4 / 45
聖女さん、見切りをつける
私、国を出ます!
しおりを挟む夜の間ずっと音を聴いていたのですが、皆さん喧嘩ばかりしていました。
やれ「お前のせいだ!」とか、やれ「これからどうする!」だとか。とにかくずぅーっと、怒鳴り声ばかりが届いてきました。
バカなのでしょうか?
今まで使えていた道具が突然使えなくなって、焦る気持ちは分からなくもないですけど、もうちょっと建設的なお話をした方がいいのでは? と思ってしまいます。
まあ、私は人々の治癒や解呪に加えて、魔物を弱らせる結界を国の全域に張っておりましたしね。そんなことが出来るのなんて、恐らく私以外にいません。過去の大賢者と言われる人ですら、結界は精々都市一つ分程度、と記載されておりましたしね。
向き不向きの話かもしれませんけど、私の場合は便利系魔法も攻撃魔法も使えます。
……あら? これってもしかして、私は最強なのでは? 魔力だって、普通の魔法に掛かる魔力量を仮に1とするなら、魔力の回復速度を考慮すれば、無限に、尽きることなく打ち続けることが出来ます。恐らく、魔法一つに500かかる、って所くらいまでなら無尽蔵です。
……最強なのでは?
コホン。それはまあ、今はいいでしょう。
それよりも。私が分析しているところの現在の王国側の状況ですが、彼らが思っているよりも、断然にヤベェです。
と言うのも、私は国中に結界を張っていたので知っているのですが、この王国の中にある森って、その半分の半分くらいが超危険地帯なんですよね。
魔物たちが、クソ強なんです。例を挙げるなら、最上級の強さを持った黒龍が湧き出してくるような森が、四つに一つある、という事です。
しかしそれでも、今まではなんとか討伐出来てきました。
なぜって?
私がいたからです。
いつの日にか、国王のクソ野郎に「お前のせいで騎士が傷付いた! 結界の出力を上げろ!」、と怒鳴られましたが、私から言わせれば、魔物の力が60パーセントも弱くなっている状態で辛勝しか出来ない騎士たちが、ハッキリ言って弱すぎるのです。
確かにブラックドラゴン級の魔物は強いですし、簡単に倒せるような相手じゃない。でも、もっと勤勉に訓練するなり、冒険者を雇って協力するなりしていれば、何とかなったかもしれないのです。
ですが、それでも騎士たちは考え方を改めようとはせず、それは国の重鎮たちも同様。訓練時間も、ほとんど伸びないどころか、むしろ減少する始末。騎士たちは、ドンドン弱くなっていきました。それに比例するように、私が一日に飲むゲロマズデスポーションの量は増え、結界の効力も増しました。いつの日にかは、回復効果まで付くようになっていました。
そうなるとまた、騎士たちの怠惰は加速していきました。
今の私の結界は、魔物の能力を八割削り取り、中にいる味方には常に回復効果を与え、欠損すら再生します。それに加えて、味方の能力値を平均で三割増します。
それでもつい先日の討伐戦では、死者の数が10人を超え、なんと23人も出ました。
当然私への叱責は酷いものでしたが、先程の言動からも分かる通り、彼らに「正す」という考えはありません。
つまり要であった私が欠けた今、彼らはもう、終わりなのです。
高い高い山の向こうから、キラキラとした輝きが見え始めました。
さあ、いよいよ朝日が昇ります。
王国に住まう皆さん、この朝日の光は、しっかりと目に焼き付けておいた方がいいですよ。
あなた達王国民は、あと何度、あの眩しい朝日を目に入れられるか分かりませんからね。
もしかしたら、今日が最後かもしれませんよ? だから後悔しないように、まだ生きている今の内にあの光を見て、眩しさに目を細めると良いでしょう。
守護神はもう、失われたのですから。
貴方たちの都合のいい味方は、つい先日にいなくなりましたからね。
精々、後悔しないようにしてくださいね。
私はもう、守らないから。
さて、と。眩しい朝日も昇ったことですし。
それじゃあ私は、国を出るとしましょうかね。
隠れていた路地裏から一番近くにあった門の一つに近付くと、何やら騒がしくしていた。
「これ、何か問題でもあったんですか?」
近くにいた人に聞いてみると、面白い話が聞けた。
「ん? あー、お嬢ちゃんも王都を出るのかい。そりゃぁ気の毒だが、見ての通りかなり混みあっているからねぇ……。かなり待つ事になるかも。
おっといけねぇ。
コレの原因だけんど、この国から『聖女』様が姿を眩ませたらしい。それで能ある連中は、みんなこの国から脱出しようとしてるんだな」
ほー。なるほどなるほど。
お城にしか《音届》の魔法を使っていなかったから気付かなかったけれど、ちゃぁーんと分かってる人は分かってたみたいですね。
この方も「脱出」と表現しておりますし、今の王国のヤバさを理解しているのでしょう。
「全ての門がこの状況なのでしょうか?」
こうなっている以上、私へのロックは緩くせざるを得ないでしょうし、変装もあります。だからそれほど急ぐ必要はないのですが、気持ち的な問題で、やはり早めに出てしまいたいです。
「そうだなぁ。部下からの報告では、全ての門で似たような状況になってるらしいぞ。
なんでも、王都に席を置いていた冒険者や商人は、そのほとんど全てが逃げ出そうとしているみたいだからな。
俺もそうだが、商人たちの中には店に商品を残してでも、って連中もかなり多いな。
お嬢ちゃんも気に入ってる店があるなら、今行けばタダだぜ?」
そう言ってガハハと笑っているこの方には、気持ちの良さを感じます。きっと、ちゃんと心を知っている方なのでしょう。
だからでしょうか。私は、気付けば護衛を買って出ていました。
「もし良ければ、護衛として私を雇いませんか? 新人な者ですが、腕は立つんですよ?」
ふふ、と笑えば、相手の方も笑ってくれました。
そして、
「じゃあ、お隣のロンディーヌ帝国までよろしく頼むぜ? 新人さんよ」
「ええ、任せてください。安全な旅をお約束しますとも!」
そうして私は、商人をやっているというその方の馬車に乗って、門を潜り抜けました。
私は王都の方を振り向きながら、握った拳の右親指だけを下へ向け、左中指を立てながら言ってやります。
「これから、たっくさん後悔していってくださいね!」
自分の中だけで完結させてしまうには、私の中にある彼らへの恨み辛みは、少し大きすぎたようですね。ですから私は、これから彼らの滅びを見ていきたいと思います。
王国の人たちがいくら困ろうと、私の知ったことではありません。
仮に滅んだとしても、それはあの人たちの自業自得。
もしその時になったら、私が喉に直接ぶち込まれたゲロマズクソクソポーションを飲ませながら、「ざまぁwwww」とでも笑ってやりましょうか。
楽しみですね!
ああでも、滅んでしまう前に、あのおじいさんだけは助けに来ましょう。初めて私に良くしてくれた瞳ですからね!
……そう言えば、魔法で眠らせるなりすれば、余裕で門を抜けられたかもしれませんね……。なんなら私、空飛べますし……。ボケが始まったとは、思いたくは無いですね……。
4
お気に入りに追加
2,379
あなたにおすすめの小説
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
聖女の仕事なめんな~聖女の仕事に顔は関係ないんで~
猿喰 森繁
ファンタジー
※完結したので、再度アップします。
毎日、ぶっ倒れるまで、聖女の仕事をしている私。
それをよりにもよって、のんきに暮らしている妹のほうが、聖女にふさわしいと王子から言われた。
いやいやいや… …なにいってんだ。こいつ。
いきなり、なぜ妹の方が、聖女にふさわしいということになるんだ…。
え?可愛いから?笑顔で、皆を癒してくれる?
は?仕事なめてんの?聖女の仕事は、命がかかってるんだよ!
確かに外見は重要だが、聖女に求められている必須項目ではない。
それも分からない王子とその取り巻きによって、国を追い出されてしまう。
妹の方が確かに聖女としての資質は高い。
でも、それは訓練をすればの話だ。
まぁ、私は遠く離れた異国の地でうまくやるんで、そっちもうまくいくといいですね。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
私が作るお守りは偽物らしいです。なので、他の国に行きます。お守りの効力はなくなりますが、大丈夫ですよね
猿喰 森繁
ファンタジー
私の家は、代々お守りを作っている。
元々、神様に仕えていたご先祖が、神様との橋渡し役としてのお守り。
後利益も効力も他のお守りとは、段違いだと、わざわざ長い時間をかけて買いに来てくれるお客様もいるくらいである。
なのに、どっから湧いてきたのか変なおっさんが、私のお守りは、パクリの上に、にせものだと被害届を出しやがり、私のお店はつぶれてしまった。
ムカつくので、他の国に行きます。
お守りの効力はなくなりますが、私のお守りは偽物らしいので、別にいいですよね?
※本来、お守りは「売る」「買う」とは、言いませんが、そこも含めてファンタジーとして、読んでください。
※3/11完結しました。
エールありがとうございます!
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません
柚木ゆず
ファンタジー
厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。
厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。
そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。
陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。
わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。
――ホズラティア様、お願いがございます――。
――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。
――どうか、国民の皆様をお救いください――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる