ホホジロザメと空想少女

見早

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空想少女の午睡

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 サメからのメッセージを受け取った翌日。談話室で恒例の説教会が始まった。

「クラスの皆も悪気はないと言っています。それくらいのことで、いつまでも反抗的な態度をとるのは止めませんか?」

 それくらいのこと――?
 私にとっては、考えるだけで上手く呼吸ができなくなる程のことだ。
 目と鼻の奥が熱くなってきたが、例のノートを膝に置いていることで何とか耐えることができた。

「俺がついています。だから教室に来てください、ね?」

 冴島が私の肩に手を置くと、微かに立ち込める臭気が鼻をついた。校内は禁煙のはず。するとこれは、冴島自身に染み付いた臭いだろうか。
 どうやってこの手を振り払おうか考えていると、強めのノック音が三度響いた。

「失礼します」
「あぁ、君は水泳部の」

 冴島を訪ねてきたのは、どこかで見たことのある長身の生徒だった。
 そうだ。全校集会でよく表彰台に上がっている先輩だ。ズボンを履いている生徒は少ないため、何となく覚えている。
 突然の来訪者のおかげで、冴島の説教会はお開きになった。
 あの夢の続きが見たい。
 冴島の説教に懲りることなく、翌日も旧校舎の保健室へ向かった。

「あれ?」

 汚れていたマットレスの上に、清潔なシーツが被せられている。
 もしかしたら植物園の管理人も、ここで眠っているのだろうか。
 ちょっとだけなら、良いよね――?
 念のためプランターの水遣りが済んでいるかを確認し、ベッドに横たわった。頭上にノートを置くことを忘れずに。
 保健室を満たす緑の匂いに包まれていると、抗いようのない眠気が襲ってくる。



 目が覚めると、そこは海底だった。真っ暗な水中に、巨大なサメの頬が白く浮かび上がっている。
 サメは海へ飛び込んだ私を口に入れて潜ったらしい。そしてここは、彼(もしくは彼女)の棲み処だそうだ。

『どうして、私を食べないでここに連れてきたの?』

 するとサメは、少し困ったように尾びれを振って見せた。

『キミともっと話がしたいから』

 では、いつ私を食べるのか。そう問いかけると、サメは胸のひれで私の体を抱き寄せた。

『いつかね』
 
 やがて話し疲れたのか、サメは私に寄り添って眠ってしまった。
 擦れると痛い肌や、時々パクっと動くえらが愛おしく思える一方、本能的な恐怖に全身が震える。
 いつ、食べてくれるんだろう――。
 
 
 
 ノートには「またここで」、と丁寧な字で綴られていた。
 例によって、窓の外には大きな夕焼けが見える。寝る前は気づかなかったが、洗い立てのシーツからは微かにタバコの臭いがした。
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