌だ! 一緒に行こうよ! 蛍ちゃん!」

こうして蛍と楓の旅が始まった。
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