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3章 迷探偵エメルと名助手、ときどき竜人夫。
33話 新事件です名探偵【後編】
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顔を合わせれば喧嘩になってしまうのならば、仲介役が必要だ。それに繋がっている気がする――クリスタル族の盗難事件と、ゴーレム族の盗難事件。
2つの事件を追っていけば、偽ブラックに辿り着けるかもしれない。
『軟弱な人間に調査が務まるのか!?』
「ご心配痛み入ります。ですが相応のリスクは覚悟の上です。そして何も、タダでとは言いません」
正方形の頭を同時に傾ける親子を、にっこりと見上げた。
シオン領のインフラ整備計画には、建設会社を営むゴーレム族の協力が欠かせない。あくまで好意ではなく、「領内の開発協力」を条件に事件解決を引き受ける、と宣言したところ――倉庫中に反響する笑い声が響いた。
『気に入った! あくまで「仕事」として、というところが信用できる。盗人を見つけた暁には、我が社総力を挙げ、エメルレッテ・グロウサリアに協力しよう』
「では、交渉成立ですわね!」
差し出された丸太のような指先を、できる限り全力で握り返した。
「では、さっそく……」
シカクを残し、仕事に戻るというランドを見送った後。倉庫の内外を調査して、犯人に繋がる手がかりを見つけようとしたが――もう犯人像は掴めている。
「資材を運べるのはゴーレム族くらい力持ちか、エルフ族並みの魔力をもっている魔族ってことですよね?」
クリスタル族のブラックに変身していた、「半透明の女性」。彼女の【スキル:擬態】を使ってゴーレムに化ければ、短時間で石や材木の山を盗み出すことも可能なはずだ。
「おや、そうとも限りませんよ」
突然の横槍に振り返ると。不自然に地面を這っていたイオが、こちらへ何かを差し出した。
「それは毛……ですか?」
イオの指先につままれているのは、赤茶色のフサフサの毛束。獣族のものに見えるが、さすがに細かい種族までは特定できない。
「鉱石でできたゴーレム族に、体毛はありませんよね?」
「ええ。でも、どうして獣族らしき毛が倉庫に落ちているのでしょう」
偽ブラックが犯人だとして、資材を運ぶのに不便な身体へ擬態する必要があるのだろうか――あごに手を添え俯いていると、クスッという笑い声が響いた。
「それこそ名探偵の出番です。自信をもって捜査を引き受けられたのですから、推理はお得意なのでしょう?」
イオの口調と笑顔が挑発めいている。腹の底から湧き上がる怒りを抑え、「見ててくださいませ」と右目を押さえた。
イオが指先に挟んでいる赤毛を鑑定れば、何か痕跡が分かるかもしれない――しかし毛を凝視しても、世界観を壊すダイアログは表示されなかった。
「その虹色の瞳……まさかスキル、ですか?」
「えっ! スキルの概念をご存知ですの?」
現実を生きるこの世界の住人たちは、自分たちのスキルを魔法以外認識していないと思っていた。しかし今、イオは確かに「スキル」と口にしたのだ。
「そうでしたか。あの後そんな力を……」
「イオさん?」
花の形の耳飾りをリンと鳴らし、イオは何かを考え込んでいる。やがて「それで」、と顔を上げたイオの瞳は、いつも通りの澄んだ色をしていた。
「そのスキルで、何か発見はありましたか?」
「いえ、それが……」
生き物ならともかく、物体に残った痕跡を見ることはできないようだ。
「なぜここに獣族の毛が落ちていたのか、不明のままということですね」
「ええと……業者! そう、これは倉庫に出入りする業者の獣族が落とした毛です」
偽ブラックと獣族の毛を、強引に結びつける必要はないはずだ。イオの落胆を取り戻すため、とっさの思いつきを口にしたところ。
『この倉庫、貴重な資材だらけ。ゴーレム以外、出入りしない』
シカクの無慈悲な指摘に、思いつき推理が論破されてしまった。
「そう……でしたか」
「気を落とさないでください! 犯人が『鍵を壊さず中に入れた』、というのも良いヒントです。この毛の持ち主がどうやって倉庫内へ入ったのか、いくつか推測することができますから」
やはり、イオのように痕跡を見つけて推理するのは苦手だ。その観察眼が純粋に羨ましい。
「……エメルレッテ様、よろしいでしょうか」
「はっ、はい?」
出会った時と同じように、イオが仰々しい態度で手を握ってきた。
「私を名探偵の助手としてお雇いになりませんか?」
「助手……?」
「最初に述べた通り、報酬はいただきません。私はただ、貴女のお役に立ちたいのです」
その純粋な笑顔の下に、いったい何が潜んでいるのか――しかし赤茶色の毛をすぐに見つけたイオの洞察力は捨てがたい。むしろ私よりも「探偵役」が適任だ。
「ですが本当に、『運命』だけでここまでしてくださるのですか?」
「ええ。貴女だからです」
見えない。彼が何を考えているのか――だが何も分からない今だからこそ、思い切れる選択もある。
「……分かりました。では、手を組みましょう」
透明なベールに覆われた「何か」が分からないのであれば、いっそ側に置いて観察すれば良い。推理は不得手だが、隠された能力を見る目に狂いはないのだから。
「感謝いたします! 助手として、精一杯はたらかせていただきますね」
私を「運命」と呼ぶ、正体不明の冒険者。一方的に握られた手を、強い力で握り返した――しかしこの握手、想像以上に固い。まるで、決して手を離すつもりがないかのように。
2つの事件を追っていけば、偽ブラックに辿り着けるかもしれない。
『軟弱な人間に調査が務まるのか!?』
「ご心配痛み入ります。ですが相応のリスクは覚悟の上です。そして何も、タダでとは言いません」
正方形の頭を同時に傾ける親子を、にっこりと見上げた。
シオン領のインフラ整備計画には、建設会社を営むゴーレム族の協力が欠かせない。あくまで好意ではなく、「領内の開発協力」を条件に事件解決を引き受ける、と宣言したところ――倉庫中に反響する笑い声が響いた。
『気に入った! あくまで「仕事」として、というところが信用できる。盗人を見つけた暁には、我が社総力を挙げ、エメルレッテ・グロウサリアに協力しよう』
「では、交渉成立ですわね!」
差し出された丸太のような指先を、できる限り全力で握り返した。
「では、さっそく……」
シカクを残し、仕事に戻るというランドを見送った後。倉庫の内外を調査して、犯人に繋がる手がかりを見つけようとしたが――もう犯人像は掴めている。
「資材を運べるのはゴーレム族くらい力持ちか、エルフ族並みの魔力をもっている魔族ってことですよね?」
クリスタル族のブラックに変身していた、「半透明の女性」。彼女の【スキル:擬態】を使ってゴーレムに化ければ、短時間で石や材木の山を盗み出すことも可能なはずだ。
「おや、そうとも限りませんよ」
突然の横槍に振り返ると。不自然に地面を這っていたイオが、こちらへ何かを差し出した。
「それは毛……ですか?」
イオの指先につままれているのは、赤茶色のフサフサの毛束。獣族のものに見えるが、さすがに細かい種族までは特定できない。
「鉱石でできたゴーレム族に、体毛はありませんよね?」
「ええ。でも、どうして獣族らしき毛が倉庫に落ちているのでしょう」
偽ブラックが犯人だとして、資材を運ぶのに不便な身体へ擬態する必要があるのだろうか――あごに手を添え俯いていると、クスッという笑い声が響いた。
「それこそ名探偵の出番です。自信をもって捜査を引き受けられたのですから、推理はお得意なのでしょう?」
イオの口調と笑顔が挑発めいている。腹の底から湧き上がる怒りを抑え、「見ててくださいませ」と右目を押さえた。
イオが指先に挟んでいる赤毛を鑑定れば、何か痕跡が分かるかもしれない――しかし毛を凝視しても、世界観を壊すダイアログは表示されなかった。
「その虹色の瞳……まさかスキル、ですか?」
「えっ! スキルの概念をご存知ですの?」
現実を生きるこの世界の住人たちは、自分たちのスキルを魔法以外認識していないと思っていた。しかし今、イオは確かに「スキル」と口にしたのだ。
「そうでしたか。あの後そんな力を……」
「イオさん?」
花の形の耳飾りをリンと鳴らし、イオは何かを考え込んでいる。やがて「それで」、と顔を上げたイオの瞳は、いつも通りの澄んだ色をしていた。
「そのスキルで、何か発見はありましたか?」
「いえ、それが……」
生き物ならともかく、物体に残った痕跡を見ることはできないようだ。
「なぜここに獣族の毛が落ちていたのか、不明のままということですね」
「ええと……業者! そう、これは倉庫に出入りする業者の獣族が落とした毛です」
偽ブラックと獣族の毛を、強引に結びつける必要はないはずだ。イオの落胆を取り戻すため、とっさの思いつきを口にしたところ。
『この倉庫、貴重な資材だらけ。ゴーレム以外、出入りしない』
シカクの無慈悲な指摘に、思いつき推理が論破されてしまった。
「そう……でしたか」
「気を落とさないでください! 犯人が『鍵を壊さず中に入れた』、というのも良いヒントです。この毛の持ち主がどうやって倉庫内へ入ったのか、いくつか推測することができますから」
やはり、イオのように痕跡を見つけて推理するのは苦手だ。その観察眼が純粋に羨ましい。
「……エメルレッテ様、よろしいでしょうか」
「はっ、はい?」
出会った時と同じように、イオが仰々しい態度で手を握ってきた。
「私を名探偵の助手としてお雇いになりませんか?」
「助手……?」
「最初に述べた通り、報酬はいただきません。私はただ、貴女のお役に立ちたいのです」
その純粋な笑顔の下に、いったい何が潜んでいるのか――しかし赤茶色の毛をすぐに見つけたイオの洞察力は捨てがたい。むしろ私よりも「探偵役」が適任だ。
「ですが本当に、『運命』だけでここまでしてくださるのですか?」
「ええ。貴女だからです」
見えない。彼が何を考えているのか――だが何も分からない今だからこそ、思い切れる選択もある。
「……分かりました。では、手を組みましょう」
透明なベールに覆われた「何か」が分からないのであれば、いっそ側に置いて観察すれば良い。推理は不得手だが、隠された能力を見る目に狂いはないのだから。
「感謝いたします! 助手として、精一杯はたらかせていただきますね」
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