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<ジルベール>恋愛ルート
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風に包まれるような感覚の直後に、足下に生えている草が宙を舞っているのが見えた。
ジルベールが何かしたのかと辺りを見ると、ジルベールの従兄の足下すれすれの場所が大きくえぐれている。
「遅かったな」
「その手を離せ。今度は、その地面と同じ目に遭わせるぞ」
―― いや待て、なんで何も起きてませんって顔してるんだ
状況から察するに地面がえぐれているのは、ジルベールが風の術を使った影響だろう。俺が感じた術は、ジルベールが巻き込まないように防御してくれたのだということも分かる。だから俺は、全く問題ない。こんなに地面がえぐれているのに、音も碌に聞こえなかった。
けどジルベールの従兄は、違う。こんな足下で土とはいえ大きくえぐれているんだ。衝撃も音も、凄かったはずである。
なのに胡散臭い笑顔のままで、ジルベールに声をかけている。
―― 怖いだろ
いきなり地面がえぐれて、それが術によるものなんだぞ。怖くないのか、俺は怖い。
けれど当の本人は人の心情などお構いなしに、ジルベールが近づいてきても表情は変わらないままだ。
「無粋な真似をするなよ。これから口説き落とそうってところなのに」
「長い付き合いだったけど、今日でお別れだな。安心してくれ。伯父さんにはきちんと、知らせておく」
ジルベールが、ぶち切れている気がする、目は据わっているし、発する言葉は不吉だ。
―― 何なんだ。ジルベール従兄は、ここまで怒らせる何かをしたのか
ジルベールは、温厚で器の大きい奴だ。俺が色々とやらかしても、面倒ごとに巻き込んでも怒った所を見たことがない。気にしていないと言うし、笑って許してくれる良い奴である。
そんなジルベールが、ここまで怒りを顕わにするほどの何かを従兄は仕出かしたらしい。こいつが店に来ていたときも、嫌そうにしていたが今ほどじゃなかった。分れた後になにか、あったのだろう。
何をやったのかは知らないが、早々に謝ってほしい。
「いまやったら、彼も傷つけるぞ」
「レイザードを、傷つけるような失態はもう二度としない。狙いはお前だけで、傷つくのもお前だけだから安心しろ」
やっと怖くなったのか、俺を盾にすることにしたらしい。肩を引き寄せられた。
―― うん、寒気がする
ジルベールは友達の俺を、巻き込みたくなくて術で防御した。だからその俺に近づくことで、術を使われないようにするという判断は的確なのかもしれない。
正直、俺もジルベールに、犯罪者になってほしくない。切れたジルベールが術を放ったら、いくらこいつが凄くても無傷ではすまないだろう。それに切れた勢いで従兄に怪我をさせたら、後悔するかもしれない。
だから友達であるジルベールの為を思うなら、動かずにいるべきだ。
―― すまないジルベール、無理だ
全身に鳥肌が、立っている気がする。早々に根を上げて、術を構築する。
「まったく余裕がない……おや」
とりあえず肩に触っている手を、どうにかすれば良い。ということで手首まで凍らせた。
腕を払おうと思う前に、どけて自分の腕をしげしげと眺めている。同じ水の適性なのだから、珍しくもないだろうに。
「何をしているジルベール、さっさといくぞ」
「えっ? あっうん」
何を珍しげに見ているのか知らないが、放っておくことにした。とりあえずジルベールと、こいつを遠ざけるのが先だ。
すぐにジルベールの腕を掴んで、歩き始める。切れたままだったら、どうしようかと思ったが、いつもの表情に戻っている。虚を突かれる形になったのかもしれないが、ほっとした。あのまま切れていたら、俺では止めようがない。
「たまには、帰って来いよ! ラルが、会いたがっている」
「お前が居ないって、分かってるときに帰る」
ジルベールの腕を掴んだまま早足で歩いていると、後ろから声を大きくした従兄の声が届く。不機嫌な様子に戻ったジルベールのことなど、おかまいなしだ。たださっきのぶち切れている時よりは、怒りが静まっている気がするから心配ないのかもしれない。
―― そういえば、もう良いのか?
元々、ジルベールの従兄が、来たであろう理由を思い出す。俺の推測でしかないが、ジルベールの初友達がどんな奴が心配になって来たはずだ。それで俺を色々と試すように、会話をしていた。
いくらジルベールが怖いからと言って、引き留めないということは俺は友達として問題ないと判断されたということだろうか。
―― 一応、確認しておくか
また来られて、絡まれたら面倒だからな。
「もう良いんですか?」
「ああ、もう十分だ。つきあってくれて、ありがとう」
俺なりに頑張って、でかい声をだす。何がとは言わなかったが、伝わったらしい。
目を細めて微笑んだ表情は、随分と優しげに見えた。
ジルベールが何かしたのかと辺りを見ると、ジルベールの従兄の足下すれすれの場所が大きくえぐれている。
「遅かったな」
「その手を離せ。今度は、その地面と同じ目に遭わせるぞ」
―― いや待て、なんで何も起きてませんって顔してるんだ
状況から察するに地面がえぐれているのは、ジルベールが風の術を使った影響だろう。俺が感じた術は、ジルベールが巻き込まないように防御してくれたのだということも分かる。だから俺は、全く問題ない。こんなに地面がえぐれているのに、音も碌に聞こえなかった。
けどジルベールの従兄は、違う。こんな足下で土とはいえ大きくえぐれているんだ。衝撃も音も、凄かったはずである。
なのに胡散臭い笑顔のままで、ジルベールに声をかけている。
―― 怖いだろ
いきなり地面がえぐれて、それが術によるものなんだぞ。怖くないのか、俺は怖い。
けれど当の本人は人の心情などお構いなしに、ジルベールが近づいてきても表情は変わらないままだ。
「無粋な真似をするなよ。これから口説き落とそうってところなのに」
「長い付き合いだったけど、今日でお別れだな。安心してくれ。伯父さんにはきちんと、知らせておく」
ジルベールが、ぶち切れている気がする、目は据わっているし、発する言葉は不吉だ。
―― 何なんだ。ジルベール従兄は、ここまで怒らせる何かをしたのか
ジルベールは、温厚で器の大きい奴だ。俺が色々とやらかしても、面倒ごとに巻き込んでも怒った所を見たことがない。気にしていないと言うし、笑って許してくれる良い奴である。
そんなジルベールが、ここまで怒りを顕わにするほどの何かを従兄は仕出かしたらしい。こいつが店に来ていたときも、嫌そうにしていたが今ほどじゃなかった。分れた後になにか、あったのだろう。
何をやったのかは知らないが、早々に謝ってほしい。
「いまやったら、彼も傷つけるぞ」
「レイザードを、傷つけるような失態はもう二度としない。狙いはお前だけで、傷つくのもお前だけだから安心しろ」
やっと怖くなったのか、俺を盾にすることにしたらしい。肩を引き寄せられた。
―― うん、寒気がする
ジルベールは友達の俺を、巻き込みたくなくて術で防御した。だからその俺に近づくことで、術を使われないようにするという判断は的確なのかもしれない。
正直、俺もジルベールに、犯罪者になってほしくない。切れたジルベールが術を放ったら、いくらこいつが凄くても無傷ではすまないだろう。それに切れた勢いで従兄に怪我をさせたら、後悔するかもしれない。
だから友達であるジルベールの為を思うなら、動かずにいるべきだ。
―― すまないジルベール、無理だ
全身に鳥肌が、立っている気がする。早々に根を上げて、術を構築する。
「まったく余裕がない……おや」
とりあえず肩に触っている手を、どうにかすれば良い。ということで手首まで凍らせた。
腕を払おうと思う前に、どけて自分の腕をしげしげと眺めている。同じ水の適性なのだから、珍しくもないだろうに。
「何をしているジルベール、さっさといくぞ」
「えっ? あっうん」
何を珍しげに見ているのか知らないが、放っておくことにした。とりあえずジルベールと、こいつを遠ざけるのが先だ。
すぐにジルベールの腕を掴んで、歩き始める。切れたままだったら、どうしようかと思ったが、いつもの表情に戻っている。虚を突かれる形になったのかもしれないが、ほっとした。あのまま切れていたら、俺では止めようがない。
「たまには、帰って来いよ! ラルが、会いたがっている」
「お前が居ないって、分かってるときに帰る」
ジルベールの腕を掴んだまま早足で歩いていると、後ろから声を大きくした従兄の声が届く。不機嫌な様子に戻ったジルベールのことなど、おかまいなしだ。たださっきのぶち切れている時よりは、怒りが静まっている気がするから心配ないのかもしれない。
―― そういえば、もう良いのか?
元々、ジルベールの従兄が、来たであろう理由を思い出す。俺の推測でしかないが、ジルベールの初友達がどんな奴が心配になって来たはずだ。それで俺を色々と試すように、会話をしていた。
いくらジルベールが怖いからと言って、引き留めないということは俺は友達として問題ないと判断されたということだろうか。
―― 一応、確認しておくか
また来られて、絡まれたら面倒だからな。
「もう良いんですか?」
「ああ、もう十分だ。つきあってくれて、ありがとう」
俺なりに頑張って、でかい声をだす。何がとは言わなかったが、伝わったらしい。
目を細めて微笑んだ表情は、随分と優しげに見えた。
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