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しおりを挟む休日にジルベールの家に押しかけて、挙句に泊ってから数日が経過した。
最悪だった気分が、落ち着いたのでジルベールに会いに行く。詫びをするためにだ。
「じゃあお茶に、行かないか?」
「それは、詫びになるのか?」
迷惑をかけてすまなかった。詫びに何かする。そういうと、予想外のことを言われた。
まったくもって意味が分からない。
俺は詫びを、するために来たんだ。それでなぜ、俺と茶を飲むことにつながる。
それもおごりだという。これじゃあ立場が、逆じゃないか。
そこまで考えて、前にも茶を飲まないかと誘われたことを思いだす。あれは礼は、何がいいと聞いた時だ。結局あれは、実現していない。それなら応じるのが筋だろうか。
それにしてもなぜそんなに、俺を茶に誘うのか。最初はボッチだからかとも、思ったがこいつのコミュニケーション能力を屈指すれば友達は簡単にできるだろう。それこそ同性の友人と、遊びに行くこともできる。
思い当たるのは、俺で予行練習をするつもりだということだ。ロイを誘う前に、俺で練習をして本番に備える。ロイ相手に、へまをするわけにもいかなからな。そうだ、きっとそうに違いない。
ならば協力してやるのも、やぶさかどころか大歓迎だ。ぜひロイとのデートの時は、俺に日時を伝えてくれ。そっと陰から、凝視をするから。
「どうかな?」
「お前の入れた茶のほうが美味いな」
「えっ……」
気に入りの店に、連れてこられ感想を要求される。不味くはない。むしろ美味いといっていいだろう。けれどジルベールが、俺の好みに茶を入れるせいかこいつが入れた茶のほうが美味く感じる。だから素直な感想をいったのだが、なぜか動きを止めて固まってしまった。
やっと動き出したと思ったら、顔を赤くして押し黙っている。なんだなにか怒らせたのか。もしかして気に入りの店に連れてきたのに、素直に美味いと褒めなかったことに怒っているのかもしれない。
俺だって気に入っている店に連れてきて、不満顔をされたらいい気はしない。少し無神経だったか。気を付けることにしよう。
「別に不味いといったわけじゃないぞ。お前の入れた茶のほうが、より美味いと言っただけだ」
「嬉しいよ。ありがとう」
なぜだか礼を言われた。目が細まり口角が上がっている。なんで嬉しそうにしているんだ
そういえばこいつは、町中の茶葉を集めるほど茶に対して執着がある。そんなこいつが店より、自分がいれた茶が美味いと言われるのは喜ぶべき事柄なのかもしれない。
「茶はお前の入れたほうが美味いが、ここの雰囲気は良いな。気に入った」
騒がしくもなく、堅苦しくもない。店員も丁寧で、物腰柔らかだ。内装も。落ち着ていてゆったりできる。
「ならまた今度、一緒に来ないか?」
どうやら予行練習は、一回では不安らしい。まあ気持ちは分かる。相手は主人公であるロイだからな。
「ジルベール」
「ごめん調子に乗った……」
頑張れ応援しているぞと、激励しようとしたら謝られた。何故だ、俺はイベントを見るためなら、いくらでも協力する気だぞ。
「何回でも、付き合ってやる」
「えっ?」
目を見開いて驚かれる。なんだその顔は、あれかもしや、本番に備えた予行練習じゃないのか。
その心底意外だという顔は、あれだな。ボッチだろうから、社交辞令で誘ってやったのに本気にされたって顔だな。どうやらイベントが、見られるかもしれないという喜びから早合点してしまったらしい。
「分かった。止めよう」
「……!」
何を思ったのか。ジルベールが、焦ったような顔で勢いよく立ち上がる。挙句に勢い余ったのか、後ろにバランスを崩した。
「なにをやってるんだ。お前は」
「……ごめん、ありがとう」
倒れる前に、氷の柱を構築して倒れるのを防ぐ。
俺が風の適性があるのなら、風圧で支えることもできたんだがあいにくと俺の適性は水だ。
氷のオブジェを作る羽目になったことを、店員に詫びる。そしてジルベールが、態勢を整えたのを確認して気化させた。
「かっこう悪いな俺……」
「安心しろ。お前は、かっこいい」
座ると片手で顔面を覆い、項垂れたジルベールに声をかける。
そうジルベールは、かっこいい。なんてたって、主人公であるロイが、かっこいいと思うからだ。
俺は顔がよくて女子にモテるこいつを、妬みはしてもかっこいいと胸をときめかしたりは全くしない。だが主人公が、思っているのだ。そこは自信をもて。
「えっ……?」
赤いペンキでも、ぶちまけられたのか。そうツッコミを入れたくなるくらいに、ジルベールの顔面が赤く染まる。赤くなりすぎて、心配になりすぎるレベルだ。
一体なんだ。氷で支えたせいで、冷えて風邪でも引いたか。確かに冷たいだろうが、俺の魔力でコーティングしてあるから濡れはしなかったはずだぞ。
なんだ怒ってるのか。いやまて、これは照れているのか。なんでだお前女子には、きゃーきゃー言われてかっこいいかっこいいと連呼されているだろう。俺に言われてくらいで、なぜ照れる。
―― もしや同性にかっこいいと、言われるのは慣れていないのか?
まてこんなんじゃロイとの前途が、多難だ。お前ロイに、かっこいいと言われるたびにフリーズをするつもりなのか。それじゃあイベントが進まないだろう。
よしここは、甚だ不本意だが慣れさせてやろう。
「お前は、かっこういいと言った。聞こえなかったか、お前はかっこ……」
「ちょっと、ごめんレイザードちょっとまってくれ」
やはり同性に、かっこいいと言われるのは慣れていなかったらしい。露骨に視線を、そらされる。挙句に顔は、赤いままだ。
モブの俺に、ほめられたくらいで赤くなっていてどうする。まだ本番のロイに、たどり着いてないんだぞ。
俺はお前と、ロイのイベントを見るのを心待ちにしているんだ。ここでつまずいてどうする。
―― あれちょっとまてよ
ゲーム中では、ジルベールは誉め言葉一つくらい余裕で対応していたはずだ。
親密度が、高くなればロイの言葉に照れたりすることはあったが初期は余裕の態度をとっている。
それがなぜモブ一人に、かっこいいと言われたくらいで照れているのか。
謎だ。謎だがもしかして、ロイのステータスも何からしら影響している可能性もある。
ジルベールが、可笑しいのは置いておこう。今俺がすることは、イベントを見るためにジルベールを鍛えることだ。
さてどうするべきか。
一日一回、褒めて慣らすというのはどうだろう。いっそうのこと、ロイにそれとなく言って褒めてもらうようにすべきだろうか。
まだ顔の赤いジルベールを放置して、イベントを早期に見るための良策を考えるために頭を捻った。
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