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それっぽっちの事で(山辺さん視点)
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それは第四日曜日、町内会の資源回収係が切っ掛けだった。アラサーの私よりも大分若い男の子が、係としてやって来たのだ。整った顔立ち、これから資源回収をするというのにお洒落な服装。ぱっと見、大学生くらいだろうか。
その子の働き振りは大変良かった。資源回収だから重たい本を縛った物なども存在し、でもひょいひょいと運んで見せる。お陰でかなり助かった。
私はお礼としてカフェに誘い、アイスコーヒーを奢った。
「ありがとうね~、私始めみんなジジババだから助かったわ」
「いえいえ……」
男の子は割と寡黙だった。まぁ先ほど会ったばかりのオバサン相手じゃこんなものか。なので、アイスコーヒーを飲み終わったらすぐに解散。男の子はさっさと帰っていった。もしかしたら私は余計な事をしたかもしれない。
その翌日、月曜からの私は仕事に忙殺されていた。雑務が多くて大変だ。合間に本来の仕事もしなくてはならないし、まさに忙殺という言葉が相応しい。
でも一応、土日は休みなので助かる。気分転換にお酒でも飲むか。お料理が美味しい居酒屋に行こう。誰かと一緒に、なんて思っていたら、皆さん週末を供に過ごす彼女や彼氏が居て、羨ましいですこと。
なので居酒屋のお一人様コーナーに座る事となる。宅飲みも寂しかったりするから。
そこで、資源回収の時に出会った男の子と偶然にも隣席となった。
「わー、どうもどうも、私のこと覚えてる?」
「覚えてますよ」
「へぇ、記憶力いいんだね」
「ご近所ですし、アイスコーヒーも奢って貰いましたし。美味しかったです、ありがとうございました」
今さらお礼を言う男の子。私は微笑んでしまった。
「えっとねー、私は山辺涼っていうの。OLやってる! あなたの名前は?」
「鈴木翔太です、暇な大学生をやってます」
「へぇ~! いいねぇ!」
私が素直に羨ましがると、鈴木くんはなぜか慌て始めた。
「いや、卒論が終わっただけですよ? 勉強自体はきちんとしていて――」
「やだもう、言い訳しなくていいよ! それより残された休みを楽しみたまえ~! 社会に出たら忙しいんだぞ!」
その時、二杯目のレモンサワーが到着する。私はぐいっとグラスを傾け、とてもいい気分になった。いや、いい気分になり過ぎた。たぶん私は眠ってしまって、鈴木くんに肩を貸してもらっての帰宅をしたのだ。
そこから先は、なぜか鈴木くんにキスされて最後まで。終わると鈴木くんは眠ってしまった。完全に酔った勢いというやつだ。
(わぁ~! どうしよ! ご近所さんなのに!)
でもまぁ、抱かれた心地は悪くなかった。いや、欲しがられた気分にはツンとした甘みすら覚えた。こちとら独り身の寂しいOLなのだ。本当はお付き合いとかが始まるかな、と期待しちゃうところだけれど、相手は大学生。これから未来があるし、何だかな。
そんな事を考えていたら、出勤の時刻になってしまった。目が覚めた鈴木くんよ、食パンをジャムで食べるといい。ついでにメモでも残そうか。『仕事に行く、また来たければ来て』と。正直、鈴木くんがまた来てくれたら嬉しいので。
そしたら、本当に鈴木くんは来てくれた。いつも他愛ない話をしてから、私は抱かれる。アラサーのおばさんにとっては、それだけで十分幸せだったりした。
そんな生活がしばらく経つと、鈴木くんは携帯の番号を教えてくれて――私も教えたけれど、恐らく鈴木くんの携帯を鳴らす事は無いように思える。だって若い子の邪魔をしたくない。
それでも鈴木くんは我が家へやってくる。一度だけ「僕の事をどう思ってるんですか?」と聞かれたけれど、その辺はアラサーを発揮して「どうだと思う~?」なんてのを繰り返して煙に巻いた。鈴木くんは不本意そうだったけど、それでも私を抱いて帰る。私はその背中に「本当は大好きだよ」と伝えた。そう、私はツンとした甘みから始まって、すっかり鈴木くんの事を好きになっていた。たくさん抱かれたので、じわじわと。
でも、しばらくすると鈴木くんの抱き方が雑になった。それでも私は鈴木くんに抱かれる。だって好きだし。でもこの抱き方は、まるで性の捌け口みたいだ。この辺がオバサンという身の上に丁度いいってものだろう。
しばらくすると、鈴木くんは私に飽きたらしい。もう三週間も顔を見ていない。
「まぁしょうがないよね~、遂に彼女が出来たか」
鈴木くんと私の関係は、正直言ってセフレ以下。だって私から一切連絡とかはしないし、鈴木くんに「抱いて」とねだる事もなかった。それは鈴木くんが私を気にせず、いつでも他に行けるようにとの配慮だ。なので、彼女が出来たからと言って私に報告する義務は無い。でもまぁ、寂しいと思う事だけは許してもらいたい。私はあまり面白くもないテレビを見つつ、そんな事を感じていた。
そこに、いきなり鈴木くんが現れる。「ひさしぶりだなー」と言いつつ、私の心臓はばくばくしていた。鈴木くんはどうしちゃったのだろう。
(彼女と別れた? いや、実は勉強が忙しかったとか?)
聞きたいことは多々あれど。余計な事を言わない方が良さそうに思えた。鈴木くんは、どんどん次へ行くべきだし。
「そ、そうだ、いまやってるテレビけっこう面白いよ。芸人さんがガーッて」
そう言う私の唇が、強引に塞がれる。その後、鈴木くんは迫って来るでもなく、考え込んでいた。
「……鈴木くん?」
「あの……僕はどうやら山辺さんが好きみたいです」
私は心の中で驚き、そのあと泣いてしまった。恥ずかしい。でも、これなら私も好きと伝えていいのかな。
「そういうのは早く言ってよ! 馬鹿!」
「なんで泣くんですか」
「アラサーのオバサンはね、君がいつでも気兼ねなく他へ行けるように、性の捌け口になっときゃいいかなって……!」
「はぁ、それでセフレ以下の対応を。僕たち無駄な時間を過ごしていましたね……」
鈴木くんが私を優しく押し倒す。以前の雑な抱き方が嘘みたいに丁寧だった。だから私の涙は余計に止まらなくなる。
そんな中、鈴木くんがもう一回「好きですよ」と言ってくれた。泣いている私は同意するので精一杯。でも、鈴木くんは蕩けるような笑みを見せてくれた。私はその笑顔がとても嬉しくて――こんな鈴木くんとだったら、いつまでも一緒に居られる気がした。
その子の働き振りは大変良かった。資源回収だから重たい本を縛った物なども存在し、でもひょいひょいと運んで見せる。お陰でかなり助かった。
私はお礼としてカフェに誘い、アイスコーヒーを奢った。
「ありがとうね~、私始めみんなジジババだから助かったわ」
「いえいえ……」
男の子は割と寡黙だった。まぁ先ほど会ったばかりのオバサン相手じゃこんなものか。なので、アイスコーヒーを飲み終わったらすぐに解散。男の子はさっさと帰っていった。もしかしたら私は余計な事をしたかもしれない。
その翌日、月曜からの私は仕事に忙殺されていた。雑務が多くて大変だ。合間に本来の仕事もしなくてはならないし、まさに忙殺という言葉が相応しい。
でも一応、土日は休みなので助かる。気分転換にお酒でも飲むか。お料理が美味しい居酒屋に行こう。誰かと一緒に、なんて思っていたら、皆さん週末を供に過ごす彼女や彼氏が居て、羨ましいですこと。
なので居酒屋のお一人様コーナーに座る事となる。宅飲みも寂しかったりするから。
そこで、資源回収の時に出会った男の子と偶然にも隣席となった。
「わー、どうもどうも、私のこと覚えてる?」
「覚えてますよ」
「へぇ、記憶力いいんだね」
「ご近所ですし、アイスコーヒーも奢って貰いましたし。美味しかったです、ありがとうございました」
今さらお礼を言う男の子。私は微笑んでしまった。
「えっとねー、私は山辺涼っていうの。OLやってる! あなたの名前は?」
「鈴木翔太です、暇な大学生をやってます」
「へぇ~! いいねぇ!」
私が素直に羨ましがると、鈴木くんはなぜか慌て始めた。
「いや、卒論が終わっただけですよ? 勉強自体はきちんとしていて――」
「やだもう、言い訳しなくていいよ! それより残された休みを楽しみたまえ~! 社会に出たら忙しいんだぞ!」
その時、二杯目のレモンサワーが到着する。私はぐいっとグラスを傾け、とてもいい気分になった。いや、いい気分になり過ぎた。たぶん私は眠ってしまって、鈴木くんに肩を貸してもらっての帰宅をしたのだ。
そこから先は、なぜか鈴木くんにキスされて最後まで。終わると鈴木くんは眠ってしまった。完全に酔った勢いというやつだ。
(わぁ~! どうしよ! ご近所さんなのに!)
でもまぁ、抱かれた心地は悪くなかった。いや、欲しがられた気分にはツンとした甘みすら覚えた。こちとら独り身の寂しいOLなのだ。本当はお付き合いとかが始まるかな、と期待しちゃうところだけれど、相手は大学生。これから未来があるし、何だかな。
そんな事を考えていたら、出勤の時刻になってしまった。目が覚めた鈴木くんよ、食パンをジャムで食べるといい。ついでにメモでも残そうか。『仕事に行く、また来たければ来て』と。正直、鈴木くんがまた来てくれたら嬉しいので。
そしたら、本当に鈴木くんは来てくれた。いつも他愛ない話をしてから、私は抱かれる。アラサーのおばさんにとっては、それだけで十分幸せだったりした。
そんな生活がしばらく経つと、鈴木くんは携帯の番号を教えてくれて――私も教えたけれど、恐らく鈴木くんの携帯を鳴らす事は無いように思える。だって若い子の邪魔をしたくない。
それでも鈴木くんは我が家へやってくる。一度だけ「僕の事をどう思ってるんですか?」と聞かれたけれど、その辺はアラサーを発揮して「どうだと思う~?」なんてのを繰り返して煙に巻いた。鈴木くんは不本意そうだったけど、それでも私を抱いて帰る。私はその背中に「本当は大好きだよ」と伝えた。そう、私はツンとした甘みから始まって、すっかり鈴木くんの事を好きになっていた。たくさん抱かれたので、じわじわと。
でも、しばらくすると鈴木くんの抱き方が雑になった。それでも私は鈴木くんに抱かれる。だって好きだし。でもこの抱き方は、まるで性の捌け口みたいだ。この辺がオバサンという身の上に丁度いいってものだろう。
しばらくすると、鈴木くんは私に飽きたらしい。もう三週間も顔を見ていない。
「まぁしょうがないよね~、遂に彼女が出来たか」
鈴木くんと私の関係は、正直言ってセフレ以下。だって私から一切連絡とかはしないし、鈴木くんに「抱いて」とねだる事もなかった。それは鈴木くんが私を気にせず、いつでも他に行けるようにとの配慮だ。なので、彼女が出来たからと言って私に報告する義務は無い。でもまぁ、寂しいと思う事だけは許してもらいたい。私はあまり面白くもないテレビを見つつ、そんな事を感じていた。
そこに、いきなり鈴木くんが現れる。「ひさしぶりだなー」と言いつつ、私の心臓はばくばくしていた。鈴木くんはどうしちゃったのだろう。
(彼女と別れた? いや、実は勉強が忙しかったとか?)
聞きたいことは多々あれど。余計な事を言わない方が良さそうに思えた。鈴木くんは、どんどん次へ行くべきだし。
「そ、そうだ、いまやってるテレビけっこう面白いよ。芸人さんがガーッて」
そう言う私の唇が、強引に塞がれる。その後、鈴木くんは迫って来るでもなく、考え込んでいた。
「……鈴木くん?」
「あの……僕はどうやら山辺さんが好きみたいです」
私は心の中で驚き、そのあと泣いてしまった。恥ずかしい。でも、これなら私も好きと伝えていいのかな。
「そういうのは早く言ってよ! 馬鹿!」
「なんで泣くんですか」
「アラサーのオバサンはね、君がいつでも気兼ねなく他へ行けるように、性の捌け口になっときゃいいかなって……!」
「はぁ、それでセフレ以下の対応を。僕たち無駄な時間を過ごしていましたね……」
鈴木くんが私を優しく押し倒す。以前の雑な抱き方が嘘みたいに丁寧だった。だから私の涙は余計に止まらなくなる。
そんな中、鈴木くんがもう一回「好きですよ」と言ってくれた。泣いている私は同意するので精一杯。でも、鈴木くんは蕩けるような笑みを見せてくれた。私はその笑顔がとても嬉しくて――こんな鈴木くんとだったら、いつまでも一緒に居られる気がした。
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