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19.思い出づくり
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この生活の合間を使い、俺と小夜は比較的近所の楽しめる場所へ行く事にした。ただまぁ、小夜は風邪など引かないよう病院から貰った目立つマスク着用、俺はこんな格好なので無遠慮にジロジロ見られる。小夜は普通の外界を知らないので『見られる』事が当然だと思っており、苦にしていないようだ。それだけは助かる。
まず俺は、小夜を広めの公園へ連れて行った。未来なれど芝生や樹木が植えてあったりするのは変わらない。そこで俺が何をするかと言えば、ベンチで小夜を観察するだけだ。小夜は芝生の匂いを嗅いだり、大きな樹木を見上げて楽しそうにしていた。
だったらと思い、植物園にも行ってみる。「花とか草に触るんじゃねぇぞ」という約束をして。
ここには二百年の間に品種改良された花があったので、俺も楽しんでしまった。もちろん小夜は「きれいだねー」とか「おもしろいねー」とニコニコしている。
お次は動物園。事前知識で「象はデカいけど、檻があるから平気。ライオンも強いが大丈夫」などと教えておいたので、怖がる事なく「うわー!」と笑顔を見せるだけだ。小夜はパンダを気に入ったようで「大きくなったらパンダになる!」と言っていた。俺は「……なれるといいな」と腹筋をヒクヒクさせつつ答えるのが精一杯だ。
(いや~、こうしてっと普通のガキだなー)
その平凡さが何よりも嬉しい。
ここいら辺で通院日が来たため、小夜を病院へ連れて行った。小夜は「また入院させられるのか」と嫌がっていたけれど、先生に会うだけだと説得。かなりの時間を要した。強引に引っ張っていければ良いのだが、俺に女の知り合いはゼロ、教会も男だらけ。男相手だとフラッシュバックが怖くて気を遣う。
そうやって辿り着いた病院では、まず検査一式をして、そのあと医師と小夜が面談。医師は小夜から『将来パンダになりたい件』や、『大きな樹木』の話を笑顔で聞きながら、小夜の身体のあちこちを診ている。俺は診察室の隅でずっとその様子を見ていた。
診察が終わると、看護師は小夜をどこかへ連れて行く。まさか入院だろうか。だとすれば引き留めたかったが、入院が必要であれば仕方ない。俺に不安そうな視線を送ってくる小夜には笑顔で応え、手を振って見送る。
小夜が消えると、医師は俺を呼んだ。
「ええと、小夜さんが楽しそうで何よりです。検査の結果は、ほぼ変わらないですね。数値がちょっとだけ悪くなっていますけど、これは身長が少し伸びた為だと思われます」
「身長を伸ばさない薬があったら欲しいんだが……」
「残念ながら無いですね。人間が生きるのに必要な栄養素を摂れば伸びていきます。小夜さんの本来あるべき身長まで」
「そうだったのか……」
一瞬は食事制限なども考えた俺だったので、しゅんとしてしまう。そんな俺に医師は「小夜の日常生活での変化」や「心配事があればどうぞ」と尋ねてきた。そこで俺はフラッシュバックが一回起きた件を伝える。医師に状況などを聞かれたので「教会の信者がつまづいて」「廊下でずっと苦しんでいた」等をありのまま話す。医師は少し考えたあと、看護師にペンみたいな物を持って来させた。
「これはですね、まぁいわゆる睡眠薬を打つ注射器なんですけども。小夜さんの様子がかなり悪いので、発作を起こしたら下腹部辺りにお願いします」
「それで寝かせれば、苦しむ事は無いんだな?」
「半日くらい寝てくれますので、その間に治まってると思いますよ。それでもダメなら、また考えましょう。使用法は別室で看護師が指導します。では、また四週後に来てください」
俺は席を立ち、看護師に案内されるまま別室へ。使い捨ての注射器の説明は非常に簡単で拍子抜けしたが『すぐ下腹部に注射出来るよう、普段からセパレートな服装、特にスカート、もしくはワンピースを心がける』というのはとても参考になった。あと『かなり強いお薬なので、一日一回までです』という薬剤師の言葉も。
俺は季節などを選んで、小夜を様々な場所へ連れて行った。夏は日焼け止めをばっちり付けて海水浴や川下りなど。冬は暖かい格好で雪山でそり遊びと雪だるま作り、凍った湖ではワカサギ釣りもしてみた。その間、温泉旅館には何度も泊まっている。湯治という言葉もあるくらいだし、何となく小夜の身体に良い気がしての話だ。小夜も個室に付属する露天風呂を楽しんでいた。まぁ食事は子供用をだいぶ残してしまうのだが。
春や秋にはテーマパークへ行ってみた。この季節なら長蛇の列でも並べる。ずっと立っていなくて済むよう、小さな椅子も用意した。そして、なるべく刺激が少なそうな乗り物だけを選ぶ。それでも小夜は夜に行われるパレードの前にカクッと寝てしまうので、かなり疲れるのかもしれない。本人が行きたがるため、ついつい遊びに行ってしまうのだが、もっと気候や回数、乗り物などを厳選しなくては。そして金を支払ったり、事前に特別な券を取得することで、待ち時間をゼロまたは大幅に短縮する事が出来ると知ったのも、何回か失敗してから。情報収集不足で反省だ。
この間、フラッシュバックは三回ほど起こしている。どれも見知らぬ男性が相手で、ちょっと触れられたとか、酷い時はすれ違いざまに腕が当たっただけ――なんていう事も。その際は医者から貰った注射が大変役に立った。薬剤で眠っている間に教会やホテルなどに寝かせに行ってしまい、目覚めれば正常な小夜だ。
俺が小夜を抱っこ出来るのは、こんな場合くらいなので、たまには起きる一時間くらい前まで膝に乗せていたりした。ぷくっとした頬っぺたや色素の薄い髪なども撫で「ガキの頃の小夜はこんなモンかぁ」としみじみ考えたりもする。俺にとって貴重な時間ではあったが、苦しい所を強制的に寝かせているだけなので可哀想だ。
そんな事を報告する通院も、四週に一度きっちりと行った。というか、定期的に病院へ通わないと俺の方が不安で仕方ない。
検査の結果はいつも通り悪くて、でも身長の伸びが緩やかになって来たので一安心。とはいえ、服は百三十センチから百四十センチに変わっているし、靴のサイズも一センチ大きくなってしまった。本来なら育って喜ぶべきなのに、俺は複雑な気分。だから服の買い替え作業も何となく暗かった。小夜が「コレかわいいー!」などと楽しそうなのに、こちらは仏頂面を保つので精一杯。かなり情けないと言える。
俺と小夜が出掛ける内容はこれくらい。その他は教会で規則正しい生活をして、合間に読書程度はさせた。本の内容は性的な物がゼロに近く、小夜が理解出来るなら何でもいい。お陰さまでどんどん語彙が増え、常識なんかも覚えてきた。俺の事も平仮名じゃなく漢字で呼ぶ。しかし「私は学校に行かないの?」という質問には何と答えたら良いのやら。俺はちょっと考え「教会で修行している」という話にした。つまり学校へ『行けない』ではなく『行かない』選択をした雰囲気だ。もしかしたら小夜は「学校が良かった」と言い出すかなと思ったけれど「修行の方がいい」と笑っている。理由は「健治と沢山一緒に居られるから」だそうで。小夜は何回、俺を泣かせたら気が済むのだろうか。
まず俺は、小夜を広めの公園へ連れて行った。未来なれど芝生や樹木が植えてあったりするのは変わらない。そこで俺が何をするかと言えば、ベンチで小夜を観察するだけだ。小夜は芝生の匂いを嗅いだり、大きな樹木を見上げて楽しそうにしていた。
だったらと思い、植物園にも行ってみる。「花とか草に触るんじゃねぇぞ」という約束をして。
ここには二百年の間に品種改良された花があったので、俺も楽しんでしまった。もちろん小夜は「きれいだねー」とか「おもしろいねー」とニコニコしている。
お次は動物園。事前知識で「象はデカいけど、檻があるから平気。ライオンも強いが大丈夫」などと教えておいたので、怖がる事なく「うわー!」と笑顔を見せるだけだ。小夜はパンダを気に入ったようで「大きくなったらパンダになる!」と言っていた。俺は「……なれるといいな」と腹筋をヒクヒクさせつつ答えるのが精一杯だ。
(いや~、こうしてっと普通のガキだなー)
その平凡さが何よりも嬉しい。
ここいら辺で通院日が来たため、小夜を病院へ連れて行った。小夜は「また入院させられるのか」と嫌がっていたけれど、先生に会うだけだと説得。かなりの時間を要した。強引に引っ張っていければ良いのだが、俺に女の知り合いはゼロ、教会も男だらけ。男相手だとフラッシュバックが怖くて気を遣う。
そうやって辿り着いた病院では、まず検査一式をして、そのあと医師と小夜が面談。医師は小夜から『将来パンダになりたい件』や、『大きな樹木』の話を笑顔で聞きながら、小夜の身体のあちこちを診ている。俺は診察室の隅でずっとその様子を見ていた。
診察が終わると、看護師は小夜をどこかへ連れて行く。まさか入院だろうか。だとすれば引き留めたかったが、入院が必要であれば仕方ない。俺に不安そうな視線を送ってくる小夜には笑顔で応え、手を振って見送る。
小夜が消えると、医師は俺を呼んだ。
「ええと、小夜さんが楽しそうで何よりです。検査の結果は、ほぼ変わらないですね。数値がちょっとだけ悪くなっていますけど、これは身長が少し伸びた為だと思われます」
「身長を伸ばさない薬があったら欲しいんだが……」
「残念ながら無いですね。人間が生きるのに必要な栄養素を摂れば伸びていきます。小夜さんの本来あるべき身長まで」
「そうだったのか……」
一瞬は食事制限なども考えた俺だったので、しゅんとしてしまう。そんな俺に医師は「小夜の日常生活での変化」や「心配事があればどうぞ」と尋ねてきた。そこで俺はフラッシュバックが一回起きた件を伝える。医師に状況などを聞かれたので「教会の信者がつまづいて」「廊下でずっと苦しんでいた」等をありのまま話す。医師は少し考えたあと、看護師にペンみたいな物を持って来させた。
「これはですね、まぁいわゆる睡眠薬を打つ注射器なんですけども。小夜さんの様子がかなり悪いので、発作を起こしたら下腹部辺りにお願いします」
「それで寝かせれば、苦しむ事は無いんだな?」
「半日くらい寝てくれますので、その間に治まってると思いますよ。それでもダメなら、また考えましょう。使用法は別室で看護師が指導します。では、また四週後に来てください」
俺は席を立ち、看護師に案内されるまま別室へ。使い捨ての注射器の説明は非常に簡単で拍子抜けしたが『すぐ下腹部に注射出来るよう、普段からセパレートな服装、特にスカート、もしくはワンピースを心がける』というのはとても参考になった。あと『かなり強いお薬なので、一日一回までです』という薬剤師の言葉も。
俺は季節などを選んで、小夜を様々な場所へ連れて行った。夏は日焼け止めをばっちり付けて海水浴や川下りなど。冬は暖かい格好で雪山でそり遊びと雪だるま作り、凍った湖ではワカサギ釣りもしてみた。その間、温泉旅館には何度も泊まっている。湯治という言葉もあるくらいだし、何となく小夜の身体に良い気がしての話だ。小夜も個室に付属する露天風呂を楽しんでいた。まぁ食事は子供用をだいぶ残してしまうのだが。
春や秋にはテーマパークへ行ってみた。この季節なら長蛇の列でも並べる。ずっと立っていなくて済むよう、小さな椅子も用意した。そして、なるべく刺激が少なそうな乗り物だけを選ぶ。それでも小夜は夜に行われるパレードの前にカクッと寝てしまうので、かなり疲れるのかもしれない。本人が行きたがるため、ついつい遊びに行ってしまうのだが、もっと気候や回数、乗り物などを厳選しなくては。そして金を支払ったり、事前に特別な券を取得することで、待ち時間をゼロまたは大幅に短縮する事が出来ると知ったのも、何回か失敗してから。情報収集不足で反省だ。
この間、フラッシュバックは三回ほど起こしている。どれも見知らぬ男性が相手で、ちょっと触れられたとか、酷い時はすれ違いざまに腕が当たっただけ――なんていう事も。その際は医者から貰った注射が大変役に立った。薬剤で眠っている間に教会やホテルなどに寝かせに行ってしまい、目覚めれば正常な小夜だ。
俺が小夜を抱っこ出来るのは、こんな場合くらいなので、たまには起きる一時間くらい前まで膝に乗せていたりした。ぷくっとした頬っぺたや色素の薄い髪なども撫で「ガキの頃の小夜はこんなモンかぁ」としみじみ考えたりもする。俺にとって貴重な時間ではあったが、苦しい所を強制的に寝かせているだけなので可哀想だ。
そんな事を報告する通院も、四週に一度きっちりと行った。というか、定期的に病院へ通わないと俺の方が不安で仕方ない。
検査の結果はいつも通り悪くて、でも身長の伸びが緩やかになって来たので一安心。とはいえ、服は百三十センチから百四十センチに変わっているし、靴のサイズも一センチ大きくなってしまった。本来なら育って喜ぶべきなのに、俺は複雑な気分。だから服の買い替え作業も何となく暗かった。小夜が「コレかわいいー!」などと楽しそうなのに、こちらは仏頂面を保つので精一杯。かなり情けないと言える。
俺と小夜が出掛ける内容はこれくらい。その他は教会で規則正しい生活をして、合間に読書程度はさせた。本の内容は性的な物がゼロに近く、小夜が理解出来るなら何でもいい。お陰さまでどんどん語彙が増え、常識なんかも覚えてきた。俺の事も平仮名じゃなく漢字で呼ぶ。しかし「私は学校に行かないの?」という質問には何と答えたら良いのやら。俺はちょっと考え「教会で修行している」という話にした。つまり学校へ『行けない』ではなく『行かない』選択をした雰囲気だ。もしかしたら小夜は「学校が良かった」と言い出すかなと思ったけれど「修行の方がいい」と笑っている。理由は「健治と沢山一緒に居られるから」だそうで。小夜は何回、俺を泣かせたら気が済むのだろうか。
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