僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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30話 帰り道×二人っきり

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「さーてと、お昼どうしよっかなー?」

賢人は学校を出て自宅までしばらくの道のりを歩きながら呟く。
今日も叔母も姉たちも留守で、また一人飯である。

「またスーパーに行こうかな?
・・・でもこの間もう行ったしなぁ」

思い当たるとしたら、やはり以前日曜日に行った駅前の大型スーパーだ。
しかし連続で同じようなおかずを買い行くのは少し割に合わない。
賢人がいつも帰っているルートとは違う通学路を歩きながら頭を悩ませていた時、賢人はハッとした。

「そうだ、里奈先輩からのLINE見るの忘れてた」

何故自身が怜人や伸之と一緒ではなく一人で帰っている今の状況を作った原因ともいえる里奈からの新たに送られたメッセージのことを思い出すと、即座に携帯を取り出してLINEを開いて確認する。

「・・・!!」

そこに映っていたのは、ベッドの上で寝そべって胸元がはだけたパジャマ姿の里奈だった。
更に写真の下には『今更だけど、この前はあんなことしてごめんね。お詫びに私の寝起き姿をどうぞ♡』と漫画の煽り文句のつもりか、そういったメッセージが添えられていた。

この前といえば、蘭子に連れられたカラオケでの出来事だ。
蘭子によって行為に及ばれそうになった寸前に、里奈が駆けつけたことで事無きを得たかと思いきや嫉妬からまさかの行為でもっての意思表示をさせたことに違いない。
友達の彼氏をからかいたいという気持ちは分かるが、それがただでさえ過激な行動をしかねない蘭子であると想像しただけで少し悔しくなって対抗心のあまり自分まで行為に及んだことに対する謝罪だろう。
今朝は気まずさから言い出せず、こうやってメールしてきたのも分からなくもない。
だが、これだけは言わせてもらおう。

(なんで寝起きの自撮りまで送ってくんの!?
でもパジャマ姿の里奈先輩めっちゃ可愛い!!)

遅れながらの謝罪のメッセージとついでに、おそらくちょうど今朝に撮ったのであろう寝起きの自撮りに対して、ツッコミを入れたい気持ちと写真を見て少し照れてしまった気持ちを心の中で叫んだ。
いつも思うが、声に出して叫びたいところだが、賢人の他に周りには人がたくさんいる。
確実に変人だと思われる上に、ひそひそと話されるに違いない。
そう思って賢人は今回も口には出さないことにした。


◇◇◇◇


しばらく歩いていると、以前おかずを買いに行った時に通りかかった坂道が見えてきた。

「またこの坂道か・・・」

ここを通りかかった時、上から一人の女子中学生が凄い勢いで走って下りてきたのを思い出した。

気がついた時には自身のすぐ上を大ジャンプで飛び越えていくものだから、まず忘れるはずがない。
そういえば以前にも思ったように、その女子中学生には何処か見覚えのあるような無いような、そんな気がするのだ。
その考えが間違いでないはずなのに、どうしても思い出せない。
きっと彼女も心の中でそう思っていたのかもしれない。
僕の上を飛び越えていった時に、彼女の目はそう語っているように見えたから。

「あっ、やっぱり賢人くんだ!」

賢人が記憶に浸かりながら目の前の坂道をジッと見つめていると、後ろから聞き慣れた声の女性に話しかけられた。
ここ最近よく後ろから話しかけられるものだ。
そう思いつつ、賢人は無視することなく声のする方に振り向いた。

「あっ、桐谷さん」

そこに居たのは我らが1年B組の学級委員長の桐谷真依きりたにまい
そういえば、こうやって彼女と顔を合わせて会話するのは久しぶりだ。
バス停は学校の近くで、バス通学であるならバス停から離れているこの辺りを帰ってるのはおかしい。
そもそも帰り道にクラスメイトで委員長の女の子と一緒だなんて、どこぞの恋愛ゲームのイベントなんだ。

「もう、お互いに下の名前で呼び合おうって言ったじゃん」

「あっ・・・」

そうだった。
転校してきた次の日の朝、いつも乗ってるバスの到着が遅いとのことでたまたま出会った時にそんな会話をしていた。
その後教室で1時間目が始まる前の会話で、何の抵抗もなく下の名前で呼べたが、今になってみると同級生の女の子を下の名前で呼ぶのは改めて抵抗を感じる。
だが、それでは下の名前で呼んでもらうことを望む彼女を失意させてしまう。
そう思って賢人は改めて勇気を出して下の名前で呼ぶことにした。

「ま、真依ちゃん」

「っ・・・」

意を決して口に出して下の名前で呼ぶことができた。が、そう呼ばれることを望んでいたはずが、向こうもそれなりになれていないのか、いざ呼ばれてみると嬉しいと同時にすごく恥ずかしかったらしい。

「と、ところでさっきはどうしたの?
急に大きな声出したかと思ったら、帰りの挨拶無しとはいえ急に飛び出して帰っていったんだもん」

どういった事情かと説明しなくても分かるであろう。
テストが終わって挨拶無しで皆が帰ろうとする中、里奈から送られてきたLINEの内容に動揺していたところを怜人に話しかけられたことから思わず叫んでしまい、LINEを見られたらマズいと教室を出ていったことだ。
流石に教室内で誰かが大声を上げたら、委員長である真依でも反応するだろう。

「いやーそのー、携帯見てた時に怜人が後ろから肩に手をおいてくるから、びっくりしちゃって・・・」

「・・・そっか」

「?」

里奈から送られてきたLINEを見ていたという事実は伏せた上で、賢人は真依からの疑問に正直に答えた。
しかし真依の様子がおかしい。
ちゃんと答えたはずなのに、今の彼女の表情はいつもの笑顔を保ちながらも何処か暗かった。

「どうかした?きr・・・真依ちゃん」

また苗字で呼びそうになったが、すぐに訂正して呼び直した。

「ううん、なんでもない」

真依は賢人の呼びかけにハッとなって、すぐに表情を戻した。

「実はさ、この辺の本屋で参考書を買おうかと思ってたんだけど、
良かったら賢人くんも来る?」

「え、いいの?」

「もちろん、賢人くんの欲しい参考書があるかもしれないしね」

参考書を買う。この辺りにバス停は無いはずなのに真依がいる理由だと分かって安心した。言うならばただの偶然である。
賢人はさっきまでこの状況を心の何処かで恋愛ゲームのイベントかと、勝手に盛り上がっていたことを密かに自重した。

「じゃあお言葉に甘えて同行させてもらおうかな?」

「うん、決まりね」

この機会に最近いつの間にかあまり会話が少なくなった彼女と交流できるし、それに勉強に役立つような参考書を揃えることができる。まさに一石二鳥というものだ。

「じゃあ行きましょう!」

「うん」

賢人が同行してくれるのが嬉しかったのか、真依は以前より明るくなった気がした。
以前通った道ではあるが賢人はこの辺りには馴染みが無いので、真依が案内する形で同行することになった。
すると賢人たちがいる歩道の反対側から女子中学生たちがこちらを見て何か話しているのが聞こえてきた。

「ねーねー、あの二人可愛くない?」

「もう一人の方は制服から男子だと思うけど、背も低いし女の子みたーい」

「もしかして付き合ってる・・・・・・のかな?」


「「!」」 


頭の回転が速い二人は敢えて聞こえていないフリをしていたが、その言葉を聞いた瞬間ピクッとした。

「そうかも~。でもだとしたら相当ハードル高くない?」

「ね~?羨ましいわ~」

そんな会話を続けながら女子中学生たちは立ち去っていった。


「「・・・」」


女子中学生たちがいなくなった後でも、二人は固まったままで言葉を発しなかった。
固まってしまって当然だろう。賢人は恋人がいるとはいえ、よりによって世話になっている真依とカップルと誤認識されてしまうなんて堪ったものではない。
真依に至ってはまだ自分の想いを伝えていない・・・・・・・・・・・・・・のにもかかわらず、彼と二人でいる姿を周りからそのように言われてしまうと、賢人以上に気がおかしくなりそうだった。

「・・・じゃあ行こっか?」

「・・・うん」

これ以上何も話さない訳にはいかないと、賢人が切り出そうと真依に話しかける。
それに対して真依も静かに返事した。
返事を聞いた賢人が歩き出そうとすると、前を歩こうとした真依が立ち止まって言った。

「・・・ちょっと待って」

「?」

一体何を待てと言うんだ?と思いつつ、賢人は言われた通りにして立ち止まった。
賢人が待ってくれるのを確認すると、真依は賢人に背を向けた。
若干落ち着きがなく、緊張していて何かを躊躇っている様子なのは後ろから見ていて分かった。

何度か深呼吸を繰り返した後、何かの心の準備が出来たのかそわそわしているのが止まった。
真依は右手を頭の後ろに持っていくと、ポニーテールの髪を結んでいたリボンを解いて、髪を下ろした。
今度は制服のリボンを取り外していった。
クラスを代表する委員長としてあるまじき行動だが、賢人は黙って彼女の成り行きを見守る。
制服のリボンを取り外した後、ブラウスの胸元のボタンを一つずつ外していった。

そして彼女にとっての準備・・が終わったかを告げるように、真依は賢人の方を振り向いた。

「!?」

目の前に女の人が真依だというのが、まるで嘘のようだった。
何故ならポニーテールだった水色の髪は下されたことで、流れるようにサラッとしたロングヘアーに。
胸元は制服のリボンを外し、更にブラウスのボタンを外すことで押さえつけられていた真依の胸の膨らみが晒されたことで、普段の清楚な彼女から一転して都会でよく見かける年上のお姉さんのような印象を釘付けになる。

彼女自身が余程着痩せしているのか今まで気にならなかったが、こうして見ると真依のモノは意外と大きかった。
正直里奈や蘭子と真っ向から張り合えるぐらいに。
そう考えると彼女のプロポーションが豊満に思えてきた。

「それじゃあ、行きましょ♪」

自身の所業に加え、賢人からの目もまるで気にもしない真依はそう言って、賢人の腕を組んで胸を当ててきた。

「!?」

「♪」

髪を下ろして服装も乱す等して容姿に劇的な変化の影響からか。
普段の彼女では考えられない程、積極的になった気がする。

「えっ、あの・・・真依ちゃん!?」

「もしかして嫌?私とじゃ・・・」

アプローチとも捉えられるような彼女の行動に流石に戸惑う賢人。
その様子を見て、真依は少し気落ちしたような声で質問した。

「そんな、嫌じゃないよ!ただその・・・」

ただ・・何?」

嫌ではない。それだけはハッキリ言えるが、今の彼女はいつもより積極的な行動にまだ抵抗がある。
しかし純粋無垢な瞳で見つめる彼女に対して、それを言ってしまうのは申し訳ないと思い、抵抗があるという言葉は伏せた上で賢人は正直に答えることにした。

「急に雰囲気変わってどうしたのかなって思って・・・」

「なーんだ、そんなことかー」

「そんなことって・・・」

取り敢えず戸惑っているという意思を上手く伝えられたが、真依はまるでそう言ってくるとは思っていなかったような言動で納得して言葉を返す。

「付き合ってると思われてるなら、むしろそう見せつけてやろうかなって思って。こんな私・・・・もどう?」

「・・・うん、すごく良いと思う」

「♡」

思いも寄らない真依の行動原理に賢人は驚きを隠せなかった。
しかし、彼女の言葉と会話力に「流石は学級委員長。敵わないや」と思いつつ肯定せざるを得なかった。
そして賢人は今や女性として魅力的な雰囲気をさらけ出す真依に腕を組まれ、更に手を胸に当てた状態のまま本屋に向かって歩き出す。
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