BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<ジルベール>シリアス ルート

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 ―― あれ……
 遠目に、ヴァルが見えた。背が高いから、離れていても直ぐに分かる。
 頭が下がっていて、肩が落ちている。なにかあったのだろうか。

「ヴァル、どうした。なにか、あったのか」
「うん? 何がだ。何もないぞ」
 ―― 嘘をついてるな
 近づいていくと見えた表情は、暗く沈んでいるように見えた。

「ヴァル、俺の家で茶を飲もう」
「かまわないけど、どうした?」
 首を傾げたヴァルに答えずに、腕を掴んで歩く。
 ―― ヴァルは
 俺の事に関しては心配性なところがあって、あれこれ聞いてくるところがある。けど自分の事は、あまり話さない。今だって気落ちしているように、見えるのに何でもないと口にした。

 ―― 別に
 話したくないことを、無理に話して欲しいとは思っていない。言いたくないことだって、あるだろう。付き合いが長くても、そんなことは当たり前にあると思う。俺だって腐男子だって、言ってないしな。というか一生伝える気はない。俺は隠れ腐男子なんだ。オープンに、するつもりはない。
 うん、だから別に良いんだ。言わなくても、それで構わない。けど露骨に落ち込んで見えるのに、放っておきたくない。

「いれてくるから、待っててくれ」
「わかった。ありがとう」
 家まで連れて行くと、大人しく座ってくれる。
 ―― これに、するかな
 茶葉を入れた缶の一つを、手に取る。沢山の茶葉を置いているジルベールの家と違って、選ぶのに迷うほどの茶葉はない。ただジルベールが時々、茶葉をくれるから良い茶葉が常時そろっている。
 さすがに最初は、遠慮した。良い茶葉だし俺が入れても、美味しくなる。適当に入れても美味しいお茶が飲めるのは最高だ。けどこう定期的だと、金銭面が気になってくる。俺が行く庶民向けの店でも問題だが、ジルベールの行く店は高級店だ。想像したくない金額が、かかっているのは聞かなくても分かる。

『ジルベール、もう茶葉はいい』
『えっ』
 お金の面でも悪いし、もう気持ちだけで良い。と、そこまで続けるべきだったのかも知れない。沈んだ表情のジルベールを、見た後で気づく。

『随分と金がかさむだろう。だから気持ちだけもらっておく』
『大した額じゃないから、気にしないで。それより気に入ったお茶を、君に飲んでもらって感想を聞くのが楽しみなんだ』
 俺にしては、頑張った方だと思う。言えば良かったと思ったことを、後からでも伝えられたのだから。うん、凄く頑張ったと思う。
 けどジルベールに笑顔を返されて、それでも不要だとは続けられなかった。だってあれだろう。友達と自分が好きなものを、共有したいって言う純粋な気持ちだろう。いくら俺が万年真性ボッチで、ジルベールと友達になる前は誰も友達がいなかったとしてもそれくらいは気づく。
 だから止めろとは、強く言えなかった。でもやはり金銭面が、気になる。だがら色々とブレンドとかを試したいから茶葉を、持ってくる間を少し長くしてくれと伝えた。

 ―― うん、良い香りだ
 ジルベールがくれるものは、香りも味も良い。どれも外れがない。
 ―― 少し気が晴れると、良いな
 俺は口が上手くないから、言葉を持ってヴァルの沈んでいる原因を取り除くのは無理かもしれない。だから茶を入れたんだ。美味しいお茶を飲むと、ほっとする。沈んだ気分も、少しはよくなるかもしれない。
 それに皆でお茶する時間は、楽しい。

 ―― うん?
 なんだ、今何を考えてたんだ。自分の考えなのに、疑問が湧き上がってくる。皆って誰だ。ジルベールとお茶をしたときも、ヴァルの時も二人だけだ。皆って、何か違う気がする。
 ―― ああ、そうか
 夕食の時にジルベールとヴァルと、一緒に茶も飲んだ。きっとそれだな。

「どうした? 大丈夫か?」
「ああ。問題ない。蒸らしていただけだから」
 時間がかかりすぎたらしい。心配をしたらしいヴァルが、後ろから覗き込んでくる。

「そうだ、これ」
「これ買ってきてくれたのか?」
 差しだしてきた小さな包みに、見覚えがあった。中は見えないが、オッサンのとこで菓子を買ったときに包んでくれる包装紙と一緒だ。

「ああ、店の方に用があったんだ」
「そうか、ありがとう」
 皿を出して、そっと乗せる。ごついオッサンが作ったとは思えないほど、繊細な菓子だから壊れないように丁寧に扱うことにしている。



「なあレイザード、もし……」
「もし、なんだ?」
 お茶もヴァルが買ってきてくれた菓子も、とても美味しかった。俺としては大満足だけれど、ヴァルの表情はいつもと違ったままだ。
 上手いことは言えないだろうけど、話したら楽になることもあるかもしれない。そう思って話しかけようとした時、ヴァルから声をかけてきた。

「もし辛いことがあったら、忘れたいと思うか?」
「辛いこと?」
 聞かれて、何かあったか考える。
 二回ほど焼け焦げてみたりしたけど、今は特に問題ない。ああ、嫌な事ならあったな。騎士Aに、首に短刀を突きつけてきた。けどあれは辛いというより嫌な事だな。

 ―― 辛いことがあったら?
 ふと目の前がぼやけて、ヴァルが―― 昔のヴァルが見えた。
『すまない』
 俺が、辛い? 痛みを堪えているような顔をしているのは、ヴァルじゃないか。
『すまない、俺は……』
 謝らなくて良い。なんでそんなに辛そうなんだ。何かあったのか。なんで悲しそうに、しているんだ。

「良くは分からないけれど、ヴァルが辛そうにしているのは嫌だ」
 口から出てきたのは、問われたことへの答えになっていない。
 ―― 驚いてる 
 目を見開いているヴァルが、見える。きっと訳の分からない返しを、したからだろう。
 そうだ俺が発した言葉は、見えているバグに対しての反応だ。本来俺のモノでもないバグで見たヴァルの姿だ。
 悲愴な顔をしている。誰に謝っているのかは。分からない。
 ―― けど嫌だったんだ
 自分を責めないでほしい。傷つけないでほしい。だってヴァルは、悪くない。

「辛い目にあったことがないから分からないけど、忘れたとしても覚えていたとしても
ヴァルが傷つくのは嫌だと思う」
「……」
 ―― まずい
 まずい、間違った。最大に、間違った。きっとヴァルにとって、一番最悪の答えをしてしまったのかもしれない。
 今にも泣いてしまうんじゃないかって思うほど、表情が歪んでいる。
 ―― どうしよう
 どうしたら、良いんだ。こういときは、どうしたら――

「大丈夫だ。もう大丈夫」
 気づいたら正面に座っているヴァルの所まで行って、抱きしめていた。
 ―― 何をやっているんだ、俺は
 正直、自分の事ながら、混乱している。いくらヴァルが泣きそうな顔をしていたから、動揺したにしてもこれはないだろう。
 ―― けど
『大丈夫だ、もう大丈夫』
 ただの音として耳に届いた声と、温かいぬくもりがあったから僕は――
 砂嵐のように酷い耳鳴りが、響いて聞こえる。頭に痛みが走る。
 それでも同時に頭に響く言葉を、繰り返した
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