BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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「お前、あいつとどういうお知り合いなわけ」
「ギルド長の許可を得て、お店を開いてますが」

 いつもなら診察を終えた先生は、すぐに部屋を出ていく。けれど今日は、椅子に座り足を組んで座った。俺とは違い長い脚である。うらやましい。

 何か用事があるのだろうか。不思議に思っていると、どういう知り合いかと問われた。うかつに昔に、会ったことがある。そう答えるとシーディスさんの過去に、話が向かう可能性がある。なので、無難な返事をすることにした。

「へえ、本当にそれだけか? あいつのことどこまで知ってる? 言ってみろ」
「いえません」

 短く返すと、先生の目つきが鋭くなった。怖いから止めていただけないだろうか。

「あ?」

 どすの利いた声ってこういう声をいうのだろう。本当にこの人、恐ろしい。顔が怖いというより、なんとういうか雰囲気が怖い。あと口調もだな。

 なんかジルベールの軽いノリがなつかしい。あれはあれで腹が立つこともあったけれど、この状況よりましだ。

「先生がどこまでギルド長のことをご存知か、わからないので俺の口からは何も言えません」

 怖い。怖いが、ここで屈するわけにはいかない。きっちりと断るという、選択肢しか存在しないのだ。

 昔、奴隷だった――けっこうヘビーな話だろう。もし知らなかったらとんでもないことになるし、もし知っていても俺の口らから軽々しく本人の承諾もなしに話していいことじゃない。
いくら目の前で、柄の悪い人がこちらを睨んでいようが言えないものは言えないのだ。モブにだって意地はある。攻略キャラを、傷つけるような真似をしてたまるか。

「へえ……」

 口角があがり目を細めた顔が、まるで蛇のように見えた。思わず硬直すると、手がこちらに向かって伸びてくる。

「なにをしている」
「診察だよ。診察、もう終わった」

 ちょうどよく入ってきたシーディスさんの声に、先生は手を素早く引き戻し扉の方に体をむける。
 それに対してシーディスさんは、あからさまに胡散臭そうな目を向けた。

 一見、仲が悪そうに見せる。けれど気心の知れた仲のようにも見える。ただお互いにらみ合っていた時は、本気で怖かったから仲がいいのか悪いのかが良く分からない。

「レイザード、お前の見舞いに、来たいと言っている奴らが二人いるらしくてな。学園の友人だそうだ。どうする?」
「友人ですか?」

 ―― 俺に友人と呼べるやつなんていたか?

 誰だそれは思うのと同時に、ほかの疑問も浮かぶ。なんで俺がここにいることを、知っているのだろうか。

「勝手に悪いと思ったが、学園には知らせてある。無断で休んだら、困るだろうと思ってな。サイジェスに、伝えてあったんだが……お前が来ないことを、心配した二人がお前の家に行っていないこと心配して何か知らないか確認に行ったらしくてな」
「わざわざ知らせて下さっていたんですね。ありがとうございます」

 これ以上は、面倒をかけるのは悪い。そう思って頼むことは、しなかったのだが知らせていてくれたようだ。

 ―― 本当にいい人だな

 何度同じことを、思っただろうか。シーディスさんは、面倒見がよい人だ。
 面倒見がよすぎて、その理由を色々と考えてはしまう。だが結局俺が、その理由を考えたところで本当のところは分からない。けれどお世話になっているのは、変わりがないから今度何かお礼をすることにしよう。

 ―― なにがいいだろうか

 何かプレゼントを、贈るかと考える。けれどシーディスさんは、欲しければ自分で手に入れるだろう。なんといっても、お金持ちだからな。彼が手が届かないものが、あったとしても俺がそれを手に入れられるはずがない。

 どうしよう。何も思いつないぞ。
 頭を捻っていると、シーディスさんが口を開くのが見える。考えるのは、後にしよう。今は話の最中だ。

「いや気にしなくていい。ジルベールとロイと言っていた。どうする? お前が構わないのなら、約束を取り付けるが」
「はい、お願いします」

 名前を聞いただけで、思わずうなずき返す。

 知らぬ間に、二人して出かける仲になっていたらしい。もしかして俺の知らぬ間に、何度かイベントが起きているかもしれない。
 なんてことだ。心待ちにしていたイベントを、見逃すなんて失態もいいところじゃないか。

 いや今更、悔しがってもしょうない。前向きに考えよう。
 二人そろって、見舞いに来る。ということは、二人がいちゃいちゃしているところを目の前で見れるチャンスだということだ。なんて素晴らしいことだろうか。

 久しぶりの萌えである。了承しないわけがない。
 告げられた名前に、心の中で拳を握て天に向かって突き上げる。主人公と攻略キャラのイチャイチャを眺める絶好チャンスが到来したのだ。これを喜ばずして何を喜べというのか。

 久しぶりの萌え風景である。心は踊っているが、俺の表情はいつも通りだ。本当にモブの表情筋は、仕事をしない。
 まあそれも今更である。いきなりモブたる俺の、表情差分にバリエーションが増えて表情豊かになるわけがない。

「おい、俺のことはそいつらには話すなよ」
「凄むのは止めろ。悪いなレイザード、お前は事故に巻き込まれて怪我をしたことになっている。怪我は大したことがなかったが、頭を打ったから大事をとっていると伝えてあるんだ。こいつのことについては、口外しないでくれ。いろいろと厄介なことになる」

 雰囲気が一気に冷たくなった先生に、蛇に睨まれたカエルのごとく固まる。そんな臆病な俺を、庇うようにシーディスさんが先生を止めてくれた。

 色々と厄介なこと――それが、どんなことか想像くらしいしかできない。だがお世話になった身としては、否定を口にする気もなかった。

「わかりました。ご面倒をおかけして、申し訳ありません」
「お前が謝ることじゃないさ」

 先生のことを、知られるのは避けたい。その状況で、俺を助けてくれたんだ。感謝しかない。
 本当に感謝している。だからせめてその感情を、欠片でも表情に現して礼がいいたい。けれどやはり仕事をしない表情筋は、ろくに動いてくれずに不愛想な顔のまま頭を下げるしかなかった。

 奇跡は、起きないから奇跡である。そんなことは、分かってはいるが少しくらい起きてくれても良くないだろうか。
 そんなことを思いながら、頭を下げていると重みを感じた。どうやらシーディスさんが、頭を撫でているらしい。

 完全に子ども扱いである。
 確かに俺のほうが年下であることは間違いない。けれど頭を撫でられるほど、幼くもないよな。
 ……いやそうか、弟を重ねているのかもしれない。
 一つの可能性にいき着いておとなしく撫でられる選択をすることにした。

 代わりにはなれないが、これくらいならできるだろう。これで役に立てているわけでもなく、礼になるわけでもないのは分かってはいる。
 それにこの世界で、大切な人を失ったことがない俺がシーディスさんに何か気の利いたことが言えるわけでもないしな。

 ―― あれ……?

「どうした?」
「いえ、なでもありません」

 ふとなぜか、自分の思考に疑問を覚え頭を上げる。けれどそれが何なのかまったくわからないまま、心配そうな表情を見せるシーディスさんに向けてあまり動かない口角を必死に上げて返してみせた。











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