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1.あの丘まで一緒に
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今日は朝からよい天気。ヴィータ国の姉姫リンシャはピクニックの準備に余念がありません。召使いのミーアと執事のジェレミアを巻き込んで、広いキッチンはてんやわんや。リンシャ姫は長い黒髪をきゅっと縛り、紫色の瞳を白黒させての大騒ぎ。
リンシャ姫は、このピクニックをとても楽しみにしていました。大好きな騎士アレクと二人きりで過ごせるなんて、そうそう無い事だからです。
これから仲良く向かうのは、昔むかしにリンシャ姫と騎士アレクが出会った丘。その時、恋に落ちたリンシャ姫が、こうやってアレクを騎士にできるとは、神様の巡り会わせとしか思えません。 リンシャ姫は今日のよき日に、アレクへその愛を伝えるつもりでした。そして、告げる場所は丘の頂上にしようと決めてあります。だから、少々お風邪を召しているのも気にしません。
やがて、ピクニックの準備が出来上がります。大事なランチは籐のバスケットにそっと入れました。そのバスケットの隣には、今日のドレスにぴったりのお帽子と素敵な日傘、優しい色の敷き物と、寒い時のためのブランケット、お召物が汚れた場合のお着替え──あらあら、几帳面で心配性なリンシャ姫は、どうやら余計な荷物まで持って行くようです。
完璧な支度にうなずいたリンシャ姫は、大好きな騎士アレクを呼びました。キッチンの横で控えていたアレクがすぐに顔を出します。アレクは今までランチの内容を秘密にしたかったリンシャ姫により、キッチンへの立ち入りを禁止されていたのです。
キッチンに入ったアレクはリンシャ姫が用意した荷物、その量に驚きました。でも、すぐ笑顔になります。リンシャ姫が几帳面で心配性な事を、誰よりもよく知っているからです。なので、アレクは日傘以外の荷物を全部持って、リンシャ姫のあとを付いていきました。
目的の丘はヴィータ国の領地、しかも歩いていける距離です。そんなに近い場所へ二人きりで行く事が、忙しい二人にとっての贅沢でした。リンシャ姫は頭脳に秀でており、何かと国王から重用されていたのです。つまり──今日は本当に特別な日。
「いい天気ですね、姫様」
野の小道を歩きながら、アレクはにこにこと言いました。しかし返事はありません。アレクは「聞こえなかったのかな?」と思い、もう一度リンシャ姫に話しかけます。それでも返事がありません。日傘で姿が隠れている事もあり、アレクは心配になってしまいます。
なのでとことこリンシャ姫を追い越して、自分の主のお顔を見ました。そうして、とてもびっくりします。
「ひ、姫様!?」
なんとリンシャ姫は、真っ赤なほっぺでふらふらしていました。歩いたせいでお風邪が悪くなってしまい、アレクの声など聞こえていなかったのです。
その様子を見たアレクは、すぐに敷き物を用意します。そして、リンシャ姫を座らせました。
「今日は引き返しましょう」
アレクがリンシャ姫に告げます。しかしリンシャ姫はいやいやと首を振りました。あんなに、あんなに楽しみにしていたピクニックなのです。絶対に帰りたくありません。
アレクはリンシャ姫がただの我がままを言っているのかと思い、叱り始めました。誰よりもリンシャ姫の心配をしているのです。ですが、そのせいでリンシャ姫は泣き出してしまいました。
「アレクの馬鹿! 私がどれだけ、この日を楽しみにしていたか……!」
アレクが胸元からハンカチを出し、リンシャ姫の涙を拭います。それから泣いている理由をたずねました。リンシャ姫は最初だけ意地を張りましたが、アレクの心配そうな顔に負けて正直に話します。
「わっ、私は! お前のことが最初から好きで……! 丘の頂上でそれを言おうと思って、だから、だから……!」
アレクはぽかんとしていましたが、しばらく経つと恥ずかしそうに微笑みました。それからリンシャ姫の手を取り、その甲にキスします。リンシャ姫は思いが通じたのかと感じ、喜ぼうとしました。
しかし。
「ええと……僕はちょっと耳が遠くて、姫様の話が聞こえていませんでした」
アレクがそう言ったので、リンシャ姫はまたぽろぽろと涙をこぼします。聞こえないふりをされたと思ったのです。でも、アレクの気持ちは違いました。
「姫様、はやく丘の頂上へ行きましょう。着いたら先ほどと同じ話をしてくださいね」
それでリンシャ姫にも解ります。アレクが自分の計画を叶えようとしてくれている事に。なので、悲しそうな泣き顔がみるみると可愛らしい笑顔に変わりました。
それを見たアレクは、リンシャ姫のお膝に自分が持っていた荷物を載せます。そうして──荷物ごとリンシャ姫を抱き上げました。リンシャ姫はうっとりとアレクに寄りかかります。
「アレク、私は……お前を」
「あの……僕の耳には、丘の頂上まで何も聞こえませんが?」
「では、早く着け! いつまで私に我慢をさせる気だ?」
「はい、姫様!」
豪華なお帽子とドレスをなびかせ、その騎士アレクが走る、走る。
リンシャ姫は怖がるふりで、大好きなアレクを抱きしめました。
リンシャ姫は、このピクニックをとても楽しみにしていました。大好きな騎士アレクと二人きりで過ごせるなんて、そうそう無い事だからです。
これから仲良く向かうのは、昔むかしにリンシャ姫と騎士アレクが出会った丘。その時、恋に落ちたリンシャ姫が、こうやってアレクを騎士にできるとは、神様の巡り会わせとしか思えません。 リンシャ姫は今日のよき日に、アレクへその愛を伝えるつもりでした。そして、告げる場所は丘の頂上にしようと決めてあります。だから、少々お風邪を召しているのも気にしません。
やがて、ピクニックの準備が出来上がります。大事なランチは籐のバスケットにそっと入れました。そのバスケットの隣には、今日のドレスにぴったりのお帽子と素敵な日傘、優しい色の敷き物と、寒い時のためのブランケット、お召物が汚れた場合のお着替え──あらあら、几帳面で心配性なリンシャ姫は、どうやら余計な荷物まで持って行くようです。
完璧な支度にうなずいたリンシャ姫は、大好きな騎士アレクを呼びました。キッチンの横で控えていたアレクがすぐに顔を出します。アレクは今までランチの内容を秘密にしたかったリンシャ姫により、キッチンへの立ち入りを禁止されていたのです。
キッチンに入ったアレクはリンシャ姫が用意した荷物、その量に驚きました。でも、すぐ笑顔になります。リンシャ姫が几帳面で心配性な事を、誰よりもよく知っているからです。なので、アレクは日傘以外の荷物を全部持って、リンシャ姫のあとを付いていきました。
目的の丘はヴィータ国の領地、しかも歩いていける距離です。そんなに近い場所へ二人きりで行く事が、忙しい二人にとっての贅沢でした。リンシャ姫は頭脳に秀でており、何かと国王から重用されていたのです。つまり──今日は本当に特別な日。
「いい天気ですね、姫様」
野の小道を歩きながら、アレクはにこにこと言いました。しかし返事はありません。アレクは「聞こえなかったのかな?」と思い、もう一度リンシャ姫に話しかけます。それでも返事がありません。日傘で姿が隠れている事もあり、アレクは心配になってしまいます。
なのでとことこリンシャ姫を追い越して、自分の主のお顔を見ました。そうして、とてもびっくりします。
「ひ、姫様!?」
なんとリンシャ姫は、真っ赤なほっぺでふらふらしていました。歩いたせいでお風邪が悪くなってしまい、アレクの声など聞こえていなかったのです。
その様子を見たアレクは、すぐに敷き物を用意します。そして、リンシャ姫を座らせました。
「今日は引き返しましょう」
アレクがリンシャ姫に告げます。しかしリンシャ姫はいやいやと首を振りました。あんなに、あんなに楽しみにしていたピクニックなのです。絶対に帰りたくありません。
アレクはリンシャ姫がただの我がままを言っているのかと思い、叱り始めました。誰よりもリンシャ姫の心配をしているのです。ですが、そのせいでリンシャ姫は泣き出してしまいました。
「アレクの馬鹿! 私がどれだけ、この日を楽しみにしていたか……!」
アレクが胸元からハンカチを出し、リンシャ姫の涙を拭います。それから泣いている理由をたずねました。リンシャ姫は最初だけ意地を張りましたが、アレクの心配そうな顔に負けて正直に話します。
「わっ、私は! お前のことが最初から好きで……! 丘の頂上でそれを言おうと思って、だから、だから……!」
アレクはぽかんとしていましたが、しばらく経つと恥ずかしそうに微笑みました。それからリンシャ姫の手を取り、その甲にキスします。リンシャ姫は思いが通じたのかと感じ、喜ぼうとしました。
しかし。
「ええと……僕はちょっと耳が遠くて、姫様の話が聞こえていませんでした」
アレクがそう言ったので、リンシャ姫はまたぽろぽろと涙をこぼします。聞こえないふりをされたと思ったのです。でも、アレクの気持ちは違いました。
「姫様、はやく丘の頂上へ行きましょう。着いたら先ほどと同じ話をしてくださいね」
それでリンシャ姫にも解ります。アレクが自分の計画を叶えようとしてくれている事に。なので、悲しそうな泣き顔がみるみると可愛らしい笑顔に変わりました。
それを見たアレクは、リンシャ姫のお膝に自分が持っていた荷物を載せます。そうして──荷物ごとリンシャ姫を抱き上げました。リンシャ姫はうっとりとアレクに寄りかかります。
「アレク、私は……お前を」
「あの……僕の耳には、丘の頂上まで何も聞こえませんが?」
「では、早く着け! いつまで私に我慢をさせる気だ?」
「はい、姫様!」
豪華なお帽子とドレスをなびかせ、その騎士アレクが走る、走る。
リンシャ姫は怖がるふりで、大好きなアレクを抱きしめました。
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