僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

文字の大きさ
上 下
44 / 52
番外編

7話 桐谷真依の想い

しおりを挟む
ーーー翌日。

「いってきます」

「はい、いってらっしゃい!」

「帰ってきたら賢人くんの話聞かせてちょうだいよ~?」

「・・・」

お婆ちゃん、最後の一言は余計だよ。
そんなことを思いつつ、私はいつものように寝癖が無くなるまで髪型を整え、
鍵や手帳など忘れ物が無い事を確認すると鞄を持って家を出て、
そのまま学校行きのバスが来るバス停を目指した。
しばらく歩いてバス停がある公園の前に着いた。
ところが・・・・・・

「今日のバスが遅れる!?」

「そうなのよ、15分前から待ってるんだけど全然来る気配が無いのよ」

 バス停前でそう困った気持ちで真依と話しているのは、OLの西宮香奈にしみやかなさん。
私が乗る前のバスを利用している人で、毎朝バス停で会っているうちに打ち解け、
バスが来るまでの間はいつも私の話を笑って聞いてくれる優しい人である。

「15分も!?それだと学校に早く着けなくなります!」

「でも、真依ちゃんが通う高校って結構遠いから、早く着くにはバスしかないわよ?」

 香奈さんの言う通り、通っている高校は私が住んでいる町から少し遠く、
歩きなら30分以上、バスなら10分程度の時間で行ける距離になる。
今の時間はバスに乗っていく予定で、早めの7時40分。15分前からずっと遅れているのなら、
このままバスが来るのを待っていても、個人的には早めに着けなくなる。

「じゃあ私、このまま歩いていきます!」

「え!?でも、真依ちゃん体力は自信あんの?」

「だ、大丈夫です!!」

そう言い残して、真依は外見とは裏腹の速さで住宅街の中を走っていった。

◇◇◇◇

「ーーーハァ、ハァ、ハァ・・・・・・
よし、ここからは歩いていっても大丈夫そうね」

 近所の公園前のバス停から走り出してから数分後。
なんとか学校から近くにある住宅街まで着くと真依は走りから徒歩に切り替え、
高校に向かって歩きながら体力を回復させて呼吸を整えることにし、
しばらく歩いていると・・・・・・

(や、山本くん・・・!?)

 なんと今、真依の目と鼻の先には昨日学校に転校してきて早々、
話題になった山本賢人ご本人が歩いているではないか。

さて、この後どう行動に移したらいいのだろう。
クラスメイトの委員長として声をかける?
それともこのまま距離を取って、様子を窺いながらやり過ごす?

二つにして一つのこの選択、一体どちらのが正しいのか、自分でも分からない。

いや、良く良く考えれば後の選択は、はなから見ればストーカーだと思われるので却下、
前の選択である真面目な委員長として声をかける方を選んだ。

「山本くーん!」

「あっ桐谷さん、おはよう!」

うん、やっぱりこの選択が正しいと思う。

「おはよう、奇遇だね!」

いや、私にとってもこれはマジの奇遇である。

「てか桐谷さん、今日は歩きなんだ?」

ギクッ!
もしかしてバスで帰ってる所を見られてたのかな?
長距離を走っていたこともあり、汗が額と首に滴り落ちているのが分かり、
慌ててハンカチで汗を拭き取って、私は落ち着いて答える。

「うん、いつも乗っているバスが今日は遅れて乗れなくなって・・・
歩いて学校に向かってたら山本くんを見つけて・・・」

私はとっさに『歩いてきた』と嘘をついた。
バスで来る程の距離にある自宅から学校まで通学している委員長が、
今日は偶々歩きで登校していることを彼が違和感を感じなかったこと自体が奇跡だ。
頭の中でそう思いながら二人で歩きつつ、
気まずくなりたくないようにと、私は話を続ける。

「それにしても昨日は大変だったね?」

「うん、怜人の奴が余計なこと言うから・・・」

そんな二人の初めての話題を交えた会話が続く中、私は無意識にこんな話を切り出した。

「ねぇ山本くん、せっかく同じクラスになれたんだから下の名前で呼び合わない?」

「えっ!?」

あれ?急に何言ってんだろう、私。
昨日同じクラスに転校してきたばかりで何も知らない男子と距離を縮めようしてるだなんて・・・
いや、何も知らない・・・・・というよりは彼が大物ではある事は、
既に私はおろか学校全体は知っている。

「いや、まだお互いの事を何も知らないのにそんな馴れ馴れしくするのは・・・」

彼は慌てふためきながらそう答えたが、私は引き下がらない。いや、引き下がりたくない。

「一回だけでも良いから呼んでほしいの・・・」

 もう後戻り出来ないこの気持ちから、私はわざと泣き出しそうな態度でそう言った。
効果は的中で、それを見た彼は今の私が可愛いと思ったのか、
顔を赤くしながらゆっくりと口を開いた。

「じゃあ・・・ま、真依ちゃん・・・・・・」

「・・・っ!!」 


「あっ真依ーおはよう!一緒に学校行こうー!」


 二人だけの空気をかき乱すかのようにして遠くから呼ぶ声が聞こえたかと思えば、隣のクラスの友人だった。
その娘も彼が昨日学校中で噂になっていた事は知っており、
今この状況を理解されるとまずいと思い、彼女に悟られる前に私は一旦この場を後にする事にした。

「じゃあまた後でね、賢人くん・・・・

 そう言い終わるや否や、私は友人の元に向かって走っていった。
彼は急に名前で呼ばれた事に戸惑いながらも返答したように聞こえたが、
私は敢えて聞こえないフリをした。

 せっかく良い雰囲気になっていた所をタイミング悪く邪魔されたが、
今我に返ってみると、ものすごく恥ずかしかった。
だが、この一件で私はいつのまにか謎の行動に出た訳、そしてこの気持ちをようやく理解した。



ーーー私は山本賢人くんが好きなんだと。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...