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しおりを挟む講師は講義が終わったからといて、すぐに帰れない。そんなわけで講義のあと、片付ける雑務が残っているしいサイジェスには家まで来てもらうことになった。
ジルベールはすぐに帰れたんだが、家に寄ってからくると途中で別れている。
「あたらしく発売された茶葉を持ってきたんだ。レイザードの好みに近いから、気に入ると思うよ」
「わざわざこれを、取りに戻ったのか?」
二人が来るのを、準備をしながら待っていると来訪を告げる音が聞こえた。
玄関の扉を開けると、いつも通り微笑んだジルベールの姿があった。手に何か持っていると思ったら、どうやら茶葉を持ってきたらしい。
さすが街で販売している茶葉を、全て手に入れているだけある。新商品があれば、試しに買ってみるらしい。
「入れてくる。中に入って、まっていろ」
「ありがとう」
目を細めてジルベールが、微笑みを浮かべる。
こいつの趣味は、きっと茶を飲むことだな。出なけりゃただ茶を入れると、言っただけで こんなに嬉しそうにするわけがない。
いったい何が楽しいのか。家に来てからずっと、笑みを浮かべている。まあ基本的にこいつは、微笑んでいることが多い。よっぽど人生が楽しいらしい。
まあこれだけ顔がいいなら、毎日楽しいだろう。俺もせめてこいつの1000分の一くらいは顔が良ければと思うことはあった。ただモブの顔がいきなり進化して、よくなる可能性はゼロである。
「サイジェス先生のことを、どう思っているか?」
「うん」
他愛のない話をしながら、サイジェスを待っていると予想外のことを聞いてくる。なぜか俺がサイジェスのことを、どう思っているのかと真面目な顔で尋ねてたきたのだ。
―― ちょっとまて、盛大に待て
もしや嫌な予感が、当たってるのか。冗談ではない。やめろ攻略キャラが、攻略キャラに好意を抱くなんて誰得だ。
俺の予想が当たっているのなら、ジルベールは俺に嫉妬しているという事になる。きっと珍しく柔らかい笑みを浮かべているサイジェスを、見ていたからだ。そしてそこに俺がいたから、笑みを浮かべている要因が俺だと誤解した。
「家族思いだな。今日も家族への贈り物について、話してきた。珍しく笑みを浮かべていたが、家族のことを考えていたからだしな」
とりあえず笑顔の理由は、俺ではないことを伝えておくことにした。
「それだけ?」
「普段は不愛想な堅物だ」
どうやらまた疑っているらしい。もしや俺がサイジェスに好意を抱いているかと、疑っているのか。止めろ俺はBLを、眺めて楽しむ派が。当事者になるつもりなんて、欠片もない。見当違いな勘違いをするな。
「そっか変なことを、聞いてごめん」
「構わないが……ジルベールお前は、年上が好きなのか?」
いやな予感を払拭するために、遠回しに探りを入れる。
違うと言え、違うと言ってくれ。
「……いや好きな子は、同い年だよ」
そうか、違うのか。よかった……いやちょっとまて、なに人を安心させておいて爆弾を投下してるんだ。
ロイはジルベールより年下のはずだ。サイジェスじゃなかったのは、よかったが新たな謎が増えた。
―― 落ち着け俺
もしかしたら俺の勘違いかもしれない。今度ロイに、年齢を確認してみよう。慌てるのは、それからでも遅くない。
もしロイが年下だったら、ジルベールの周りの同い年をピックアップすることにしよう。あとロイと親密になれるように、裏工作を頑張ることにしよう。
好きな相手が、別にいるのだとしたら萌えイベントが起きない。腐男子たる俺の楽しみが、無くなってしまう。
まったくせっかくロイとの親密度を、あげる案が思いついて萌えたばかりだというのに難題が降りかかるとは……覚悟しろジルベール、俺は萌えイベントを見るためには努力を惜しまない。
「お茶は、どうかな? 口に合った?」
「美味いな。沸かした湯を、いれるだけで美味いから手軽でいい」
あからさまに話題を、そらしてきたが今は乗ることにした。
茶が美味いのは、嘘ではない。前にジルベールにもらった茶葉は、湯を沸かしてある程度の温度調節が必要だった。
あまり茶葉にこだわりがない俺には、それだけで億劫に感じた。ただ今回持ってきてくれたものは、沸騰した湯をいれても美味くなる。きっと俺がものぐさなことを、見抜いて選んでくれたのだろう。
そのことについては、感謝している。ただ萌えイベントを見るためには、容赦するつもりはなかった。
腐男子の、萌えに対する欲求を甘く見ないでもらいたい。
―― よし、頑張るぞ
心の中で思っているあれやこれを、口に出すわけにもいかずに一人闘志を燃やしてからジルベールを見据えた。
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