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23.死亡フラグ
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そうして四日目。
小夜が手術を受ける日がやって来た。予定ではこのままカプセルでストレッチャーに乗り手術室へ。そこで眠ってから麻酔を掛けて手術に臨むのだが――小夜は移動する前に、俺と二人きりになりたいと言い出した。手術までにはだいぶ時間に余裕があるので看護師も了承してくれる。その看護師に小夜はカプセルを開くよう頼んだ。これに関しては、少々考えたのち許された。俺と小夜が長いこと一緒に暮らしているのを知っているからかもしれない。しかも場合によっては1.8%の確率で――いや、考えるのは止そう。
俺がカプセルの脇に座っていた為、小夜は外に出る事なく話しかけてくる。
「ねぇ」
「うん?」
「健治って私のこと二百年前から好きなんだよね?」
「ああ」
「じゃあさ、私と手を繋いだりしないの?」
むぎゅっと小夜が俺の手を握る。俺はフラッシュバックを恐れ、慌てふためくだけだ。
「だ、大丈夫か!? 苦しくなったりしてないか!?」
「平気。初めて健治に触れて嬉し……」
そこでぼろぼろっと小夜が泣き出した。抱きしめてやりたい所だが、そこまでしていい物か判断がつかない。なので手だけ握り返した。
そうすると、小夜が思いも寄らないことを言う。
「健治はさ……俺と身体を繋ぐの、嫌なんだよね……? 汚いもんね?」
「はぁ!?」
「毎晩、夢に見てたんだ……私すごい酷いトコで犯されて――健治は夢だって言ってたけど、アレ本当だ。覚えてる。ご飯を食べるためだった。でも私の事が大好きだからする、っていう人も居て……」
「いつからだ! いつからそんな夢を見てたんだ!」
「ええと……健治も私を好きって言ってくれて、あの島に住んでからかな……」
「ああ、あの悪夢はそんな内容かよ……」
「大好きだからするって言ってた人の気持ち、今ならすごく解る。健治とああいう関係になれるのかなと思ったら、私、私……!」
「独りでそんなモン思い出してたのか、きっちり言え」と感じたが、黙ってしまう気持ちも充分理解できる。そして、どんなに性的なものを排除しても、思い出されたら全て終わりという事も知った。
俺は、はぁ~と溜め息を吐く。
「いいか小夜。まず、俺はお前を汚いなんて思っちゃいねぇ。触らなかったのは発作が怖かったからだ。つまり俺が、こう……抱いても平気なら構わない」
俺は小夜の肩に手を回してみる。大丈夫だ。逆の手を背中に回すと抱きしめるような格好になった。否、小夜が俺の肩辺りを掴んだから、歪だけれど抱きしめ合ったと言っていい。
「……問題無さそうだな」
「うえええ、けんじぃぃぃ」
「泣くな、泣くな」
小夜の顔が近所にあるので、ついついキスしそうになった。でも、口の中にはエラい量の菌が居ると聞いた事があるので我慢。手術前の小夜には良くない気がする。
でもまぁ、こういった気遣いが小夜を傷つけていたようなので、正直に話した。
「へぇー! そういう事もあるんだ!」
「あー……だから、キスと繋がるやつ――抱くのもな、手術が終わったら……おっといけねぇ」
「どうしたの?」
「こういう時に、手術が無事に終わったらキスとかしよう、とか言うとだな、死亡フラグってのが立つんだよ。『この戦争が終わったら結婚しよう』ってパターンで有名だが」
「あっ、戦争のやつテレビで見たことある!」
小夜がうんうんと頷いている。なので話は早かった。
「まぁ俺は小夜を抱くの、構わねーよ」
「早く健治にして欲しい」
「そうか。少々痛々しく心配ではあるが了解だ。ただし、手術は関係ねーぞ。お前さんがやりたい、俺もやりたい、だからやるだけだ」
「じゃあフラグが立たないから手術が成功して、ぜーんぶ治ったら健治に抱いて貰えるんだね?」
「そういうこった」
エへへッ、と小夜が喜んだ。耳まで紅く染めている。こんなに興奮させたら、麻酔の掛かりが悪くなってしまうだろうか。
そこに看護師が呼びに来て、小夜のカプセルが閉められる。小夜は俺に手を振りながら、そのままストレッチャーに乗せられた。手術室は三階で、厚いドアの手前までは見送る事ができる。
「んじゃ、目が覚めたらまたな」
「行ってきまーす! 起きたら一番に健治の顔が見たいな」
「努力するわ」
「ねぇ健治、フラグが立たない程度に祈ってくれない?」
「おうよ! I~n nomine Patris, et Filii, e~t Spiritus Sancti. A~men~!」
「ふふ、すごくテキトーだ」
「まぁな、フラグが立たないっていうお望みどおりだぜ」
俺たちは、とても明るい挨拶で別れた。
だから信じられなかったのだ。手術が失敗し、小夜が死んだなどとは。
小夜が手術を受ける日がやって来た。予定ではこのままカプセルでストレッチャーに乗り手術室へ。そこで眠ってから麻酔を掛けて手術に臨むのだが――小夜は移動する前に、俺と二人きりになりたいと言い出した。手術までにはだいぶ時間に余裕があるので看護師も了承してくれる。その看護師に小夜はカプセルを開くよう頼んだ。これに関しては、少々考えたのち許された。俺と小夜が長いこと一緒に暮らしているのを知っているからかもしれない。しかも場合によっては1.8%の確率で――いや、考えるのは止そう。
俺がカプセルの脇に座っていた為、小夜は外に出る事なく話しかけてくる。
「ねぇ」
「うん?」
「健治って私のこと二百年前から好きなんだよね?」
「ああ」
「じゃあさ、私と手を繋いだりしないの?」
むぎゅっと小夜が俺の手を握る。俺はフラッシュバックを恐れ、慌てふためくだけだ。
「だ、大丈夫か!? 苦しくなったりしてないか!?」
「平気。初めて健治に触れて嬉し……」
そこでぼろぼろっと小夜が泣き出した。抱きしめてやりたい所だが、そこまでしていい物か判断がつかない。なので手だけ握り返した。
そうすると、小夜が思いも寄らないことを言う。
「健治はさ……俺と身体を繋ぐの、嫌なんだよね……? 汚いもんね?」
「はぁ!?」
「毎晩、夢に見てたんだ……私すごい酷いトコで犯されて――健治は夢だって言ってたけど、アレ本当だ。覚えてる。ご飯を食べるためだった。でも私の事が大好きだからする、っていう人も居て……」
「いつからだ! いつからそんな夢を見てたんだ!」
「ええと……健治も私を好きって言ってくれて、あの島に住んでからかな……」
「ああ、あの悪夢はそんな内容かよ……」
「大好きだからするって言ってた人の気持ち、今ならすごく解る。健治とああいう関係になれるのかなと思ったら、私、私……!」
「独りでそんなモン思い出してたのか、きっちり言え」と感じたが、黙ってしまう気持ちも充分理解できる。そして、どんなに性的なものを排除しても、思い出されたら全て終わりという事も知った。
俺は、はぁ~と溜め息を吐く。
「いいか小夜。まず、俺はお前を汚いなんて思っちゃいねぇ。触らなかったのは発作が怖かったからだ。つまり俺が、こう……抱いても平気なら構わない」
俺は小夜の肩に手を回してみる。大丈夫だ。逆の手を背中に回すと抱きしめるような格好になった。否、小夜が俺の肩辺りを掴んだから、歪だけれど抱きしめ合ったと言っていい。
「……問題無さそうだな」
「うえええ、けんじぃぃぃ」
「泣くな、泣くな」
小夜の顔が近所にあるので、ついついキスしそうになった。でも、口の中にはエラい量の菌が居ると聞いた事があるので我慢。手術前の小夜には良くない気がする。
でもまぁ、こういった気遣いが小夜を傷つけていたようなので、正直に話した。
「へぇー! そういう事もあるんだ!」
「あー……だから、キスと繋がるやつ――抱くのもな、手術が終わったら……おっといけねぇ」
「どうしたの?」
「こういう時に、手術が無事に終わったらキスとかしよう、とか言うとだな、死亡フラグってのが立つんだよ。『この戦争が終わったら結婚しよう』ってパターンで有名だが」
「あっ、戦争のやつテレビで見たことある!」
小夜がうんうんと頷いている。なので話は早かった。
「まぁ俺は小夜を抱くの、構わねーよ」
「早く健治にして欲しい」
「そうか。少々痛々しく心配ではあるが了解だ。ただし、手術は関係ねーぞ。お前さんがやりたい、俺もやりたい、だからやるだけだ」
「じゃあフラグが立たないから手術が成功して、ぜーんぶ治ったら健治に抱いて貰えるんだね?」
「そういうこった」
エへへッ、と小夜が喜んだ。耳まで紅く染めている。こんなに興奮させたら、麻酔の掛かりが悪くなってしまうだろうか。
そこに看護師が呼びに来て、小夜のカプセルが閉められる。小夜は俺に手を振りながら、そのままストレッチャーに乗せられた。手術室は三階で、厚いドアの手前までは見送る事ができる。
「んじゃ、目が覚めたらまたな」
「行ってきまーす! 起きたら一番に健治の顔が見たいな」
「努力するわ」
「ねぇ健治、フラグが立たない程度に祈ってくれない?」
「おうよ! I~n nomine Patris, et Filii, e~t Spiritus Sancti. A~men~!」
「ふふ、すごくテキトーだ」
「まぁな、フラグが立たないっていうお望みどおりだぜ」
俺たちは、とても明るい挨拶で別れた。
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