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53(騎士A視点)
しおりを挟む「王子」
「小言は聞かないぞ」
部下を下がらせた時点で、言われるのが分かっていたんだろう。視線を逸らしてくる。
「言われるってわかってるなら、最初からしないでもらえませんかね」
「ちょうど彼が欲しがっていたが、買えなかった本が手に入ったんだ」
「ちょっとまて、誰を動かした」
体裁のために着けていた敬語を、速攻でとってツッコミを入れる。
レイザードが、欲しがっている本が買えなかった。なんて情報を、王子が得ることは不可能だ。
ということは、誰かを使って彼の様子を見に行かせたと考えるのが妥当だろう。
近衛は、命じれば言うことを聞く。だがレイザードのことで、近衛は動かさないだろう。となると残りは、俺の部下ということになる。
いつもなら俺に話を通す。言わなかったのは、止められると分かっていたからだ。
―― まったく……
わかっていても、いつもならそんなことはしない。俺を信用していないと言っているのも同然だからだ。
「分かってるんだよな?」
王子という立場にいるあんたからの贈り物―― それはあの子にとって、劇物になりかねない。どこぞから漏れれば、厄介ごとに巻き込まれてあの子が傷つくことになる。
「そうだな……ああ分かっている」
―― 分かってても、あんたを愚か者にしちまうのか
まったくレイザードも、罪づくりな子だ。
他者から羨まれるほどに、優秀な人なのは間違いない。
―― けどなあ
レイザードが絡むと、本当にただの……止めておこう。臣下として主を、馬鹿呼ばわりするのはまだやめておこう。
「今度から品物がなくて、あの子が買えないなら手を回して買えるようにしますよ」
「そうか、頼む」
意外そうに、目を少し見開く。どうせもっと小言を、言われると思っていたんだろう。
言ってどうにかなるなら、そうしている。けどことレイザードに関して、王子に冷静でまともな判断を要求するのは無駄だ。
あの子が絡むと、理知的で思慮深い主が影も形もなく消え去ってしまう。
いっそうのこと、あの子に恋人ができたと告げてみようか。なんて考えが、浮かぶが止めた。落ち込んで仕事どころじゃなくなる。
執務机に突っ伏して、永遠と落ち込む王子の姿が脳裏に浮かぶ。そのわきにあるのは、処理されずに山となった書類だ。
恋人が出来たなんて言えば、想像が確実に現実になる。
―― できても言うのは、やめておくか
もし本当にあの子に、恋人が出来ても言うのは止めたほうがいい。本当に何しでかすか、わからない。それを止めるのは、ひどく手間がかかる。
―― これで仕事にも支障が出るなら、嫌がられようと何しようと止めるだけどね
あの子相手に、可笑しくなる以外は問題がない。仕事も王子としての務めも、いつも通りそつなくこなしている。そうレイザードのこと以外では、何一つ問題がない。
けれどこれが、あの子に特定の相手ができたなんてことになったらどうなるか分からない。
あの講師主任にも、余計な報告をあげないように念を押しておくことにしよう。
―― まったく厄介で、面倒くさい
もしかして訪れるかもしれない。万が一の時を、想像して自然と長いため息がこぼれでた。
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