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聖女さん、帝国へ行く

私、弟子を殺害しました……?

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 弟子の前までやってくると、弟子は目をぱちくりとさせていました。可愛いです。ですが私は、師匠としてキビシく育てます。

「弟子」
「は、はいッ!」

 硬めの声でそう呼びかけると、ビクリと肩を震わせながら、返事を返してきました。やけにビクビクしているような気がしますが……なぜでしょう?

「よく、見ていましたか……?」

 まだ基礎すらやっていない状態ですし、私は正直、あまり為にはなっていないと思います。なんなら、私の移動が目で追えていたかも怪しいところ。

 しかし、私は一応、自分の戦闘を"見せる"目的で戦っていたので、見ていたかどうかは聞いておかなくてはなりません。

「……見え、ませんでした……」

 俯きながら、答えました。

 弟子は案の定、見えていなかったようです。まあ、しょうがないですよね。つい数時間前までは、路地裏で孤児をやっていた訳ですし。

 これに関して、私は一切責めるつもりなどありません。無理なことは無理。不可能なのですから。それを死んででもやれと言うのは、王国のサルと同じです。

 私は、ああはなりたくありません。人間の最底辺どころか、人間かすら怪しいですからね。
 なので、よしよしと頭を撫でてあげます。撫で方はおじいさんに教わったので、上手ですよ。

「正直に言って偉いですね。これからゆっくり、成長していきましょう」

 そう励ましの声を掛けると、まるで雨上がりに輝く花のような笑顔を浮かべました。とても可愛いです。

「はい! が、頑張ります!」
「では、馬車まで戻りましょうか」

 馬車が進んで行った方を見やると、馬車は既に、豆粒のように小さくなっていました。ちょっと時間をかけすぎましたね。

 そう言えば、魔物たちは大人しいですね……?

 そう思って周りを見れば、魔物たちは両手を着いて、額を地面に擦り付けていました。ガクガクと震えながら。
 ……何をやっているんでしょう?

「弟子。アレは、何をやっているのか分かりますか?」

 弟子も困ったように眉根を下げていました。どうやら分からないみたいです。まあ、襲いかかって来ないのならよいです。

 どうせもう、興味もありませんしね。

 ではそろそろ馬車へと合流しましょうか。そのために、今度はちゃんと声を掛けます。

「弟子。今からビューンします。気持ち悪くなったら、私の胸にギュッとしていいですからね。遠慮なくどうぞ」

 魔物たちを放置したまま弟子を右腕に抱え、左手にトカゲの尻尾を握りながら、踏み込みました。
 そして、急加速。

 ドゴォァァンッッッ

 地面を爆ぜさせながらの、爆速進行。大地は足の形すら残らないほどに抉れ、巻き上げられた砂石は、いくつかの魔物を死に至らしめる。

 ……ん? なんかこれ、私の全速力では……?

 そう思った次の瞬間にはもう、セレスティアさんは馬車の輪郭がハッキリと見える距離にいた。おおよそ、馬車までもう半分、といったところ。

 つまり、セレスティアさんはたった一歩の踏み込みで、数キロを一瞬にして駆け抜けた、という事である。

 腕の中の少年は、大丈夫であろうか? 安否ーーいや、生死が心配である。

 うぉっとっととと。慌てて急ブレーキを掛けながら、何故こんなにもスピードが……? と考えます。そして、先程の魔物の不審な態度と、ピッチリ繋がりました。

「ああ、私、魔力出したままですね。うっかりしていました」

 魔力を抑えて、一安心……したところで、気付く。

「あふ……」
「へ? 弟子。起きて。ほら」

 一度トカゲを置いて、ぷにぷにの頬をぺちぺちと叩きます。

 ぺちぺち。ぺちぺち。ぺちぺちぺちぺち。ぺちぺちぺちぺち。

「あ、あれぇ……起きない……?」

 さすがに焦ってきました。う〇こを漏らした時でさえ、こんなに焦ったことはないと言うのに。

「も、もしかして……しんだ?」

 白目を剥きながら、泡をぶくぶくと吹いています。顔も青と言うより、もはや真っ白になっていて、腐敗臭の進んだゾンビのようです。我が弟子ながら見ていられない有り様で、ちょっと可哀想(他人事)。

 早く回復させてあげよう! と思った私は、《回復魔法》の最上級(と私が勝手に呼んでいる)、私の開発した《完全再生パーフェクトオール》の魔法をかけた。

 私の出せる魔力出力の全てで、魔法をぶち込みます。すると、覚醒したかのように目覚めました。

「アッー!!!」
「ぴッ!?!!?」

 師匠に情けない声を出させるとは、躾が必要ですね……! 街に着いたら、たくさんお仕置をしてあげますからね!

 そう思っていたのに、

 バタッ

 弟子が倒れました。

「……これ私が悪い……?」

 現在この場にいるのは、セレスティアさんと死んだドラゴン。そして泡を吹いて倒れている弟子のみ。
 答えてくれる者は、誰もいなかった。

 ただ、セレスティアさんの弟子は、彼女が無意識に風の障壁を展開していたとは言え、体にかかる莫大な負担を耐え切っている。
 彼のポテンシャルが、相当にズバ抜けていると示される結果となった。

 まあ、セレスティアさんはその事に全く気が付いていないのだが。

「弟子ー!!? 起きてー!? 寝たら死ぬ! 寝たら死ぬぞぉぉぉ!!!!!」

 ちなみに、寝たら死ぬのは雪山である。
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