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出た! 空賊!

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「いらっしゃいませ!」
 ここは江戸と東海道の抜け道の谷底の渋い谷。
「お茶とお団子ですね! ありがとうございます!」
 そこにお茶とお団子を出す茶店が奇跡的にありました。
「女将さん! お茶とお団子をお願いします!」
 茶店の看板娘のおみっちゃんは純粋で可愛く一生懸命に働く女の子でした。
「はいよ。」
 女将さんと二人三脚で茶店を切り盛りしていました。
「おみっちゃんは元気がいいね。」
「よく言われます!」
「ワッハッハー! 面白い!」
「エヘッ!」
 おみっちゃんは愛想がよいのでお客さんからも人気があった。
「私、将来は江戸に行って歌姫になりたいんです! 私の歌を聞いて多くの人に夢と希望を与えたいんです!」
 おみっちゃんの夢は歌姫になることでした。
(そんなことしたら江戸の人々が死んじゃうよ。)
 女将さんだけが知っていました。おみっちゃんがとても素晴らしい音痴だということを。

「谷賊さん。安らかに眠っておくれ。」
 女将さんは自分の茶店で働くおみっちゃんの犠牲になった者たちのお墓を作って供養していた。
「この調子じゃあ、うちは茶店でなくお寺になっちゃうよ。」
 おみっちゃんのおかげで死者のお墓が増えていく。
「将来は尼にでもなろうかね。坊さんって儲かるらしいからね。」
 頭の中はお金のことでいっぱいの女将さん。

「はい! お茶とお団子です!」
「ありがとうよ。」
 今日も茶店はたくさんのお客さんで儲かっていた。
「そうそう、この辺りは谷賊が出るっていうから気を付けた方がいいよ。」
 渋い谷には谷賊が出るらしい。
「それなら大丈夫ですよ。谷賊は谷神様に倒されたので平和になりましたよ。」
「そうなのかい? 谷賊を倒すなんてすごい妖怪がいるんだね。」
「はい! 谷神様は大妖怪です! エヘッ!」
(谷神様はあんただよ。)
 心の中でツッコみを入れる女将さんであった。
「この辺りは谷賊も多いから気を付けてね。」
「はい! ありがとうございました!」
 お客さんは去っていく。
「おみっちゃん、お茶とお団子の準備ができたよ。」
「は~い! ただいま!」
 今日も元気な働き者のおみっちゃんであった。

「俺たちは空賊だ! お茶とお団子を頂こうか!」
 茶店に空賊が現れた。
「いらっしゃいませ! お茶とお団子ですね! ありがとうございます!」
 普通にお客さんとして空賊がやって来た。
「美味しい! お茶とお団子は美味しいな! ワッハッハー!」
 空賊さんは茶店のお団子を気にいって上機嫌だった。
「空賊さん。何かいいことでもあったんですか?」
 おみっちゃんは素朴な疑問を尋ねてみた。
「谷賊が谷に住む大妖怪の谷神様に倒されたって聞いたんで、ライバルもいないし、これからガッポリ稼ぐぞ! ワッハッハー!」
「儲かったらたくさんお団子を買いに来てくださいね! エヘッ!」
 ちゃっかりしているおみっちゃんは商売上手だった。
「そうだ! もしよかったら私が歌でも歌いましょうか?」
「おお! いいね! 空族の立ち上げ祭りだ! キャッハッハー!」
 若くてカワイイ女が歌を歌うというので上機嫌な空賊。
「私の歌を聞け! 一番、おっちゃん。歌は世界平和。ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主だった。
「ギャアアアアアアー!? 頭が壊れる!? 死ぬ!?」
 おみっちゃんの歌声を聞いた空賊が苦しがっている。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガー!」
 気分よく歌を歌い続けるおみっちゃん。
「助けて!? 神様! 仏様!? バース様!? ギャアアアアアアー!」
 空賊は体内から破裂して爆発した。
(空賊の墓も作ってやるか。)
 女将さんはおみっちゃんのデスボイスの犠牲者のお墓を作ってあげていた。
(空賊はお金にお宝をたくさん持っているかな? エッヘッヘ!)
 ちゃっかり死体から金目の物を着服して財を成している女将さんであった。
「ああ~気持ちよかった。」
 おみっちゃんは歌を歌い終わった。
「あれ? 空賊さんは? 帰っちゃったのかな?」
 目の前に空賊がいなくなっていた。
「そんなことはどうでもいいから、次の客さんが来る前に片付けておくれ。」
「は~い! お団子! お団子! 嬉しいな! エヘッ!」
 何事もなかったかのように普段通り働き始めるおみっちゃんであった。
「平和っていいな! エヘッ!」
 知らず知らずのうちに空賊を退治して谷の治安を良くしたおみっちゃんであった。
 つづく。
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