僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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番外編

2話 山本 碧の日常

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「おはよー」

「おはよう碧!なんか機嫌が悪そうだけど、なんかあったの?」

「あぁ、昨日の夜母さんと電話してたんだけど、なんか色々うるさく言ってくるからもうー腹立つし!」

「あ、そうなんだ。それはお気の毒様・・・」

「てかさー、碧のお母さんって超有名な歌手だよね?
家に帰ってきたりする?」

「いやーあんまり帰ってきて無いかも・・・」

「そうなんだ、碧ん家って大変なんじゃないー?」

「大丈夫。姉さんと弟、あと叔母さんがいるから家事とかは特に困ったことは無いよ」

あたしは山本 碧やまもと あおい
18歳の現役女子大生で良いのかな?

元々両親は仕事で家を空けることが多くて、大学生になった今でも電話やメールで連絡を取るぐらいで家に帰ってきたりする機会が滅多に無い程で、たとえ帰ってきたとしてもすぐに家を後にしてしまう。
数週間前に弟の賢人が大阪地元の公立高校から東京こっちに上京かつ転校してくるなんて初めて聞いた時には、姉の結衣ゆいなんか大騒ぎになっただけあって次女としても心配していた。
でもついこの間の朝、偶然バッタリお友達と会ったけど、そのおかげで既に友達が数人出来ていると分かってある意味安心した。

「おーい、早乙女!山本!ちょっと来てくれないかー?」

碧とその友人、早乙女愛梨さおとめあいりを呼んでいるのは、クラスの担任で皆から慕われている濱口一真はまぐちかずま先生ことはまちゃんだった。

「ごめん、後でね?行こう、愛梨」

「OK、碧」

碧は自身の席から立ち上がり、愛梨と共に教室から出て濱口先生のいる廊下へと向かった。

「どうしたの?濱ちゃん」

「ウチら、今良い所だったのに~・・・」

「急に呼び出して悪いな。
この荷物を全部倉庫に運ぶようにと吉田先生から頼まれてなぁ・・・。悪いけど二人共手伝ってくれ!」


「「えぇ~~~!?」」


碧と愛梨は二人揃って心の底からめちゃくちゃ嫌そうな顔をして声を揃えた。

「勘弁してよ、濱ちゃん!そういうのマジ怠いし!」

「ウチら以外にも頼む人いっぱいいるでしょー!?」

「そうだよ、よりによってなんでウチらな訳!?」

「早乙女、山本。お前たちはクラスで1番運動神経が良いし、大の力持ちなんだろ?」


「「うっ、それは・・・」」


そう、碧と愛梨はクラスの中では。否、学年一とも言われている程の運動神経が抜群なのだ。
ちなみにどちらがどのように強く、どっちの方が強いのかと言うと碧がパワー系なので腕力、それに対して愛梨はスピード系、すなわち脚力に優れているので、力なら碧が僅かに優れている。

「こんな大量の荷物を運べる生徒はお前たち二人以外に誰がいる?」


「「そ、それはウチらしかいないわねぇ・・・」」


「ま、そういうことからさっさと手伝ってくれ!」


「「はいはい」」


濱口先生は張り切っていてやる気満々だったが、碧と愛梨は尚と心の底からめちゃくちゃ嫌そうな顔をして、ぶつぶつと文句を呟きながらも荷物を運ぶ準備(?)として二人は上と下の袖を折って動きやすいようにした。

「じゃあいきますか!いよっこらしょ!!

碧は大学で使う為に必要な用具がたくさん入った段ボール箱を持ち上げえ、それに続いて愛梨も碧とは別の書類や資料が入った段ボール箱を肩に担いだ。

「う~ん、やっぱ重たい・・・」

「ホントそれ・・・・・・」

「よし、持ったな?じゃあ行くぞ!」

濱口先生は陸上部が使っている折り畳み式のテントが入った分厚い布袋を背中に背負い、更に図書委員が綺麗に纏めて倉庫行きになった本が入った段ボール箱を両手で持つと、1階の職員室の近くにある倉庫へと向かって碧と愛梨がその後に続いた。


◇◇◇◇


「ふぅ、二人ともありがとな。助かったよ」


「「いえいえ、どういたしまして(棒)」」


濱口先生にお礼を言われるなり棒読みで軽く返事をして押し流しすと、そそくさと立ち去っていった。

「あーもうホント最悪!!
なんでウチらが手伝わなきゃならない訳なのかな?」

「ホントそれだよねー、マジダルいわぁ~・・・」

廊下をしばらく歩いてから、振り向いて濱口先生の姿が見えなくなったのを確認した二人は見計らって溜まりに溜まっていた本音を吐き出した。
本音を吐いたことで言ったやった感が出て少し落ち着いた二人は教室に戻ろうとしたがその時・・・

「あいたっ!」

碧は前から来る男子生徒に気づかず、勢いよくぶつかり、互いに倒れ込んでしまった。

「あいたたた・・・」

「大丈夫?ごめんね、碧が前見てなかったm・・・」

倒れ込んだ碧の元に駆け込んで碧の代わりに、ぶつかって倒れ込んだ男子に謝ろうとして顔を見た途端、急に言葉を失った。

「大丈夫、僕の方こそ前見ていなかった・・・って山本と早乙女じゃん!」

「あっ・・・桜井くん・・・?」

碧を立ち上がらせるべく、優しく手を差し伸べてくれているこの男子は碧たちと同じクラスの桜井裕貴さくらいゆうき
スポーツ万能でバスケ部のエース。
更には弟とと同様。中性的な容姿をした学年一のモテ男である。

「山本の方こそ大丈夫?怪我とか平気?」

「え?あ、うん・・・大丈夫」

裕貴の手に捕まって立ち上がった碧は優しく微笑みながら心配する裕貴に濱口先生に対して面倒くさそうな態度と打って変わって、もじもじとしながら答えた。

「さっき濱ちゃんに呼ばれて教室出てってたみたいだったけど・・・どっか行ってたの?」

「あぁ、濱ちゃんに頼みで荷物運ぶの手伝ってたの。
あたしと愛梨がクラスで一番力あるからって・・・」

「へぇ、先生のお手伝いするなんて良いことじゃないか。僕なんてバスケ部に入ってるのに、そんな仕事ができる程の力なんてないから・・・」

「そんな、あたしこう見えて力しか取り柄がないし・・・」

「そんなことはないよ?だって山本は可愛いし、運動神経も良いから僕はそういうタイプが好きだよ?」

「えっ・・・」

裕貴放った最後の一言に碧だけでなく、愛梨や周りで様子を見ていた女子までもが別の意味で固まった。

「おーい、桜井!一緒に自販機行こうぜ!」

「あぁ、今行く!じゃあまたね」

階段付近から友達の男子生徒に呼ばれて、裕貴は碧に別れを言ってその場から走り去っていった。

「・・・あ、碧?あんた大丈夫?」

膝を落として、そのまま固まっている碧に愛梨が声を掛けて肩に手を置いた瞬間、碧の頭から爆発するかの様に蒸気が発した。
そんな碧の顔を覗き込むと、碧の顔はこれほどまでに無い程真っ赤だった。

「可愛い・・・あたしが・・・」

山本 碧やまもと あおい、この世に生まれてから18年。
今ここで女子達の憧れである桜井くんから無自覚に告白らしき言葉を聞いたのだった。


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