リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第六話 みずほ先輩と学園祭に輝く七つの星】

【6-13】

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 かわいらしく色づく高嶺の花に、俺の心が揺さぶられる。けれど、俺はしょせん下僕だ。出すぎた真似なんて、できるはずがない。

 でも、こんなうまくいった日は、夜のとばりに魔法が宿るのかもしれない。

 下僕が王子様のふりをして、少しだけ背伸びをさせてもらっても、いいだろうか。

 俺は意を決してからっぽの舞台に駆け上がる。

「みずほ先輩も舞台に上がってください!」

 みずほ先輩は何も聞かず、軽い足取りで舞台に上がる。

 その間、俺は素早くスマホで動画を検索する。音量を最大にして床に置く。

 みずほ先輩の目の前に立ち、すっと右手を差し出す。

「俺と、踊ってもらえませんか?」
「えっ……?」

 同時にスマホから音楽が流れだす。

『Rewrite The Stars』

 ミュージカル映画、『グレイテスト・ショーマン』の挿入歌。

 身分の違う男女が、踊りながら心を通わせる素敵なシーンだ。

 昔はディスコでチークダンスを踊るのがトレンドだったと、俺の父親と母親が話していた。

 そんなの、この時代にはそぐわない。けれど、だからこんなこと、一生経験しないことだと思った。

 たとえこれから、みずほ先輩にどんな出逢いが訪れたとしても。

 俺はみずほ先輩と俺だけの、唯一無二の思い出を作りたかった。たとえ分不相応に背伸びをした下僕だとしても。

 けれど、みずほ先輩は俺の気持ちを汲み取ってくれた。

「ええ、よろしくお願いします」

 やわらかく腰を折って、両手で制服の裾をつまみあげる。顔を上げてから俺に一歩、近づいた。

 みずほ先輩の肩に手をあてると、みずほ先輩は俺の腰に腕を回す。

 それから反対の腕を伸ばして、そっと手と手を重ねる。

 しらじらしい演技だけど、みずほ先輩だって百も承知で乗っているはずだ。

 間近で視線が合わさる。

 首を小さく縦に振った。

 俺もうなずき返す。

 その合図にあわせて、俺たちはゆったりと踊り始める。

 スマホから奏でられる音楽が、夜のしじまに広がってゆく。

 俺は思う。どうかこの可憐で勇敢な戦士に、しばしの心の休息を。

 そして腹をくくって、みずほ先輩にこう伝える。

「みずほ先輩、俺、副生徒会長、引き受けます。頼りないでしょうけど、自分なりに頑張りますね」
「えっ、いいの?」

 みずほ先輩はすっとんきょうな顔をした。俺が最後まで拒否すると思っていたのだろうか。

 でも、どう考えたって、俺自身の結論はひとつしかなかった。

「もちろんですよ。みずほ先輩の後を継げるのは、同じ時間を過ごしてきて、これからも一緒にいるひと。――そう、俺以外には誰もいないじゃないっすか」

 答えながら思う。俺はこのひとに少しだけ、男として育ててもらえたんじゃないかと。

 そんな自分が、今までよりもずっと好きになれそうな気がした。

「そう言ってくれてうれしいよ。それじゃ約束よ。これからもずっと一緒に頑張ろうね」
「はい、よろこんで」

 その「ずっと」がどれだけ有限の時間なのか、俺は知らない。

 だけど天然のプラネタリウムの下、見つめあいながら踊るチークダンスは、俺にとって最高の宝物になるはずだ。

 だから、どうかこの群青の時間が、みずほ先輩にとっても心に残る、アオハルのひとつになりますように。

 そんな頼りない願いが、波紋を描くように、心の中にゆったりと広がっていった。
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