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陽射しと闇が交互する出窓で
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私は産まれた時から二十年間『ハートの女王』だった。仕事としては公務を少し。気に入らない者の首を刎ねるのは、癖か習性みたいなもので、特に何とも思わない。ただ、首を刎ねたら生き物として成立しない事だけは理解している。
こんな私に周囲は恐怖し、気づけばイエスマンしか居なくなった。これは私が作り出した孤独だけれど、何となく寂しくなったりもする。
少し気が向いた私は、庭園に向かって歩みを進めた。赤い薔薇しか咲かない素晴らしい場所なので、私の気分も慰められる。
そこに珍しい客を見つけた。以前、開かれた音楽会で『きらきらコウモリ』なんていう下らない曲を歌い、私が『時間殺し』と非難してやった帽子屋だ。風の噂では、現在イカれ帽子屋なんて呼ばれているとか。その者が独りでお茶会を開いていた。壊れたティーセットと具が判らないサンドウィッチ、生のままのスコーン、灰色のケーキを用意し、誰も居ない空間に向かって談笑しているのだ。
(……『イカれる』とは、こういう事なのね)
私は思わず狂ったお茶会を凝視してしまった。帽子屋は私を見つけると、ここぞとばかりに話し掛けてくる。
「おっ、女王じゃねーか! よく来たな、座ってくれよ!」
こんな言葉遣いの上に脚が折れそうな椅子を勧められ、無礼だとは思ったが、帽子屋が無邪気な笑顔を浮かべているので座ってあげた。
「で? 誘ったという事は、私をもてなす用意が出来ているのね?」
「もちろんだ」
帽子屋が壊れている中でも一番マシなティーカップとソーサーを寄越す。中の液体は紅茶と思えない色をしており、でも帽子屋が普通に飲んでいるから口を付けた。
「何よこれ! 飲み物じゃないわ!」
私は女王らしくもなく庭園に唾を吐き、口直しとして薔薇の花弁を摘んだ。もう二度と帽子屋が出す飲食物は口にすまい。お茶がコレでは、並んでいる料理も知れたものだ。
幾つも薔薇の花を食ベる私に対し、帽子屋は大げさな身振りで応えた。
「ははっ、さすが女王様! 赤い薔薇が似合ってんなー」
「好きで食べているわけではないの! あなたのお茶が酷いからよ!」
「おかしいな、こんなに美味いんだが……眠りネズミもすげー気に入ってるし」
帽子屋がくいっとカップを傾け、一口飲んでから首を捻る。この男には味が判っていないのだ。これ以上、狂ったお茶会に付き合う義理も無い私は、すっと立ち上がろうとした。そこに帽子屋が声を掛けてくる。内容は『女王様の私生活について』だった。
「食事を摂るか寝るか……かしら。あとはこうして庭園を散策したり。気に入らない者の首を刎ねるのも珍しくないわ」
「それはいいな! 三月ウサギも四月になって喜ぶ!」
「はぁ?」
こんな感じで帽子屋との会話は成立しない。ただ、帽子屋が私に大きな興味を持っており、狂ったなりにも『喋りたい』と思っているのは伝わってきた。純粋なる好意とでも言おうか。
そこで私は帽子屋を観察する。スタイルのいい身体に緑の服装が似合っているし、帽子屋だけに全体のセンスも悪くない。顔だってパーツの位置が整っており、重たげだけれどクッキリとした二重、明るい金髪と揃いの眉毛と睫毛。
(そうね、悪くないわ)
狂ったお茶会は未だ続いていたが、私は帽子屋の手を取る。思ったよりも軽い身体を連れ、向かうは私の城。
「気に入ったわ帽子屋、あなたはもう私の物よ」
「そりゃあ良かった」
この状況で微笑んだ帽子屋は、本当に狂っている。
城に戻った私は、帽子屋を客間でなく私室へと連れ込んだ。夜伽のようなものをさせようという腹積もりで、普段使っているベッドに座らせた。そのベッドで帽子屋はきょろきょろしたあと、ぴょんと跳ね起き部屋から出ようとする。これは服を脱ぎ掛けた私にとって非常に失礼な行為であり、すぐ『首を刎ねる』という思考に陥ってしまう。でもまぁせっかく気に入った男なので、もう少し穏やかに生かしておきたい。私は無駄かと思いつつも帽子屋に問う。
「……ねぇ帽子屋、なぜ私から逃げようとするの?」
「赤のイメージをな、しっかり焼き付けねーと……」
「あらあら、最高の赤が目の前に居るのに……?」
私は酷く不愉快になったので、我慢しきれず帽子屋の首を刎ねた。ただし両の足首だけを。これで帽子屋は懲りたのか、私の前では部屋から出ようとしなくなった。謁見などの公務をしている間は、城中を這いずっているらしいが。張り巡らされた毛足の長い絨毯が乱れるのですぐ判る。
でもまぁ私が戻る頃には帽子屋も私室で気を狂わせていたし、会話にも快く応じるし、逃げようという気は失せてくれたようだ。やはり足首を刎ねて正解だった。人を支配するのは恐怖なのだ。例え相手が『イカれて』いても。
その数日後、まだ傷も癒えない帽子屋が、ベッドの中から願い事を伝えてくる。
「俺は帽子屋だ、仕事をさせて欲しい」
『イカれて』いる割には至極真っ当だし、私は帽子屋の仕事振りにも興味があった。なので当日中に作業台、道具や布切れの類も用意する。帽子屋は大層喜んで、寝食も惜しみ帽子作りに没頭した。ただ、出来上がった作品は、どれもこれもが私に似合わない物ばかり。一体、誰を思いながら作っているのか。ちりちりとする気分を感じ、作業に没頭する帽子屋の手元を押さえてしまった。
「こんな趣味の悪い帽子ばかり作って、どうするつもり?」
「手慣らし」
「何の?」
「俺が心血を注いでる。楽しみだろ?」
微妙に会話がズレている気もするが、取り敢えず心血を注いで私に似合わない帽子を作っているのは判明した。そこで私の『ちりちりした気分』もハッキリする。これが嫉妬という物か。つまり私は、この帽子屋に好意を持っている。だったら大事にすればいいのに、私から出る言葉は――。
「首を刎ねろ! ……ただし手首よ」
刎ねる場所を手首に決めたのは、これ以上帽子を作れないようにしたかったのもあるが、この男を殺したくない気持ちの方が強い感じもする。
帽子屋が手当てを受けている間、私は忌まわしき作業台をトランプ兵に処分するよう命じた。
それから帽子屋はめっきり大人しくなった。絨毯に徘徊している跡も無い。私が話し掛ければ頓珍漢な返答や、『カラスと書き物机が似ているのはなぜだ』という謎々を寄越すけれど、それっきりだ。
私はそんな様子に満足していたのだけれど、ある日いきなり帽子屋がおろおろし始めたので驚いてしまう。
「……どうしたの?」
「出窓を見たらさ、もう花が咲いてんだ! 間に合わねー!」
「花?」
私は出窓からの景色を眺めた。刈り込まれた緑に咲く赤い薔薇が、いつも通りに美しい。頷いている私に対し、帽子屋は必死の形相になった。
「お、俺、庭に行きたいんだよ!」
「あら、またお茶会? 言っておくれけれど、私はあなたの紅茶も軽食も御免だわ」
「ひ、独りでいいからさ……お茶会をさせてくれ!」
帽子屋と私は出会いも独りのお茶会だったしで、特に断る理由も無い。たぶんお茶会は帽子屋の趣味なのだ。しかし酷い飲食物を摂るのは感心しないし、手足が無ければ苦労すると思い、コック一名と警護のトランプ兵二名も付ける事にした。帽子屋は私の決断を大変喜び、不自由な手足で子犬のように纏わりついてくる。その様子がとても愛しい。
でもそこから数日を経て、私は自分が誤っていた事を知る。帽子屋は毎日のように「お茶会」と言っては朝から晩まで出掛けていき、帰ってくるのは夕食前のギリギリだ。あまりにも続くので不審に思い、庭を軽く探索したところ、帽子屋のお茶会が開かれている気配など無い。呼び出したコックもトランプ兵二名もてんでんばらばらな事を言い、もちろん私の不興を買ったので首を刎ねる。
さて、問題は帽子屋だ。なるべく首を刎ねたくは無いが、場合によっては致し方ない。そう思いつつ帽子屋の帰りを待っていたが、なんと朝まで戻らなかった。そのうち私の方がうとうとしてしまい、目覚めたのは夕方。まだ帽子屋は戻っていない。翌日も。その次も。帽子屋は戻って来なかった。怒りに満ちた私は、ありったけのトランプ兵で城外を探す。朗報は中々来なくて私の苛立ちは募るばかり。
そこにひょっこりと、何事も無かったような表情で帽子屋が現れる。一瞬だが『幻なのではないか』と思ったくらいだ。その時、私は公務を行っていたのだが、そんな事はお構い無しで帽子屋の腕を掴んだ。ぎりぎりとねじり上げ、私室へ連れていく。
その途中で気づいたのだが、帽子屋は顔に細かい傷を作っていた。特に口の周りが酷い。しかも服装はだいぶ汚れていて、せっかくの金髪もくすんでいる。
私室に着くと帽子屋はベッドに入りたがった。汚れているので本来なら湯浴みでもさせたい所だが、また消えられても困るのでそれを許す。帽子屋がいつもの場所で横たわったのを見届けた辺りで、私はすうっと息を吸い込んだ。
「どこに行ってたの、帽子屋!」
「に、庭でお茶会だ!」
「嘘をつくのね。で、お茶会は終わったのかしら?」
「終わったぞ」
「じゃあ、もうドコにも行かないって約束なさい」
「出来ない。またお茶会してーし」
私はなるべく冷静を保つよう努力はしたが、帽子屋の明らかな嘘は許せないし、私の命令を聞かない事にも腹立たしい。例えこの男が『イカれて』いたとしてもだ。でもまぁ、狂っている事から来る嘘ならば、目を瞑ってやる必要があるだろう。だから私は再びの機会を与える事にした。
「……もう一度言うわよ? これが最後。二度と私から離れないでちょうだい……解った?」
「また好きな時にお茶会はする。花が咲いたお茶会、緑と青空の強いお茶会、赤い葉っぱが落ちるお茶会、白くて冷たいお茶会。終わったら戻るさ、今日みたいに」
「私はね! 二度と離れるなと言っているのよ!」
そう怒鳴った瞬間、私と帽子屋はトランプ兵に囲まれる。兵たちは私の勢いに感づき、首刎ねの用意をして来たのだ。トランペットが鳴り響き、ドラムロールも始まった。使い込んだ厚い刃物が用意され、あとは私の命令を待つだけになる。
ここまでお膳立てされれば普段の習慣というか、私の思い通りにならない人間は処罰の対象にしか見えなくなった。その『対象』は小さな声で呟く。
「自分はしがない帽子屋だが……最初のお茶会のトコ……見てくれよ」
「それが遺言ね! 首を刎ねろ!」
私の眼前で、今まで幾度も見ている光景が広がった。いつもと違うのは、首を刎ねられたのが『好きな人』というだけで。
ふと、気づけば。
私は私室で出窓の外を見つめていた。何か重たい物を抱えていると思ったら、血抜きもされていない帽子屋の首から上だ。ご丁寧にもまだ帽子を被っている。絨毯には点々と帽子屋の血痕が残っており、それによると私はだいぶフラフラと出窓まで歩いてきたらしい。帽子屋はこの部屋で首を刎ねられた筈なのに、そのような跡は私が抱えている帽子屋自身と血痕だけ。あとは綺麗に掃除されている。ここで行われた惨劇が嘘だったかのように。
私は出窓の傍からベッドに移動、ぼすんと腰掛けて帽子屋を膝に乗せた。金の髪はさらさらで綺麗だし、血の気が失せた顔色との対比もまぁまぁだ。重たげな二重が再び開く事はないけれど、また私の傍から消えるのなら何も見えなくていい。つまり、私の願い――二度と離れるなという主張は通ったのだ。
「……最初から、この部分の首を刎ねるべきだったわ。好きになったらすぐ、が一番いい」
私が溜息をついた瞬間、帽子屋の頭部がごとりと落ちる。何らかの勢いで開かない筈の瞼が開き、濁っている視線は真っ直ぐ庭園を見つめていた。
(そういえば、首を刎ねる手前で『最初のお茶会のトコ』とか言っていたわね……そう、遺言で……)
私はぽたぽたと帽子屋の血液を垂らしつつ、自慢の庭園へ向かった。
この城の庭園は、広いしちょっとした迷路状になっている。ただまぁ文字通り自分の庭だし、あの出逢いは衝撃だったのですぐ辿り着いた。そこで私は違和感を覚える。ぴしっと刈られた生垣の一部に、人間が通れそうな穴が開いているのだ。
私はその穴に入ってみた。驚いたことに穴の中は、四方を植え込みで囲まれた小さな部屋状になっている。遺言から察するに、帽子屋はここに居たと考えていい。これでは軽い探索じゃあ見つからないし、もともと城の中に居たのだから城外を引っくり返しても無駄だ。
少々だが放心した私の目に、布を掛けた机と椅子が映った。何かと思えばいつか処分を命じた帽子屋の作業台。ばさっと布を取ってみれば、立派な帽子が飾ってある。どこから見てもハートの女王に相応しい、薔薇のように真っ赤な色。デザインも凝っていて、裏地には城の中の様子までもが刺繍してあった。その一番目立たない場所に『お誕生日おめでとう』と縫い取られている。そういえば、そろそろ私の誕生日だから、これは帽子屋から私への贈り物という事で間違い無さそうだ。
私は取り敢えずその帽子を被ったが、ここに謎の部屋が作られている意味や、隠された帽子の意図は掴めない。それを教えてくれたのは、帽子の下に置いてあった手紙だ。蝋で封をされた手紙には、一部解読不能、かつ下手くそな文章が書き連ねてある。
『大好きな女王様、今日はお誕生日おめでとうございます。小さな青い花が咲いたら女王様の誕生日ですが、帽子屋は急いでも良い帽子を作りました。びっくりしてください。帽子の裏地はお城を……で頑張ったです。今度は……もっと手慣らしして、いい帽子作る。季節ごとの帽子が素敵です。作るからたくさん被ってください。女王様の帽子が全部帽子屋の帽子になると嬉しいから頑張る。手が無いけど歯で針は噛めました練習……刺繍は上手になった。コックと兵士もちょっと手伝った。みんないい人、内緒が上手』
私はこれを読み終わった瞬間、ぺたりと尻餅を付いてしまった。正確には立っていられなかったというのが本当のところだ。この手紙には帽子屋の想い、不審な行動、その全ての回答が詰まっている。
私は目の前に帽子屋の首を置き、整理するためにも一問一答してみた。
「この城に来た理由は?」
(女王様が好きだから)
「お茶会に誘った意味は?」
(女王様と仲良くなれるから)
「ベッドから逃げようとして、その後も這いずり回ったのは?」
(裏地の刺繍がしたかったから)
「『手慣らし』の意味は?」
(女王様の帽子を作る前に練習した)
「花が咲いて慌てたのは?」
(もうすぐ女王様の誕生日だと判ったから)
「お茶会で何日も消えたのは?」
(帽子作りをしてた)
「口の周りの傷は?」
(刺繍針を歯で噛んだ時に刺さった)
「なぜ帽子作りを隠していた?」
(誕生日に渡して驚かせたかったから)
「コックと兵士に口止めしたのか?」
(内緒にしてくれると約束した)
「二度と離れるなと言った私に逆らった理由は?」
(季節の帽子をたくさん作りたかった、できれば内緒で)
「馬鹿! この気狂い!」
(上手く説明できなくて悪かった)
「最後に謎々の答えを教えて。カラスと書き物机が似ているのはなぜ?」
今まですらすらと喋っていた帽子屋が、この点だけは答えない。それもそのはず、この一問一答で、私は勝手に帽子屋の返答を考えていた。私に解らない事は、私の中の帽子屋が答える訳も無いのだ。
「……はぁ……ここは不思議の国じゃ無かったの? 首から上だけの帽子屋が、謎々の答えをくれてもいいでしょう? ねぇ?」
私は庭園に横たわる。眩しい太陽を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。やけに豪華だった食事も、何部屋あるか判らない城も、ハートの女王としての仕事も。
仕事といえば、今回一番の間抜けは私だから、私が首を刎ねられるべきだった。是非そうしましょう。でもまぁ女王という肩書きがあるし、刎ねた後の首の待遇くらいは決めてもいい。
城に帰った私は、後継者としてハートのジャックを選んだ。まぁまぁ仕事が出来る人なので問題は無い。そのジャックに持ちかけた初めての相談は、私と帽子屋の首の今後。色々考えた結果、女王の私室をそのままにして、庭園が見える出窓に二人の首を並べる事で手を打った。私は庭園の花や季節の移ろいを楽しみたい。多分だが帽子屋も小さな青い花が咲くのを見たいはず。その時には無論、お互いの帽子を綺麗に被っているべきだ。出窓は陽射しが強いけれど、出来のいい帽子が丁度良く遮って、どこまでも快適に過ごせる事だろう。
さぁ、私がハートの女王として下す最後の命令が決まった。いつもの兵士たち、トランペット、ドラムロールと分厚い刃物に囲まれて。
ここから私は五つの首を刎ねる。目の前に置いた帽子屋と同じぶんだけ。私と帽子屋は均しい姿になるべきだ。
「私の首を刎ねろ! まずは足首!」
どん、どん、と刃物が振り下ろされた。伝わる痛みは想像通り。ただしトランプ兵からはザワザワという動揺が伝わってくる。さすがに女王の首を刎ねるのは初めてだからと思われた。
「臆するな兵よ! 次は手首!」
また響くような、同じ音が二回聞こえてきた。ぼろりと涙も出そうになるが、帽子屋の前でみっともない姿を見せられるものか。
「最後は首! 胴体と頭が繋がる首! この首を刎ねろ!」
そこで私という存在の意識は途切れた。あとは帽子屋とそこそこ上手くやって行けるはずだ。まず私の「馬鹿ね!」から始まりそうだけれど。次に「逢いたかった」と抱きしめてあげたい。そこからは恐怖でなく、愛が二人を支配する。陽射しと闇が交互する出窓で。
こうして帽子屋と女王は出窓に飾られました。帽子屋の心が籠もった作品も一緒です。その出窓からは赤い薔薇の庭園が見えて綺麗でした。年に一度だけの小さくて青い花も中々です。
そこで開催されるのは、二人だけのお茶会。花が咲いた、緑と青空、赤い葉っぱ、白くて冷たい――そんな季節のお茶会です。そういえば『季節のお茶会には季節の帽子を』と帽子屋は願っておりましたっけ。
そのせいか、ハートの女王の私室だった場所では変わった出来事が起こるのです。二人の帽子が、いつの間にか新しいものになっていたり。勝手に離れてしまった二人の首が、夜明け前ごろ寄り添っていたり。絨毯にワルツの足跡が刻まれている事もありました。
これを気味悪いなどと思う存在は、この国におりません。ここが不思議の国だからです。ハートの女王は不思議の国を少しだけ疑ったようですが、今ではきっと納得している事でしょう。
こんな私に周囲は恐怖し、気づけばイエスマンしか居なくなった。これは私が作り出した孤独だけれど、何となく寂しくなったりもする。
少し気が向いた私は、庭園に向かって歩みを進めた。赤い薔薇しか咲かない素晴らしい場所なので、私の気分も慰められる。
そこに珍しい客を見つけた。以前、開かれた音楽会で『きらきらコウモリ』なんていう下らない曲を歌い、私が『時間殺し』と非難してやった帽子屋だ。風の噂では、現在イカれ帽子屋なんて呼ばれているとか。その者が独りでお茶会を開いていた。壊れたティーセットと具が判らないサンドウィッチ、生のままのスコーン、灰色のケーキを用意し、誰も居ない空間に向かって談笑しているのだ。
(……『イカれる』とは、こういう事なのね)
私は思わず狂ったお茶会を凝視してしまった。帽子屋は私を見つけると、ここぞとばかりに話し掛けてくる。
「おっ、女王じゃねーか! よく来たな、座ってくれよ!」
こんな言葉遣いの上に脚が折れそうな椅子を勧められ、無礼だとは思ったが、帽子屋が無邪気な笑顔を浮かべているので座ってあげた。
「で? 誘ったという事は、私をもてなす用意が出来ているのね?」
「もちろんだ」
帽子屋が壊れている中でも一番マシなティーカップとソーサーを寄越す。中の液体は紅茶と思えない色をしており、でも帽子屋が普通に飲んでいるから口を付けた。
「何よこれ! 飲み物じゃないわ!」
私は女王らしくもなく庭園に唾を吐き、口直しとして薔薇の花弁を摘んだ。もう二度と帽子屋が出す飲食物は口にすまい。お茶がコレでは、並んでいる料理も知れたものだ。
幾つも薔薇の花を食ベる私に対し、帽子屋は大げさな身振りで応えた。
「ははっ、さすが女王様! 赤い薔薇が似合ってんなー」
「好きで食べているわけではないの! あなたのお茶が酷いからよ!」
「おかしいな、こんなに美味いんだが……眠りネズミもすげー気に入ってるし」
帽子屋がくいっとカップを傾け、一口飲んでから首を捻る。この男には味が判っていないのだ。これ以上、狂ったお茶会に付き合う義理も無い私は、すっと立ち上がろうとした。そこに帽子屋が声を掛けてくる。内容は『女王様の私生活について』だった。
「食事を摂るか寝るか……かしら。あとはこうして庭園を散策したり。気に入らない者の首を刎ねるのも珍しくないわ」
「それはいいな! 三月ウサギも四月になって喜ぶ!」
「はぁ?」
こんな感じで帽子屋との会話は成立しない。ただ、帽子屋が私に大きな興味を持っており、狂ったなりにも『喋りたい』と思っているのは伝わってきた。純粋なる好意とでも言おうか。
そこで私は帽子屋を観察する。スタイルのいい身体に緑の服装が似合っているし、帽子屋だけに全体のセンスも悪くない。顔だってパーツの位置が整っており、重たげだけれどクッキリとした二重、明るい金髪と揃いの眉毛と睫毛。
(そうね、悪くないわ)
狂ったお茶会は未だ続いていたが、私は帽子屋の手を取る。思ったよりも軽い身体を連れ、向かうは私の城。
「気に入ったわ帽子屋、あなたはもう私の物よ」
「そりゃあ良かった」
この状況で微笑んだ帽子屋は、本当に狂っている。
城に戻った私は、帽子屋を客間でなく私室へと連れ込んだ。夜伽のようなものをさせようという腹積もりで、普段使っているベッドに座らせた。そのベッドで帽子屋はきょろきょろしたあと、ぴょんと跳ね起き部屋から出ようとする。これは服を脱ぎ掛けた私にとって非常に失礼な行為であり、すぐ『首を刎ねる』という思考に陥ってしまう。でもまぁせっかく気に入った男なので、もう少し穏やかに生かしておきたい。私は無駄かと思いつつも帽子屋に問う。
「……ねぇ帽子屋、なぜ私から逃げようとするの?」
「赤のイメージをな、しっかり焼き付けねーと……」
「あらあら、最高の赤が目の前に居るのに……?」
私は酷く不愉快になったので、我慢しきれず帽子屋の首を刎ねた。ただし両の足首だけを。これで帽子屋は懲りたのか、私の前では部屋から出ようとしなくなった。謁見などの公務をしている間は、城中を這いずっているらしいが。張り巡らされた毛足の長い絨毯が乱れるのですぐ判る。
でもまぁ私が戻る頃には帽子屋も私室で気を狂わせていたし、会話にも快く応じるし、逃げようという気は失せてくれたようだ。やはり足首を刎ねて正解だった。人を支配するのは恐怖なのだ。例え相手が『イカれて』いても。
その数日後、まだ傷も癒えない帽子屋が、ベッドの中から願い事を伝えてくる。
「俺は帽子屋だ、仕事をさせて欲しい」
『イカれて』いる割には至極真っ当だし、私は帽子屋の仕事振りにも興味があった。なので当日中に作業台、道具や布切れの類も用意する。帽子屋は大層喜んで、寝食も惜しみ帽子作りに没頭した。ただ、出来上がった作品は、どれもこれもが私に似合わない物ばかり。一体、誰を思いながら作っているのか。ちりちりとする気分を感じ、作業に没頭する帽子屋の手元を押さえてしまった。
「こんな趣味の悪い帽子ばかり作って、どうするつもり?」
「手慣らし」
「何の?」
「俺が心血を注いでる。楽しみだろ?」
微妙に会話がズレている気もするが、取り敢えず心血を注いで私に似合わない帽子を作っているのは判明した。そこで私の『ちりちりした気分』もハッキリする。これが嫉妬という物か。つまり私は、この帽子屋に好意を持っている。だったら大事にすればいいのに、私から出る言葉は――。
「首を刎ねろ! ……ただし手首よ」
刎ねる場所を手首に決めたのは、これ以上帽子を作れないようにしたかったのもあるが、この男を殺したくない気持ちの方が強い感じもする。
帽子屋が手当てを受けている間、私は忌まわしき作業台をトランプ兵に処分するよう命じた。
それから帽子屋はめっきり大人しくなった。絨毯に徘徊している跡も無い。私が話し掛ければ頓珍漢な返答や、『カラスと書き物机が似ているのはなぜだ』という謎々を寄越すけれど、それっきりだ。
私はそんな様子に満足していたのだけれど、ある日いきなり帽子屋がおろおろし始めたので驚いてしまう。
「……どうしたの?」
「出窓を見たらさ、もう花が咲いてんだ! 間に合わねー!」
「花?」
私は出窓からの景色を眺めた。刈り込まれた緑に咲く赤い薔薇が、いつも通りに美しい。頷いている私に対し、帽子屋は必死の形相になった。
「お、俺、庭に行きたいんだよ!」
「あら、またお茶会? 言っておくれけれど、私はあなたの紅茶も軽食も御免だわ」
「ひ、独りでいいからさ……お茶会をさせてくれ!」
帽子屋と私は出会いも独りのお茶会だったしで、特に断る理由も無い。たぶんお茶会は帽子屋の趣味なのだ。しかし酷い飲食物を摂るのは感心しないし、手足が無ければ苦労すると思い、コック一名と警護のトランプ兵二名も付ける事にした。帽子屋は私の決断を大変喜び、不自由な手足で子犬のように纏わりついてくる。その様子がとても愛しい。
でもそこから数日を経て、私は自分が誤っていた事を知る。帽子屋は毎日のように「お茶会」と言っては朝から晩まで出掛けていき、帰ってくるのは夕食前のギリギリだ。あまりにも続くので不審に思い、庭を軽く探索したところ、帽子屋のお茶会が開かれている気配など無い。呼び出したコックもトランプ兵二名もてんでんばらばらな事を言い、もちろん私の不興を買ったので首を刎ねる。
さて、問題は帽子屋だ。なるべく首を刎ねたくは無いが、場合によっては致し方ない。そう思いつつ帽子屋の帰りを待っていたが、なんと朝まで戻らなかった。そのうち私の方がうとうとしてしまい、目覚めたのは夕方。まだ帽子屋は戻っていない。翌日も。その次も。帽子屋は戻って来なかった。怒りに満ちた私は、ありったけのトランプ兵で城外を探す。朗報は中々来なくて私の苛立ちは募るばかり。
そこにひょっこりと、何事も無かったような表情で帽子屋が現れる。一瞬だが『幻なのではないか』と思ったくらいだ。その時、私は公務を行っていたのだが、そんな事はお構い無しで帽子屋の腕を掴んだ。ぎりぎりとねじり上げ、私室へ連れていく。
その途中で気づいたのだが、帽子屋は顔に細かい傷を作っていた。特に口の周りが酷い。しかも服装はだいぶ汚れていて、せっかくの金髪もくすんでいる。
私室に着くと帽子屋はベッドに入りたがった。汚れているので本来なら湯浴みでもさせたい所だが、また消えられても困るのでそれを許す。帽子屋がいつもの場所で横たわったのを見届けた辺りで、私はすうっと息を吸い込んだ。
「どこに行ってたの、帽子屋!」
「に、庭でお茶会だ!」
「嘘をつくのね。で、お茶会は終わったのかしら?」
「終わったぞ」
「じゃあ、もうドコにも行かないって約束なさい」
「出来ない。またお茶会してーし」
私はなるべく冷静を保つよう努力はしたが、帽子屋の明らかな嘘は許せないし、私の命令を聞かない事にも腹立たしい。例えこの男が『イカれて』いたとしてもだ。でもまぁ、狂っている事から来る嘘ならば、目を瞑ってやる必要があるだろう。だから私は再びの機会を与える事にした。
「……もう一度言うわよ? これが最後。二度と私から離れないでちょうだい……解った?」
「また好きな時にお茶会はする。花が咲いたお茶会、緑と青空の強いお茶会、赤い葉っぱが落ちるお茶会、白くて冷たいお茶会。終わったら戻るさ、今日みたいに」
「私はね! 二度と離れるなと言っているのよ!」
そう怒鳴った瞬間、私と帽子屋はトランプ兵に囲まれる。兵たちは私の勢いに感づき、首刎ねの用意をして来たのだ。トランペットが鳴り響き、ドラムロールも始まった。使い込んだ厚い刃物が用意され、あとは私の命令を待つだけになる。
ここまでお膳立てされれば普段の習慣というか、私の思い通りにならない人間は処罰の対象にしか見えなくなった。その『対象』は小さな声で呟く。
「自分はしがない帽子屋だが……最初のお茶会のトコ……見てくれよ」
「それが遺言ね! 首を刎ねろ!」
私の眼前で、今まで幾度も見ている光景が広がった。いつもと違うのは、首を刎ねられたのが『好きな人』というだけで。
ふと、気づけば。
私は私室で出窓の外を見つめていた。何か重たい物を抱えていると思ったら、血抜きもされていない帽子屋の首から上だ。ご丁寧にもまだ帽子を被っている。絨毯には点々と帽子屋の血痕が残っており、それによると私はだいぶフラフラと出窓まで歩いてきたらしい。帽子屋はこの部屋で首を刎ねられた筈なのに、そのような跡は私が抱えている帽子屋自身と血痕だけ。あとは綺麗に掃除されている。ここで行われた惨劇が嘘だったかのように。
私は出窓の傍からベッドに移動、ぼすんと腰掛けて帽子屋を膝に乗せた。金の髪はさらさらで綺麗だし、血の気が失せた顔色との対比もまぁまぁだ。重たげな二重が再び開く事はないけれど、また私の傍から消えるのなら何も見えなくていい。つまり、私の願い――二度と離れるなという主張は通ったのだ。
「……最初から、この部分の首を刎ねるべきだったわ。好きになったらすぐ、が一番いい」
私が溜息をついた瞬間、帽子屋の頭部がごとりと落ちる。何らかの勢いで開かない筈の瞼が開き、濁っている視線は真っ直ぐ庭園を見つめていた。
(そういえば、首を刎ねる手前で『最初のお茶会のトコ』とか言っていたわね……そう、遺言で……)
私はぽたぽたと帽子屋の血液を垂らしつつ、自慢の庭園へ向かった。
この城の庭園は、広いしちょっとした迷路状になっている。ただまぁ文字通り自分の庭だし、あの出逢いは衝撃だったのですぐ辿り着いた。そこで私は違和感を覚える。ぴしっと刈られた生垣の一部に、人間が通れそうな穴が開いているのだ。
私はその穴に入ってみた。驚いたことに穴の中は、四方を植え込みで囲まれた小さな部屋状になっている。遺言から察するに、帽子屋はここに居たと考えていい。これでは軽い探索じゃあ見つからないし、もともと城の中に居たのだから城外を引っくり返しても無駄だ。
少々だが放心した私の目に、布を掛けた机と椅子が映った。何かと思えばいつか処分を命じた帽子屋の作業台。ばさっと布を取ってみれば、立派な帽子が飾ってある。どこから見てもハートの女王に相応しい、薔薇のように真っ赤な色。デザインも凝っていて、裏地には城の中の様子までもが刺繍してあった。その一番目立たない場所に『お誕生日おめでとう』と縫い取られている。そういえば、そろそろ私の誕生日だから、これは帽子屋から私への贈り物という事で間違い無さそうだ。
私は取り敢えずその帽子を被ったが、ここに謎の部屋が作られている意味や、隠された帽子の意図は掴めない。それを教えてくれたのは、帽子の下に置いてあった手紙だ。蝋で封をされた手紙には、一部解読不能、かつ下手くそな文章が書き連ねてある。
『大好きな女王様、今日はお誕生日おめでとうございます。小さな青い花が咲いたら女王様の誕生日ですが、帽子屋は急いでも良い帽子を作りました。びっくりしてください。帽子の裏地はお城を……で頑張ったです。今度は……もっと手慣らしして、いい帽子作る。季節ごとの帽子が素敵です。作るからたくさん被ってください。女王様の帽子が全部帽子屋の帽子になると嬉しいから頑張る。手が無いけど歯で針は噛めました練習……刺繍は上手になった。コックと兵士もちょっと手伝った。みんないい人、内緒が上手』
私はこれを読み終わった瞬間、ぺたりと尻餅を付いてしまった。正確には立っていられなかったというのが本当のところだ。この手紙には帽子屋の想い、不審な行動、その全ての回答が詰まっている。
私は目の前に帽子屋の首を置き、整理するためにも一問一答してみた。
「この城に来た理由は?」
(女王様が好きだから)
「お茶会に誘った意味は?」
(女王様と仲良くなれるから)
「ベッドから逃げようとして、その後も這いずり回ったのは?」
(裏地の刺繍がしたかったから)
「『手慣らし』の意味は?」
(女王様の帽子を作る前に練習した)
「花が咲いて慌てたのは?」
(もうすぐ女王様の誕生日だと判ったから)
「お茶会で何日も消えたのは?」
(帽子作りをしてた)
「口の周りの傷は?」
(刺繍針を歯で噛んだ時に刺さった)
「なぜ帽子作りを隠していた?」
(誕生日に渡して驚かせたかったから)
「コックと兵士に口止めしたのか?」
(内緒にしてくれると約束した)
「二度と離れるなと言った私に逆らった理由は?」
(季節の帽子をたくさん作りたかった、できれば内緒で)
「馬鹿! この気狂い!」
(上手く説明できなくて悪かった)
「最後に謎々の答えを教えて。カラスと書き物机が似ているのはなぜ?」
今まですらすらと喋っていた帽子屋が、この点だけは答えない。それもそのはず、この一問一答で、私は勝手に帽子屋の返答を考えていた。私に解らない事は、私の中の帽子屋が答える訳も無いのだ。
「……はぁ……ここは不思議の国じゃ無かったの? 首から上だけの帽子屋が、謎々の答えをくれてもいいでしょう? ねぇ?」
私は庭園に横たわる。眩しい太陽を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。やけに豪華だった食事も、何部屋あるか判らない城も、ハートの女王としての仕事も。
仕事といえば、今回一番の間抜けは私だから、私が首を刎ねられるべきだった。是非そうしましょう。でもまぁ女王という肩書きがあるし、刎ねた後の首の待遇くらいは決めてもいい。
城に帰った私は、後継者としてハートのジャックを選んだ。まぁまぁ仕事が出来る人なので問題は無い。そのジャックに持ちかけた初めての相談は、私と帽子屋の首の今後。色々考えた結果、女王の私室をそのままにして、庭園が見える出窓に二人の首を並べる事で手を打った。私は庭園の花や季節の移ろいを楽しみたい。多分だが帽子屋も小さな青い花が咲くのを見たいはず。その時には無論、お互いの帽子を綺麗に被っているべきだ。出窓は陽射しが強いけれど、出来のいい帽子が丁度良く遮って、どこまでも快適に過ごせる事だろう。
さぁ、私がハートの女王として下す最後の命令が決まった。いつもの兵士たち、トランペット、ドラムロールと分厚い刃物に囲まれて。
ここから私は五つの首を刎ねる。目の前に置いた帽子屋と同じぶんだけ。私と帽子屋は均しい姿になるべきだ。
「私の首を刎ねろ! まずは足首!」
どん、どん、と刃物が振り下ろされた。伝わる痛みは想像通り。ただしトランプ兵からはザワザワという動揺が伝わってくる。さすがに女王の首を刎ねるのは初めてだからと思われた。
「臆するな兵よ! 次は手首!」
また響くような、同じ音が二回聞こえてきた。ぼろりと涙も出そうになるが、帽子屋の前でみっともない姿を見せられるものか。
「最後は首! 胴体と頭が繋がる首! この首を刎ねろ!」
そこで私という存在の意識は途切れた。あとは帽子屋とそこそこ上手くやって行けるはずだ。まず私の「馬鹿ね!」から始まりそうだけれど。次に「逢いたかった」と抱きしめてあげたい。そこからは恐怖でなく、愛が二人を支配する。陽射しと闇が交互する出窓で。
こうして帽子屋と女王は出窓に飾られました。帽子屋の心が籠もった作品も一緒です。その出窓からは赤い薔薇の庭園が見えて綺麗でした。年に一度だけの小さくて青い花も中々です。
そこで開催されるのは、二人だけのお茶会。花が咲いた、緑と青空、赤い葉っぱ、白くて冷たい――そんな季節のお茶会です。そういえば『季節のお茶会には季節の帽子を』と帽子屋は願っておりましたっけ。
そのせいか、ハートの女王の私室だった場所では変わった出来事が起こるのです。二人の帽子が、いつの間にか新しいものになっていたり。勝手に離れてしまった二人の首が、夜明け前ごろ寄り添っていたり。絨毯にワルツの足跡が刻まれている事もありました。
これを気味悪いなどと思う存在は、この国におりません。ここが不思議の国だからです。ハートの女王は不思議の国を少しだけ疑ったようですが、今ではきっと納得している事でしょう。
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