33 / 68
【間奏 南鷹先輩の「お・た・の・し・み」】
【間奏②ー2】
しおりを挟む
「「よし、できました!」」
ふたりは同時に振り向き声を揃えて言いました。
ほかの生徒会員もわらわらと中央の机に集まってきます。黒澤君が午後三時近辺に良い働きをするので、生徒会員たちはもはやパブロフのワンちゃん状態です。
彼の生徒会入会は、いろんな意味で私に新たな楽しみをもたらしてくれました。
「どうもありがとう~!」
うわのそらとなった隣人を置き去りにして私もデザートを拝見しに行きます。
グラスがむっつ、置かれていました。全員分、用意してくれたようです。
目を凝らしてグラスの中をのぞき込みます。
淡いクリーム色のバナナ、鮮やかな黄色のパイナップル、白と緑のコントラストが映えるキウイ。てっぺんにちょこんと載せられた佐藤錦は上品なオレンジ色。いずれも色鮮やかで目が奪われます。
そんなアイドルたちを包み込むのは、透き通ったゼリーのようです。プルプルとふるえています。
グラスの中ではキラキラと光が瞬き、まるで清らかな川の流れのよう。
私は惜しげもなく喜びを表現し、グラスを受け取ると、たまらず銀の匙でひとすくいします。
ゼリーとフルーツは歓喜の声をあげるように匙の上で踊りました。もはや自分自身を止めることができません。
皆も机に並んで腰を据えました。
「「「「「では、いただきまーす」」」」」
ぱくっ!
爽やかな果物の香りとほどよい酸味が一気に口の中に広がりました。
原産地はきっと異なるだろうに、長い旅の果てに果実たちは私の口内でめぐりあいました。まるでそれが運命だったかのように、フルーツたちは息の合ったハーモニーを奏でているのです。
シロップの甘さが先をゆくフルーツたちを、そして私の味蕾《みらい》を追いかけてきました。流れ雲のようなふりをしてフルーツの酸味に調和し、初秋の午後の風景を鮮やかに彩ります。
そのときです。
何かが口の中で弾け、穏やかな味の世界に波しぶきが立ったのです。舞い上がる泡沫の刺激は私の舌に降り注ぎ、味の感覚を支配していきます。
なんなのでしょうか、この爽快な刺激は。
――そうか、これが彼特製のフルーツポンチに隠された秘密だったのね。
フルーツの上に乗った透明なゼリーは、爽やかな刺激を内に秘めた、サイダーでできたゼリーだったのです。
のどかなひとときの味わいのはずだというのに、まるで季節の移り変わりのように味覚の世界が色を変えてゆきます。たった一口で、味の記憶が脳裏に焼きついて離れません。
黒澤君がこんな斬新なデザートを、午後のひとときのために準備していたとは驚きです。
残暑が支配する世界において、この爽快な刺激は罪です。大罪です。胃袋大泥棒です。
「フルーツと缶詰とサイダーゼリーだけで、こんなに美味しいフルーツポンチになるなんて驚きね」
絶賛すると、黒澤君は照れた様子でそっぽを向きました。
「みずほ先輩が果物カットうまかったからっすよ」
「いえいえそんな。コツは缶詰のシロップを入れることみたいです。――って、かつき君が教えてくれました」
「お互い讃え合うなんて、最高の相棒じゃないの」
私だって大絶賛です。褒めておけば、また次もデザートが出てきますからね。
「ほんと、かつき君は演出が素敵なんですよ」
「まさか、俺なんてこの中で例えればさしずめさくらんぼの種っす。食えないゴミ野郎っすよ」
そう言う黒澤君を、瑞穂ちゃんは不満そうな顔で見ていました。
「謙虚なのは悪いことじゃないんだけどさ。かつき君はもうちょっと自分のことを認めてあげてもいいと思うんだよね」
「いやいや、生きてるだけで十分丸儲けっすよ。それより俺はみずほ先輩のほうが不思議でならないっすよ」
「ん、どんなところが?」
おおっ、彼が瑞穂ちゃんをどんなふうに思っているのか、それは興味深いところです。
瑞穂ちゃんのスプーンを持つ手の動きが止まりました。
「だって、普段は凛としていて気高い感じの人なのに、俺と取材に行くときはほんとバタバタしてるんですもん。落ち着きがないっていうか、浮かれてるっていうか――」
ふたりは顔を見合わせました。黒澤君は真顔ですが、瑞穂ちゃんははずかしそうな顔をしています。
――それ、原因は黒澤君にあるんじゃない?
思いっきり口に出したくなりました。けれど自制心が必死に食い止めます。
けっして彼自身の認識を修正してはいけません。今のバランスを崩したら、あの楽しみはなくなってしまうのですから。
ちらと宇和野君を見やると、まだまだ絶賛放心状態のようです。
彼がこの後どんな行動に出るのか、待ち遠しくて目が離せません。
そう思っていると、いつのまにか私が握るスプーンはグラスの隅から隅までを支配し尽くしました。目の前にあったはずの味の秘境は、すべて消えてなくなったのです。
ああ……。
満たされた、けれどもっと食べたい。
ふたりは同時に振り向き声を揃えて言いました。
ほかの生徒会員もわらわらと中央の机に集まってきます。黒澤君が午後三時近辺に良い働きをするので、生徒会員たちはもはやパブロフのワンちゃん状態です。
彼の生徒会入会は、いろんな意味で私に新たな楽しみをもたらしてくれました。
「どうもありがとう~!」
うわのそらとなった隣人を置き去りにして私もデザートを拝見しに行きます。
グラスがむっつ、置かれていました。全員分、用意してくれたようです。
目を凝らしてグラスの中をのぞき込みます。
淡いクリーム色のバナナ、鮮やかな黄色のパイナップル、白と緑のコントラストが映えるキウイ。てっぺんにちょこんと載せられた佐藤錦は上品なオレンジ色。いずれも色鮮やかで目が奪われます。
そんなアイドルたちを包み込むのは、透き通ったゼリーのようです。プルプルとふるえています。
グラスの中ではキラキラと光が瞬き、まるで清らかな川の流れのよう。
私は惜しげもなく喜びを表現し、グラスを受け取ると、たまらず銀の匙でひとすくいします。
ゼリーとフルーツは歓喜の声をあげるように匙の上で踊りました。もはや自分自身を止めることができません。
皆も机に並んで腰を据えました。
「「「「「では、いただきまーす」」」」」
ぱくっ!
爽やかな果物の香りとほどよい酸味が一気に口の中に広がりました。
原産地はきっと異なるだろうに、長い旅の果てに果実たちは私の口内でめぐりあいました。まるでそれが運命だったかのように、フルーツたちは息の合ったハーモニーを奏でているのです。
シロップの甘さが先をゆくフルーツたちを、そして私の味蕾《みらい》を追いかけてきました。流れ雲のようなふりをしてフルーツの酸味に調和し、初秋の午後の風景を鮮やかに彩ります。
そのときです。
何かが口の中で弾け、穏やかな味の世界に波しぶきが立ったのです。舞い上がる泡沫の刺激は私の舌に降り注ぎ、味の感覚を支配していきます。
なんなのでしょうか、この爽快な刺激は。
――そうか、これが彼特製のフルーツポンチに隠された秘密だったのね。
フルーツの上に乗った透明なゼリーは、爽やかな刺激を内に秘めた、サイダーでできたゼリーだったのです。
のどかなひとときの味わいのはずだというのに、まるで季節の移り変わりのように味覚の世界が色を変えてゆきます。たった一口で、味の記憶が脳裏に焼きついて離れません。
黒澤君がこんな斬新なデザートを、午後のひとときのために準備していたとは驚きです。
残暑が支配する世界において、この爽快な刺激は罪です。大罪です。胃袋大泥棒です。
「フルーツと缶詰とサイダーゼリーだけで、こんなに美味しいフルーツポンチになるなんて驚きね」
絶賛すると、黒澤君は照れた様子でそっぽを向きました。
「みずほ先輩が果物カットうまかったからっすよ」
「いえいえそんな。コツは缶詰のシロップを入れることみたいです。――って、かつき君が教えてくれました」
「お互い讃え合うなんて、最高の相棒じゃないの」
私だって大絶賛です。褒めておけば、また次もデザートが出てきますからね。
「ほんと、かつき君は演出が素敵なんですよ」
「まさか、俺なんてこの中で例えればさしずめさくらんぼの種っす。食えないゴミ野郎っすよ」
そう言う黒澤君を、瑞穂ちゃんは不満そうな顔で見ていました。
「謙虚なのは悪いことじゃないんだけどさ。かつき君はもうちょっと自分のことを認めてあげてもいいと思うんだよね」
「いやいや、生きてるだけで十分丸儲けっすよ。それより俺はみずほ先輩のほうが不思議でならないっすよ」
「ん、どんなところが?」
おおっ、彼が瑞穂ちゃんをどんなふうに思っているのか、それは興味深いところです。
瑞穂ちゃんのスプーンを持つ手の動きが止まりました。
「だって、普段は凛としていて気高い感じの人なのに、俺と取材に行くときはほんとバタバタしてるんですもん。落ち着きがないっていうか、浮かれてるっていうか――」
ふたりは顔を見合わせました。黒澤君は真顔ですが、瑞穂ちゃんははずかしそうな顔をしています。
――それ、原因は黒澤君にあるんじゃない?
思いっきり口に出したくなりました。けれど自制心が必死に食い止めます。
けっして彼自身の認識を修正してはいけません。今のバランスを崩したら、あの楽しみはなくなってしまうのですから。
ちらと宇和野君を見やると、まだまだ絶賛放心状態のようです。
彼がこの後どんな行動に出るのか、待ち遠しくて目が離せません。
そう思っていると、いつのまにか私が握るスプーンはグラスの隅から隅までを支配し尽くしました。目の前にあったはずの味の秘境は、すべて消えてなくなったのです。
ああ……。
満たされた、けれどもっと食べたい。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完結】背中に羽をもつ少年が32歳のこじらせ女を救いに来てくれた話。【キスをもう一度だけ】
remo
ライト文芸
ーあの日のやり直しを、弟と入れ替わった元カレと。―
トラウマ持ちの枯れ女・小牧ゆりの(32)
×
人気モデルの小悪魔男子・雨瀬季生(19)
↓×↑
忘れられない元カレ警察官・鷲宮佑京(32)
―――――――――
官公庁で働く公務員の小牧ゆりの(32)は、男性が苦手。
ある日、かつて弟だった雨瀬季生(19)が家に押しかけてきた。奔放な季生に翻弄されるゆりのだが、季生ならゆりののコンプレックスを解消してくれるかも、と季生に男性克服のためのセラピーを依頼する。
季生の甘い手ほどきにドキドキが加速するゆりの。だが、ある日、空き巣に入られ、動揺している中、捜査警察官として来た元カレの鷲宮佑京(32)と再会する。
佑京こそがコンプレックスの元凶であり、最初で最後の忘れられない恋人。佑京が既婚だと知り落ち込むゆりのだが、再会の翌日、季生と佑京が事故に遭い、佑京は昏睡状態に。
目覚めた季生は、ゆりのに「俺は、鷲宮佑京だ」と告げて、…―――
天使は最後に世界一優しい嘘をついた。
「もう一度キスしたかった」あの日のやり直しを、弟と入れ替わった元カレと。
2021.12.10~

【完結】クラスメイトが全員死んだ
夏伐
ライト文芸
夢を追うためにとある学校に入学した俺は卒業後に地獄をみることになる。
入学時の契約は、一部では知的財産強奪権と揶揄されていた。
その時は最善の選択、今はその時選んだことを後悔している。そのせいで夢を一緒に追っていた仲間が俺を残して全員死を選んでしまったから。
※ノベルアップとカクヨムにも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる