BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
上 下
110 / 127
<シーディス>ルート

9

しおりを挟む
 ―― 良かった
 土地勘がないから、見失ったかと思った。なんとか追いついて声をかけようと思ったとき、どこからか子供達が数人出てくる。いくつ位かわからないが、小学校に上がる前の年代に見えた。

「あっ先生だ!」
「こんにちは先生!」
「ああ」
 どうやら知り合いらしい。子供達が明るく先生に、挨拶をしている。応じている先生も、そっけないが普通に返していた。
 ―― 大丈夫そうだな
 平穏な空気だから建物の影に隠れて、様子を見ることにした。

「先生、おせーぞ!」
「生意気な口きくな。張り倒すぞ」
 駆け寄ってきた子供に、なんとも物騒な返しをする。一瞬、ひやっとしたが、思いのほか優しい顔で頭を撫でたのが見えた。頭を撫でられた子供は、汚れた顔に満面の笑みを浮かべている。

「先生に見てもらったら、かーちゃんよくなってきた。ありがとうな!」
「だから言ったろ。俺が治療したんだから、良くなるって」
「先生、天才だもんな!」
「よく分かってるじゃねえか」
 なんと言って良いのだろうか。ものすごく意外な光景が、目の前で広がっている。
 所々破れた服を着た数人の子供が、先生にまとわりついている。イヤな顔もせずに、先生はそれを受け入れていた。
 話の内容から、子供の母親を先生が治療したのは分る。けどこの子達に、治療費が払えるとは思えない。
 ―― もしかして
 先生は、無償で診察をしているのだろうか。
 いつもの不機嫌を貼り付けた顔と、穏やかに笑う顔の対比が激しい。
 ―― 優しい顔も、出来るんだな
 もの凄く失礼な感想を抱く。けど俺に向けられる表情と、ギャップがありすぎるんだ。ただ穏やかな雰囲気に気持ちが和む。
 腐男子としては萌える場面も見たいけれど、先生と子供相手にどうやっても見いだせないから止めた。

「なんだお前ー!」
 大丈夫そうだから帰ろうかと考えていたら、また子供が出てきてあっという間に取り囲まれる。
「先生に、何かする気か!」
「殺すぞ!」
「刺すぞ!」
 幼い顔から出る言葉が、とんでもなく物騒だ。
 ごろつきに同じ台詞をはかれたら氷漬けにでもするが、子供相手だとどうして良いか分らない。困惑していると先生が、これ見よがしに溜息をついた。言葉にはしていないが、面倒だと顔全体で現わしている。

「馬鹿なこと言ってないで散れ。こいつに手を出すと、とんでもなく面倒なのが出て来る」
「先生、こいつのこと知ってるの?」
 呆れを隠さずに、けど止めに入ってくれる。
胡乱げな目を向けて来るのは、さっき『かーちゃん』と口にしていた子供だ。先生を守る気なのか、俺と先生の間を塞ぐように動いた。

「ああ」
「大丈夫?」
「ああ」
「本当に大丈夫? 無理してない?」
 先生が肯定を示すと、別の子が声をかける。それに頷き返すと、また別の子が案じるように続けた。
「大丈夫だって言ってるだろう。ほらさっさと、散れって」
「「はーい」」
 何度目かの肯定で、子供達から一斉に声が上がる。始終、言葉も態度も荒いが、先生の表情は穏やかだ。

「なにかあったら、遠慮なく呼べよ先生」
「そうそう、俺らがなんとかしてやるからな!」
「生意気言ってんじゃねえよ」
 立ち去り際に子供が、声をかけていく。子供達からの先生への信頼が、感じ取れた。
 ―― それにしても
 すごいな、俺は先生が怖くて、あんな口きけないぞ。

「お兄ちゃん」
「どうした?」
 あっけにとられていると、女の子が服の裾を引っ張ってきた。見上げてくる首が疲れるだろうと視線を合わせるために膝を折る。

「ごめんね。みんな先生のことが、大好きだから心配したの」
「サーヤ」
「はーい。またね先生」
 穏やかだがどこか、窘めるような声で先生が少女の名前を呼ぶ。名を呼ばれた当の本人は、少し口を尖らせたあと笑顔になり去って行った。

「大人気ですね」
「うるせえよ」
 馬鹿にしたわけでも、けなしたわけでもない。だが子供達がいなくなった後に、声をかけると先生の顔がいつも通り不機嫌なものになった。
 できれば俺にも子供達に対するくらいには、穏やかな対応していただけないだろうか。同じにしてほしいとは言わない。せめて半分くらいは、怖さを半減していただきたい。

「それで? お前はなんで、ここにいる」
「あまり治安がよくないところに、先生が向かわれたので……心配になって」
「余計な世話だ」
 自分でもそう思うから、言い返せない。迷いなく進んでいた足取りも、今の子供達とのやりとりを見ても何度もここに来ているのが分かった。本当に余計な世話だ。

「着いてこい」
「えっ」
 背を向けて散歩ほど歩いた後、振り返って声をかけてくる。
「お前を一人にして、なんかあったら面倒くせえだろう」
「此処で、待ってます。何かあれば対処しますし」
 本当は帰りますと言いたかった。先生がここらに慣れているのなら、心配は不要だろうからいる意味がない。けど此処から、どうやって帰って良いか分からない。だから待っていると返したのだが、溜息を返されてしまう。

「あんな簡単にガキに周り囲まれた奴が、何言ってんだ」
 ぐうの音も出ない。だが言い訳にしかならないけれど、あれが酔っ払いとかゴロツキなら対処してた。子供だから、どうすれば良いか迷ったんだ。

「俺がいたから何もなく済んだけどな、ここらガキだからって甘く見てると痛い目みるぞ」
 今頃、そこに転がってたかもな。
 低く続けられた言葉に、一気に肝が冷える。多分、冗談じゃ無い。目も声も口調も、雰囲気も全部が、冗談なんかではないと現わしている。

 ―― 言われたとおりにしよう
 もしまた子供に囲まれて、その子が俺に何かしようとしたら、咄嗟に反応できる自信がない。避けたり防いだりは、出来るだろう。けど攻撃は、たぶん躊躇する。ここでは少しの迷いが、危険になるかもしれない。
 見知った所じゃ無いし、状況も分からない。なら慣れている先生の言うことを、聞いておいた方が良い。そう判断して、大人しくついていくことにして後に続いた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...