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【第五話 みずほ先輩の壮絶な生徒会長選挙】
【5-6】
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戻ると宇和野先輩は壇上の玉城圭吾とにらみ合っていた。
「演説を前に逃げ出してしまうような無責任な輩に、この学校を任せることなんてできません! さあ、いなくなった理由を説明してください、現生徒会長さん!」
宇和野先輩は答えに窮していた。生徒たちも何事かとざわめいていて、戦況は明らかに不利な雰囲気だった。
もとの席に戻った俺は、宇和野先輩のかわりに玉城圭吾に向かって叫ぶ。
「みずほ先輩は無責任な輩なんかじゃありません!」
そして壇上へ駆け上がり、玉城圭吾からマイクを奪い取る。
「玉城先輩、今度は俺たちの演説の番です。みずほ先輩はすぐに戻ってきますから、そのあいだ、みずほ先輩がどれだけ素晴らしいひとなのか、俺が教えてあげますよ!」
しつこく居座ろうとする玉城圭吾を突き放し、全校生徒に向かって思いのたけを込めて伝える。
「清川瑞穂先輩、あのひとはいつだって一生懸命に生きているひとです。たとえば広報誌のコラムの取材、あれはぜんぶみずほ先輩がやっているんですよ! それに、誰に対しても思いやりがあるんですよ。だって今、姿を消したのは、その優しさが原因なんですから――」
それから俺はみずほ先輩との猫の救出劇について語った。緊張で胸が高鳴り、声はひどく震えた。でも気持ちが止まらない。
さらに、みずほ先輩と一緒に過ごした時間を思い出しながら、いいところも、怖いところも、そして――俺がみずほ先輩をどんなふうに思っているのかも、ぜんぶ語りつくした。
「――だから、俺はそんなみずほ先輩を心底、尊敬しています!」
言い終わってから、自分の息が荒いことに気づいた。他人のことでこんなにむきになったのは初めてだ。
いや、みずほ先輩は俺にとって、他人なんかじゃないのかもしれない。
そこでみずほ先輩がジャージ姿で現れた。早足で登壇し俺の隣に並ぶ。
「おまたせ、かつき君」
「待ってました。ようやっと真打登場っすね」
マイクを手渡し顔を見合わせる。同時にうなずく。
俺が一歩下がると、みずほ先輩は全校生徒に向き合いあいさつをする。
「皆様、長らくお待たせしました!」
会場からはいっせいに拍手喝采が沸き起こる。皆、羨望の眼差しをみずほ先輩に向けている。
かたや、みずほ先輩は予想外の歓迎ぶりに戸惑いを隠せない。
「みんな、みずほ先輩の演説を心待ちにしていたようですよ」
俺はそう言い残してきびすを返す。舞台袖に降りたところで声が響く。
「皆さん聞いてください、わたしが生徒会長になったあかつきには、学校の改革に乗り出したいと思います。まずはこの学校の校則を――」
みずほ先輩らしい、自信に満ちあふれた、どこまでも響く声。
会場はしだいに、その美しい音色に包まれていった――。
★
「いやいや、なかなか立派だったぞ!」
「恐縮です、宇和野先輩。それにみんなありがとう」
生徒会室で称えられるみずほ先輩はひどく赤面している。
「これで僕も心置きなく受験勉強に打ち込めるってもんだ」
選挙の結末は壮絶だった。みずほ先輩の圧勝、それも玉城圭吾を支持した人数は、彼の陣営の人数よりも少なかったという。
「みずほ先輩、もはや学校のアイドルから王女様に昇格っすね」
「そんな……みんなに支えられたおかげだよ。かつき君、ほんとうに助かったよ」
俺が壇上で猫の話を持ち出したから、みずほ先輩は質疑応答で猫との関係を責め立てられた。
玉城圭吾は攻撃的だったが、正直に話したことが好感を得、結果的に支持者は増え、しかも餌付けの件はお咎めなしとなった。
さらに里親のオファーが殺到し、万々歳の結末となった。
「しかし会長としての最初の仕事が餌付けだなんて、みずほ先輩らしいっすね」
「そうかしら。でも、引き渡しまでは責任持って面倒を見なくちゃ」
選挙の後、みずほ先輩の演説に感動した校長の独断により、里親が決まるまでの期間限定で猫の飼育が許可された。
野良猫を卒業した以上、餌付けは条例違反ではない。
窓の外では魚肉ソーセージをたらふく食した猫たちが丸まって寝息を立てていた。すべては丸く収まったということか。
「演説を前に逃げ出してしまうような無責任な輩に、この学校を任せることなんてできません! さあ、いなくなった理由を説明してください、現生徒会長さん!」
宇和野先輩は答えに窮していた。生徒たちも何事かとざわめいていて、戦況は明らかに不利な雰囲気だった。
もとの席に戻った俺は、宇和野先輩のかわりに玉城圭吾に向かって叫ぶ。
「みずほ先輩は無責任な輩なんかじゃありません!」
そして壇上へ駆け上がり、玉城圭吾からマイクを奪い取る。
「玉城先輩、今度は俺たちの演説の番です。みずほ先輩はすぐに戻ってきますから、そのあいだ、みずほ先輩がどれだけ素晴らしいひとなのか、俺が教えてあげますよ!」
しつこく居座ろうとする玉城圭吾を突き放し、全校生徒に向かって思いのたけを込めて伝える。
「清川瑞穂先輩、あのひとはいつだって一生懸命に生きているひとです。たとえば広報誌のコラムの取材、あれはぜんぶみずほ先輩がやっているんですよ! それに、誰に対しても思いやりがあるんですよ。だって今、姿を消したのは、その優しさが原因なんですから――」
それから俺はみずほ先輩との猫の救出劇について語った。緊張で胸が高鳴り、声はひどく震えた。でも気持ちが止まらない。
さらに、みずほ先輩と一緒に過ごした時間を思い出しながら、いいところも、怖いところも、そして――俺がみずほ先輩をどんなふうに思っているのかも、ぜんぶ語りつくした。
「――だから、俺はそんなみずほ先輩を心底、尊敬しています!」
言い終わってから、自分の息が荒いことに気づいた。他人のことでこんなにむきになったのは初めてだ。
いや、みずほ先輩は俺にとって、他人なんかじゃないのかもしれない。
そこでみずほ先輩がジャージ姿で現れた。早足で登壇し俺の隣に並ぶ。
「おまたせ、かつき君」
「待ってました。ようやっと真打登場っすね」
マイクを手渡し顔を見合わせる。同時にうなずく。
俺が一歩下がると、みずほ先輩は全校生徒に向き合いあいさつをする。
「皆様、長らくお待たせしました!」
会場からはいっせいに拍手喝采が沸き起こる。皆、羨望の眼差しをみずほ先輩に向けている。
かたや、みずほ先輩は予想外の歓迎ぶりに戸惑いを隠せない。
「みんな、みずほ先輩の演説を心待ちにしていたようですよ」
俺はそう言い残してきびすを返す。舞台袖に降りたところで声が響く。
「皆さん聞いてください、わたしが生徒会長になったあかつきには、学校の改革に乗り出したいと思います。まずはこの学校の校則を――」
みずほ先輩らしい、自信に満ちあふれた、どこまでも響く声。
会場はしだいに、その美しい音色に包まれていった――。
★
「いやいや、なかなか立派だったぞ!」
「恐縮です、宇和野先輩。それにみんなありがとう」
生徒会室で称えられるみずほ先輩はひどく赤面している。
「これで僕も心置きなく受験勉強に打ち込めるってもんだ」
選挙の結末は壮絶だった。みずほ先輩の圧勝、それも玉城圭吾を支持した人数は、彼の陣営の人数よりも少なかったという。
「みずほ先輩、もはや学校のアイドルから王女様に昇格っすね」
「そんな……みんなに支えられたおかげだよ。かつき君、ほんとうに助かったよ」
俺が壇上で猫の話を持ち出したから、みずほ先輩は質疑応答で猫との関係を責め立てられた。
玉城圭吾は攻撃的だったが、正直に話したことが好感を得、結果的に支持者は増え、しかも餌付けの件はお咎めなしとなった。
さらに里親のオファーが殺到し、万々歳の結末となった。
「しかし会長としての最初の仕事が餌付けだなんて、みずほ先輩らしいっすね」
「そうかしら。でも、引き渡しまでは責任持って面倒を見なくちゃ」
選挙の後、みずほ先輩の演説に感動した校長の独断により、里親が決まるまでの期間限定で猫の飼育が許可された。
野良猫を卒業した以上、餌付けは条例違反ではない。
窓の外では魚肉ソーセージをたらふく食した猫たちが丸まって寝息を立てていた。すべては丸く収まったということか。
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