ゾンビワールド

お花

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5話 

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 太陽が西へ傾き、辺りは黄金に染まっていた。普段なら、学生らの帰宅がチラホラとあるのだが、一切見られない。
 それどころか、人っこ一人いやしない。子供の笑い声は聞こえないし、井戸端会議に明け暮れる主婦の姿もない。
 まさに、ゾンビワールドの形成が急速に押し進められた証拠といえよう。

 だというのに、俺はまだゾンビと遭遇していなかった。
 家を出て数分。もうすぐ、例のコンビニに着く。これは、なかなかに幸先が良い。


(このまま何事もなく終わってくれれば良いが……。)


 アクシデントが起きない事を祈り、俺は歩くスピードを速めた。
 手はじんわりと汗ばんでいて心地悪いし、ここ数日の疲れが祟って、コンディションも万全とは言い難い。
 だから俺は少しでも早く事を済ませたかった。

 燃え上がり、黒焦げになったバイクに、もはや生前どんな姿をしていたかも分からない肉片。
 その他、奴らの仕業と思われる異物たちを横目に、俺は目的の場所へ向かう。
 込み上げる吐き気を必死で抑制し、足を動かす。
 そうして、俺はコンビニにたどり着いた。だが、それは俺の知っているコンビニの姿ではなかった。

 自動ドアが完膚なきまでに破壊されており、いつでも入店できるように様変わりしていたのである。
 明らかにここで何かが起きた、そう主張しているようで、俺は恐怖を感じた。


(絶対に入るべきではないよな。)


 己の危険察知センサーがビンビン鳴っている。でも、ここまで来て、そうあっさりと帰ることなどできるはずもない。
 俺は息を短く切って、前進した。

 慎重に中を覗いてみる。


「ウッ。」


 声にならない絶叫。視界に入って来たのは、を食すゾンビだった。

 悲鳴を上げなかったのは賢かったと思う。しかし、それだけだ。緊急事態であることに変わりない。


(戦うか?)


 俺は自問する。回答はNO。足がガクガクと震え、戦うなど以ての外だった。

 俺は、気がつくと後退りをしていた。意識の範疇を超えて、奴に恐怖を覚えているらしい。それは本能に近く、拭い去ることができない。


(落ち着け、奴はまだ俺に気づいていない。)


 不幸中の幸いとでもいうべきか。そのゾンビは貪ることに夢中で、俺に興味を示していなかった。


(今ならやれる!)


 正しくは「今しかやれない」であったが、今はどうだっていい。
 俺は、なるだけ足音を消し、入店した。奴は気づいていない。
 その隙に、お菓子や保存食が並んだ棚に足を進める。
 そして、からっていたリュックを下ろし、次々と食糧を詰め込み始めた。
 内容は確認せず、手に取った物を無作法に放っていく。余裕は一ミリもなかった。

 やがて、リュックがパンパンになると、俺はすぐにチャックを閉めて、肩にからう。
  

(よし、早くで……。)


 瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が走った。自然と、身体が冷えてゆく。対照に、脳だけが熱を帯びる。

 それは、恐れていた出来事。

 それは、一巻の終わり。

 俺は、いつの間にかゾンビに囲まれていた。





 




 
 

 
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