二匹の猫たち

けろけろ

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二匹の猫たち

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 うちの高校は今日も平和だ。
 僕はバイトの忙しさを忘れ、中庭のベンチに座っていた。
隣には幼馴染かつ片思い中の絢ちゃん。ショートカットが似合う、とても可愛い女の子だ。その絢ちゃんが昼食を作ってくれたというので、これから一緒に食べる予定。
 でも、今日の僕には昼食よりも重要な使命があった。二人きりの今こそ、この想いを絢ちゃんに伝えようと思っているのだ。
 ああ、かなり緊張する。とりあえず僕は、話のきっかけを作る事にした。
「あのさ、絢ちゃんって……彼氏いるの?」
「……いきなりどうしたの?」
「ちょっと聞きたいなぁって」
「なんで?」
「いや、本当にちょっとした興味本位」
「ふうん、彼氏は別にいないけど……?」
 彼氏はいないと聞いて、ちょっとだけホッとする。それが微笑として現れてしまったらしく、絢ちゃんはムッとしながら突っかかってきた。
「私に彼氏がいないの、そんなに面白い?」
「えっ!? いや、面白いわけじゃなくて、安心したっていうか!」
「あっ! 何が言いたいか解った。自分にも彼女がいないから、私に先を越されてなくて安心した──違う?」
 絢ちゃんはそう言いながら、お弁当箱を開けている。中身は卵焼きを始め、僕の好物ばかりだ。
「すごい、美味しそうだね!」
「正樹の口に合うといいけど」
「んじゃ、早速──うん! やっぱり最高だよ!」
「あはは、大げさ」
 好きな人が握ったおにぎりは、なんでこんなに美味しいんだろうか。ちょっと涙が出そうになった。絢ちゃんはきっと、いいお嫁さんになれる。旦那になる人は幸せだ。あわよくば僕がその地位に就きたい。
 僕はしばらく考え、食事が終わった辺りで告白する事にした。絢ちゃんは食べるのが遅い方だから、こちらもゆっくりと良い雰囲気を作るつもりで。
 そこに。
「見て正樹! 猫がどこかから二匹も入り込んでいる!」
「本当だ! 可愛いなぁ」
 絢ちゃんが指す方向には、黒と茶色の猫がいた。茶色の猫は黒い猫に対してちょっかいを掛けては嫌がられていて、僕はなんとなく共感する。僕が茶髪で絢ちゃんが黒髪だからだ。
 絢ちゃんも同じような事を考えたようで、茶色の猫が僕に似ていると言い出した。
「正樹も私に、ああやって絡んでくる時があるね。嫌がられてもめげない所がそっくり」
「……うん、そうかも」
 色も行動も似ていたから、僕は茶色の猫を応援する。黒い猫と仲のいい様子を見せてくれれば、僕達の雰囲気だってとても良くなりそうだ。そして、僕が告白をしてOKを貰い、仲が良くなった僕たちと猫たちが並んだらどんなに素晴らしいだろう。
(……頼むぞ、茶色の猫!)
 僕はハンバーグを食べながら強く念じた。けれど、そうそう事は上手く運ばない。茶色の猫が黒い猫の首に噛み付き、あろうことか交尾を始めてしまった。割と気まずい。絢ちゃんはそれを見て、やれやれという風に苦笑した。
「……少し似ていると思ったけど、私と正樹じゃ有り得ないね」
「えっ!? そ、そう!? 別にいいんじゃない!? 僕的にはアリだと思うけどなぁ! うん、絶対にアリだと思うんだけどなぁ!」
「馬鹿な事を言ってないで、教室に戻るよ」
「馬鹿じゃないよ! アリだってば!」
 僕が必死でフォローしたけれど、絢ちゃんは食べ終わった弁当箱を片付けて先に立ち上がってしまう。そして、とことこ歩き始めた。僕は散々な気分で、まだ交尾している猫を睨んでから絢ちゃんの後を追う。
「待ってよー!」
「来ないで!」
「えー!?」
 絢ちゃんの隣に並んだら、耳まで真っ赤になっている彼女が見えた。もしかしたら、アリだと言った僕の発言を真剣に受け止めてるのかもしれない。これはチャンスだ。
「あのさ、僕、絢ちゃ――」
「聞きたくない!」
「あ」
「うるさい!」
 僕は聞く耳を持たない絢ちゃんの左手を握る。すると彼女は右手に持っていた弁当箱を取り落とした。
「ねぇ絢ちゃん、あの猫たち、とても仲が良かったよね。僕、ちょっと羨ましかったな」
「あの子たちは単に本能で動いているだけだよ! 羨ましがる必要ないんじゃないかな!」
 まるで本能を馬鹿にしたような口ぶりの絢ちゃん。だったら──。
「ええと、僕は人間だから、君のことが本能と理性の両方で好きだよ。ねぇ、僕と付き合ってくれない?」
「……っ!」
 絢ちゃんは立ち去ろうとした。でも、僕が逃がさない。きっと今、彼女の脳内では、色々な出来事が去来しているはずだ。そこに僕が存在し続けられるよう、僕は少しだけ握った手に力を籠める。
「は、放して!」
「返事をしてくれたら放す」
「昔っから強引な所あるよね!」
「好きだからだよ、ごめん」
 暫くの間。
 予鈴が鳴ってもそのままでいたら、絢ちゃんはこれ以上無いほどに赤面して僕の手を握り返してきた。どうやら絢ちゃんの気持ちは、僕に都合がいい方向で決まったらしい。
「いいの?」
「……聞かないでよ! 大体、正樹は意外と頑固で! 私は常々──」
 かなりぶつくさ言っているけど、絢ちゃんは僕と付き合ってくれるようだ。
 嬉しくなって猫たちを見たら、二匹はそっと寄り添っていた。
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