5 / 45
聖女さん、帝国へ行く
私、何かやっちゃったんですか?
しおりを挟むガタンガタンと揺れながら、馬車は街道を進んでいきます。
ほのぼのとした気持ちのいい天気で、何だか眠くなってきます。
今までは、こんなにゆったりと過ごせることもなかったので、新鮮な気持ちでいっぱいです。
頬を撫でる爽やかな風も、暖かな日差しも、初めての体験ですね。
「ふわぁぁ……」
ついつい、あくびが出てしまいました。
「おやお嬢ちゃん、眠ぃのかい?」
そう問いかけてきたのは、私が最初に質問をした、商人をやっていると言う若めの男性です。
「ふぁい……昨日はちょっと、寝ていなくって……ふぁぁ……」
本当は途中で仮眠をとるつもりだったのに、昨日の夜は結局、ずぅーっとお城の音を聞き続けていましたからね。《回復魔法》を使えばあと数日くらいは起きていられますけど、今はそんなに頑張る必要もありませんし。
「そうか。まあ、ここ最近の王都は荒れてたからな。寝れないのも仕方がねぇよな。
よし、んならお嬢ちゃん。護衛は雇っている冒険者もいるからな、お嬢ちゃんは少しの間寝ててもいいぜ」
やはり優しい方なのでしょう。私の事を気遣って、護衛のはずの私に対して、「寝てもいい」と言ってくださいました。
私はせっかくですから、その言葉に甘えることにしました。
「ふぁい。それじゃぁ~……遠慮なくぅ……」
私の意識はそのまま、暖かい闇へと沈んでいきました。お昼寝なんて、贅沢だなぁなんて思いながら。
~~~
「おい! 右だッ!」
「ダッシュ! 気を付けて! 沢山来るわよ!!!」
……ん~? 何だか焦ってるような声が聞こえますぅ……?
「ふわあぁぁぁ……みゅ~……」
「おい嬢ちゃん! 起きたか! とっとと逃げるぞ!」
ん~? あなただぁれ?
「……ふぁぁ」
現在のセレスティアさんは、寝起きで非常にぽやぽやしていた。
普段の彼女ならば、お昼寝云々以前に、そもそも寝落ちなど有り得ない。夜、自室の中でさえ必ず結界を張り巡らせ、何かがあれば一番に行動していた。
しかし、王都から抜け出すことで、辛く苦しい奴隷生活から解放されたと喜んだセレスティアさんの頭は今、非常に残念な状態になっていた。
詳しく述べるのならば、現在の彼女の頭は回っていないどころか、動こうとすらしていない。
それは今までのツケであろう。
彼女は確かに、独自に開発した特別な《回復魔法》を用いることで、睡眠時間を削ることが出来る。しかしそれは、体が無理をしていないのか、と問われればそうではない。体に無理を強いた上で、ギリギリを保ちながらやってきたのだ。
その確かな下支えは、彼女の意志のみだった。
しかしその支えは、唯一の柱は、王都を出ることで崩れ落ちた。今の彼女を縛るものは、無いのである。
そんな彼女が、「もう頑張らなくていいや~」と、初めてのゆっくりとした睡眠に就けばどうなるか。
そう、起きないのである。
もう誰も、彼女を起こすことは叶わない。しかし、彼女の体は覚えている。邪魔者を排除する方法を。
そして彼女には、無理に無理を重ねたことで得た、神にも等しき膨大な魔力量がある。
その二つが組み合わさった時、彼女は無限の惰眠を手に入れる。
現在の彼女は、言わば惰眠欲の権化である。
睡眠を無意識に愛し、求める眠りの聖女。
そんな彼女が、睡眠妨害をされようとしている。
今一度述べるが、彼女には膨大な魔力が宿っており、それを使うための最強魔法群も備えている。加えて、彼女の体は睡眠を求めている。
するとどうなるか。
そう、邪魔者は弾け飛ぶのだ。そこには、情け容赦など一切ない。
バチッバチバチバヂィン
ドガガガガーン
雇われたAランク冒険者たちが苦戦するような魔物の大群が、一瞬にして消え去った。
後に、その場にいた冒険者や商人は語ったと言う。
「……何が起こったのか、全く分からなかった」、と。
だがそれは、また別のお話。
大口を開けて唖然呆然とする冒険者や商人たちの中で一人、(あくびで)大口を開けている少女がいた。
「ふわぁあぁぁぁ。……んみゅ? ん~……くぅ……」
そして寝た。
少女一人以外、全員が置き去りにされている現場では、地獄のような光景が拡がっていた。
「なに……これ……」
誰が発したのかも分からない声。しかしその声は、その場にいる全ての(おねむちゃんを除く)人の心情をよく、表していた。
上位種と呼ばれるハイオークや、エリートゴブリンに続き、下位とは言えども、最強種との称号を恣にする龍種のアースドラゴン。その他、大多数の魔物たちがブツ切りに刻まれ、焦がされ、貫かれ、凍らされ、蒸発させられ、と、あらゆる方法を以て始末されていた。
地面には夥しいほどの血がこびりつき、霧となった血がその場を赤く染め上げている。
山のように積もった魔物たちの死骸もまた、恐怖を煽る。
Aランクという高位冒険者たちですら、何が起こったのか分からない。戦いに身を置いていない商人たちですら、その光景が異常だと理解できる。
その様は、ただただ恐怖でしかなかった。
冒険者や商人たちは、慌ててその場から離れていった。
5
お気に入りに追加
2,379
あなたにおすすめの小説
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
聖女の仕事なめんな~聖女の仕事に顔は関係ないんで~
猿喰 森繁
ファンタジー
※完結したので、再度アップします。
毎日、ぶっ倒れるまで、聖女の仕事をしている私。
それをよりにもよって、のんきに暮らしている妹のほうが、聖女にふさわしいと王子から言われた。
いやいやいや… …なにいってんだ。こいつ。
いきなり、なぜ妹の方が、聖女にふさわしいということになるんだ…。
え?可愛いから?笑顔で、皆を癒してくれる?
は?仕事なめてんの?聖女の仕事は、命がかかってるんだよ!
確かに外見は重要だが、聖女に求められている必須項目ではない。
それも分からない王子とその取り巻きによって、国を追い出されてしまう。
妹の方が確かに聖女としての資質は高い。
でも、それは訓練をすればの話だ。
まぁ、私は遠く離れた異国の地でうまくやるんで、そっちもうまくいくといいですね。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
私が作るお守りは偽物らしいです。なので、他の国に行きます。お守りの効力はなくなりますが、大丈夫ですよね
猿喰 森繁
ファンタジー
私の家は、代々お守りを作っている。
元々、神様に仕えていたご先祖が、神様との橋渡し役としてのお守り。
後利益も効力も他のお守りとは、段違いだと、わざわざ長い時間をかけて買いに来てくれるお客様もいるくらいである。
なのに、どっから湧いてきたのか変なおっさんが、私のお守りは、パクリの上に、にせものだと被害届を出しやがり、私のお店はつぶれてしまった。
ムカつくので、他の国に行きます。
お守りの効力はなくなりますが、私のお守りは偽物らしいので、別にいいですよね?
※本来、お守りは「売る」「買う」とは、言いませんが、そこも含めてファンタジーとして、読んでください。
※3/11完結しました。
エールありがとうございます!
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません
柚木ゆず
ファンタジー
厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。
厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。
そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。
陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。
わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。
――ホズラティア様、お願いがございます――。
――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。
――どうか、国民の皆様をお救いください――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる