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【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】
【7-4】
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★
翌日の一限目が終わった休み時間。みずほ先輩はふいに俺のクラスを訪れた。
まわりがざわめいていたから何事かと思ったけど、みずほ先輩の登場にクラス中が色めき立ったようだ。
「あの生徒会長がご降臨なされたぞ!」
みずほ先輩に免疫のない一年生は、まるで女神を目撃したかのように驚嘆する。
俺のクラスに何の用かと思ったけど、みずほ先輩は俺を見つけるやいなや、あわてた様子で話しかけてきた。
「ねえ、かつき君。あの絵、見た?」
「先日、一緒に見たじゃないっすか」
「そうじゃないのよ、一緒に来て!」
腕を強引に引っ張られ、教室から連れ出された。
「いったいなんなんすか、みずほ先輩!」
「見てみればわかるから!」
俺はこのひとの下僕だっていうことは、生徒会内の秘密にしておくつもりなのに。バレたらクラスメイトから茶化されそうだ。
けれど美術部の壁の前に立った瞬間、そんなことは思考から吹っ飛んだ。
「まさか、そんなことって……」
例の絵が、さらに描き換えられていたのだ。
村本先輩の姿がすっかりもとに戻されていた。しかも顔が空ではなく右を向いていた。結奈のほうだ。
そして今度は、鮎川先輩の姿が消滅していたのだ。背筋が凍りついたように冷たくなる。
「これ、やっぱり幽霊の仕業っすね」
「そんなわけないでしょ!」
「ところで、消えた本人たち、村本先輩と鮎川先輩はこの現象に心当たりあるんですかね」
「三年生の先輩方のことだから、わたしだって気安く訊けないわよ」
接点のない先輩方に事情を尋ねるのは無理だろう。そこで俺は思いつく。
「そうだ、宇和野先輩に聞いてみたらどうっすか」
「そうね、それが近道かも」
すぐさま宇和野先輩にスマホでメッセージを送る。
『あの絵がまた描き換えられてました』
ふたりで画面を見ていると、すぐに返事がきた。
『おせーよ。それ皆知ってる』
奇妙な現象の噂は瞬く間に校内を駆け巡ったようだ。
『すいません。ところで消えた絵の張本人、村本先輩と鮎川先輩って知ってます?』
『ああ、鮎川のほうはクラスメイトだけど』
しめた、何らかの情報が手に入るかも。
『あのふたりって仲良かったみたいですけど、その後どうなったかわかります?』
『どこまで行ったかってことか?』
『そうじゃないっす! どこに行くかです、進路のことです!』
宇和野先輩は人格者だがネジが微妙にずれている。それなのに受験は全勝だったらしい。世の中何が正義なのか俺にはさっぱりだ。
『ああ、鮎川は東京の国立大に受かったけど、村本のほうは知らないな。そっちのクラスの奴に聞いてみる』
『ありがとうございます』
『でもたぶん落ちてると思う』
画面に表示されたその一文に、俺とみずほ先輩は顔を見合わせた。
『鮎川、やけに元気なかったからさ』
そのメッセージを目にした俺は、それ以上何も返せないでいた。
解散し家に帰る途中、俺は結奈に電話をかけた。連絡先は交換済みだった。
数回コール音が鳴ったけど留守電になった。しかたなくメッセージを送る。
『あの絵がまた描き換えられていた件で、心当たりあるかな』
しばらく待ったが返事はなかった。今日は美術部の活動がないはずだから、すぐに返事が来ると思ったのに。
腑に落ちないでいると、かわりに宇和野先輩から折り返しの連絡があった。
『村本の受験の結果だけどな。実はな――』
宇和野先輩が聞き込みをした結果は予想通りで、村本先輩は国立大学には不合格で、地元の私立大学に通うことになった、とのことだった。
翌日の一限目が終わった休み時間。みずほ先輩はふいに俺のクラスを訪れた。
まわりがざわめいていたから何事かと思ったけど、みずほ先輩の登場にクラス中が色めき立ったようだ。
「あの生徒会長がご降臨なされたぞ!」
みずほ先輩に免疫のない一年生は、まるで女神を目撃したかのように驚嘆する。
俺のクラスに何の用かと思ったけど、みずほ先輩は俺を見つけるやいなや、あわてた様子で話しかけてきた。
「ねえ、かつき君。あの絵、見た?」
「先日、一緒に見たじゃないっすか」
「そうじゃないのよ、一緒に来て!」
腕を強引に引っ張られ、教室から連れ出された。
「いったいなんなんすか、みずほ先輩!」
「見てみればわかるから!」
俺はこのひとの下僕だっていうことは、生徒会内の秘密にしておくつもりなのに。バレたらクラスメイトから茶化されそうだ。
けれど美術部の壁の前に立った瞬間、そんなことは思考から吹っ飛んだ。
「まさか、そんなことって……」
例の絵が、さらに描き換えられていたのだ。
村本先輩の姿がすっかりもとに戻されていた。しかも顔が空ではなく右を向いていた。結奈のほうだ。
そして今度は、鮎川先輩の姿が消滅していたのだ。背筋が凍りついたように冷たくなる。
「これ、やっぱり幽霊の仕業っすね」
「そんなわけないでしょ!」
「ところで、消えた本人たち、村本先輩と鮎川先輩はこの現象に心当たりあるんですかね」
「三年生の先輩方のことだから、わたしだって気安く訊けないわよ」
接点のない先輩方に事情を尋ねるのは無理だろう。そこで俺は思いつく。
「そうだ、宇和野先輩に聞いてみたらどうっすか」
「そうね、それが近道かも」
すぐさま宇和野先輩にスマホでメッセージを送る。
『あの絵がまた描き換えられてました』
ふたりで画面を見ていると、すぐに返事がきた。
『おせーよ。それ皆知ってる』
奇妙な現象の噂は瞬く間に校内を駆け巡ったようだ。
『すいません。ところで消えた絵の張本人、村本先輩と鮎川先輩って知ってます?』
『ああ、鮎川のほうはクラスメイトだけど』
しめた、何らかの情報が手に入るかも。
『あのふたりって仲良かったみたいですけど、その後どうなったかわかります?』
『どこまで行ったかってことか?』
『そうじゃないっす! どこに行くかです、進路のことです!』
宇和野先輩は人格者だがネジが微妙にずれている。それなのに受験は全勝だったらしい。世の中何が正義なのか俺にはさっぱりだ。
『ああ、鮎川は東京の国立大に受かったけど、村本のほうは知らないな。そっちのクラスの奴に聞いてみる』
『ありがとうございます』
『でもたぶん落ちてると思う』
画面に表示されたその一文に、俺とみずほ先輩は顔を見合わせた。
『鮎川、やけに元気なかったからさ』
そのメッセージを目にした俺は、それ以上何も返せないでいた。
解散し家に帰る途中、俺は結奈に電話をかけた。連絡先は交換済みだった。
数回コール音が鳴ったけど留守電になった。しかたなくメッセージを送る。
『あの絵がまた描き換えられていた件で、心当たりあるかな』
しばらく待ったが返事はなかった。今日は美術部の活動がないはずだから、すぐに返事が来ると思ったのに。
腑に落ちないでいると、かわりに宇和野先輩から折り返しの連絡があった。
『村本の受験の結果だけどな。実はな――』
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