僕は冷徹な先輩に告白された

隻瞳

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番外編

7話 桐谷真依の想い

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ーーー翌日。

「いってきます」

「はい、いってらっしゃい!」

「帰ってきたら賢人くんの話聞かせてちょうだいよ~?」

「・・・」

お婆ちゃん、最後の一言は余計だよ。
そんなことを思いつつ、私はいつものように寝癖が無くなるまで髪型を整え、
鍵や手帳など忘れ物が無い事を確認すると鞄を持って家を出て、
そのまま学校行きのバスが来るバス停を目指した。
しばらく歩いてバス停がある公園の前に着いた。
ところが・・・・・・

「今日のバスが遅れる!?」

「そうなのよ、15分前から待ってるんだけど全然来る気配が無いのよ」

 バス停前でそう困った気持ちで真依と話しているのは、OLの西宮香奈にしみやかなさん。
私が乗る前のバスを利用している人で、毎朝バス停で会っているうちに打ち解け、
バスが来るまでの間はいつも私の話を笑って聞いてくれる優しい人である。

「15分も!?それだと学校に早く着けなくなります!」

「でも、真依ちゃんが通う高校って結構遠いから、早く着くにはバスしかないわよ?」

 香奈さんの言う通り、通っている高校は私が住んでいる町から少し遠く、
歩きなら30分以上、バスなら10分程度の時間で行ける距離になる。
今の時間はバスに乗っていく予定で、早めの7時40分。15分前からずっと遅れているのなら、
このままバスが来るのを待っていても、個人的には早めに着けなくなる。

「じゃあ私、このまま歩いていきます!」

「え!?でも、真依ちゃん体力は自信あんの?」

「だ、大丈夫です!!」

そう言い残して、真依は外見とは裏腹の速さで住宅街の中を走っていった。

◇◇◇◇

「ーーーハァ、ハァ、ハァ・・・・・・
よし、ここからは歩いていっても大丈夫そうね」

 近所の公園前のバス停から走り出してから数分後。
なんとか学校から近くにある住宅街まで着くと真依は走りから徒歩に切り替え、
高校に向かって歩きながら体力を回復させて呼吸を整えることにし、
しばらく歩いていると・・・・・・

(や、山本くん・・・!?)

 なんと今、真依の目と鼻の先には昨日学校に転校してきて早々、
話題になった山本賢人ご本人が歩いているではないか。

さて、この後どう行動に移したらいいのだろう。
クラスメイトの委員長として声をかける?
それともこのまま距離を取って、様子を窺いながらやり過ごす?

二つにして一つのこの選択、一体どちらのが正しいのか、自分でも分からない。

いや、良く良く考えれば後の選択は、はなから見ればストーカーだと思われるので却下、
前の選択である真面目な委員長として声をかける方を選んだ。

「山本くーん!」

「あっ桐谷さん、おはよう!」

うん、やっぱりこの選択が正しいと思う。

「おはよう、奇遇だね!」

いや、私にとってもこれはマジの奇遇である。

「てか桐谷さん、今日は歩きなんだ?」

ギクッ!
もしかしてバスで帰ってる所を見られてたのかな?
長距離を走っていたこともあり、汗が額と首に滴り落ちているのが分かり、
慌ててハンカチで汗を拭き取って、私は落ち着いて答える。

「うん、いつも乗っているバスが今日は遅れて乗れなくなって・・・
歩いて学校に向かってたら山本くんを見つけて・・・」

私はとっさに『歩いてきた』と嘘をついた。
バスで来る程の距離にある自宅から学校まで通学している委員長が、
今日は偶々歩きで登校していることを彼が違和感を感じなかったこと自体が奇跡だ。
頭の中でそう思いながら二人で歩きつつ、
気まずくなりたくないようにと、私は話を続ける。

「それにしても昨日は大変だったね?」

「うん、怜人の奴が余計なこと言うから・・・」

そんな二人の初めての話題を交えた会話が続く中、私は無意識にこんな話を切り出した。

「ねぇ山本くん、せっかく同じクラスになれたんだから下の名前で呼び合わない?」

「えっ!?」

あれ?急に何言ってんだろう、私。
昨日同じクラスに転校してきたばかりで何も知らない男子と距離を縮めようしてるだなんて・・・
いや、何も知らない・・・・・というよりは彼が大物ではある事は、
既に私はおろか学校全体は知っている。

「いや、まだお互いの事を何も知らないのにそんな馴れ馴れしくするのは・・・」

彼は慌てふためきながらそう答えたが、私は引き下がらない。いや、引き下がりたくない。

「一回だけでも良いから呼んでほしいの・・・」

 もう後戻り出来ないこの気持ちから、私はわざと泣き出しそうな態度でそう言った。
効果は的中で、それを見た彼は今の私が可愛いと思ったのか、
顔を赤くしながらゆっくりと口を開いた。

「じゃあ・・・ま、真依ちゃん・・・・・・」

「・・・っ!!」 


「あっ真依ーおはよう!一緒に学校行こうー!」


 二人だけの空気をかき乱すかのようにして遠くから呼ぶ声が聞こえたかと思えば、隣のクラスの友人だった。
その娘も彼が昨日学校中で噂になっていた事は知っており、
今この状況を理解されるとまずいと思い、彼女に悟られる前に私は一旦この場を後にする事にした。

「じゃあまた後でね、賢人くん・・・・

 そう言い終わるや否や、私は友人の元に向かって走っていった。
彼は急に名前で呼ばれた事に戸惑いながらも返答したように聞こえたが、
私は敢えて聞こえないフリをした。

 せっかく良い雰囲気になっていた所をタイミング悪く邪魔されたが、
今我に返ってみると、ものすごく恥ずかしかった。
だが、この一件で私はいつのまにか謎の行動に出た訳、そしてこの気持ちをようやく理解した。



ーーー私は山本賢人くんが好きなんだと。


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