神男(ゴットマン)

渋谷かな

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神の悪戯

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「退屈だな~。」
 天界の神様は暇でした。神様の名前は地球神アース。
「退屈しのぎに人間でも困らせて遊ぶか。ポチットな。」
 神様がボタンを押すとゲリラ豪雨に台風、寒波、干ばつなどの不幸な自然現象が世界中で起こりました。
「苦しめ! 人間! 私を楽しませろ! ワッハッハー!」
 地球神アースは少し悪趣味な神でした。
「・・・・・・飽きた。」
 しかし異常気象で遊ぶのに飽きた神様は退屈していました。
「そうだ! 良いことを思いついたぞ!」
 暇つぶしに何かを思いつきました。
「現代の地球を異世界ファンタジーにしてしまえばいいんだ! 私、天才! だって神様だもの!」
 神様の迷惑な思い付きでした。これを神の悪戯と呼ぶ。

 ということで、20〇〇年。地球に異世界ファンタジーがやってきた。ある日、科学力は無意味になり、一部の人間は剣だの魔法だのが使えるようになった。

「ストーク=オン=トレント。」
 ネットでイギリスを調べる少年がいた。彼の名前は四十内碧(あいうちあおい)。普通の高校一年生の16才。
「イングランドのミッドランド西部にあるのか。」
 碧はネットで検索するのが趣味だった。
「人口は25万人っと。」
 なぜか彼はイギリスの一都市のことを調べていた。
「碧。」
 そこに少女がやってきた。彼女の名前は弘原海恋(わだつみれん)。
「イギリスの陶器産業の里で、ポッタリーズと通称では呼ばれている。」
 しかし碧は少女がやってきたことに全く気が付かなかった。
「ねえ、碧。」
 また少女は碧に優しく呼びかけた。
「なんだかハリーポッターみたいな名前だな。」
 考え事に夢中な碧は二度目の少女の呼びかけにも気が付かなかった。
「ムカッ!」
 無視された少女の怒りが爆発する。
「ほうほう、六つの町と村が統合されて市になったのか。」
 碧は少女が怒ったことにも気づかない。
「碧ー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 少女の大声が炸裂する。
「恋!? いつの間に!?」
 やっと気づいた碧。
「いつの間にじゃないわよ!? 私は何回も呼びました!」
「ごめん、ごめん。」
 碧は恋に頭が上がらない。
「幼馴染でなかったら殺してたわよ。」
 二人はお隣さんの幼馴染である。
「いったい何を調べてたのよ?」
「イギリス。」
 碧はイギリスについてネットで調べていたのだった。
「なんでイギリスについて調べているのよ?」
「次回作の舞台をイギリスにするんだ。」
 碧は小説なんかも書いていた。
「ああ、そうですか。イギリスを調べる前に呼びに来なくても朝一人で起きれるようになってほしいわ。」
「悪かったな。」
 碧は趣味をバカにされてご機嫌は斜めになる。
「それよりも早く出ないと学校に遅れるわよ!?」
 碧と恋は高校生なので高校に行かなければいけない。
「そんなもの空間移動魔法を使えば一瞬で学校に移動できるだろう。」
「あなた、使えるの?」
「・・・・・・使えません。」
 碧は空間移動魔法が使えなかった。
「急げ!? 遅刻だ!?」
 時計の時間を見て慌てふためき着替えを始める碧。
「キャアアアアアアー!? 私がいるのに服を脱ぐな!?」
 恋がそこら辺にあった物を碧に投げつける。
「ギャアアアアアアー!?」
 見事に碧に命中する。
「この世に救いの神様なんていないな・・・・・・。」
 バタっと力尽く碧は無宗教。神様なんて信じていない。

「電車なんて、空間移動魔法が使えない奴が乗るものだ。」
「あんたのことよ。」
 碧と恋は通学のために電車に乗っている。電車の中は相変わらず満員電車だ。
「いいな~。一部の人達は渋滞の無い空を飛んで学校に行けるなんて。」
 現代、一部の魔法に目覚めた人たちだけが浮遊魔法で空を飛んで通学や通勤することが許されていた。
「でも魔法ってどうやったら使えるようになるのかしら?」
「さあな。魔法が使えるようになった人たちは言う。ある日、突然魔法が使えるようになったとさ。」
 魔法が使えるようになるのは、突然らしい。
「ああ~、俺も魔法使いになりたいな~。」
 碧は魔法使いに憧れていた。
「キャアアアアアアー!」
 その時、社内に女性の悲鳴が鳴り響く。
「痴漢!? 痴漢よ!?」
「クソッ!?」
 痴漢した男が人混みをかき分けて逃げ出す。
「なに?」
「痴漢だってよ。知~らない。」
 知らない女性の痴漢被害など碧と恋には他人事だった。
「許さない!?」
 痴漢された女性の怒りが爆発する。女性の怒りが魔法陣を発動させ突然光が溢れてくる。
「痴漢なんか殺してやる!」
 普通の日常を送っていた女性が痴漢にあった性で魔法に目覚めた。
「ギャアアアアアアー!?」
 いきなり悲鳴をあげて痴漢して逃亡した男が切り刻まれて血を吹き飛ばして死んだ。
「キャアアアアアアー!?」
 他人の痴漢被害は無関心だった乗客たちは、自分と同じ車両に危険な女が乗っていることは瞬時に把握した。
「降ろして!?」
「ひ、人殺しだ!?」
「電車を止めろ!?」
 乗客たちは命の危険を感じ好き勝手に叫んだ。
「す、すごい!? 私が、私なんかが魔法が使えるなんて!?」
 女性は魔法が使えるようになったことを喜んでいた。
「もう働かなくていいんだ!? お金に困ることもないんだ!? 誰も私を捌くことはできないのよ!? 私は私の好きな人生を送ることができるんだわ!?」
 そして自分の力に心を奪われた。
「おい、おまえたち。・・・・・・暑苦しいんだよ!」
「!?」
 女は満員電車のオッサンたちに言い放つ。 
「おまえら全員! 切り刻んでやる! カット!」
 女は再び魔法陣を発動させ切る魔法を発動させる。
「ギャアアアアアアー!?」
「ウギャアアアアアー!?」
 次々と電車の乗客たちが切り刻まれて血を噴き出す。
「なんなの!? あれ!?」
 恋は悲惨な光景に目を疑った。
「なんでハリーポッターが異世界に行ったのか分かった様な気がする!? この世界で魔法が使えても化け物でしかないからだ!?」
 碧は目の前に女性ではなく化け物を見ている。
「死ね! 死ね! 死ね! みんな! 死んでしまえばいいんだ!」
 女性は魔法の力に自我を飲み込まれていて歯止めがきかない。
「早く次の駅に着いて!? いや!? 死にたくない!?」
 恋は早く電車から逃げ出したかった。
「ダメだ!? 次の駅に着く前に俺たちがミンチになっちまう!?」
 碧は自分は死ぬという危機を敏感に感じ取っていた。
(何とかして、恋だけは俺が守らないと! 神に祈ってでも。)
 自分はどうなってもいいから碧は恋を守りたかった。

「おまえの願いを叶えてやろう。」
 その時、碧の精神に呼びかける声が聞こえる。
「声!? おまえは何者だ!?」
 碧は精神世界にいた。
「ワッハッハー! 私は神様だ! 地球神アース! 偉いのだ!」
「神様? ご冗談を。」
 馬鹿馬鹿しい話に困惑する碧。
「どうだ? 現代社会で異世界ファンタジーは楽しんでもらえているかな?」
「なぜそれを知っている!?」
「だって痴漢された女が痴漢を殺したいと願ったから、私は願いを叶えてやっただけだ。ワッハッハー!」
 女性が魔法が使えるようになったのは神様の性だった。
「この無差別殺人の原因は神様! おまえの仕業かよ!?」
「その通り。天界で神をやっていても暇でな。退屈しのぎに現代を異世界ファンタジーにしてみよう思ったのだ。」
「暇つぶしに、退屈しのぎ? まさに神様の悪戯かよ。」
 まったく悪びれる様子のない神様に碧は憤りを覚える。
「面白いぞ、人間は。全ての人間が良い人間ではない。中には欲望塗れの悪い人間がいて、剣や魔法を使って、次から次へと悪いことを行う。まったく飽きることがないな。実に私を楽しませてくれる。ワッハッハー!」
 神様は新しい遊びのコンテンツを手に入れて上機嫌だった。そして、それを創造したのが自分ということで、さらに上機嫌だった。
「さあ、人間よ。願いを言え。どんな願いでも神である私が叶えてやろう。」
「本当にどんな願いでも叶えてくれるんだろうな?」
「ああ。本当だ。あの幼馴染の娘を救いたいのか? さあ、願え! 剣でも魔法でも与えてやるぞ! そしておまえも人殺しとして一生両親の呵責に苦しみ続けるがいい! 愚かな人間よ! ワッハッハー!」
 神にとって人間の苦しみは暇つぶしでしかなかった。
「俺の願いは、おまえを倒せる力だ!」
 気転を利かせた碧は全ての諸悪の根源を消すつもりだった。光り輝く碧の魂。
「なんだと!? しまった!?」
 神が予想もしていなかった願いが叶ってしまった。

「死ね! 死ね! 死ね! 痴漢なんか、この世からいなくなればいいんだ! キャッハッハー!」
 魔法を止めることができずに猟奇的に乗客を殺し続けている女性。
「イヤー!? どうしよう!? 碧!? このままじゃ私たちも細切れミンチにされちゃうよ!?」
 恐怖に気が気でない恋。
「安心しろ。恋。俺がおまえだけは守り抜く。」
 危険が近づいてくるのに平然と落ち着いている碧。
「碧?」
「恋は下がっていろ。」
 碧は女性に立ち向かうように正面に立つ。
「まずは俺が魔法が使えると周囲の人にバレないように、魔法陣を隠さないと。ハイド。」
 碧は魔法を使う時に出現する魔法陣を自分の精神世界に隠した。
「命を落とした乗客たちも、魔法使いにされて暴走した女性も、全ては地球神アースの悪戯。本当は何も起きなかったんだ。誰も死ぬ必要はなかったんだ!」
 この悲劇は神の性であった。
「神の力を超える者が命じる! 時間よ戻れ! カムバックタイム!」
 碧は地球神アースを超える者として時間を戻す魔法を行使する。切り刻まれた人々の肉がつなぎ合わされ人間の形になり命を取り戻す。また魔法を使う女性も魔法が使えない、ただの痴漢される女性に戻る。そう、何事もなかったように。

「碧、あなた魔法使いになりなさいよ。私を学校まで瞬間移動で運んでよね。」
「無理を言うな。」
 何事も無かったかのように時間が元に戻っている。
(イヤー!? 痴漢!? 誰か助けて!? 神様!?)
 満員電車の中で女性が痴漢にあっている。しかし周囲の人々は気づいていたとしても誰も助けてくれない。
(大丈夫だ。私が助けてやろう。)
 その時、女性の困っている心に悪魔が声をかける。
(誰ですか!? あなたは!?)
(安心しろ。私は神様だ。悪い痴漢を倒しに来たんだ。さあ、おまえに力を与えてやろう。)
(力?)
 神様は女性に魔法を与えようとしていた。
(騙されるな! そいつは神なんかじゃない!)
 そこに碧の精神が現れる。
(これはテレパシー!? なぜ人間如きが!? この神の私の領域に入って来れる!?)
(それは俺のこの力は、あんたからもらったものだからだ!)
(なに!? 私からだと!?)
 予想していない展開に驚き続ける神様。
(騙されないで下さい。この悪い神から力を授かっても、力が暴走してあなたは殺人鬼になってしまいます。)
(殺人鬼!? この私が!?)
 この時点で女性は神のいう言葉を信じられなくなった。
(追い出された!? 神である、この私が!?)
 神を信じないものには神の声は聞こえない。神と女性の交信は途絶えた。
(じゃあ!? 私はどうすればいいのよ!? このまま痴漢されていろっていうの!? そんなの嫌よ!?)
(勇気を出して。あなたが勇気を出せば必ず周りの人々も助けてくれます。)
(どうやって、そんな言葉を信じろと!?)
(私は神を超える存在です。決してあなたを見捨てない。あなたの心に少しの勇気を与えます。)
 碧は神を超えるものとして、女性の心に勇気を与える。

「キャアアアアアアー! 痴漢です! みなさん! 捕まえてください!」
 女性は周囲の人々に助けを求めた。
「こいつめ!」
「観念しろ! 痴漢め!」
「御用だ! 御用だ! 御用だ!」
 あっさりと痴漢は乗客たちに取り押さえられた。
「みなさん! ありがとうございます!」
 女性の勇気が周りの人々にも勇気を与えて痴漢を捕まえることに成功した。
(良かった。勇気を出して。ありがとう、神超さん。)
 さっきまで泣いていた女性の顔は笑っていた。ちょっとだけ世の中のことを好きになったのかもしれない。

(良かった。世界が変わって。)
 碧は他人事のように痴漢騒ぎを見ていた。
「ちょっと!? 人の話を聞いてるの!? 碧!?」
「え? ごめん。あっちの騒ぎが気になって聞いてなかった。」
「ええー!? やっぱり聞いてなかったのね!?」
 碧の態度に激怒する恋。
「私が痴漢にあったら、碧が守ってくれるんでしょうね!?」
「はい! 守ります! だから機嫌を直してくれ!」
 ケンカするほど仲の良い二人であった。
 つづく。
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