リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】

【7-6】

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「お待たせしました! 結奈にはめっちゃ拒否られましたけど」

 生徒会室の扉を開いて第一声。そこにはみずほ先輩、宇和野先輩と、それからもうひとり男子生徒の姿があった。

 真面目で思慮深そうなひとで、絵の雰囲気そのものだ。村本先輩だ。ただ、思いつめたような表情をしている。

「みずほ先輩、絵を描き換えたひとって――」

 みずほ先輩は俺を見てうなずく。

「うん。村本先輩はそのひとりよ」
「そのひとり?」
「かつき君は宇和野先輩と一緒に村本先輩から事情を聞いてほしいの。わたしは結奈ちゃんとふたりで話をするから」

 みずほ先輩は神妙な顔をしていて、事の真相を見通せているような雰囲気があった。俺は黙ってうなずく。

 みずほ先輩が結奈を連れて部屋から出てゆく。そこで宇和野先輩が話を切り出す。

「村本、どうして自分から言いに来たんだ」

 村本先輩はうつむいたまま答える。

「……騒ぎになっていたから、これ以上迷惑はかけられないと思ったんだ」
「それで真相を打ち明けに来たのか」
「生徒会が調査しているって聞いたからな」
「けれど美術部の思い出に手を加えた目的は――鮎川に自分を忘れるよう、暗に示していた。そうだろ?」

 村本先輩はぎゅっと両手を握りしめた。拳が震えている。

 このときになって俺はやっと、村本先輩が自分自身の絵を消した理由がわかった。同時に宇和野先輩の洞察に驚いていた。

「村本先輩は鮎川先輩と一緒に東京、行きたかったんですね。でもそれがかなわなかったから、鮎川先輩から身を引こうとしたんですよね」
「……ああ」

 真面目な性格だからなおさら思いつめたのだろう。悲観するのも無理はない。

「そして村本が描き換えたのは最初だけだよな」

 村本先輩は、はっとなった。

 宇和野先輩の洞察はまたしても的を射ていた。ということは。

「二回目は鮎川先輩が消えていました。つまりこれって――」
「鮎川も村本と同じ気持ちだったんだろうな」

 そばにいられないなら、大切なひとの足かせになってはいけない。さよならしてあげるのが優しさだと。

 鮎川先輩も、そんなふうに思っていたのか。

「けれど鮎川先輩が描き換えた絵は、村本先輩が右側――つまり結奈のほうを見ていました。この意味もわかりますよね」

 無関係の俺まで胸が苦しくなる。

「ああ、鮎川の描き換えた絵を見てはじめて気づいたよ」

 村本先輩は素直に認めた。

 俺はもう、いてもたってもいられなくなった。

「宇和野先輩、お願いがあります! 鮎川先輩を連れてきてください!」
「おうよ、任せろよ!」

 宇和野先輩はすぐさま立ち上がった。俺の意図を的確に察してくれたらしい。

 それからしばらくして、宇和野先輩が生徒会室に戻ってきた。背後には長髪で華奢な女子学生の姿があった。

「待たせたなエブリワン。お望み通り、鮎川を連れてきたぞ」

 宇和野先輩は俺に向けて親指を立てる。鮎川先輩は目を腫らしていた。それにひどくよそよそしい。

 でも、これでよかったんだと思う。

 ふたりとも絵で想いを暗示していたくらいだから、無理やりにでも連れてこなければ二度と会うことはなかっただろう。

「鮎川、まあ座れよ。最後の謎解きがあるからさ」

 宇和野先輩はつとめて明るく振舞う。鮎川先輩は遠慮がちに腰を据えた。

 みずほ先輩も結奈を連れて戻ってきた。

 当の結奈はひどく泣き崩れた顔をしている。

 ――やっぱり、そういうことだったのか。

 一堂に会した皆の表情を目の当たりにし、俺はすべてを理解した。

 そして真相は明かされた。

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