僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

文字の大きさ
上 下
48 / 52
番外編

11話 山本 碧のデート②

しおりを挟む
「うーん、他の教科も勉強しておいた方がいいかもね」

「はい・・・」

まずは実力を知りたいと、抜き打ちとばかりに裕貴が赤本を基に作ってきた練習問題をひと通りやったあとの採点数を見て落ち込む碧。
それを見て裕貴は積極的に取り組もうと励ます。

二人がやって来たのは、待ち合わせした駅から徒歩で15分で着く場所にある大きな図書館。
中は茶色のツリーハウスの中のような見栄えで裕貴が言うには最近出来たばかりでありながら一番人気のある図書館らしく、広いだけでなく貸し出しされている本は子供向けの絵本から歴史や学文の参考書まで品揃えも忠実している。
休憩スペースやカフェまであり、子供にとっても大人にとってもくつろぐにはもってこいだった。
今も周りを見ると子供から大人まで幅広い世代の人たちが本を読んだり、カフェをひとときの安らぎを満喫していた。

そんな中、碧と裕貴は1階の入り口から少し進んだところにある自習スペースの二つのブースに座って授業で出された課題も兼ねて勉強をしていた。
他のお客さんがたくさんいたメインフロアとは違って利用する人は少ないと聞くが、珍しく碧と裕貴以外に自習スペースにいる人はいなかった。

(はぁどうしよう、なんで今日に限ってだれもいないなのかなー!?)

図書館というのは普通本を読んだり、読みたい本を借りに来る人の他に学校の授業の課題の取り組みや自習をするために来る人もいる。
そんな人たちの為に設けられているのが、このような自習スペースだ。
近年になってそのような処置がされている図書館も少なくない。なのに自分たち以外に誰もいないだなんて、この日に限っていくらなんでも都合が良すぎるというか準備・・が整い過ぎたこの状況に碧は頭がおかしくなりそうだった。

「・・・やっぱあたしってダメだわー」

碧は情緒不安定になりながらも、練習問題の点数に落ち込んだ態度を保つ。

「そんなことないよ、全部じゃなくとも少しずつ覚えていけば大丈夫だよ」

「うん、そりゃどうも・・・」

そんな碧を裕貴は尚も優しくフォローする。
碧はこんな自分にここまで優しくしてくれる彼に、またドキドキするのを我慢してあいも変わらない態度で返事をした。

「・・・ん?どうしたの山本?顔が赤いけど、熱でもあるの?」

「えっ?いや、その、なんでもないよ・・・?」

裕貴が指摘する通り、とうとう我慢できなかったのか碧の顔は徐々に赤かった。
更に熱すぎて碧の周りを湯気がもわもわと吹き出る。
碧は裕貴と二人っきりでの状況にドキドキしてるのがバレたら死ぬ気持ちだった。

「どれ、ちょっと失礼」

裕貴は心配して立ち上がって碧の元に駆け寄った。

「えっ、ちょ、桜井くん何を・・・」

「じっとした」

裕貴は戸惑う碧に静かにそう言うと、碧の前髪をかきあげて出てきたおでこを自身のおでこをくっつけた。
アニメや漫画でカップルが互いに愛し合ってる者同士としてする行動の一つだ。
まだ付き合ってもいないというのに、まさかこんな場所でされるとは思いもしなかった。

「うーん、汗もかいていないけど少し熱っぽいかも」

(~~~~~‼︎‼︎)

もう死んでしまいそう。
自分のせいで碧がこんな状態になってしまっているとは知らずに裕貴はおでこをくっつけ続ける。
だが、もうドキドキが止まらなくてどうしたらいいのか分からなくなっているのは、どうやら碧だけではないらしい。

(ど、どうしよう!テレビで見たからやり方は知ってたとはいえ、心配でついやっちゃったよ!)

勢いだったとはいえ、恋人同士がする行動の一つを実行してしまったことに裕貴はすごく恥ずかしかった。
しかし裕貴にはその行動によって生まれたもう一つ別の問題があった。


ーーーたゆん。


(見ちゃダメだ!見ちゃダメだ!見ちゃダメだ!)

裕貴は思わず目に入ってしまった碧の二つの大きな果実に必死に目を逸らすようにした。
おでことおでこをくっつけたことで、碧と裕貴の顔の距離はちょっとした拍子で唇が合わさってしまうぐらい近かった。
熱があるのを感じて目を開けた瞬間、目に入ってきたのは碧の二つの大きな胸の膨らみだ。

大学では素朴だったり、男が着るような服装ばかり着ているからスタイルはあまり気にならなかったのだが、今日の碧は胸やスタイルを強調された服装で来たので思わず目を疑ってしまった。

誘ったのは僕の方だけど、たかが勉強会でこんなに普段の第一印象を一蹴させるような服装で来るなんて、これじゃまるでデートじゃないか。
そもそも僕みたいなバスケやってるのに全然体力がない奴が碧みたいに綺麗でカッコいい女の子と釣り合うわけがない。
だから決してデートなんかではない。

あらゆる面で優れているのに、自分に自信がない裕貴は心の何処かでそう正当化するのだった。

さて、そういった気持ちは置いておいて、続いてどうしたらいいだろうこの状況。
・・・とりあえず席を外そう。
適当に口実を作って、離れた場所で一旦気持ちを落ち着かせることにしよう。

まずくっつけている碧のおでこから自身のおでこを離した。

「ご、ごめんね?心配でつい・・・」

「ううん、全然大丈夫だし」

お互いに恥ずかしさを押し切った上で、会話を成立させた。
お互いに同じような気持ちになっているとは知らずに。

「この辺で少し休憩にしよう。
借りたい本を探してくるからちょっと休んでて」

「うん・・・」

裕貴は碧にそう言うと、そのまま自習スペースを出ていった。
ポツンと一人残され、裕貴が本当に出ていったのかを確認すると、デスクに戻って今度はぐったりと座り込んだ。

「・・・めっちゃ見られてた」

碧は右胸をそっと撫で下ろしながらそう呟いた。
そう、おでこにおでこをくっつけてきたことにはもちろん驚いた。
だがそれよりも裕貴の視線が自身の胸にいっていることに気づなかいわけがなかった。


****

『どうしたの?桜井くんも顔赤いけど・・・』

『えっ、いや・・・その・・・』

『あっ、あたしのおっぱい見て興奮しちゃった?』

『なっ・・・!?』

『もう、桜井くんのえっち♡』

『そ、それは・・・山本がそんなセクシーな格好で来るから・・・って、あ!』

『ふーん、あたしのことそうやって見てたんだー?
でもそういうところが・・・・・・す、き♡』

****


「・・・ってなに考えんてんだ、あたしー‼︎」

いつの間にか妄想してて、しかもその内容がとんでもない展開になっていた妄想から、ちゃぶ台をひっくり返すかの如く現実世界に舞い戻ってきた。
そしてあまりに壮絶だったのか、気づけば少し息切れをしていた。
そして呼吸を整えつつ碧はデスクではなく、今度は固まっていた両足を伸ばしながら座っている椅子にもたれながら、再び胸を触りながら呟く。

「あたしの胸で・・・♡
・・・って、またなに言っちゃってんだよあたし!
大体こんな格好して可愛いどころか変態だと思われてるかもしれないのに」

折角親友が応援してくれて、しかも服までコーディネートしてくれたというのに、碧は顔から耳元まで真っ赤にしながら今の自分がはしたなく見えると、心の何処かで自虐するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...