48 / 68
【第六話 みずほ先輩と学園祭に輝く七つの星】
【6-7】
しおりを挟む
はてしなく善良で後輩想いの宇和野先輩に、俺は涙があふれそうになる。でも、俺はそんな宇和野先輩を正々堂々と負かし、頼りになる男だと安心させたい。
「大丈夫っすよ、俺。宇和野先輩とみずほ先輩に勝負を挑めるなんて最高の栄誉っす」
「そうよねー、黒澤君。私は絶対このままがいいー!」
南鷹先輩は頑としてチーム構成を崩そうとしないつもりだ。
「なっ、南鷹ァァァ! 余計なことをォォォ!」
「宇和野先輩、俺みたいなポンコツが相手とはいえ、全力でお願いします。そしていままで一緒に仕事してきたみずほ先輩と一緒に楽しい思い出を作ってくださいよ」
「くっ! そうか、そうだよな。ならば黒澤、お前には絶対勝たせないからな!」
「俺も全力でいきます。そして俺が勝てたら――俺から宇和野先輩に命令させてください!」
俺は心底、一度でいいから尊敬する宇和野先輩と固い握手を交わしたい。
「へっ、おっ、俺に命令か⁉ ああ、そうか、そうか。じゃあいいや!」
なんと、宇和野先輩は険しい表情を崩し、俺の願いを聞き入れてくれた。なんて広大なふところの持ち主なんだ!
「ありがとうございます! じゃあ、対決では胸をお借りします!」
「ああ、よしんば俺らが負けたら、お前の命令は瑞穂ではなく、この俺が受け止めるからな! 絶対だぞ!」
「手は抜かないでくださいよ!」
「もちろんだ、これは男と男の約束な!」
という経緯があり、生徒会内で『どっちが先に売り切れ御免になるか競争』の火蓋が落とされることとなった。
★
「さあ、今年もやってきました、城西高等学校学園祭。お集まりくださいました皆様には――」
放送部のナレーションに続き、会場中からクラッカーの音が鳴り響く。
アップテンポな曲が流れ、舞台のイベントが始まる。
「最初はラグビー部による女装大会です!」
屈強な肉体の自称美女たちが姿を現した。ブレザーやセーラー服、ワンピースのドレスなど、衣装を凝らした格好をしていて、くねくねと奇妙な動きで舞台の上を闊歩する。ひとりひとりが舞台袖から登場するたびに、打ち寄せる波のようなどよめきが上がる。
同級生の意外な姿にある者は感嘆し、ある者は恐れおののき、そしてある者は瞳をハートマークにしていた。
「さっそく盛り上がってますね」
「男子の中には絶対、女装したくてやっているひとがいるのよね。かつき君がやったら美人になりそうだけど」
「いっ、いや、俺は遠慮しますよ。どうせ怪物にしかならないっすよ。それより俺たちは肝心の屋内イベントを見に行きましょうよ」
「そうよね、それぞれの部活が謎かけしているか、ちゃんと確かめなくちゃ」
今日のみずほ先輩は一眼レフではなく、ハンディカメラを手にしている。学園祭の様子を動画に収めるつもりなのだ。
「あとで編集して校内放送で流すつもり。来年の参考にもなると思うし」
「よっしゃ、じゃあ俺はナレーションしますね」
「お願いね、かつき君。名言、期待してるわ」
そうして俺たちは屋内のイベントへと向かった。
本館の校舎は三階建てで、カステラに似た横長の直方体の形をしている。向かって左からルームABC……と並んでいて、それが十部屋もある。一番右側の二階はルーム2J。そこが道場となっている。
「じゃあ、まず剣道部から行ってみますか」
二階右端のルーム2Jへと向かう。道場の入口には、でかでかとキャッチフレーズが掲げられている。
『剣の道を極めろ!』
長い半紙に墨汁で書かれたその字はけっして上手くない。
けれど、生徒会が指定したキャッチフレーズを掲げていたのでほっとした。
「ちゃんと約束は守ってくれたみたいですね」
「よかったぁ~。ここは大丈夫だったね」
見ると防具を纏った剣道部の部員が竹刀を交えている。審判もいて、真剣勝負の試合を催しているようだ。
さっそく、たくさんの生徒たちが集まっていた。
「ウオオオオォォォォ!!」
「セイヤァァァァァァ!!」
まじかで見る剣道部の試合は建物を揺らすような迫力がある。観客は皆、固唾を飲んで見守っている。
竹刀が激しい音を立ててぶつかり合う。みずほ先輩はビデオを向け、俺は小声でナレーションを吹き込む。
「ただいま道場では剣道部の戦いが繰り広げられています! 情熱の炎がほとばしり、会場は熱気に包まれています! 互いに神速の攻撃を繰り出しており、一瞬も気を緩めることができません! さあ、試合の行方は――」
「大丈夫っすよ、俺。宇和野先輩とみずほ先輩に勝負を挑めるなんて最高の栄誉っす」
「そうよねー、黒澤君。私は絶対このままがいいー!」
南鷹先輩は頑としてチーム構成を崩そうとしないつもりだ。
「なっ、南鷹ァァァ! 余計なことをォォォ!」
「宇和野先輩、俺みたいなポンコツが相手とはいえ、全力でお願いします。そしていままで一緒に仕事してきたみずほ先輩と一緒に楽しい思い出を作ってくださいよ」
「くっ! そうか、そうだよな。ならば黒澤、お前には絶対勝たせないからな!」
「俺も全力でいきます。そして俺が勝てたら――俺から宇和野先輩に命令させてください!」
俺は心底、一度でいいから尊敬する宇和野先輩と固い握手を交わしたい。
「へっ、おっ、俺に命令か⁉ ああ、そうか、そうか。じゃあいいや!」
なんと、宇和野先輩は険しい表情を崩し、俺の願いを聞き入れてくれた。なんて広大なふところの持ち主なんだ!
「ありがとうございます! じゃあ、対決では胸をお借りします!」
「ああ、よしんば俺らが負けたら、お前の命令は瑞穂ではなく、この俺が受け止めるからな! 絶対だぞ!」
「手は抜かないでくださいよ!」
「もちろんだ、これは男と男の約束な!」
という経緯があり、生徒会内で『どっちが先に売り切れ御免になるか競争』の火蓋が落とされることとなった。
★
「さあ、今年もやってきました、城西高等学校学園祭。お集まりくださいました皆様には――」
放送部のナレーションに続き、会場中からクラッカーの音が鳴り響く。
アップテンポな曲が流れ、舞台のイベントが始まる。
「最初はラグビー部による女装大会です!」
屈強な肉体の自称美女たちが姿を現した。ブレザーやセーラー服、ワンピースのドレスなど、衣装を凝らした格好をしていて、くねくねと奇妙な動きで舞台の上を闊歩する。ひとりひとりが舞台袖から登場するたびに、打ち寄せる波のようなどよめきが上がる。
同級生の意外な姿にある者は感嘆し、ある者は恐れおののき、そしてある者は瞳をハートマークにしていた。
「さっそく盛り上がってますね」
「男子の中には絶対、女装したくてやっているひとがいるのよね。かつき君がやったら美人になりそうだけど」
「いっ、いや、俺は遠慮しますよ。どうせ怪物にしかならないっすよ。それより俺たちは肝心の屋内イベントを見に行きましょうよ」
「そうよね、それぞれの部活が謎かけしているか、ちゃんと確かめなくちゃ」
今日のみずほ先輩は一眼レフではなく、ハンディカメラを手にしている。学園祭の様子を動画に収めるつもりなのだ。
「あとで編集して校内放送で流すつもり。来年の参考にもなると思うし」
「よっしゃ、じゃあ俺はナレーションしますね」
「お願いね、かつき君。名言、期待してるわ」
そうして俺たちは屋内のイベントへと向かった。
本館の校舎は三階建てで、カステラに似た横長の直方体の形をしている。向かって左からルームABC……と並んでいて、それが十部屋もある。一番右側の二階はルーム2J。そこが道場となっている。
「じゃあ、まず剣道部から行ってみますか」
二階右端のルーム2Jへと向かう。道場の入口には、でかでかとキャッチフレーズが掲げられている。
『剣の道を極めろ!』
長い半紙に墨汁で書かれたその字はけっして上手くない。
けれど、生徒会が指定したキャッチフレーズを掲げていたのでほっとした。
「ちゃんと約束は守ってくれたみたいですね」
「よかったぁ~。ここは大丈夫だったね」
見ると防具を纏った剣道部の部員が竹刀を交えている。審判もいて、真剣勝負の試合を催しているようだ。
さっそく、たくさんの生徒たちが集まっていた。
「ウオオオオォォォォ!!」
「セイヤァァァァァァ!!」
まじかで見る剣道部の試合は建物を揺らすような迫力がある。観客は皆、固唾を飲んで見守っている。
竹刀が激しい音を立ててぶつかり合う。みずほ先輩はビデオを向け、俺は小声でナレーションを吹き込む。
「ただいま道場では剣道部の戦いが繰り広げられています! 情熱の炎がほとばしり、会場は熱気に包まれています! 互いに神速の攻撃を繰り出しており、一瞬も気を緩めることができません! さあ、試合の行方は――」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ペンキとメイドと少年執事
海老嶋昭夫
ライト文芸
両親が当てた宝くじで急に豪邸で暮らすことになった内山夏希。 一人で住むには寂しい限りの夏希は使用人の募集をかけ応募したのは二人、無表情の美人と可愛らしい少年はメイドと執事として夏希と共に暮らすこととなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる