ゾンビワールド

お花

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 人間は死ぬ気でやれば何でも出来るらしい。だから、諦めてはいけない。
 最後の最後まで希望を捨てず、抗ってこそ道は開かれる。だから、諦めてはいけない。
 
 息をすることを恐れてはならない。

 思考をすることを止めてはならない。

 死を受け入れてはならない。


「クソっ。んなことは分かってる。でも、どうしろって言うんだよ。」


 蝉が嘲笑う夏の某日、俺は誰もいない部屋で座り込み、涙を浮かべ、声を震わせた。限界はとっくに過ぎていたのだ。

 親元を離れ、大学に通い、それなりに楽しく生活していた頃とは一変。ここ数日で町は歩く死体どもの巣窟と成り果てた。

 始まりは、3日前の晩。俺は腹を空かせてコンビニまでパンを買いに行った。
 いつもと何ら変わらない町に不信を抱くことなどあるはずもなく、鼻歌なんて歌っていたことを覚えている。

 パンを買うところまでは良かった。しかし、俺がコンビニを後にしようとした時、奴らが入ってきたのだ。2人だった。

 最初は酔っ払ったおじさん達かと思った。迷惑な客もいたものだと心の内で軽蔑し、その場を去ろうとした。

 が、それは叶わない。今考えれば、よくあの状況で生きていたと感心さえする。

 奴らは俺めがけて突進し、掴みかかろうと腐敗した手を伸ばしてきたのだ。

 あそこで、あの手に掴まれていたら十中八九、お陀仏だったに違いない。人ならざる怪力になす術もなく組み敷かれ、食い殺されデットエンド。肉を千切られるという激痛を伴いながら、苦しみ、死んでいったことだろう。想像しただけでおぞましい。


(……いや、あの時死んでいた方が遥かに楽だったかもしれない。)


 運が良いのか、悪いのか、俺は迫り来る手を払いのけてしまった。そして、絶大な恐怖に煽られ逃亡。死に物狂いで家に駆け込んだ。

 それから3日、外に出ていない。テレビをつければゾンビパンデミックを報道していたが、そのテレビも、もう映らない。電線がやられたらしい。

 ヤバい。それが俺の本心だった。

 自室であるアパートの2階から外を恐る恐る見れば、我が物顔で道を踏み締める死体の数々。

 冷蔵庫は何も入っておらず、ただの役に立たない箱へ成り下がった。


(終わったな。どう考えても詰んでる。)


 食糧がないのなら、補給しにいけば良いではないか。
 そう考え、行動した奴は全員死んだ。事態を甘く捉え、舐め腐った結果、死を招いた。

 全員とは言ったが、生き残った人間も中にはいるだろう。無事、食糧にありつき生活している奴は一定数存在すると思う。
 だが、そんなの一握りだ。俺を含め、凡人が外に出れば確実に息を引き取ることになる。

 それでも、そろそろ決断せねばならない。たとえ、外が地獄でも行かねばならない。


「分かっているんだ。このままではジリ貧だってことくらい。」

 涙を拭い、俺は自分に喝を入れた。頬を叩き、決意をあらわにする。

 力強く立ち上がり、台所から包丁を取り出してリュックを背負うと、玄関まで移動。俺はようやく地獄へと続くドアの前へ立ちはだかった。
 
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