59 / 68
【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】
【7-5】
しおりを挟む
★
その翌日のこと。
手がかりを得られずにいた俺たちを尻目に、ふたたび事件が起きた。
学校に着くやいなや、クラス内は噂話と憶測で持ちきりだった。
「また描き換えられたらしいよ。あの絵。今回は連日じゃん」
「絵の人物、まじやばいよ。悪霊の呪いじゃねえのか」
――まじかよ、今度はいったいどういうふうに?
百聞は一見にしかずだ。直接見たくなり、足が勝手に美術室へと向かっていた。
そして目にした絵は、昨日とはまるで違う姿をしていた。
中央の村本先輩は健在だった。しかし、顔はふたたび空を向いていた。そして左の鮎川先輩は不在のままだが、右の結奈もまた、こつぜんと姿を消していた。
多くの生徒が集まり、絵の写真を撮っていた。ここまで不可解だとほんとうに怪奇現象じゃないかと疑ってしまう。
「あっ、おはよう。かつき君も来たんだ」
「みずほ先輩、やっぱりかぎつけたんですね」
みずほ先輩も絵の様子を見に来ていた。肩を並べてふたりで絵を眺める。
「両手の花がいなくなっちまいましたね。今度は結奈の絵ですか」
「そうだけど……以前の変化と比べると、今回はちょっと変よね」
「えっ、どこがですか」
「今回は色がくすんでいるし、塗り方が荒く見えるわ」
「そうっすか、俺にはあんまり区別がつかないですけど」
絵に近づき、目を凝らして観察する。確かにみずほ先輩の言う通り、いままでの描き換えとは雰囲気が違うと感じる。
「あと、これ見てくれるかな」
みずほ先輩は足元を指さす。そこには絵の具を拭き取った跡があった。
「書き換えの途中、絵の具をこぼしたんですね」
「そうだと思うけど……」
毎回、この場所で描き換えをしているのだから、美術部員の仕業という可能性が濃厚だ。
美術室には共用の絵の具セットがあったから、鍵を借りられる部員なら誰もいない時間を狙って描き換えることができるはずだ。
ふと、結奈のことを思い出した。
「もしかすると、結奈は何か知ってるかもしれないっすね」
この前はまるで事情を知らないようだったが、今回は結奈の絵が消されているのだ。だとすれば、関係がないわけではない。
「聞いてみようか。学校が終わったら声をかけてもらえるかな」
「了解っす!」
俺は放課後、すぐさま結奈に声をかけた。
「よう、また話があるんだけど、これから付き合ってくれないか」
ところが結奈は俺の顔を見るやいなや避けて通り過ぎようとした。
「ちょっと待てよ!」
結奈の腕をつかんだ。振り向いた結奈は泣きそうな顔で俺を睨みつける。天真爛漫な彼女らしくない表情に俺は驚いた。
「どうしたんだよ、何があったんだよ」
気を遣い声を鎮めて尋ねるが、彼女は押し黙ったままだ。
そういえば結奈は珍しくジャージ姿で過ごしていた。振り返ると今日一日、避けられているような違和感があった。
そのとき俺のスマホが鳴る。見るとみずほ先輩からだ。
電話を受けると、意外なひとことが耳に飛び込んできた。
「絵を描き換えたひとが生徒会室に来たの!」
「えっ?」
「そのひとが結奈ちゃんを呼んで、って言ってるのよ!」
「どういうことっすか」
「とにかく結奈ちゃんを連れてきて!」
俺はわけがわからないまま、結奈の表情をうかがう。結奈は口元を引き結んだまま微動だにしなかった。
その翌日のこと。
手がかりを得られずにいた俺たちを尻目に、ふたたび事件が起きた。
学校に着くやいなや、クラス内は噂話と憶測で持ちきりだった。
「また描き換えられたらしいよ。あの絵。今回は連日じゃん」
「絵の人物、まじやばいよ。悪霊の呪いじゃねえのか」
――まじかよ、今度はいったいどういうふうに?
百聞は一見にしかずだ。直接見たくなり、足が勝手に美術室へと向かっていた。
そして目にした絵は、昨日とはまるで違う姿をしていた。
中央の村本先輩は健在だった。しかし、顔はふたたび空を向いていた。そして左の鮎川先輩は不在のままだが、右の結奈もまた、こつぜんと姿を消していた。
多くの生徒が集まり、絵の写真を撮っていた。ここまで不可解だとほんとうに怪奇現象じゃないかと疑ってしまう。
「あっ、おはよう。かつき君も来たんだ」
「みずほ先輩、やっぱりかぎつけたんですね」
みずほ先輩も絵の様子を見に来ていた。肩を並べてふたりで絵を眺める。
「両手の花がいなくなっちまいましたね。今度は結奈の絵ですか」
「そうだけど……以前の変化と比べると、今回はちょっと変よね」
「えっ、どこがですか」
「今回は色がくすんでいるし、塗り方が荒く見えるわ」
「そうっすか、俺にはあんまり区別がつかないですけど」
絵に近づき、目を凝らして観察する。確かにみずほ先輩の言う通り、いままでの描き換えとは雰囲気が違うと感じる。
「あと、これ見てくれるかな」
みずほ先輩は足元を指さす。そこには絵の具を拭き取った跡があった。
「書き換えの途中、絵の具をこぼしたんですね」
「そうだと思うけど……」
毎回、この場所で描き換えをしているのだから、美術部員の仕業という可能性が濃厚だ。
美術室には共用の絵の具セットがあったから、鍵を借りられる部員なら誰もいない時間を狙って描き換えることができるはずだ。
ふと、結奈のことを思い出した。
「もしかすると、結奈は何か知ってるかもしれないっすね」
この前はまるで事情を知らないようだったが、今回は結奈の絵が消されているのだ。だとすれば、関係がないわけではない。
「聞いてみようか。学校が終わったら声をかけてもらえるかな」
「了解っす!」
俺は放課後、すぐさま結奈に声をかけた。
「よう、また話があるんだけど、これから付き合ってくれないか」
ところが結奈は俺の顔を見るやいなや避けて通り過ぎようとした。
「ちょっと待てよ!」
結奈の腕をつかんだ。振り向いた結奈は泣きそうな顔で俺を睨みつける。天真爛漫な彼女らしくない表情に俺は驚いた。
「どうしたんだよ、何があったんだよ」
気を遣い声を鎮めて尋ねるが、彼女は押し黙ったままだ。
そういえば結奈は珍しくジャージ姿で過ごしていた。振り返ると今日一日、避けられているような違和感があった。
そのとき俺のスマホが鳴る。見るとみずほ先輩からだ。
電話を受けると、意外なひとことが耳に飛び込んできた。
「絵を描き換えたひとが生徒会室に来たの!」
「えっ?」
「そのひとが結奈ちゃんを呼んで、って言ってるのよ!」
「どういうことっすか」
「とにかく結奈ちゃんを連れてきて!」
俺はわけがわからないまま、結奈の表情をうかがう。結奈は口元を引き結んだまま微動だにしなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
芽吹と息吹~生き別れ三十路兄と私のつぎはぎな数か月間~
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
ライト文芸
──ふわふわ浮き草系の三十路兄と、生真面目女子高生。
つぎはぎだらけの家族が紡ぐ、ほろ苦くもきらきらと光瞬く青春と家族愛の物語──
両親の海外赴任を機に一人暮らしをする予定だった高校生・来宮芽吹のもとに、生き別れの兄を名乗る息吹が現れた。
妹への愛を隠そうとしない、ふわふわ浮世離れした三十路の兄のふるまいに、芽吹は早々に振り回される。
さらには芽吹の高校の購買のお兄さんとして、息吹の就職が決まって…。
妹愛が重すぎる兄と、生真面目な妹、彼らを取り巻く高校を舞台にしたほろ苦いハートフルストーリー。
※小説家になろう、ノベマ!、魔法のiらんどに同作掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる