60 / 68
【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】
【7-6】
しおりを挟む
★
「お待たせしました! 結奈にはめっちゃ拒否られましたけど」
生徒会室の扉を開いて第一声。そこにはみずほ先輩、宇和野先輩と、それからもうひとり男子生徒の姿があった。
真面目で思慮深そうなひとで、絵の雰囲気そのものだ。村本先輩だ。ただ、思いつめたような表情をしている。
「みずほ先輩、絵を描き換えたひとって――」
みずほ先輩は俺を見てうなずく。
「うん。村本先輩はそのひとりよ」
「そのひとり?」
「かつき君は宇和野先輩と一緒に村本先輩から事情を聞いてほしいの。わたしは結奈ちゃんとふたりで話をするから」
みずほ先輩は神妙な顔をしていて、事の真相を見通せているような雰囲気があった。俺は黙ってうなずく。
みずほ先輩が結奈を連れて部屋から出てゆく。そこで宇和野先輩が話を切り出す。
「村本、どうして自分から言いに来たんだ」
村本先輩はうつむいたまま答える。
「……騒ぎになっていたから、これ以上迷惑はかけられないと思ったんだ」
「それで真相を打ち明けに来たのか」
「生徒会が調査しているって聞いたからな」
「けれど美術部の思い出に手を加えた目的は――鮎川に自分を忘れるよう、暗に示していた。そうだろ?」
村本先輩はぎゅっと両手を握りしめた。拳が震えている。
このときになって俺はやっと、村本先輩が自分自身の絵を消した理由がわかった。同時に宇和野先輩の洞察に驚いていた。
「村本先輩は鮎川先輩と一緒に東京、行きたかったんですね。でもそれがかなわなかったから、鮎川先輩から身を引こうとしたんですよね」
「……ああ」
真面目な性格だからなおさら思いつめたのだろう。悲観するのも無理はない。
「そして村本が描き換えたのは最初だけだよな」
村本先輩は、はっとなった。
宇和野先輩の洞察はまたしても的を射ていた。ということは。
「二回目は鮎川先輩が消えていました。つまりこれって――」
「鮎川も村本と同じ気持ちだったんだろうな」
そばにいられないなら、大切なひとの足かせになってはいけない。さよならしてあげるのが優しさだと。
鮎川先輩も、そんなふうに思っていたのか。
「けれど鮎川先輩が描き換えた絵は、村本先輩が右側――つまり結奈のほうを見ていました。この意味もわかりますよね」
無関係の俺まで胸が苦しくなる。
「ああ、鮎川の描き換えた絵を見てはじめて気づいたよ」
村本先輩は素直に認めた。
俺はもう、いてもたってもいられなくなった。
「宇和野先輩、お願いがあります! 鮎川先輩を連れてきてください!」
「おうよ、任せろよ!」
宇和野先輩はすぐさま立ち上がった。俺の意図を的確に察してくれたらしい。
それからしばらくして、宇和野先輩が生徒会室に戻ってきた。背後には長髪で華奢な女子学生の姿があった。
「待たせたなエブリワン。お望み通り、鮎川を連れてきたぞ」
宇和野先輩は俺に向けて親指を立てる。鮎川先輩は目を腫らしていた。それにひどくよそよそしい。
でも、これでよかったんだと思う。
ふたりとも絵で想いを暗示していたくらいだから、無理やりにでも連れてこなければ二度と会うことはなかっただろう。
「鮎川、まあ座れよ。最後の謎解きがあるからさ」
宇和野先輩はつとめて明るく振舞う。鮎川先輩は遠慮がちに腰を据えた。
みずほ先輩も結奈を連れて戻ってきた。
当の結奈はひどく泣き崩れた顔をしている。
――やっぱり、そういうことだったのか。
一堂に会した皆の表情を目の当たりにし、俺はすべてを理解した。
そして真相は明かされた。
「お待たせしました! 結奈にはめっちゃ拒否られましたけど」
生徒会室の扉を開いて第一声。そこにはみずほ先輩、宇和野先輩と、それからもうひとり男子生徒の姿があった。
真面目で思慮深そうなひとで、絵の雰囲気そのものだ。村本先輩だ。ただ、思いつめたような表情をしている。
「みずほ先輩、絵を描き換えたひとって――」
みずほ先輩は俺を見てうなずく。
「うん。村本先輩はそのひとりよ」
「そのひとり?」
「かつき君は宇和野先輩と一緒に村本先輩から事情を聞いてほしいの。わたしは結奈ちゃんとふたりで話をするから」
みずほ先輩は神妙な顔をしていて、事の真相を見通せているような雰囲気があった。俺は黙ってうなずく。
みずほ先輩が結奈を連れて部屋から出てゆく。そこで宇和野先輩が話を切り出す。
「村本、どうして自分から言いに来たんだ」
村本先輩はうつむいたまま答える。
「……騒ぎになっていたから、これ以上迷惑はかけられないと思ったんだ」
「それで真相を打ち明けに来たのか」
「生徒会が調査しているって聞いたからな」
「けれど美術部の思い出に手を加えた目的は――鮎川に自分を忘れるよう、暗に示していた。そうだろ?」
村本先輩はぎゅっと両手を握りしめた。拳が震えている。
このときになって俺はやっと、村本先輩が自分自身の絵を消した理由がわかった。同時に宇和野先輩の洞察に驚いていた。
「村本先輩は鮎川先輩と一緒に東京、行きたかったんですね。でもそれがかなわなかったから、鮎川先輩から身を引こうとしたんですよね」
「……ああ」
真面目な性格だからなおさら思いつめたのだろう。悲観するのも無理はない。
「そして村本が描き換えたのは最初だけだよな」
村本先輩は、はっとなった。
宇和野先輩の洞察はまたしても的を射ていた。ということは。
「二回目は鮎川先輩が消えていました。つまりこれって――」
「鮎川も村本と同じ気持ちだったんだろうな」
そばにいられないなら、大切なひとの足かせになってはいけない。さよならしてあげるのが優しさだと。
鮎川先輩も、そんなふうに思っていたのか。
「けれど鮎川先輩が描き換えた絵は、村本先輩が右側――つまり結奈のほうを見ていました。この意味もわかりますよね」
無関係の俺まで胸が苦しくなる。
「ああ、鮎川の描き換えた絵を見てはじめて気づいたよ」
村本先輩は素直に認めた。
俺はもう、いてもたってもいられなくなった。
「宇和野先輩、お願いがあります! 鮎川先輩を連れてきてください!」
「おうよ、任せろよ!」
宇和野先輩はすぐさま立ち上がった。俺の意図を的確に察してくれたらしい。
それからしばらくして、宇和野先輩が生徒会室に戻ってきた。背後には長髪で華奢な女子学生の姿があった。
「待たせたなエブリワン。お望み通り、鮎川を連れてきたぞ」
宇和野先輩は俺に向けて親指を立てる。鮎川先輩は目を腫らしていた。それにひどくよそよそしい。
でも、これでよかったんだと思う。
ふたりとも絵で想いを暗示していたくらいだから、無理やりにでも連れてこなければ二度と会うことはなかっただろう。
「鮎川、まあ座れよ。最後の謎解きがあるからさ」
宇和野先輩はつとめて明るく振舞う。鮎川先輩は遠慮がちに腰を据えた。
みずほ先輩も結奈を連れて戻ってきた。
当の結奈はひどく泣き崩れた顔をしている。
――やっぱり、そういうことだったのか。
一堂に会した皆の表情を目の当たりにし、俺はすべてを理解した。
そして真相は明かされた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる