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<ジルベール>恋愛ルート

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「やあレイザード、こいつがなにか失礼なことをしなかったかな?」
「特に問題はない」

 座っていた目が、いつも通り柔らぎ笑顔を向けてくる。 ただそっくりさんの肩は、掴んだままだ。
 ―― なんかミシミシ音がしないか
 そっくりさんの肩から変な音がする。状況がよく分からないが、そっくりさんがジルベールを怒らせることでもしたらしい。

「遅かったじゃないか」
「お前のせいだろ」
 何が楽しいのかそっくりさんは、笑みを浮かべて振り返る。それにジルベールは、眉間に皺を寄せてぶっきらぼうに返した。
 ―― 珍しいな
 笑顔を浮かべていることが、多いやつだ。俺の態度に腹を立てたこともなければ、迷惑をかけても気にしないと言ってくれる。かなり寛大な奴だと思うのだが、こんな露骨に表情に出すなんて、よっぽどのことをしたのだろう。

「お店はいつまで、やる予定かな? 終わったら俺と……」
 肩を掴まれたままそっくりさんが、俺に話を振ってくる。ただ言い終わる前に、ジルベールが掴んだ肩から聞えたら不味い類いの音がした。

 ―― なんだ
 その音の正体が、分かって安堵した。肩から手を離したジルベールの手から、細かくて薄い氷の破片が落ちていくのが見えた。
 どうやら掴まれる前に、そっくりさんが防御のために氷を構築したらしい。骨が折れたかと思って、焦ってしまった。人騒がせな奴らだ。

「ユージス」
「なんだ? 誘うのは自由だろう」
 どうやらそっくりさんの名前は、ユージスと言うらしい。
 名前は分かったが、面倒だから心の中ではそっくりさんのままにしよう。

「彼は忙しいんだ。お前の相手なんて、している暇はない」
「誘いに応じるかは否かは、お前が決めることじゃないだろう?」
 何故だが知らないが、そっくりさんが俺を誘おうとしているらしい。それをジルベールが、止めている。
 ―― 一体何の用だ
 面識のない俺を、誘ってなにをするつもりなのか。
 目的は分からないが、店の前にいつまで陣取っているつもりなんだ。今すぐにどけとは思わないが、そのうちお客さんが増える時間帯になる。

 市場は、もう賑わっている。新鮮な野菜とか、朝食に良さそうな軽食を扱ってるお店もあるから、そういうお店は朝からお客さんが多い。
 ただ俺の扱ってる商品は、朝早く来るお客さんは少ない。日によって違うが、もうしばらくしてからお客さんが増えることが多い。
 商品を見ようとして店の前で、美形共が言い争ってたら近づき難いだろう。商売の邪魔だ。

 ―― まて
 いつまでやってるんだ。さっさと退けと言おうとして、目の前のそっくりさんがした行動を思い出して口を閉じる。意識して閉じたんじゃなくて、自然とだ。

 ―― いつ術を構築した?
 ジルベールが砕いた氷、あれは状況を考えてもそっくりさんが構築したもので間違いは無い。でもそれは、いつだ。
 俺はあいつと顔を合わせて、会話をしていた。髪飾りを持って、人の髪に付けてくるから嫌でも目は合わせていた。
 視界いっぱいにあいつは映っていたのに、術を構築したことに気づかないなんてありえるか。
 目の前にいる相手に、悟らせずに術を構築させるなんてジルベールでも出来ないことだ。レベルが、違いすぎる。

 そっくりさんは、攻略キャラではない。ということは、サブキャラだろう。こんな顔の言いモブなんて、いないからな。
 けどサブキャラは、いってもレベル60のはずだ。なのにこんなに、違うものなのか。
 俺もサブキャラなら、こんなとんでも人間になれたかもしれないのか。モブが最高の立ち位置だとは、分かっているけどこういうところは羨ましくなってしまう。

「いつ終わるのかな。話がしたいのだけれど」
「商品が全て売り切れたら、畳むので時間は決めていません」
 考え事をしている間も、話は進展していなかったらしい。また同じようなことを聞かれたから、答えを返しておく。
 嘘は言っていない。売り切れたときが、閉店時間で決まりはないんだ。

「そうか、なら全部買うよ」
「なっ……」
「お一人様、一点までです」
 たぶん止めようとしてくれたのだろうジルベールが、言葉を続ける前に反射的に返す。
 正直にいえば、全部売れるのは嬉しい。なんせ抱えている借金が、膨大だからな。
 けど作った側としては、本当に欲しいと思った人に買って欲しいという思いもある。
 前にサイジェスの妹が、買いに来てくれたときのように一生懸命に貯めて買いに来てくれたんだなって分かる子も来るんだ。こいつに全部売ったら、そいう子も買えなくなってしまう。

「いい加減にしろ。ごめんねレイザード、こいつは、連れて帰るから」
「帰りたいのか? なら好きにしたら良い。最初から二人きりのつもりだったからな」
 どうやらそっくりさんの意思は、変わらないらしい。顔を引きつらせたジルベール相手に、変わらずに笑みを向けている。

 ―― どうしたものか
 なぜだかわからないが、そっくりさんは俺と二人で話がしたいらしい。けれどジルベールは、それを望んでいない。二人の様子で判断すると、こういうことらしい。 
 一番良いのは、そっくりさんがこのまま帰ることだろう。ただ二人の様子から判断するに、ジルベールが口でコイツを負かすのは無理ぽい。

 さっきの術の構築の件を、考えれば口以外では敵うともいいきれない。ジルベールが敵わないのに、俺がどうこうできるわけもない。そもそも店の前にいるだけの人を、力尽くでどうにかしようなんて問題がありすぎる。

 ―― 二人で話をする状況でなければ、それでいいのか?
 そっくりさんを追い返せない以上は、こいつの話を聞くという状況にはなるだろう。けどそこにジルベールがいれば、二人で話すということは避けられる。ならジルベールもその場にいれば、少なくとも二人でと言う状況は避けられる。

 ならそうしてやればいい。それくらいなら、してやれる。友達が困ってたら手助けくらいするのは、当たり前だろう。ほらなんせ友達だしな。
 ただ友達がいるという事実に妙に得意げな表情を、作ったような気がして焦ったがいつもと変わらず表情筋は死んだままだった。

「話がしたいのなら、店を閉じた後に聞きます。ジルベールお前も一緒にだ。それでいいんだろう?」
「……ごめん」

 いつもの調子が、出ないらしい。普段はコミュニケーションレベル99だというのに、今日は口数も少ない。
きっと苦手な相手なのだろう。どう見ても確実に、血のつながりはある。それで歳はそっくりさんの方が、上だ。そうなると俺の知らないあれこれが、あってもおかしくない。
 モブである俺と違って、細かい設定がある以上は家族や親戚やらは確実にいる。だからまあ色々とあるのだろう。モブである俺は、共有してやれない悩みだが手助けくらいはしてやれる。

「ありがとう。嬉しいよ」
「いえ……」
 笑っているのに観察をしているような目をして、笑うそっくりさんにいつも通りに無愛想に返す。そしてさっさと店の前から退いてくれと、遠回しに伝えたくて軽く頭を下げた。
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