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バウの資金で揃いのスーツを買いに行った。続いて事務所を借り、開業届を提出したその日。羊種、熊種、兎種の獣人族たちが事務所を訪ねてきた。
「中さ……バウさん、お疲れ様っす! こんなに早く『にゅーびじねす』を始めちゃうなんてさすがっすね!」
「よぉ、ウール! コイツはツルツル族のタケチ。オレらが売るサービスの提案をしてくれたんだ。んでタケチ、この若いヤツがウール、でっかくて無口なじいさんがベア、その後ろの照れ屋がピョンだ」
獣人族の年齢は見た目から判断できないが、そんなことはビジネスに関係ない。重要なのは彼らの持つもふもふだ。
バウがモフモフ族の国から呼び寄せた仲間には、もふもふを提供する派遣スタッフとして働いてもらう。超多忙社会で疲れ切ったツルツル族に、癒しを貸し出すのだ。
「サービス名は『もふもふレンタル』。これは獣人族にしかできない仕事です」
バウに暖を提供してもらった時を思い出し、ふと思いついた商品が『もふもふ』だった。超多忙社会の歯車たちは、自由な時間が少ない。日頃の疲れを取る時間も十分ではないのだ。
ペットを飼うよりも気軽で、人肌に飢えている層には刺さるはず――。
勢いで始めた「もふもふレンタル」の宣伝準備、スタッフ研修が無事に終わり、いよいよ試運転の日が明日に迫る。モニターに選んだ客は自分の古い友人たち3人。アンチ獣人族ではないことを第一に、ある程度寛大な心の持ち主を厳選したが、レビューは忖度なしでと頼んでいる。
利用客の家に向かう派遣スタッフ2人(問題が起きた時のためバウ同行)は、喋って接客をする必要はない。ただ客をもふもふで包んで、心から安らいでもらう。それだけのことだ。
試運転初日。予約サイトの構築をしていると、サービス開始直前にバウから着信があった。
『タケチ! ウールのヤツが毛をカットしてきやがった! 昨日ツルツル族の『びようしつ』に行ったら、全部刈られたとかほざいて……』
サービス2日目。
『タケチ! ピョンが客にマウンティングした!』
サービス3日目。
『タケチ! ベアが力加減間違えて、客の背骨からやべぇ音が!』
ひとまず社長とスタッフ全員を事務所に集めた。
呼び出された原因に心当たりがあるのか、皆大人しい。ウールの体は研修時の半分以下に細っていた。
「このビジネス、やっぱりダメかもしれません」
バウと知り合い、同じ目標を持って、種族の差を気にするのも馬鹿馬鹿しいと考え始めていた矢先。ツルツル族とモフモフ族は別の生き物なのだと、今回の件で思い知った。
「そんな落ち込むなよ! オマエなら、次はもっと良い商売思いつくに決まってるだろ。今度はオレも考えるからさ」
事務所のガラス窓を揺らす笑い吠えの後。静まり返った室内に、無機質な電子音が響いた。
デスクになだれ込み、パソコンのメールボックスを開く。モニターを頼んでいた友人からのレビューが届いていた。試運転当日、毛を剃ってきたウールにとにかく行けと指示したところだ。
「『もうちょっと毛が欲しかった』……まぁ、その通りですよね」
至極当然な意見に肩を落とすも、先に続く文章を目にした瞬間。沈んでいた胸がトットッと跳ねた。
「『でも、もふもふ最高。これは一度体験するとハマる』……!」
後ろを振り返るまでもなく、その場の全員が歓声(咆哮?)を上げた。バウやスタッフたちが、いつの間にかデスクを囲んでいたのだ。
その後も次々とレビューが到着する。
『究極の癒しがもふもふと知った。マウンティングはオプションですか?』
『もふもふは正義! 癒されるついでに背骨の歪みも治りました』
一部修正しないと宣伝には使えないレビューだが、もふもふに需要があると分かっただけで十分だ。
「バウ、これは!」
「おう、いけるかもしれねぇ!」
「中さ……バウさん、お疲れ様っす! こんなに早く『にゅーびじねす』を始めちゃうなんてさすがっすね!」
「よぉ、ウール! コイツはツルツル族のタケチ。オレらが売るサービスの提案をしてくれたんだ。んでタケチ、この若いヤツがウール、でっかくて無口なじいさんがベア、その後ろの照れ屋がピョンだ」
獣人族の年齢は見た目から判断できないが、そんなことはビジネスに関係ない。重要なのは彼らの持つもふもふだ。
バウがモフモフ族の国から呼び寄せた仲間には、もふもふを提供する派遣スタッフとして働いてもらう。超多忙社会で疲れ切ったツルツル族に、癒しを貸し出すのだ。
「サービス名は『もふもふレンタル』。これは獣人族にしかできない仕事です」
バウに暖を提供してもらった時を思い出し、ふと思いついた商品が『もふもふ』だった。超多忙社会の歯車たちは、自由な時間が少ない。日頃の疲れを取る時間も十分ではないのだ。
ペットを飼うよりも気軽で、人肌に飢えている層には刺さるはず――。
勢いで始めた「もふもふレンタル」の宣伝準備、スタッフ研修が無事に終わり、いよいよ試運転の日が明日に迫る。モニターに選んだ客は自分の古い友人たち3人。アンチ獣人族ではないことを第一に、ある程度寛大な心の持ち主を厳選したが、レビューは忖度なしでと頼んでいる。
利用客の家に向かう派遣スタッフ2人(問題が起きた時のためバウ同行)は、喋って接客をする必要はない。ただ客をもふもふで包んで、心から安らいでもらう。それだけのことだ。
試運転初日。予約サイトの構築をしていると、サービス開始直前にバウから着信があった。
『タケチ! ウールのヤツが毛をカットしてきやがった! 昨日ツルツル族の『びようしつ』に行ったら、全部刈られたとかほざいて……』
サービス2日目。
『タケチ! ピョンが客にマウンティングした!』
サービス3日目。
『タケチ! ベアが力加減間違えて、客の背骨からやべぇ音が!』
ひとまず社長とスタッフ全員を事務所に集めた。
呼び出された原因に心当たりがあるのか、皆大人しい。ウールの体は研修時の半分以下に細っていた。
「このビジネス、やっぱりダメかもしれません」
バウと知り合い、同じ目標を持って、種族の差を気にするのも馬鹿馬鹿しいと考え始めていた矢先。ツルツル族とモフモフ族は別の生き物なのだと、今回の件で思い知った。
「そんな落ち込むなよ! オマエなら、次はもっと良い商売思いつくに決まってるだろ。今度はオレも考えるからさ」
事務所のガラス窓を揺らす笑い吠えの後。静まり返った室内に、無機質な電子音が響いた。
デスクになだれ込み、パソコンのメールボックスを開く。モニターを頼んでいた友人からのレビューが届いていた。試運転当日、毛を剃ってきたウールにとにかく行けと指示したところだ。
「『もうちょっと毛が欲しかった』……まぁ、その通りですよね」
至極当然な意見に肩を落とすも、先に続く文章を目にした瞬間。沈んでいた胸がトットッと跳ねた。
「『でも、もふもふ最高。これは一度体験するとハマる』……!」
後ろを振り返るまでもなく、その場の全員が歓声(咆哮?)を上げた。バウやスタッフたちが、いつの間にかデスクを囲んでいたのだ。
その後も次々とレビューが到着する。
『究極の癒しがもふもふと知った。マウンティングはオプションですか?』
『もふもふは正義! 癒されるついでに背骨の歪みも治りました』
一部修正しないと宣伝には使えないレビューだが、もふもふに需要があると分かっただけで十分だ。
「バウ、これは!」
「おう、いけるかもしれねぇ!」
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