僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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番外編

10話 山本 碧のデート

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「ちょっと早く来過ぎちゃったかな・・・」

春が過ぎ去った6月。
碧は駅前でそわそわしながら時計を見てそう言った。
次に髪型や服装が整っているかどうか鏡を見ながら確認した。
なんといっても今日はいつもより気合を入れて来ているのだ。

「・・・よし、問題無し!桜井くん来ないかなぁー」


◇◇◇◇


時を遡って2日前の金曜日。


ジリリリリリリ!


「今日はここまでにします。土日になっても予習しておくように。
各自でレポートを取っておくのを忘れずに」

金曜日最後の6時間目の天文学の授業がベルが鳴ると同時に終わった。
生徒たちは皆、筆記用具とノートを持って次々と天文学室を出ていく。

「終わったねー」

「だね」

最後に天文学室を出た碧と愛梨は疲労を感じながらもいつもの調子で廊下を歩いていく。

「ぶっちゃけさ、土日に入る前の金曜日の最後の授業で天文学ってしんどくない?」

「ホントそれだよねー」

相変わらず本音を吐く二人。
天文学というのは大学に入ってから習うが、内容が単純な程難しいもので、勉強能力より運動能力が優れている二人にとってはまさに相性の悪い科目だった。
そんな会話を続けながら教室に戻ってくると、自分たちの席に座って帰る準備を始めた。

「山本、ちょっといいかな?」

「誰y・・・って桜井くん!?」

疲れが溜まっているあまり机に顔を伏せていた碧。
そんな自分の気持ちも知らずに男子が話しかけてきて声を荒げながら顔を上げた。ところがどっこい、話しかけてきた相手はなんと桜井裕貴だった。

「ごめんね、大丈夫?
もしかして疲れてるところ邪魔しちゃったかな?」

「ううん!全然大丈夫!!」

話しかけてきた相手が相手なのもそうだが、そんな彼の方から話しかけられたことに戸惑いを隠せず、碧は取り乱しながらも返事した。

「そう、ならよかった」

碧の様子に不思議にとも思わない裕貴は、安心して笑顔でそう言った。
その天使のようなスマイルが自分に向けられているのを碧はドキドキさせられる。

「どうしたのかな?かな?あたしに何の用かね?」

緊張して情緒不安定になるあまり喋り方がおかしくなる碧を裕貴は気にせず話を続ける。

「あぁうん。あの、今週の日曜日予定は空いてる?」

「えっとー、特に用事は無いと思うけど・・・」

「もしよかったら、二人で図書館に行かない?」

(え、なにそれ?もしかしてデートのお誘い!?)

「図書館かー。
でもなんであたしが誘われるワケかなー?」

碧は心の中では憧れの人から誘われていることに躍動していたが、その本心を悟られないよういつものそっけない態度で質問した。
それを聞いた裕貴は気遣うような態度で答える。

「山本さ、天文学の授業で行き詰まってでしょ?
様子を見てたらほっとけないなと思って。
だから一緒に勉強する中で教えてあげてようかなと思ったんだけど・・・嫌かな?」

「ううん!そんなことない!」

裕貴のあまりの優しさとそうやって見てくれていたことが嬉しくなるあまり、疲れているにもかかわらず今日一番の笑顔を振る舞った。

「そっか、じゃあ日曜日の正午に駅前の入り口のところで待ち合わせでいいかな?」

「分かった」

「桜井、部活が始まるから早く体育館来いよ!」

二人の空気を突然乱すように教室の出入り口からバスケ部の先輩が顔を出して桜井の名前を呼んだ。

「はい、すぐ行きます。じゃあまた日曜日に」

「うん・・・」

裕貴は碧に別れを告げると、リュックと体操服袋を持って先輩の後を追いかけて教室を出ていった。
残された碧は本人がいなくなったことでようやく緊張が解けたが、顔は真っ赤で熱くなっていた。

「よかったじゃん碧!羨ましいよ!」

「ふ、二人で・・・あたしが・・・」

おそらく普段は自分みたいな女子が桜井くんの方から二人で何処か出掛けないかと誘われるなんてと言いたいつもりだろう。
だが気持ちの整理がつかず、上手く言葉を話せない碧であった。


◇◇◇◇


(やっぱ緊張してきたー!!)

時は戻って約束の日曜日。
碧は緊張のあまりもう一度、服装や髪型が整っているか鏡を見て確認する。

「やっぱこの服装、有りなのかな・・・?」

碧が着ている服装は黒のベレー帽に、黒のタートルネックの上に羽織った白のカーディガンとショートパンツに黒タイツとブーツといった、碧の胸やスタイルを強調させるものだった。
前日に愛梨が応援してくれた上に、普段はジャージやシューズといった自身のファッションセンスを危惧して一緒に服を選んでくれたのだ。

だが正直なところ、普段こんな服装はしないことから改めて鏡で自分を見てみると、すごく恥ずかしい。
今の自分を見て桜井くんはどんな反応を示すだろう、そう思うだけでまたドキドキしてくる。

「あっいた!おーい、山本ー!」

「あ、桜井くん!」

(どうしよう、とうとう本人来ちゃったよー!!)

自身を呼ぶ声がした方向を見ると、目と鼻の先の信号の向こう側で裕貴が信号が変わるのを待ちながら手を振っていた。
碧が自身と合流を目の前にして、まだ気持ちの整理がついていなくて心の中で慌てふためていているとは知らずに、裕貴は信号が青に変わると横断歩道を渡って碧の元へと走った。

「ごめん、待たせちゃった?」

「ううん、あたしも今来たところ」

大嘘にも程がある。
予定より早く来てあんなに服装や髪型を気にしながらそわそわしていたというのに。

「じゃあ行こっか!・・・どしたの?桜井くん」

合流できたのですぐに出発しようとする碧だが、裕貴は何故か碧をじーっと見つめる。
不思議に思った碧は質問すると、静かに答えた。

「・・・可愛い」

「え・・・?」

裕貴の想像もつかない一言に碧は言葉を失う。

「いや、その、すごく似合ってるからつい・・・」

これだけは言える。
裕貴は普段とは違う今の碧の姿に見惚れるあまり、思わず本音を言ってしまったのだ。

「えっと・・・あ、ありがと」

碧は赤く染めながらもじもじしながら辛うじて返事した。
余程驚き過ぎた反動か、さっきと比べてリアクションが小さいように見えるが、心の中では・・・

(ああああああ!!可愛いって言われたー!!!)

喜びと恥ずかしさのあまりのたうち回っていた。
人の第一印象とはまず見た目、つまり服装からであるというようにこんな自分がこんな格好の自分を見て引いてしまったらどうしようと考えていた。
が、本人はむしろすごく気に入ってくれたようで、碧はドキドキが止まらなかった。

(今日は勉強を教えてあげなきゃいけないんだ!
僕から誘ったのにしっかりしなきゃ!
・・・でもやっぱり可愛い)

隣で碧が顔を赤くしながら妄想を続けているのに対して、姿だけアプローチしてきているにしか見えない碧にドキドキしながら勉強を教える側として集中するよう頭をクリアしようとする裕貴であった。
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