リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【間奏 南鷹先輩の「お・た・の・し・み」】

【間奏②ー1】

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「みなさーん、お待たせしました~!」

 威勢よく生徒会室に足を踏み入れたのは、パシリの役目をまっとうしたばかりの黒澤克樹くろさわかつき君。

 彼は一年生でありながら城西高等学校のアイドルで副生徒会長、清川瑞穂きよかわみずほのハートを射止めた極上のさわやかイケメンでございます。

 手には荷物の入ったエコバッグを携えております。残暑厳しい中、コンビニまでひとっ走りしてきたのです。

「かつき君、お疲れ様ー! じゃあデザートの準備はわたしがやるね」

 ほらほら、瑞穂ちゃんは声が一オクターブ高くなっている。恋する乙女から立ち昇るオーラはピンク色をしていますね。瑞穂ちゃん、最近はほんとうに楽しそう。

「いやいや、いいっすよ! その程度は下っ端の俺がちゃちゃっとやっちゃいますから」
「それも悪いわよ。――じゃあふたりでやらない?」
「いいっすね、了解っす!」

 かたや黒澤君は自分自身が瑞穂ちゃんの『下僕』だと認識しているようで、ふたりの意識にはめっちゃギャップが生じています。

 原因は、彼の自己肯定感の低さにあるようです。

 けれど、その関係性を修正するような入れ知恵は禁じられているのです。

 そして私の隣には、ふたりの様子を見て悶絶する男子がひとり。生徒会長の宇和野空うわのそら君。私の同級生であり、相棒でもあるハイスペック男子です。

 ちなみに、瑞穂ちゃんと黒澤君の関係を棚上げにしている犯人は彼なのです。

「ぼっ、僕も手伝おうか、瑞穂」
「宇和野先輩はゆっくり休んでいてください。今、準備しますからね」
「うっ……じゃあその言葉に甘えるとしよう」

 勇気を出して吐いた言葉は軽く受け流されました。だいたい、ふたりの間に割って入ろうなんて、よほど馬に蹴られたいのでしょうか。

 あっ、遅ればせながら自己紹介させていただきます。私、三年生の南鷹静香なんだかしずか、生徒会の庶務で会計で書記で――つまりなんでも屋でございます。

 なんだか静かな先輩ですね、とよく言われますけれど、これだけ慌ただしい環境にいれば、脳内はいつも大騒動です。

 今日は各委員会から吸い上げた要望をもとに教員に提出する要望書を作成しているところです。

 そして休憩時間に、黒澤君がデザートを準備してくれると言い出したのです。

 流し台に目を向けますと、バナナ、キウイフルーツ、さくらんぼ、それから缶詰がふたつ。中身はナタデココとパイナップルのようです。

 どうやら今日のお楽しみは、フルーツをベースにした何かのようです。

 瑞穂ちゃんが最近きれいに見えるのは、黒澤君がこしらえる爽やかスイーツの薬効もあるのかもしれません。

 私はパソコンと向き合い、打鍵しながらふたりの会話に耳をそばだてます。

 いったい何が出来上がるのか楽しみでなりません。

「最近、コンビニって品物が豊富でなんでも揃うよね」
「ほんと、しかも完成度高いっすよね。コンビニ飯馬鹿にする奴は俺が侮辱罪で逮捕しますから」
「あら、かつき君には一回くらい逮捕されてみたいかも」

 瑞穂ちゃんのハートはとっくに逮捕されています。

 対照的に、わたしの隣には釣り上げられたウツボのごとく身をくねらせる男子がいます。

「はぁ、はぁ……みず、みずほが……どこかとおくに……」

 まるで熱湯に放り込まれたように、顔を紅潮させて苦悶の表情を浮かべています。

「じゃあ、みずほ先輩はキウイ剥いてもらえますか」
「うん。でも手が滑りそうで怖いよ」
「じゃあ俺がしっかり押さえてるんで頑張って切って下さい。二人羽織でいきましょう」

 黒澤君が瑞穂ちゃんの背中に回り込んで抱きかかえるように手を伸ばします。

 彼の罪悪感のなさは、それこそ暴君そのものです。

「えっ、ちょっ、ちょっとぉ~、後ろからは反則だってば! 横からにしてよ!」
「だって逮捕してもらいたいって言ってたじゃないすか」
「もぉ~、かつき君ったらイジワル!」

 と言いながらも、姫は暴君に屈したようです。

 隣に目をやると、宇和野君は両手で顔を覆い、呼吸が荒くなっています。

 ふたりの放つオーラが眩しすぎて目が壊滅的なダメージを受けたのではないでしょうか。

 いきなり無言のヘッドバンキングが始まりました。

 楽しむふたりの姿を脳内から追い出すための儀式でしょうか。

 よほど受け入れがたいのでしょう、なりふり構わず現実逃避を試みているようです。

 こうなるととなりの私は忍耐です。どこまで笑いを堪えて彼を鑑賞できるか、自分との勝負です。

 向き合う画面はカーソルキーがひとますも進んでいません。何のためにここにいるのか、さっぱりわからなくなってきました。

 もう一度言います、これだけ慌ただしい環境にいれば、脳内はいっつも大騒動ですよ。

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