38 / 151
38 <シーディス>視点
しおりを挟む終わらない書類仕事に、辟易して一息つくために窓際に寄りかかり大通りを眺める。ギルドは大通りに面しているから、この時間だと人通りが多い。
人が多いのは、好い状況だ。そこに活気が加われば、商売も上手くいきやすい。休もうとしたってのに、また金勘定の事を考え始めている事に気づき息を吐く。
「あれは……」
人混みの中で、見知った姿を捉える。確か今日は学園が、休みの日だ。どこかに出かけるのだろうか。
誰かと約束でもして、遊びに行くのかもしれない。あの子の年頃なら、好きな相手を誘い出かけるというのもありえる……。
「レイザード!」
「ギルド長?」
気づけば仕事部屋を、飛び出し彼の後を追っていた。とはいえ、情けないが走れない。見失わないように、後を追っていき追いついたときにはギルドからはだいぶ離れていた。
僅かに首を傾げた彼を、見て我に返る。姿が見え気づけば追いかけていたなんて、ガキの様な行動だ。
「こんにちは。俺に何かご用ですか?」
お前の姿が見えたから、飛び出してきたなんて口が裂けても言えやしない。
この子にとって、俺は商人ギルドの長でしかない。ただそれだけの関係しかない相手に、そんなこと言われたら困らせるだけだ。
「いや商談が終わったとこでな、たまたまお前を見かけたから声をかけたんだ。
そのお前は何処に行くんだ?」
「街の外にある、湖に行くんです」
それらしい理由を、口にする。どうやら信じてくれたらしいレイザードは、問いかけに口を開く。
「湖?」
「はい、最近知った話なんですが、6年周期で出現する湖があるらしくて。そこの水が欲しいんです。術を構成してつくる水と、そうでない水で違いがあるかちょっと調べようと思っています」
その湖のことなら、知っている。とくに金にもならないから、構うこともなかった。彼が興味を持つと、分かっていたのなら事前に調べて教えることもできたというのに。
「一人で行くのか?」
「はい」
街の外に行く。そういう彼の傍には、誰もいない。まさか一人で行くつもりなのかと、問えば頷き返してくる。
そこまで、治安の悪い地域じゃない。レイザードほどの力を持つなら、一人で行っても問題はないだろう。だが完全に危険が無いと言うわけじゃないんだ。一人で行くのを、見送るのは気が引ける。
いやそれは、言い訳だな。俺が共に、いたいだけだ。
「ついて行ってもいいか?」
「え?」
予想通り、戸惑いを含んだ声が返ってくる。
「いや、そのだな。その湖の傍に生えている、草の香りがいいらしくてな。抽出して香水に使えるんじゃないかって話が上がって、自分の目で確かめてこようと思っているんだ」
言い訳がましいにも、程がある。けれどこの子にとって、俺は休日の時間を共にする様な存在ではない。ついて行くのには、それらしい理由が必要なんだ。
―― なんでこうなんだかな
いつもなら意識せずとも、動く口が上手く動かない。商談の時は、こちらの利になる言葉が滑るように出てくる。だというのに彼の前になると、気の利いた話題一つだせやしない。
もし俺が彼と同じ学園の生徒なら、もうすこし上手くいっただろうか。同じように学園に通い、講義を受ける。共に過ごせた時間も、多かったはずだ。
―― 夢物語だ
彼と俺とでは違う。薄汚れ親に売られ奴隷になった俺と、レイザードは違うんだ。同じように時を過ごせていたのなら、なんて夢物語を考えても意味がない。
碌な対応が取れていない。最悪だと思いはすれど、最低ではないのは彼の雰囲気が伝わってくるからだ。レイザードは、あまり表情を変えない。だが纏う雰囲気が、俺といるのを嫌がっているように見えなかった。
少しでも俺といることを、心地よいと思ってくれているのだろうか。それならそれ以上の、僥倖はない。
「あの弟さんていますか?」
ふとレイザードが、口を開く。俺のことに、興味があるのだろうか。それは嬉しいが、彼の望むような楽しい話題を出してやれそうにはない。けれど嘘をつきたくなくて、いた事実だけを返す。
そっけないと、とられてもおかしくない返答をした。だがレイザードは、気にする風でもなく俺を見上げてくる。
どうやら背丈のことを、ひそかに気にしていたらしい。なぜだがあまり変わらない表情だというのに、すねたように見えて思わず吹き出しそうになる。
満足な食事などとれない状態で、成長期を過ごした俺でも背は伸びた。大丈夫だと、答えるがまだ気にしているらしい様子を見せる。
それがおかしくて、今度はこらえきれずに声に出して笑ってしまう。いつも落ち着いた雰囲気のレイザードが、子供のように拗ねているのが愛らしく感じた。
―― ああ、やはり幸せだな
こうやってこの子と、話をしているだけで幸せな気分になる。彼と未来を共に歩むことは、ないだろう。彼のいく先に、俺のような奴はいないほうがいい。
それでもこうやって一時でも、共に過ごせることだけでも幸福に包まれる。
―― 俺の光
あの時俺に声をかけ、救ってくれた俺の唯一の光だ。
「ギルド長?」
目を細めて見ていると、顔を上げながら首を傾げてくる。それに何でもないと返して、もう一度頭を撫でた。
――さてどうするか
湖についたはいいが、肝心の目的がない。ただレイザードに言った手前、探さないわけにもいかなかった。適当な香草でも見つけて、それでよしとするか。そう考えていると、レイザードが手伝いを申し出てくる。あげくに勝手に、自分が邪魔だと勘違いし始めた。そんなわけがあるか。彼が、邪魔になることなどあるわけがない。
急いで分かりやすそうな草を探し出し、彼に見せる。これも安価だが、香水の材料になることは嘘ではない。その草を探してくれるよう頼でから、俺もそれらしい草を採取しに湖に周りを探り始めた。
――戻らないわけには……いかねえよな
用事が済めば、帰らないわけにはいかない。ただでさえ比較的安全とは言え、ここは街の外だ。中が絶対に、安全だとは言い切れないが外よりは治安は良い。
ゆっくり帰るか。そんな馬鹿なことを、考えていると異常にでかい音が辺りに響いた。
―― ありえない
一体どうなっているんだ。なぜここに、ドラゴンがいる。
ドラゴンの生息地と、ここはかなりの距離がある。基本的にドラゴンは、生息地から出たりはしない。そして大多数が、温厚な生き物だ。
生息地から出たうえに、怒りの感情をみせていることなんぞありえない現象だ。
―― まさか……
まさか彼が、狙われたのか?
あきらかに、様子の可笑しいドラゴン―― もしあいつらが、この子の存在を知ったのなら……。その力を、ドラゴンに使い彼を害そうとしているのなら。
ただの憶測でしかない。歴史上の話としての知識しか、持ち合わせてはいない。
あいつはもちろん知っているのだろうが、そのことについて詳しく話すことなどなかった。
実際はどんなであったかなど、深くは知りもしない。だがもし伝えらえている話が、本当なら狙われてもおかしくはないだろう。
だが俺はあの子の秘密を、誰にも口外などしていない。もしや俺以外にも、知っている奴がいるのか。ならそいつを、どうにかしなければこの子に危険が及ぶ可能性がある。
思考にはまっていると、ドラゴンが再び咆哮をあげる。
考えるのは後だ。今はこの状況を、脱するのが先決だろう。
レイザードを無事に帰す。今考えるのは、それだけでいい。
―― まずい!
拳くらいの大きさの石が、レイザードがいる位置に飛ばされてきた。
気づいた瞬間、体が動く。衝撃と激痛が、腹部に走る。
「ギルド長!」
遠のきかけた意識を、レイザードの声が呼びもどす。
そうだ、気を失っている場合じゃない。
けれど俺がともにいては、逃げ切ることはできないだろう。俺はなんせ、走ることが出来ないのだから。
「置いていけ」
嫌われるのも、さげすまれるのも全て覚悟でレイザードに奴隷であったことを告げる。そして走れないこともだ。
彼にだけは、知られたくなかった。ほかの誰に嫌われようが、どうでもいい。それでも彼にだけは……そう思っていた。けれど彼を生かすために、告げるべきことだろう。
「……」
俺はその時、彼の表情が変わるのを初めて見た。大きな変化じゃない。ほんの僅かばかりの変化だ。
最初は、軽蔑されたのかも思った。だがすぐに俺の言葉に怒りを、覚えているのだと気づく。良く見ていなければ、見逃してしまうほどの小さい――けれど彼は、怒っていた。
初めて会った、あの土砂降りの雨の中――血みどろであった俺を見ても、眉一つ動かさなかった彼が初めて見せた変化だ。
―― 状況を考えろ
今は危機的状況だ。そんなことは分かっている。けれど彼が俺のことを思い、怒りを感じていることに嬉しさを覚える。
だがそんな馬鹿なことを、考えている場合ではない。彼と共に、逃げ切らなければ――そう思った瞬間、大口を開けたドラゴンの姿が見え辺りを灼熱が覆った。
303
あなたにおすすめの小説
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??
雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。
いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!?
可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる