それっぽっちの事で

けろけろ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

それっぽっちの事で(山辺さん視点)

しおりを挟む
 それは第四日曜日、町内会の資源回収係が切っ掛けだった。アラサーの私よりも大分若い男の子が、係としてやって来たのだ。整った顔立ち、これから資源回収をするというのにお洒落な服装。ぱっと見、大学生くらいだろうか。
 その子の働き振りは大変良かった。資源回収だから重たい本を縛った物なども存在し、でもひょいひょいと運んで見せる。お陰でかなり助かった。
 私はお礼としてカフェに誘い、アイスコーヒーを奢った。
「ありがとうね~、私始めみんなジジババだから助かったわ」
「いえいえ……」
 男の子は割と寡黙だった。まぁ先ほど会ったばかりのオバサン相手じゃこんなものか。なので、アイスコーヒーを飲み終わったらすぐに解散。男の子はさっさと帰っていった。もしかしたら私は余計な事をしたかもしれない。

 その翌日、月曜からの私は仕事に忙殺されていた。雑務が多くて大変だ。合間に本来の仕事もしなくてはならないし、まさに忙殺という言葉が相応しい。
 でも一応、土日は休みなので助かる。気分転換にお酒でも飲むか。お料理が美味しい居酒屋に行こう。誰かと一緒に、なんて思っていたら、皆さん週末を供に過ごす彼女や彼氏が居て、羨ましいですこと。
 なので居酒屋のお一人様コーナーに座る事となる。宅飲みも寂しかったりするから。
 そこで、資源回収の時に出会った男の子と偶然にも隣席となった。
「わー、どうもどうも、私のこと覚えてる?」
「覚えてますよ」
「へぇ、記憶力いいんだね」
「ご近所ですし、アイスコーヒーも奢って貰いましたし。美味しかったです、ありがとうございました」
 今さらお礼を言う男の子。私は微笑んでしまった。
「えっとねー、私は山辺涼っていうの。OLやってる! あなたの名前は?」
「鈴木翔太です、暇な大学生をやってます」
「へぇ~! いいねぇ!」
 私が素直に羨ましがると、鈴木くんはなぜか慌て始めた。
「いや、卒論が終わっただけですよ? 勉強自体はきちんとしていて――」
「やだもう、言い訳しなくていいよ! それより残された休みを楽しみたまえ~! 社会に出たら忙しいんだぞ!」
 その時、二杯目のレモンサワーが到着する。私はぐいっとグラスを傾け、とてもいい気分になった。いや、いい気分になり過ぎた。たぶん私は眠ってしまって、鈴木くんに肩を貸してもらっての帰宅をしたのだ。
 そこから先は、なぜか鈴木くんにキスされて最後まで。終わると鈴木くんは眠ってしまった。完全に酔った勢いというやつだ。
(わぁ~! どうしよ! ご近所さんなのに!)
 でもまぁ、抱かれた心地は悪くなかった。いや、欲しがられた気分にはツンとした甘みすら覚えた。こちとら独り身の寂しいOLなのだ。本当はお付き合いとかが始まるかな、と期待しちゃうところだけれど、相手は大学生。これから未来があるし、何だかな。
 そんな事を考えていたら、出勤の時刻になってしまった。目が覚めた鈴木くんよ、食パンをジャムで食べるといい。ついでにメモでも残そうか。『仕事に行く、また来たければ来て』と。正直、鈴木くんがまた来てくれたら嬉しいので。

 そしたら、本当に鈴木くんは来てくれた。いつも他愛ない話をしてから、私は抱かれる。アラサーのおばさんにとっては、それだけで十分幸せだったりした。
 そんな生活がしばらく経つと、鈴木くんは携帯の番号を教えてくれて――私も教えたけれど、恐らく鈴木くんの携帯を鳴らす事は無いように思える。だって若い子の邪魔をしたくない。
 それでも鈴木くんは我が家へやってくる。一度だけ「僕の事をどう思ってるんですか?」と聞かれたけれど、その辺はアラサーを発揮して「どうだと思う~?」なんてのを繰り返して煙に巻いた。鈴木くんは不本意そうだったけど、それでも私を抱いて帰る。私はその背中に「本当は大好きだよ」と伝えた。そう、私はツンとした甘みから始まって、すっかり鈴木くんの事を好きになっていた。たくさん抱かれたので、じわじわと。
 でも、しばらくすると鈴木くんの抱き方が雑になった。それでも私は鈴木くんに抱かれる。だって好きだし。でもこの抱き方は、まるで性の捌け口みたいだ。この辺がオバサンという身の上に丁度いいってものだろう。



 しばらくすると、鈴木くんは私に飽きたらしい。もう三週間も顔を見ていない。
「まぁしょうがないよね~、遂に彼女が出来たか」
 鈴木くんと私の関係は、正直言ってセフレ以下。だって私から一切連絡とかはしないし、鈴木くんに「抱いて」とねだる事もなかった。それは鈴木くんが私を気にせず、いつでも他に行けるようにとの配慮だ。なので、彼女が出来たからと言って私に報告する義務は無い。でもまぁ、寂しいと思う事だけは許してもらいたい。私はあまり面白くもないテレビを見つつ、そんな事を感じていた。
 そこに、いきなり鈴木くんが現れる。「ひさしぶりだなー」と言いつつ、私の心臓はばくばくしていた。鈴木くんはどうしちゃったのだろう。
(彼女と別れた? いや、実は勉強が忙しかったとか?)
 聞きたいことは多々あれど。余計な事を言わない方が良さそうに思えた。鈴木くんは、どんどん次へ行くべきだし。
「そ、そうだ、いまやってるテレビけっこう面白いよ。芸人さんがガーッて」
 そう言う私の唇が、強引に塞がれる。その後、鈴木くんは迫って来るでもなく、考え込んでいた。
「……鈴木くん?」
「あの……僕はどうやら山辺さんが好きみたいです」
 私は心の中で驚き、そのあと泣いてしまった。恥ずかしい。でも、これなら私も好きと伝えていいのかな。
「そういうのは早く言ってよ! 馬鹿!」
「なんで泣くんですか」
「アラサーのオバサンはね、君がいつでも気兼ねなく他へ行けるように、性の捌け口になっときゃいいかなって……!」
「はぁ、それでセフレ以下の対応を。僕たち無駄な時間を過ごしていましたね……」
 鈴木くんが私を優しく押し倒す。以前の雑な抱き方が嘘みたいに丁寧だった。だから私の涙は余計に止まらなくなる。
 そんな中、鈴木くんがもう一回「好きですよ」と言ってくれた。泣いている私は同意するので精一杯。でも、鈴木くんは蕩けるような笑みを見せてくれた。私はその笑顔がとても嬉しくて――こんな鈴木くんとだったら、いつまでも一緒に居られる気がした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

そんな事言われても・・・女になっちゃったし

れぷ
恋愛
 風見晴風(はるか)は高校最後の夏休みにTS病に罹り女の子になってしまった。  TS病の発症例はごく僅かだが、その特異性から認知度は高かった。 なので晴風は無事女性として社会に受け入れられた。のは良いのだが  疎遠になっていた幼馴染やら初恋だったけど振られた相手などが今更現れて晴風の方が良かったと元カレの愚痴を言いにやってくる。  今更晴風を彼氏にしたかったと言われても手遅れです? 全4話の短編です。毎日昼12時に予約投稿しております。 ***** この作品は思い付きでパパッと短時間で書いたので、誤字脱字や設定の食い違いがあるかもしれません。 修正箇所があればコメントいただけるとさいわいです。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...