リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】

【2-2】

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 衣料品店を順番に訪れながら、今はどんなデザインがトレンドなのか、それぞれのお店の売りは何なのか、店員さんに聞き込みメモを取ってゆく。

 店員さんは皆親切で、ていねいに対応してくれた。

 みずほ先輩の人当たりの良さと落ち着いた様子が好感を抱かせているように思うが、それは他人と接しているときの態度だ。

 俺とふたりだけのときは違う。うってかわって身振り手振りが大きくなり、表情もころころ変わり騒々しい。

 下僕の前では遠慮も気遣いも無用なのだろう。だけど俺もそのほうが、肩の力が抜けて気が楽ってもんだ。

「ちょっとここに寄っていい?」

 みずほ先輩は歩きながら斜め前のカフェを指さす。俺は返事をしていないけれど足は勝手に吸い込まれている。

 視線がショーウィンドウのチーズケーキを捉えている。

 店内に足を踏み入れ一巡し、最終的には試食コーナーで足を止める。どうやら目的の場所に到着したようだ。

 爪楊枝が刺された細切れのチーズケーキをふたつ取り、ひとつを俺に渡した。有無を言わさず道連れらしい。

「かつき君、有名店の味をどう表現するか、いよいよ腕の見せどころよ」
「それは食レポをしろってことすよね」

 覚悟を決めて、ぱくり。迷わず口に含め味を確かめる。納得の味だったので俺は正直に感想を伝える。

「芳醇なチーズがゆっくりと口の中に広がって、なめらかに喉を通っていきました。甘美で嫌味も癖もないんで、純度の高いミルクの源泉を泳いでいるような気分になったっす」

 みずほ先輩は、おっ、と言って肩を跳ね上げた。

「意味はよくわからないけど、妙な説得力があるわね。かつき君のポテンシャルを感じたわ。よし、その食レポ採用ね!」
「とりあえず、ありっす!」

 今度はみずほ先輩が手にしたチーズケーキを口に含む。味わっているようで視線が宙を舞う。

 突然、ぱっと表情が明るくなって「おいしぃ~!」と素直な感想を口にした。

「それ、基本的に食レポになってないっすよ」
「ただ素直に味わうことに罪なんてありません! 食レポはきみのクオリティがあれば十分だから!」

 とろけそうな表情で反論した。

 すると、女性の店員さんが笑顔で声をかけてきた。三十代半ば位の、おだやかそうなひと。

「あら、その制服、城西高等学校ね。もしかして取材?」
「そうなんです。このチーズケーキの写真、撮ってもいいですか?」
「ええ、結構よ。でも、ほかのお客様が映らないようにお願いね」
「はい、気をつけます。でも美味しいですね、このチーズケーキ。飾りっ気がなくて、チーズの味が濃くて」
「それはね、おおいわっぱら牧場の牛から作った限定のチーズを使ってるから――」

 すぐさまボードを取り出してメモしてゆく。みずほ先輩と店員さんは盛り上がっているようで話がどんどん進む。俺は置いてかれまいと全力でペンを振るう。

 みずほ先輩の広報誌の手伝いだけに、授業を受けるときよりもよっぽど真剣になった。

 取材を終えた後、みずほ先輩はびっしりと書かれたボードに目を通し、二度、うなずいた。

「かつき君、上出来じゃない。やっぱりふたりでやれば効率がいいわね」
「はぁはぁ。俺は指が死にそうでしたけど」

 みずほ先輩は嬉しそうな表情をしているが、俺は幸先思いやられる気分で、つりそうな親指の付け根の筋肉を揉んでいた。

 それから順々に店を巡ってゆく。最奥まで進むと芝生の広場があった。

 カメラが置かれており、私服姿のスタッフが十数人、せわしなく動き回っている。

 ロープが張られていて、その手前には人だかりができていた。

「なんでしょうね、この見物人は」
「きっと撮影現場ね。記事の材料になるかもしれないわ、行ってみましょう」

 ネタの匂いを嗅ぎつけたからか、みずほ先輩の瞳は爛々としている。

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