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番外編
15話 長谷川先生の教師生活③
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教員たちによる職員室での挨拶が終わるなり、私は1時間の授業の準備を済ませる。チャイムが鳴る前にいつでも教室に向かえるよう時間に余裕を持つためだ。
「ねえねえ、長谷川先生~」
「なんだ?井上先生」
憧れると言われる一方で、近寄りがたいと言われる私に気安く堂々と話しかけてきたこの女は同僚の井上かおり。3年生の科学を担当している。
だらけ切っているというか、何処か抜けていていい加減なところがたまに傷な奴だ。
「あの話はもう聞いた?」
「あの話?」
「えー知らないの?例の転校生!」
「!」
その言葉を聞いた瞬間ピンときた。
私の脳裏で転校生というワードに当てはまる人物といえばあの人しかいない。
「ほう、その転校生がどうした?」
と、私は初耳であるフリをして興味のなさそうな態度で質問した。
すると井上は大げさに天真爛漫に喋り出した。
「山本賢人っていう1年生でね、名前は忘れたけどなんかの全日本大会で最年少で優勝したんだって」
「それで?」
「それで?って、あんたねぇ・・・」
演技とも知らずに私の興味なさそうな態度に井上は呆れつつ喋り続ける。
ここで私は最愛の人が出た大会の名前を忘れるな、と言いたい憤りと衝動に駆られたが、態度を崩さずに堪えて話を聞く姿勢を保つ。
「その子ね、転校初日から人気者になって今やこの学校でその子のことを知らない人がいないくらいなんだって」
「そうか、よく世の中にもそんな学生がいたものだな」
「なにそれー?あんた興味ないわけ?」
「・・・ふん」
私の愛するあの人のことだ。学校中にその話題が広まるのも遅くない。
それはともかく演技とはいえ、あの人に辛辣な言葉を使ってしまったことに気を悪くして自重する。そんなことも知らない井上は今度は携帯を取り出した。
「それでさ、新聞部の先生がその子のファンで、昨日写真撮ってきてくれる?って頼んで写真を送ってくれたのよ。ほら」
「・・・っ」
今度は何をするつもりなのかと思いきや、井上は携帯を操作して見せてきた。
そこには大勢の生徒に囲まれて対応に困っている彼の姿が画面に映っていた。思わずときめいてしまった。ついさっき実物をこの目で見たというのに。
私の知っている彼から想像がつかない表情だが、これがまた魅力的だった。
一度胸の中で抱き締めてみたい。
「でさ、長谷川先生はこの子どう思う、って・・・」
井上先生はふと携帯をしまって再び長谷川先生の顔を見ると、長谷川はドス黒いオーラを放っていた。
「長谷川先生?」
井上先生は恐怖のあまり悪寒を走らせるが、声をかける。
しかし長谷川先生は反応せず、目のハイライトが消えた無表情で何も喋らなかった。
(大体何故こんな奴があの人の写真を持っているんだ?
それも普段の日常じゃない学生としての彼を姿を捉えた写真を!!)
「長谷川先生?」
(当時の彼の写真なら私も持っているのに、成長してより凛々しくなった最近の彼の写真なんて持っているわけない。ふざけるな!こんな奴があの人の写真を堂々と持っているなんて・・・!!)
「長谷川先生!?」
「・・・っ!?ああ、すまない」
妬みと憎悪に駆られるあまり我を失っていたが、井上の必死の呼びかけで正気に戻った。私としたことが・・・
「大丈夫?」
「・・・ああ、大丈夫だ。心配はいらない」
お前の図々しさから嫉妬と憎悪に駆られていただけだ、と本音を言えるはずもなく誤魔化した。
このままでは心持ちが悪い。そろそろ席を外そう。
「では、私はそろそろ行くよ。生徒たちが待ってる」
「ええ、転校生の子、しっかり見ておいで」
言われるまでもない。井上から見送られる私は心の中でそう吐き捨てた。
「長谷川先生!生徒会のことでついて少しいいですか?」
職員室を去ろうとした私にそう声をかけてきたのは、今年生徒指導のアシスタントとしてこの学校にやってきた新任の木村 紘先生だ。
新任の分際で私のこれからの至福を邪魔するとはいい度胸をしているな。
「ああ、分かった。これから授業だからなるべく手短に」
そう言ってやりたい衝動を押し殺して応じる。
私の推算上、これから行くと数分程授業に遅れてしまうことになる。
まあいい、楽しみは後から取るのも悪くない。
早く彼に会いたいとばかりに、さっさと用事を済ませようと心を弾ませながら木村先生に同行していくのだった。
「ねえねえ、長谷川先生~」
「なんだ?井上先生」
憧れると言われる一方で、近寄りがたいと言われる私に気安く堂々と話しかけてきたこの女は同僚の井上かおり。3年生の科学を担当している。
だらけ切っているというか、何処か抜けていていい加減なところがたまに傷な奴だ。
「あの話はもう聞いた?」
「あの話?」
「えー知らないの?例の転校生!」
「!」
その言葉を聞いた瞬間ピンときた。
私の脳裏で転校生というワードに当てはまる人物といえばあの人しかいない。
「ほう、その転校生がどうした?」
と、私は初耳であるフリをして興味のなさそうな態度で質問した。
すると井上は大げさに天真爛漫に喋り出した。
「山本賢人っていう1年生でね、名前は忘れたけどなんかの全日本大会で最年少で優勝したんだって」
「それで?」
「それで?って、あんたねぇ・・・」
演技とも知らずに私の興味なさそうな態度に井上は呆れつつ喋り続ける。
ここで私は最愛の人が出た大会の名前を忘れるな、と言いたい憤りと衝動に駆られたが、態度を崩さずに堪えて話を聞く姿勢を保つ。
「その子ね、転校初日から人気者になって今やこの学校でその子のことを知らない人がいないくらいなんだって」
「そうか、よく世の中にもそんな学生がいたものだな」
「なにそれー?あんた興味ないわけ?」
「・・・ふん」
私の愛するあの人のことだ。学校中にその話題が広まるのも遅くない。
それはともかく演技とはいえ、あの人に辛辣な言葉を使ってしまったことに気を悪くして自重する。そんなことも知らない井上は今度は携帯を取り出した。
「それでさ、新聞部の先生がその子のファンで、昨日写真撮ってきてくれる?って頼んで写真を送ってくれたのよ。ほら」
「・・・っ」
今度は何をするつもりなのかと思いきや、井上は携帯を操作して見せてきた。
そこには大勢の生徒に囲まれて対応に困っている彼の姿が画面に映っていた。思わずときめいてしまった。ついさっき実物をこの目で見たというのに。
私の知っている彼から想像がつかない表情だが、これがまた魅力的だった。
一度胸の中で抱き締めてみたい。
「でさ、長谷川先生はこの子どう思う、って・・・」
井上先生はふと携帯をしまって再び長谷川先生の顔を見ると、長谷川はドス黒いオーラを放っていた。
「長谷川先生?」
井上先生は恐怖のあまり悪寒を走らせるが、声をかける。
しかし長谷川先生は反応せず、目のハイライトが消えた無表情で何も喋らなかった。
(大体何故こんな奴があの人の写真を持っているんだ?
それも普段の日常じゃない学生としての彼を姿を捉えた写真を!!)
「長谷川先生?」
(当時の彼の写真なら私も持っているのに、成長してより凛々しくなった最近の彼の写真なんて持っているわけない。ふざけるな!こんな奴があの人の写真を堂々と持っているなんて・・・!!)
「長谷川先生!?」
「・・・っ!?ああ、すまない」
妬みと憎悪に駆られるあまり我を失っていたが、井上の必死の呼びかけで正気に戻った。私としたことが・・・
「大丈夫?」
「・・・ああ、大丈夫だ。心配はいらない」
お前の図々しさから嫉妬と憎悪に駆られていただけだ、と本音を言えるはずもなく誤魔化した。
このままでは心持ちが悪い。そろそろ席を外そう。
「では、私はそろそろ行くよ。生徒たちが待ってる」
「ええ、転校生の子、しっかり見ておいで」
言われるまでもない。井上から見送られる私は心の中でそう吐き捨てた。
「長谷川先生!生徒会のことでついて少しいいですか?」
職員室を去ろうとした私にそう声をかけてきたのは、今年生徒指導のアシスタントとしてこの学校にやってきた新任の木村 紘先生だ。
新任の分際で私のこれからの至福を邪魔するとはいい度胸をしているな。
「ああ、分かった。これから授業だからなるべく手短に」
そう言ってやりたい衝動を押し殺して応じる。
私の推算上、これから行くと数分程授業に遅れてしまうことになる。
まあいい、楽しみは後から取るのも悪くない。
早く彼に会いたいとばかりに、さっさと用事を済ませようと心を弾ませながら木村先生に同行していくのだった。
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