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82話 <ノーマル>ルートEND
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―― 久しぶりに図書館に行くか
一人で廊下を、歩きながら考える。
ジルベールは、やはりヴァルに頼まれていたらしくサイジェスの授業のあともついて来ようとした。そうなると本来あいつが受けるはずだった講義が、受けられなくなってしまう。懇切丁寧に、その必要はないと告げて別れた。
「やあいらっしゃい。頼まれていた本を、取り置いてあるよ」
「……取りに来ず、すいませんでした」
図書館に着くと、司書である人に声をかけられる。ここの蔵書のことを、全て把握している凄い人だ。
にこやかなに告げられた言葉に、本の予約をしていたことを思い出す。
―― すっかり忘れていた
頼んでいた本は、闇の術師に関するもの――といえるような上等なモノじゃない。なんせ子供向けの絵本だからだ。
ジルベールが、闇の術師に操られてから俺なりに調べようとして見つけた唯一のものだ。本当に資料もなにもなくて、膨大な本があるここでさえあったのが絵本である。
なんかあれから、色々とあったせいで失念していた。
「……忙しくて、すいません」
「まだ期日まであるから、かまわないよ。忙しいのは、悪いことではないけれど身体には気をつけてね」
図書館に通い詰めていたから、顔なじみになっている。
俺と同じモブだが、優しい良い人だ。
「ありがとうございます」
あれだけジルベールに、言うには苦労した言葉が自然とでてくる。同じモブだからか、言いやすいのかもしれない。
本を受け取り、図書館を後にする。
誰にも邪魔されないように、中庭の端まできてから腰を下ろした。
―― 闇の術師と光の術師 ――
なんの捻りもないタイトルに、デフォルメされた表紙の挿絵
読む気がそがれるけれど、絵本だからしょうがないって自分に言い聞かせる。
なんでわざわざ物騒なことを調べているかというと、サイジェスの不吉な台詞のせいである。
『誘い込まれたかだ』
俺が闘技場に、行ったのは誘い込まれた可能性があるって示唆した。モブにそんなことを、してもしょうがないから気のせいだとは思う。けど小心者の俺としては、何かあった時用に闇の術師の情報を得ようとした。
あとこれが一番理由として大きいのだけれど、もし万が一また攻略キャラ及びロイに危害が加わるようなことになったとき対策の練りようがないからってある。
ここは物騒な世界ではなくて、ライトなBLファンタジーの世界だから二度目がある可能性は低い。けど本来なら、一度目だってなかったはずなんだ。
もし何かのバグで、ダーク要素が入ってしまってそれでロイや攻略キャラ達になにかあったらと思うと安心して妄想することもできない。
きっとない。多分ない。けど万が一が、あるかもしれない。
最初は普通に調べようとしたけど、ためになりそうなものはなにも得られなかった。
サイジェスだって調べてくれて、なにも得られなくて瓶底を紹介したくらいだ。ただのモブ学生が、核心にせまれるわけもない。
そんなわけでモブには、限界というモノが存在する。それで唯一の成果が、絵本というわけだ。なんてモブに相応しいのか。
『絵本ならあるけれど、どうする?』
『お願いします』
司書さんに絵本ならあるよと、教えてもらって期待せずに頼んだ。
しょうがない本屋を、探し回っても見つからなかったのだから。
自分で探しておいてなんだがドラゴンのブレスで、ゴーされて全身火傷を負ったり。借金を抱えたり、ときどきバグに悩まされていたせいで忘れかけてた。
―― さて、読むか
静かな木陰で、表紙をめくる。
『昔、闇の術師というとても、悪い人たちがいました。闇の術師たちは、漆黒の闇を自由に操る悪い人たちです。人の意思を無視して、操りその人達に悪い事をさせたり記憶を操作する術などを使える怖い人たちです。その力をつかい、とても酷いことばかりしていたのです』
子供向けのせいか、語彙が貧しいことになっている。
あと肝心の能力を、などで省くのは止めて欲しい。詳しく知りたいことが、省かれている。絵本だって、納得済みで呼んでるのにイラッとする。
『人々は、とても困っていました。けれどある日、光が差したのです。光の術師の存在です。人々を癒やす治癒の術は、悪い闇を滅ぼす力を持っていました。良い人たちは、癒やされるのに悪い人には反対の力で働くのです』
いきなり脈絡なく光の術師が、現れる。さすが絵本、大事なところを色々とはしょりすぎてる。
『そこで世界中の王様達が、光の術師達と協力して悪い闇の術師達に戦いを挑みました。長い長い間、戦いついには悪者は倒され平和が訪れたのです』
協力と書かれているが、闇の術師にとっての決定打が光の術師達の術なら矢面に立ち戦うのは光の術師なんじゃないか?
闇の術師との戦いで、元々数の少なかった光の術師達はさらに少なくなった。
それが定説として、知られていることだ。協力とは聞こえがいいが、もし前に立ち戦い続けたのなら犠牲も多いに決まっている。
―― そもそも、闇の術師は本当になにかしたのか?
絵本だからという理由もあるだろうが、具体的に何をやったのかは書かれていない。
とても酷いこと、人々は困っていました。
記述がこれだけでは、どんな事をしたのか。なぜ困っていたのかまでは、わかりもしない。
もし『恐ろしい』と思われる術をも持っているという理由で、攻撃されたのならどっちが悪になるのか。
絵本、絵本これは子供向けの絵本
分かっているけれど結局たいした情報は、無いに等しくてがっかりする。結局正確なところは、なにもわからない。現状維持、変化はなしだ。
―― なにか食べるか
腹が減って昼時になってたことに気づく。
「ジルベールに、声をかけるか……」
もう大丈夫だといったとき、なぜか悲しそうな顔をしていた。きっとヴァルからの頼まれごとが、中途半端になってしまったからだろう。
礼にもなるし、おごることにしよう。大丈夫だ、学園で食べれる料理は格安だからそこまで財布は傷まない。
―― 次は何の講義を受けるか、聞くべきだったな
礼にもなると考えたあとで、学園中を探すことを考えてげんなりする。
―― いやまてよ
だいたい女子の黄色い悲鳴が、聞こえるところに行けば見つかる。あいつは同性ボッチだが、女子には良くモテる。あてもなく探すより声を頼りにしたほうが、見つかるのは早いはずだ。
とりあえず立ち上がり、どこから行くか考えてると草を踏む音が聞こえた。
「なんでここにいる?」
「司書さんが、ここら辺にいるんじゃないかって教えてくれて……」
どういう経緯か、意味が分からず次の言葉をまつ。
俺を探して図書館に行ったジルベールは、司書さんに俺を知らないかと尋ねたらしい。そうしたら静かなところで、本を読むのを好んでいるようだからこの辺りにいるんじゃないかと聞いたと。
―― エスパーか?
馬鹿な事を考えて、面倒で適当に言ったら当っただけだと納得する。
「ちょうどいい。お前を探そうと思ってたところだ」
「レイザードが俺の事を、探して……」
なんで探そうとしたと言っただけで、呆然とした顔をされないといけないのか。あれか真性ボッチのくせに、人を探すなんてことあるのかなんて思われてるのか。失礼な奴だな。
「もろもろの礼に、食事をおごる。もう食べたか?」
「食べてないよ。食べてもまた食べる!」
なんか珍しいモノを見てる気がする。微笑む系の笑顔を、浮かべることが多い。なのになんか満面の笑みを浮かべてる。笑い方一つで、別人のように見えた。あとちょっと、いつもよりテンションが高いせいもあるな。テンションと笑顔の違いで、キャラが違うようにもみえる。
―― ああ、そうか
何でだろうと考えて、すぐにわかった。
こいつは同性ボッチだから、同性に食事に誘われたことがないにちがいない。だからこんなに喜んでいるんだ。
きっと学園で友達と食事するって、いう普通の経験もモテすぎて女子が周りにいすぎるせいで出来なかったのだろう。
なにごとも、過ぎると弊害があるな。まあ俺は真性ボッチだから、モテていなくても学園で誰とも食事したことないけどな。
「食べたなら、飲み物とデザートぐらいにしろ」
「うん」
「それだけだと礼にならないから、他の日にもおごる」
「うん」
何を言っても、笑顔のまま『うん』し返してこない。
いまにもスキップしだしそうなテンションだ。そんなに友達と食事をするのが、嬉しいのか。通りすがった女生徒が、顔を赤らめてるのも気づいていない。いつもは愛想が良いから、なんらかの反応をするはずだというのに。
「おいジルベール、人の言うことを聞いてるのか」
「君の言った言葉だからね。一字一句、聞き漏らしてないよ」
ふといつもの微笑み系の笑顔を、返される。
その顔を見たらなんだかよく分からない妙な胸の辺りが、ざわざわする変な感じがする。
―― 大丈夫か俺、心臓でも悪いのか
今度先生に見てもらえないかと考えて、そんな金銭的余裕なんていのに何を考えてるんだと思い直す。
―― まあ、きにしなくてもいいか
直ぐに収まった妙な感覚は、気にしないことにして笑顔のままのジルベールと共に食堂に向かった。
<ノーマル>ルートEND ―― なにも変わらない、何時もの日常――
一人で廊下を、歩きながら考える。
ジルベールは、やはりヴァルに頼まれていたらしくサイジェスの授業のあともついて来ようとした。そうなると本来あいつが受けるはずだった講義が、受けられなくなってしまう。懇切丁寧に、その必要はないと告げて別れた。
「やあいらっしゃい。頼まれていた本を、取り置いてあるよ」
「……取りに来ず、すいませんでした」
図書館に着くと、司書である人に声をかけられる。ここの蔵書のことを、全て把握している凄い人だ。
にこやかなに告げられた言葉に、本の予約をしていたことを思い出す。
―― すっかり忘れていた
頼んでいた本は、闇の術師に関するもの――といえるような上等なモノじゃない。なんせ子供向けの絵本だからだ。
ジルベールが、闇の術師に操られてから俺なりに調べようとして見つけた唯一のものだ。本当に資料もなにもなくて、膨大な本があるここでさえあったのが絵本である。
なんかあれから、色々とあったせいで失念していた。
「……忙しくて、すいません」
「まだ期日まであるから、かまわないよ。忙しいのは、悪いことではないけれど身体には気をつけてね」
図書館に通い詰めていたから、顔なじみになっている。
俺と同じモブだが、優しい良い人だ。
「ありがとうございます」
あれだけジルベールに、言うには苦労した言葉が自然とでてくる。同じモブだからか、言いやすいのかもしれない。
本を受け取り、図書館を後にする。
誰にも邪魔されないように、中庭の端まできてから腰を下ろした。
―― 闇の術師と光の術師 ――
なんの捻りもないタイトルに、デフォルメされた表紙の挿絵
読む気がそがれるけれど、絵本だからしょうがないって自分に言い聞かせる。
なんでわざわざ物騒なことを調べているかというと、サイジェスの不吉な台詞のせいである。
『誘い込まれたかだ』
俺が闘技場に、行ったのは誘い込まれた可能性があるって示唆した。モブにそんなことを、してもしょうがないから気のせいだとは思う。けど小心者の俺としては、何かあった時用に闇の術師の情報を得ようとした。
あとこれが一番理由として大きいのだけれど、もし万が一また攻略キャラ及びロイに危害が加わるようなことになったとき対策の練りようがないからってある。
ここは物騒な世界ではなくて、ライトなBLファンタジーの世界だから二度目がある可能性は低い。けど本来なら、一度目だってなかったはずなんだ。
もし何かのバグで、ダーク要素が入ってしまってそれでロイや攻略キャラ達になにかあったらと思うと安心して妄想することもできない。
きっとない。多分ない。けど万が一が、あるかもしれない。
最初は普通に調べようとしたけど、ためになりそうなものはなにも得られなかった。
サイジェスだって調べてくれて、なにも得られなくて瓶底を紹介したくらいだ。ただのモブ学生が、核心にせまれるわけもない。
そんなわけでモブには、限界というモノが存在する。それで唯一の成果が、絵本というわけだ。なんてモブに相応しいのか。
『絵本ならあるけれど、どうする?』
『お願いします』
司書さんに絵本ならあるよと、教えてもらって期待せずに頼んだ。
しょうがない本屋を、探し回っても見つからなかったのだから。
自分で探しておいてなんだがドラゴンのブレスで、ゴーされて全身火傷を負ったり。借金を抱えたり、ときどきバグに悩まされていたせいで忘れかけてた。
―― さて、読むか
静かな木陰で、表紙をめくる。
『昔、闇の術師というとても、悪い人たちがいました。闇の術師たちは、漆黒の闇を自由に操る悪い人たちです。人の意思を無視して、操りその人達に悪い事をさせたり記憶を操作する術などを使える怖い人たちです。その力をつかい、とても酷いことばかりしていたのです』
子供向けのせいか、語彙が貧しいことになっている。
あと肝心の能力を、などで省くのは止めて欲しい。詳しく知りたいことが、省かれている。絵本だって、納得済みで呼んでるのにイラッとする。
『人々は、とても困っていました。けれどある日、光が差したのです。光の術師の存在です。人々を癒やす治癒の術は、悪い闇を滅ぼす力を持っていました。良い人たちは、癒やされるのに悪い人には反対の力で働くのです』
いきなり脈絡なく光の術師が、現れる。さすが絵本、大事なところを色々とはしょりすぎてる。
『そこで世界中の王様達が、光の術師達と協力して悪い闇の術師達に戦いを挑みました。長い長い間、戦いついには悪者は倒され平和が訪れたのです』
協力と書かれているが、闇の術師にとっての決定打が光の術師達の術なら矢面に立ち戦うのは光の術師なんじゃないか?
闇の術師との戦いで、元々数の少なかった光の術師達はさらに少なくなった。
それが定説として、知られていることだ。協力とは聞こえがいいが、もし前に立ち戦い続けたのなら犠牲も多いに決まっている。
―― そもそも、闇の術師は本当になにかしたのか?
絵本だからという理由もあるだろうが、具体的に何をやったのかは書かれていない。
とても酷いこと、人々は困っていました。
記述がこれだけでは、どんな事をしたのか。なぜ困っていたのかまでは、わかりもしない。
もし『恐ろしい』と思われる術をも持っているという理由で、攻撃されたのならどっちが悪になるのか。
絵本、絵本これは子供向けの絵本
分かっているけれど結局たいした情報は、無いに等しくてがっかりする。結局正確なところは、なにもわからない。現状維持、変化はなしだ。
―― なにか食べるか
腹が減って昼時になってたことに気づく。
「ジルベールに、声をかけるか……」
もう大丈夫だといったとき、なぜか悲しそうな顔をしていた。きっとヴァルからの頼まれごとが、中途半端になってしまったからだろう。
礼にもなるし、おごることにしよう。大丈夫だ、学園で食べれる料理は格安だからそこまで財布は傷まない。
―― 次は何の講義を受けるか、聞くべきだったな
礼にもなると考えたあとで、学園中を探すことを考えてげんなりする。
―― いやまてよ
だいたい女子の黄色い悲鳴が、聞こえるところに行けば見つかる。あいつは同性ボッチだが、女子には良くモテる。あてもなく探すより声を頼りにしたほうが、見つかるのは早いはずだ。
とりあえず立ち上がり、どこから行くか考えてると草を踏む音が聞こえた。
「なんでここにいる?」
「司書さんが、ここら辺にいるんじゃないかって教えてくれて……」
どういう経緯か、意味が分からず次の言葉をまつ。
俺を探して図書館に行ったジルベールは、司書さんに俺を知らないかと尋ねたらしい。そうしたら静かなところで、本を読むのを好んでいるようだからこの辺りにいるんじゃないかと聞いたと。
―― エスパーか?
馬鹿な事を考えて、面倒で適当に言ったら当っただけだと納得する。
「ちょうどいい。お前を探そうと思ってたところだ」
「レイザードが俺の事を、探して……」
なんで探そうとしたと言っただけで、呆然とした顔をされないといけないのか。あれか真性ボッチのくせに、人を探すなんてことあるのかなんて思われてるのか。失礼な奴だな。
「もろもろの礼に、食事をおごる。もう食べたか?」
「食べてないよ。食べてもまた食べる!」
なんか珍しいモノを見てる気がする。微笑む系の笑顔を、浮かべることが多い。なのになんか満面の笑みを浮かべてる。笑い方一つで、別人のように見えた。あとちょっと、いつもよりテンションが高いせいもあるな。テンションと笑顔の違いで、キャラが違うようにもみえる。
―― ああ、そうか
何でだろうと考えて、すぐにわかった。
こいつは同性ボッチだから、同性に食事に誘われたことがないにちがいない。だからこんなに喜んでいるんだ。
きっと学園で友達と食事するって、いう普通の経験もモテすぎて女子が周りにいすぎるせいで出来なかったのだろう。
なにごとも、過ぎると弊害があるな。まあ俺は真性ボッチだから、モテていなくても学園で誰とも食事したことないけどな。
「食べたなら、飲み物とデザートぐらいにしろ」
「うん」
「それだけだと礼にならないから、他の日にもおごる」
「うん」
何を言っても、笑顔のまま『うん』し返してこない。
いまにもスキップしだしそうなテンションだ。そんなに友達と食事をするのが、嬉しいのか。通りすがった女生徒が、顔を赤らめてるのも気づいていない。いつもは愛想が良いから、なんらかの反応をするはずだというのに。
「おいジルベール、人の言うことを聞いてるのか」
「君の言った言葉だからね。一字一句、聞き漏らしてないよ」
ふといつもの微笑み系の笑顔を、返される。
その顔を見たらなんだかよく分からない妙な胸の辺りが、ざわざわする変な感じがする。
―― 大丈夫か俺、心臓でも悪いのか
今度先生に見てもらえないかと考えて、そんな金銭的余裕なんていのに何を考えてるんだと思い直す。
―― まあ、きにしなくてもいいか
直ぐに収まった妙な感覚は、気にしないことにして笑顔のままのジルベールと共に食堂に向かった。
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