リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

文字の大きさ
上 下
64 / 68
【最終話 みずほ先輩の華麗なる誘導尋問】

【8-3】

しおりを挟む
 あわてた結果、眼鏡を落としたみたいで、はいつくばり両手でバタバタと床を叩いている。どうやらド近眼で眼鏡を見失ったらしい。

 見るに見かねた俺は眼鏡を拾いあげ、愛美ちゃんの目の前にかがみ込む。

 愛美ちゃんは四つんばいのまますっとんきょうな顔で俺を見上げる。

「探し物、これだろ?」

 俺はその顔にそっと眼鏡をかけてやった。愛美ちゃんの頬が突然、紅に染まる。

「す、すいません……。恥ずかしいところを見せちゃって……」
「ふっ、この失敗は努力の結果だろ。きみの頑張りは今、俺の胸に深く刻まれた」

 やんわりとフォローしつつ散らかった本を寄せ集める。

「優しいんですね。え、と、確か副生徒会長の……」
「黒沢克樹。ちなみに男にとっちゃ優しいなんて褒め言葉にならねえんだよ」
「えっ、そっ、そうなんですか? 失礼しましたっ!」

 ペコペコと頭を下げる愛美ちゃん。同級生なのにていねい語で、しかも仕草がたどたどしい。なかなか可愛らしい妹キャラだ。

「それにしても、ひとりでやってるんだな。誰か誘えばいいのに」
「私、あがり症だし友達少なくて……」
「そっか。まあ、俺でよければ話し相手になってあげるよ」
「ほっ、ほんとうですかっ⁉ 嬉しいです!」

 喜んでもらえて幸いだ。これは副生徒会長として、生徒のお悩みをひとつ、解決してあげられることになる。

 以来、俺はたびたび図書室に足を運び、愛美ちゃんとお喋りをするようになった。

「黒澤君、私、観たい映画があるんですよ~。でも、一緒に行ってくれる人がいなくて……」
「そうか、じゃあ俺が一緒に観に行ってもいいけど、どうする?」
「えっ、いいんですかっ⁉ ありがとうございます!」

 会話の流れで映画を観に行くことになった。愛美ちゃんはぼっち映画を回避できて喜んでいる。ふふふ、これぞ副生徒会長の矜恃。

 映画は村を襲った鬼に復讐をするストーリーの人気アニメ。戦いがエキサイティングで人気を博している。

 ところが冒頭で恐ろしい姿の鬼が出現した瞬間、愛美ちゃんは「うーん」と泡を吹いて意識を失った。

「あ……」

 どうやら彼女は怖いものが大の苦手らしい。アニメだからとなめてかかったのがいけなかったのだろう。

 今度、声をかけられたら、ほのぼのした映画を勧めようと俺は心に誓った――。

 愛美ちゃんを回想した俺は答えを再考する。

 ――そうだ、四番目の愛美ちゃんは正解がわかるはずなのに、すぐに答えなかった。

 これは鬼が呪いをかける問題だ。だから鬼の姿を目の当たりにした愛美ちゃんが正気でいられるはずはない。

 たぶん今頃、最後尾で人知れずカニのように泡を吹いていることだろう。

 答えられる状態ではなくなったと考えれば、愛美ちゃんは正解であるはずがない。

「――というわけで、俺は愛美ちゃんは選ばない!」
「よし、なるほど。わかったわ」

 みずほ先輩は納得したようで首を縦に大きく振る。

「じゃあ、誰を選ぶのかな」
「そんなの、速攻で決められるでしょ」

 俺はふたたび、あっさりと回答した。

「俺が選ぶのは三番目の青葉さんっす。だって、青葉さんはふたり分の焼き印を確認できますけど、二番目のみずほ先輩は俺の焼き印しか見られないですよね。だとすると、青葉さんのほうが正解する確率が高そうですから」

 答えると、みずほ先輩はふたたび両手のひらを俺に向けぶんぶんと首を横に振る。

「ほんとうにそれでいいの? 青春は短いんだよ? 無駄にしちゃダメなんだよ? もう少しよく考えて答えてよ!」
「はぁ、なにが青春でなにが無駄なんすか。みずほ先輩、頭大丈夫っすか?」
「とっ、と・に・か・く、今すぐ答えを再考しなさい! してくださいっ!」

 むぅ、今日のみずほ先輩は明らかに錯乱している。なにか悪いものでも食ったのだろうか。たとえば妄想誘発作用のある毒キノコみたいなやつとか。

 しかし、どうして青葉さんを選ばせてくれないのだろうか。

 そこで俺は次に選んだ三番目の青葉さんのことを回想した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...